2011年10月22日土曜日

放射性セシウムの体外排泄を促進する、 現時点では唯一の放射性セシウム体外除去剤 ラディオガルダーゼ


六号通り診療所所長さんのブログより


今日は放射性セシウムの体外排泄を促進する、
現時点では唯一の放射性セシウム体外除去剤、
「ラディオガルダーゼ」の話です。
日本での発売は昨年の12月です。

この薬は一種の吸着剤で、
大量の被爆を受けた際に、
身体に吸収され、
腸肝循環に入って体内を循環しているセシウムを、
身体の外に排泄し易くする効果を持つ薬剤です。

その歴史は古く、
1960年代にはその使用が始まり、
ドイツでは35年以上前から販売されています。
要するに米ソの核戦争が身近な危機であった時代に、
ヨーロッパで開発された薬です。

それが1999年の日本の臨界事故を契機に、
議論が積み重ねられ、
その結果としてようやく2010年10月に製造販売承認が取得され、
2010年12月に発売となったのです。

専門家の議論というのは、
必要性の高いものでも、
概ね10年は実現までに掛かるもののようです。

今回の事態にギリギリ間に合った、
とも言えますし、
使わなくて良い状況であれば良かったのに、
という言い方も出来ると思います。
先日被爆された3人の作業員の方は、
当然この薬による治療を、
受けたものと思われます。

さて、この薬はどのような薬で、
実際にどの程度の効果があるのでしょうか?

薬の一般名は、
ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸鉄(Ⅲ)水和物です。
つまり、鉄の周りに、
6個のシアンが結合し、
そこに更に水分子と鉄が結合しています。

この物質は一種の吸着剤で、
そのもの自体は殆ど体内に吸収されず、
腸管のセシウムを吸着して、
それを便から排泄します。

体内に入った放射性セシウムは、
その多くが腸管から静脈、肝臓を循環しているので、
それを腸管で捕捉し、
体外に排泄するのが、
この薬のメカニズムです。

1987年ブラジルのゴイアニアにおいて、
放射性セシウムによる被爆事故があり、
その時にこの薬が治療のために使用されました。

その時のデータを見ると、
成人で投与中止後平均80日の、
セシウムの生物学的半減期が、
使用により25日程度に短縮しています。
これは明らかに有効と考えられます。
(生物学的半減期は半分排泄されるまでの時間のことで、
通常の放射性物質の半減期とは異なります)

ここにちょっと興味深いデータがあり、
ゴイアニアにおける治療データでは、
4~9歳の生物学的半減期は平均42日で、
12~14歳では平均62日です。
つまり、代謝の活発な年齢層では、
放射性セシウムの排泄は、
大人よりずっと早いのです。
お子さんをお持ちのお母さんには、
この事実はちょっとほっとさせるものではないかと思います。

主な副作用は低カリウム血症です。
これはこの薬はカリウムよりセシウムを、
より吸着し易い構造になっている訳ですが、
生体はそもそもカリウムとセシウムを、
あまり区別はしていないので、
当然カリウムも体外に排泄され、
低カリウム血症の原因となるのです。
ただ、入院しての治療が通常想定されますから、
これは適宜カリウム値を測定して、
補充をすれば済む話だと思います。

腎不全などで高カリウム血症になると、
カリメートやケイキサレートのような、
カリウムの吸着剤を、
使用することがあります。

原理的にはこうした吸着剤も、
放射性セシウムの排泄に、
一定の効果があると思います。
身体はセシウムとカリウムとを、
あまり区別はしないからです。
ただ、元々がカリウムの吸着剤ですから、
よりカリウムの低下は強く、
その使用はラディオガルダーゼより、
難しいものになることは確かでしょう。

セシウムの内部被曝は、
このようにある程度改善することが可能です。

つまり、ヨード被曝には治療はないけれど予防はあり、
セシウム被曝にはカリウムを少し多めに摂る程度しか、
予防法はないけれど、
その代わり被曝後の治療法はあるのです。

