2011年10月16日日曜日

子供に安全な給食を提供することは国の責任。個人レベルで自衛する話ではない 小出裕章


10月7日 子供に安全な給食を提供することは国の責任。個人レベルで自衛する話ではない 小出裕章

2011年10月7日、小出裕章氏の意見が、毎日新聞に掲載されました。「東日本大震災:給食の安全性」というタイトルで、上下の2回掲載されています。小出裕章氏の意見は「下」に掲載されています。コメント欄にてedokko311様より教えていただきました。
以下、「上」「下」続けて、ご紹介いたします。

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東日本大震災:給食の安全性/上 自治体に広がる食材検査
毎日新聞 2011年10月6日 東京朝刊
◇首都圏の親、心配強く「規制値以下でもなるべく低く」
放射性物質による食材の汚染で、学校給食の安全性を心配する声が上がっている。首都圏と福島県内の事情を探った。
9月30日の東京都小平市議会最終日。市内の保護者でつくる「小平市の子どもを放射能から守る会」が提出していた請願が、全会一致で採択された。市立小・中学校や保育園の給食食材を調達する際は▽内部被ばくの低減に努める▽コメは特に慎重に選択する▽使用頻度が高く、都道府県による放射能検査回数の少ない食材を選び、独自検査を行う--ことを求めたものだ。
代表の本橋美幸さんは「暫定規制値以下でも、数値の低いものを使う方向に進んでほしい」と訴える。
保護者たちはもともと、個別に各学校や市に問い合わせをしていたが「食材は安全です」という回答ばかり。ツイッターを介して情報交換する中で集まり、市と話し合うようになった。食材の産地公開を求めると、市は小学校ごとに使用する食材を調べ2学期前に公表した。
メンバーの女性(33)は厚生労働省が公表する都道府県の検査結果を確認しながら、心配な食材は代替品を長女に持たせていた。産地が公表されて安心感が得られ、最近は回数が減った。「自分が神経質なのかと思っていたが、同じ気持ちを抱えている人とつながりを持てて心強い」と話す。
小平市は給食食材の独自検査については慎重姿勢だったが、請願を受け「実施する方向で検討する」(学務課)という。
国の方針では、食品に含まれる放射性物質が暫定規制値以下ならば問題ない、という考え方だ。しかし規制値が1キロあたり500ベクレルの野菜で仮に450ベクレルが検出されれば、「使ってほしくない」と考える保護者は少なくない。
◇  ◇
産地を公開し独自検査を行う自治体は増えている。東京都世田谷区は6月、小中学校と保育園で出す牛乳について、外部機関に検査を依頼し、結果を公表した。いずれも放射性ヨウ素やセシウムは不検出。不検出とはゼロとは限らず、測定できる最小値(検出限界値=セシウムは2~2・9ベクレル)未満ということだ。区学校健康推進課は「出荷前の原乳は検査されているが、製品を調べてほしいという要望が強かった」と説明する。2学期からは、当日納品された給食の食材と産地を校内に掲示している。
横浜市は6月から毎日、小学校の給食で翌日使う野菜を一つ選んで検査してきた。しかし対象は全344校の一部にとどまるため、保護者の不安は解消できなかった。10月から毎日1校を選び、1食分の全食材を測定することに決めた。
東京都立川市は8月末から原則週1回、関東以北が産地で、使用頻度や量が多い食材を10品目選び検査。千葉県柏市は産地が変わるごとに肉や野菜などを抽出して調べている。東京都杉並区は約3000万円で検査機器を購入予定だ。狛江市は、市立保育園で使う食材で西日本産のものを多く取り入れるよう、納入業者に要望しているという。
◇  ◇
保護者が特に不安を抱くのは毎日飲む牛乳だ。農水省によると、東北や関東など17都県が全集乳所で原乳を検査。原則2週間に1回だが宮城・福島・群馬・埼玉・千葉・神奈川・新潟は県の判断で毎週行っている。
ニーズに応じさらに検査を行う業者も現れている。地元や東京都内の学校・保育園に牛乳を供給する群馬県太田市の東毛酪農業協同組合は9月、放射性物質の自主検査の結果公表に踏み切った。「スーパーでは牛乳を選べるが、給食は選択肢がない。結果を出すことが必要と判断した」。結果は不検出(セシウムの検出限界値5ベクレル)だった。