これは人間様に限ったことではなく、
畜産農家においても、
セシウムの内部被曝を受けた家畜に、
この薬を飲ませることにより、
より早く被曝の影響を軽減することが可能なのです。
それで基準値を下回れば、
当然食用に供しても、
問題はなくなる訳です。
(ただ、筋肉中のセシウムが、
どの程度減少するかは微妙です)

しかし、セシウムの物理学的半減期は長く、
その影響は人間からは排泄されても、
環境には長く残ります。
セシウムの被爆の問題点は、
人間様への影響よりも、
むしろそうした環境への影響にありそうです。
そして、「ただちに健康に影響のない」量の汚染であっても、
その環境への影響は、
廻りまわって人間にも影響を与え、
「ただちに健康に影響はない」
と何かのお題目のように唱える皆さんの人生には影響はなくても、
僕達の子供の世代、孫の世代には、
確実に大きな影響を及ぼしていくのだと思います。

今日は放射性セシウム体外除去剤の概説でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。 

ラディオガルダーゼカプセル500mg



作成又は改訂年月

2010年11月作成 (第1版)


日本標準商品分類番号

873929


日本標準商品分類番号等

国際誕生年月
1997年9月


薬効分類名

解毒剤


承認等



ラディオガルダーゼカプセル500mg

販売名コード


392900XM1028

承認・許可番号


承認番号
22200AMX00966000
商標名
RADIOGARDASE

薬価基準収載年月


薬価未収載

販売開始年月


2010年12月

貯法・使用期限等


貯法
室温、遮光保存
使用期限
外箱等に表示

規制区分


処方せん医薬品
注意-医師等の処方せんにより使用すること

組成及び性状の表


組成・性状
成分・含量(1カプセル中) ヘキサシアノ鉄(II)酸鉄(III)水和物500mg注)(鉄として154.7mg相当) 
添加物 カプセル本体中:
ゼラチン
青色2号
ラウリル硫酸ナトリウム 
色・剤形 青色の0号硬カプセル剤 
外形  
識別コード   PB 
注)原薬の鉄含量が30.94%のとき,付着水を含むヘキサシアノ鉄(II)酸鉄(III)水和物として500mを含有する。


禁忌


(次の患者には投与しないこと)


本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者


効能又は効果



効能又は効果/用法及び用量



放射性セシウムによる体内汚染の軽減

用法及び用量


通常,1回6カプセル(ヘキサシアノ鉄(II)酸鉄(III)水和物として3g)を1日3回経口投与する。 なお,患者の状態,年齢,体重に応じて適宜増減する。

用法及び用量に関連する使用上の注意


(1)治療開始後は糞便中及び尿中,又は全身の放射能をシンチレーションカウンタ等で適宜測定し,本剤の投与継続の必要性を検討すること。
(2)ゴイアニア事故における本剤の投与量を参考に,用量及び投与回数を適宜増減すること。[【臨床成績】の項参照]


使用上の注意



慎重投与

(次の患者には慎重に投与すること)
(1)不整脈又は電解質異常がある患者[低カリウム血症により症状が増悪するおそれがある。]
(2)消化管の蠕動運動の障害のある患者[本剤と結合した放射性セシウムが消化管局所に滞留することで放射線障害を発現するおそれがある。]
(3)鉄代謝異常の患者[長期投与により本剤に含まれる鉄が蓄積するおそれがある。]


重要な基本的注意


(1)投与中は定期的に血清カリウム濃度の検査を行い,必要に応じてカリウムを補充するなど適切な処置を行うこと。
(2)本剤の服用により体内で遊離した鉄が吸収され,蓄積される可能性があるため投与期間中は血清フェリチン等の推移を適宜確認することが望ましい。

相互作用



併用注意


(併用に注意すること)

併用注意の表


併用注意(併用に注意すること)
薬剤名等 臨床症状・措置方法 機序・危険因子 
副腎皮質ホルモン製剤,グリチルリチン製剤,利尿剤 低カリウム血症を増悪させるおそれがある。 これらの薬剤はカリウムの排泄作用を有する。 
テトラサイクリン系抗生物質 テトラサイクリン系抗生物質の吸収が減弱するおそれがある。 本剤中の鉄イオンと難溶性のキレートを形成し,テトラサイクリン系抗生物質の吸収を阻害する可能性がある。 