酪農家は乳牛の食べる牧草にも気を使う。東毛地区では1カ所の牧草の放射性セシウムが暫定許容値(1キロあたり300ベクレル)を上回った。5月末には数十ベクレルに低下したが、組合の方針で輸入牧草の割合を増やし牛に与えている。大久保克美組合長は「経営的に厳しいがやむを得ない」と話す。
自主検査する別の乳業メーカーは、積極的に結果を公表していない。「自治体が調べているのにさらに検査することは、自治体を信用していないと受け止められかねない」
小平市の保護者は訴える。「自治体の検査は十分でない。何年も食べ続けるのだから、市区町村や事業者は子どもの口に入る物をきちんと検査して数値を示してほしい。それが安心感を与え、風評被害を防ぐことにもつながる」【下桐実雅子】
◇方法、影響…検査への考えさまざま
文部科学省は給食の検査に関し、放射線量を測定する機器を購入する都道府県向けに約1億円を第3次補正予算に盛り込む方針を決めた。
検査にもいろいろな見方がある。早野龍五・東京大大学院理学系研究科教授(物理学)は、学校ごとに数人分の給食を丸ごとミキサーにかける検査を文科省に提案している。高い数値の食材が出れば対策をとり、内部被ばくの抑制につなげられる。「特に福島で優先してやれば」と話す。
消費者団体「食のコミュニケーション円卓会議」の市川まりこ代表は「暫定規制値以下なら影響がないと政府がいう中、学校ごとの数値を公表したら、国産の食材が拒否され混乱が生まれるのでは」と心配する。
「自然の被ばく量を知れば安心できる」と話すのは松本義久・東京工業大原子炉工学研究所准教授。日本人は果物や野菜からカリウム40などを通じて年約0・4ミリシーベルト被ばくしている。これは1日100ベクレル相当の食品摂取にあたる。松本さんは「無用な放射性物質を取らないのが一番よいが、セシウムが数ベクレル出ても自然放射線より低い」と述べた。【小島正美】
引用元:http://mainichi.jp/life/edu/news/20111006ddm013040011000c.html
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東日本大震災:給食の安全性/下 福島の親、不安口にできず
2011年10月7日 東京朝刊
◇農業県で周囲に気兼ね 弁当持参には学校難色
「地産地消」が推進され、昨年度は給食食材の36%、コメは100%を県内産でまかなった福島県。しかし、多くの自治体には放射線の検査機器がない。また農作物の産地でもあるだけに、保護者は表だって不安を口にできずに苦しんでいる。
栃木県に近い白河市。学校給食センターの菊池富雄所長によると、生鮮品は地元産がほとんどだ。「キュウリやトマト、インゲンは市内でとれたもの。果樹栽培も盛んでデザートも近隣農家から調達する。これからはリンゴが人気です」
センターでは2学期から、放射性物質の測定を始めた。1日8食材が限界だが、野菜や肉、卵などを前日に調達し「シンチレーション検出器」にかける。
市の方針で、放射性物質が国の暫定規制値(セシウムは1キロ500ベクレル)以下の数値でも、検出されれば給食には使用しないよう決めた。これまではすべて、検出限界値30ベクレルを下回る「不検出」だ。
市教委によると、測定器購入後は給食を拒否する児童が十数人から5人に減った。菊池所長は「保護者が心配するのは、子供の口に入るものが安全かどうか。結果を開示すれば福島産でも納得してもらえる」と解説する。長女(9)が市立小に通う小松直美さん(39)は「店で売られているのは国の規制値以下。今は給食の方が信頼できる」と話す。
県教委によると、今後は福島市やいわき市が給食の検査を始める予定だが、多くの自治体には検査機がない。各自治体は独自の方法で安全性を探る。
いわき市は「流通しているものは基本的に安全」としながらも、農林水産省や県のホームページで農作物の検査結果や出荷制限情報を毎日チェック。購入の前日までに産地情報を入手し、不安が残る食材が紛れ込まないようにしている。
保護者からは「北海道や西日本の食材を使ってほしい」という声が寄せられる。いわき市平(たいら)南部学校給食共同調理場は、市から送られるデータを見て、同じ数値なら遠方から取り寄せるという。新妻正典所長は「福島産が怖いというわけではない。風評被害につながりそうで、心に引っかかるが……」と苦悩する。市内の別の共同調理場所長も「福島産が給食への不安につながるなんて、やるせない」と打ち明ける。
福島市や郡山市は、昨年までの地産地消は「とても推進できない」(教育委員会)状況だという。産地情報だけで決めない方針を貫き、国の規制値以下の食品は使用可能とし、各校の判断に任せている。多くの自治体に加工食品を納入する「福島県学校給食会」は、小松菜やブロッコリーを一部九州産に切り替えた。
◇  ◇
給食を敬遠する保護者の多くが、何らかの圧力にさらされている。いわき市の千葉由美さん(42)は5月から小3の娘に毎日、弁当を持たせている。教室では1人だけ。校長から電話で「なぜ給食を食べないのか」と問われ、「給食も教育の一環。みんなで同じものを食べることに意義がある」と説明された。食材の産地公表を求めたが応じてもらえなかった。
「弁当にこだわるのは、食の安全を守りたい気持ちが半分。あとは、周囲に気兼ねして声を上げられないお母さんを代弁するため。子供が何を食べているのか知りたい親の気持ちは、間違っていますか?」
いわき市内の小学生(7)の母親(39)は、同居する夫の両親が農家で、近所も農家が多い。給食への不安は声にできない。「被ばくした福島の子に(他県と同じ)国の基準をあてはめないでほしい」と願う。学校に弁当を持たせたいと頼んだが、理由を書いた文書を提出したうえで校長が許可するといわれあきらめた。「校長の考え方一つで子供の安全が決まるなんて」と嘆いた。
小6と小4の子を持つ二本松市の母親(36)は心配なことがあるという。「学校で牛乳を飲まない子が『非県民』とからかわれたと聞く。放射能への自衛策を非難する雰囲気があるのなら、残念だ」。大人の混乱が子供たちにも伝わっている。
◇  ◇
どこまで調べ、どう保護者に伝えるのか。自治体や学校で対応は異なり、親は翻弄(ほんろう)されるばかりだ。
郡山市のある小学校では、校内放送で毎日、野菜の産地が公表される。「不検出の野菜しか使わない、と校長が丁寧に説明してくれて安心している」とある母親(42)。一方、須賀川市の母親(43)は「学校は『安心してください』としか言わない。弁当は子供が嫌がるのであきらめた」とうんざりした様子だ。
「子供の安全に関わることが、自治体の知恵比べでいいのだろうか」。ある市教委の担当者は漏らした。文部科学省学校健康教育課は「弁当を持参するかどうかは自由。産地などの情報提供は適切に行うよう各教委に伝えている」と話すが、最終的には現場の判断に委ねられているのが実情だ。【鈴木敦子】
http://mainichi.jp/life/edu/news/20111007ddm013040013000c.html
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東日本大震災:給食の安全性/下 小出裕章・京大原子炉実験所助教の話
2011年10月7日 東京朝刊
◇子供の健康、国の責任で守れ--小出裕章・京大原子炉実験所助教
京都大原子炉実験所の小出裕章助教(原子核工学)に、給食の安全をどう守るかについて尋ねた。

子供に安全な給食を提供することは国の責任。個人レベルで自衛する話ではない。弁当を持たせるとか、牛乳を飲まない子が非難されるとか、そんな苦労を強いている国の姿勢が問題だ。
国は、子供の口に入る食品の放射能の汚染度を調べ、特に福島の子供については一番きれいな食材を使うべきだ。地産地消で地元産を使えば、親も子も不安になるだけ。自衛できない親から反発を生み、親同士で反目し合う結果になる。福島県内で取れる農作物はすべて汚染されていると考えるべきだ。子供に与えるのは間違いだ。
検出限界が1キロ当たり30ベクレルといった性能の悪い測定器で測っても意味がない。精度の高い機器で測る必要がある。そもそも国の暫定規制値が緩すぎる。原発事故前の農作物は1キロ当たり1ベクレル程度の汚染だったと推定されるので、30ベクレルだとしても30倍も我慢させていることになる。
学校や自治体はすべてのデータを公表すべきだ。その上で、子供には放射性物質に汚染されていない食材を与えなくてはいけない。誤解されては困るが、私は福島の農家を守りたいと思っている。汚染された食べ物については、放射能の影響が低い大人が食べる覚悟を持つことが大切だ。

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