副作用



副作用等発現状況の概要


本剤は副作用発現頻度が明確となる臨床試験を実施していない。

その他の副作用



その他の副作用の表


頻度不明 
消化器 便秘,胃部不快感 
その他 低カリウム血症 



高齢者への投与


一般に,高齢者では生理機能が低下しているので,副作用の発現に注意し,慎重に投与すること。

妊婦、産婦、授乳婦等への投与


妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。]

小児等への投与


低出生体重児,新生児,乳児,幼児又は小児に対する安全性は確立していない(使用経験が少ない)。[【臨床成績】の項参照]

過量投与


ゴイアニアの事故において,本剤が1日に20g投与された場合に,胃部不快感が認められたとの報告がある1)

適用上の注意


服用時: 本剤の服用により,便が青みを帯びる場合がある。また,便の変色により放射線被曝に起因する消化器傷害による血便等の発現を見逃すおそれがあるので,注意すること。

その他の注意


排泄物等の取扱いについて,医療法その他の放射線防護に関する法令,関連する告示及び通知等を遵守し,適正に処理すること。[放射性セシウムと結合した本剤は主に糞便中に排泄されるため,本剤投与中の患者の糞便中には放射性セシウムが高濃度に含まれる可能性がある。]


薬物動態




本剤をブタに単回胃内投与又はラットに5日間反復経口投与したとき,本剤はほとんど吸収されず,糞便中に排泄された2),3))。



臨床成績




<健康成人における放射性セシウムの排泄促進作用4)>






放射性セシウム(137Cs:37kBq)を経口摂取した健康成人7例に,本剤1.0gを1日3回投与したとき,放射性セシウムの生物学的半減期の平均値が94日から31日に短縮した。



<ゴイアニアにおける放射性セシウムの被曝事故1)>






ブラジルのゴイアニアの事故において,放射性セシウム(137Cs)の体内汚染を受けた46例に本剤が投与された。成人及び若年成人には本剤1日3~10g,小児には本剤1日1~3gが,2,3又は6回に分けて経口投与された(投与間隔は投与量に応じて調整され,最短2時間間隔で投与された)。46例中25例について,本剤の投与中及び投与中止後の放射性セシウムの生物学的半減期に関するデータが得られ(表1),本剤投与による放射性セシウムの生物学的半減期の短縮が認められた。また,本剤の投与により糞便中/尿中の放射能排泄比が増加した。



臨床成績の表


1.
表1:本剤の投与中及び投与中止後の放射性セシウムの生物学的半減期
年齢 投与量 患者数a) 137Csの生物学的半減期b)
投与中 
137Csの生物学的半減期b)
投与中止後 
平均短縮率 
19歳以上 10g/日
6g/日
3g/日 
5例
10例
6例 
26±6日
25±15日
25±9日 

80±15日 

69% 
12~14歳 10g/日 5例 30±12日 62±14日 46% 
4~9歳 3g/日 7例 24±3日 42±4日 43% 

a) 19歳以上は13例であるが,複数の投与量で治療されていた8例は,投与量別にそれぞれ1例として集計
b) 平均値±標準偏差



薬効薬理




放射性セシウムの排泄促進作用






放射性セシウム(137Cs)を投与したラットに,放射性セシウム投与直後から本剤を11日間経口投与したとき,血液,肝臓,腎臓,脾臓,大腿骨及び全身の放射能が減少した5)



有効成分に関する理化学的知見




<一般的名称>






一般名:ヘキサシアノ鉄(II)酸鉄(III)水和物
化学名:Iron(III)hexacyanoferrate(II)
構造式:

注)x=14~16
分子式:Fe4[Fe(CN)6]3・xH2O(x=14~16)
分子量:859.23(脱水和物として)
性 状:青紫色の粒状の結晶性粉末である。



取扱い上の注意




容器の開け方:






本剤容器の蓋はチャイルドロックを施しているため,次の手順で開封すること。

ステップ1:蓋を強く押す。
ステップ2:押しながら蓋をねじる。



承認条件

本剤の臨床使用経験は限られていることから,製造販売後に本剤が投与された全症例を対象に使用成績調査を実施し,可能な限り情報を把握するとともに,本剤の安全性及び有効性に関するデータを収集し,本剤の適正使用に必要な措置を講じること。


包装

36カプセル/容器


主要文献及び文献請求先



主要文献


1) IAEA TECDOC Series No. 1009. Dosimetric and Medical Aspects of the Radiological Accident in Goiania in 1987. 1998; pp.37-45.
2) Nielsen P, Dresow B, Fischer R, Gabbe EE, Heinrich HC, Pfau AA. Intestinal absorption of iron from 59Fe-labelled hexacyanoferrates(II) in piglets. Arzneimittelforschung 1988; 38: 1469-71.
3) Nielsen P, Dresow B, Fischer R, Heinrich HC. Bioavailability of iron and cyanide from 59Fe- and 14C-labelled hexacyanoferrates(II) in rats. Z Naturforsch 1990; 45c: 681-690.
4) Stro(¨)mme A. Increased Excretion of 137Cs in Humans by Prussian Blue. Symposium on Diagnosis and Treatment of Deposited Radionuclides; proceedings. 1968; 329-32.
5) Le Gall B, Taran F, Renault D, Wilk JC, Ansoborlo E. Comparison of prussian blue and apple-pectin efficacy on 137Cs decorporation in rats. Biochimie 2006; 88: 1837-41.

文献請求先


日本メジフィジックス株式会社 販売促進部
〒661-0976 兵庫県尼崎市潮江1丁目2番6号
0120-076941(フリーダイアル)


製造販売業者の氏名又は名称及び住所

製造販売元
日本メジフィジックス株式会社
東京都江東区新砂3丁目4番10号
輸入先
ハウプト・ファーマ・ベルリン GmbH
ドイツ
提携
ハイル社
ドイツ
半減期の長いセシウムでの放射性障害のため
福島第一原発の放射性物質漏れ事故の数日後に、防衛省が、特殊な薬を緊急輸入したそうだ。

Image: Fillmore Photography

これは、「ラディオガルダーゼ」という名前の、放射性セシウム除去薬で、自衛隊員や現場の作業員のためのものだという。

半減期が8日と短く、もともとヨウ素を含んだ海藻類を食べている日本人にとって、放射性ヨウ素は影響が少ないが、セシウムは違う。半減期も30年と長く、体に取り込まれやすいため、基準値以上の量を吸込むと、重い放射線障害を起こすためだ。

前出の薬は、日本では、昨年暮れに承認・販売が始まったものだが、今回は手持ちが足りず、日本のメーカーがドイツから輸入したとのこと。

以下は、この薬の輸入・販売を手がける日本メジフィックス社の担当者の話だ。
「セシウムは、体に入ると、腸と胆嚢(たんのう)を行ったり来たりする性質があります。’ラディオガルダーゼ’は、腸にでてきたセシウムを捕まえて、便と一緒に排出するのです。こうした事故がなければ、まず知られることのない薬ですが、話を聞きつけた一般のお客さんから、手に入らないかといった問い合わせがかなりありました」

同社では、入手方法や値段など、一切答えていないそう。

個人購入は必要か
東京女子医大の三橋紀夫教授によると
「’ラディオガルダーゼ’は、あくまでも大量のセシウムを取りこんでしまった人が服用するもの。その量は300ミリシーベルト以下では効果がないとされています。この薬を扱う病院も特殊だし、医師も慣れていないといけない。心配だといって一般の人が処方してもらえるものではありません。だから値段も公表しないのでしょう。」

ということだ。

ただ、それでも手に入れたい場合は、インターネットで個人で買うことは可能なようだ。1日3回・1回6錠服用が必要で、1箱30錠入りで1万5000円前後だそうだが、本当に必要かどうか、冷静に考えなくても安くないことは明白だ。

(参考:週刊新潮5月5・12日ゴールデンウィーク特大号)

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