焦点/福島米「安全宣言」/消費者の不安拭えず 販売苦戦の恐れ
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福島米の放射性物質検査の結果、作付けのあった福島県内48市町村でコメの出荷が解禁となった。しかし、放射能汚染に対する消費者の不安を拭い切れたとはいえず、販売苦戦は否めない。
ことしの福島産のコシヒカリは、これまで同程度の評価を受けた北関東産より60キログラム当たり1000~1500円低い価格で取引されている。米価は全国的には上昇しており、福島米の価格低迷は市場の目の厳しさを物語る。
特に販売不振になる可能性があるとみられているのが家庭向け。「福島の農家には申し訳ないが、ことしは福島米は一粒も扱わない」。従来、福島産のコシヒカリやひとめぼれを主力商品としてきた首都圏の米穀店はそう言い切る。
店頭には栃木産や茨城産の新米コシヒカリが並ぶ。だが福島県に近い点がマイナス材料となり、売れ行きは振るわないという。「千葉産でさえ嫌がる客もいる。福島産では勝負にならない」と話す。
生産、流通、消費の関係者が決定的なダメージになったと口をそろえるのが、予備検査で二本松市小浜のコメから暫定基準値と同じ1キログラム当たり500ベクレルの放射性セシウムが検出された問題だ。
「本検査で基準値を下回っても、いったん500ベクレルが出た事実は消えない。二本松産、それが混じっているかもしれない福島産を買う消費者がどれだけいるだろうか」と福島県内の米穀業者は懸念する。
一方、業務用は低価格が受けて引き合いが予想外に強まっている。複数産地のコシヒカリをブレンドすれば「国内産コシヒカリ100%」の表記が可能となり、流通サイドにとっては福島産と明示しないで済むという。
大手のコメ仲介業者は「福島米の品質の高さは業界では常識。それが今、日本一安い。検査も通っているから安全性もお墨付き。割安感があり、外食産業には魅力的だろう」と指摘する。
本来の品質に見合った価格を付けられず、福島産を名乗ることをはばかる状況がいつまで続くのか。県内の農協幹部は「ことしは全量売り切ることが大事だ。ある程度、買いたたかれても仕方がない」と苦しい胸の内を明かす。
◎お墨付きでも期待薄/組合、業務用に活路求める
福島県で作付けされた全てのコメが「安全」とのお墨付きを得た。名目上は大手を振って出荷される。だが、福島第1原発事故の影響で販売不振が予想され、農家ら関係者の表情はさえない。
二本松市小浜地区。山あいに小さく、不整形な水田が点在する。9月の予備検査では、そのうち1カ所のコメから国の暫定基準値(1キログラム当たり500ベクレル)と同じ放射性物質が検出された。
本検査で「シロ」と認定されたとはいえ、汚染米のレッテルを貼られたことに、周辺の生産者のショックは大きい。
「売れ行きは芳しくないだろう」。農業手塚源司さん(75)は半ばあきらめ顔だ。基準値と同水準の放射性物資が検出されたコメの水田は比較的離れているが、「小浜のコメというだけで一緒くたにされる。うちのコメだけ特別ということにはならない」と話す。
80アールで約4000キロのコシヒカリを作っている。昨年は60キロ約1万2000円の値が付いた。ことしも既に刈り取りを終えて天日干しにし、出荷を待っている状態だ。
「ことしは粒ぞろいで出来が良かったが、売れても半値以下になるかもしれない。台無しだ」と手塚さん。東電に補償を求めるが、「不十分な対応に終わる可能性がある」と不安は消えない。
「二本松産米は一切駄目だ」
郡山市の米穀卸の梅本典夫さん(60)は取引先の大手商社から、そう言い渡された。
梅本さんは県米穀肥料協同組合の理事長。組合は、小浜地区のコメは基準内でも全量を出荷停止にするよう県に求めている。「小浜のコメの印象が福島米全体のイメージ低下を招く。小浜のコメを切り離した方が他産地のためになる。小浜地区の農家には金銭で補償すべきだ」と訴える。
福島米を敬遠する消費者心理は根強く、個人向けの販売は厳しい。梅本さんは「外食産業など業務用に活路を見いださざるを得ない。風当たりは強いが、きちんと検査して安全性を粘り強く訴える」と決意する。
福島米は良質な割に手頃な価格で、もともと全体の出荷量の6~7割が業務用として出回っている。ことしは風評被害で割安感が増し、業務用の売れ行きは堅調だ。
二本松市の三保恵一市長は「予備検査で高い放射性物質が出てから緊張が続いていた。安全だと証明されて安堵(あんど)した」と、ほっとした表情を見せた。
市はコメを一袋ずつ全て検査するよう国と県に求めている。東電には検査費用と価格下落分の補償、基準値を超える放射性物質が検出された場合の全量買い上げを要求した。
三保市長は「販売が本格化しないと影響は分からないが、損失は避けられない。農協と協議して賠償を求める」と述べた。
◎宮城米は滑り出し順調/9月の安全宣言浸透か/ペース鈍く、先行き不安も
福島より一足早く、9月29日に安全宣言を出した宮城県では、県産米の約6割を取り扱う全農宮城県本部が6日、県内で新米を発売。7日には県外への出荷も開始した。
「出荷は順調に進んでいる。放射性セシウム問題で、消費者が宮城の新米を敬遠しているという空気は感じられない」と話すのは渋谷潤太郎副本部長。
コメの品薄感から、全農宮城県本部が設定したひとめぼれの相対取引基準価格は60キロ1万4500円。前年より2500円も上がり、小売価格も上昇している。
みやぎ生協店舗商品部のバイヤー横山明夫さんも「まだ出回り段階で計り知れない部分はあるが、消費者の不安感は想定したより小さい。県の安全宣言が浸透した結果ではないか」と受け止めている。
ただ、売れ行きのペースは昨年より鈍いようだ。横山さんは「買いだめの反動が若干出ている印象だ」と語る。みやぎ生協の場合、8月のコメ販売量は例年の倍近く。牛肉の放射性セシウム汚染をきっかけにコメにも懸念が広がり、2010年産米を購入した家庭が増えたため、とみられる。
横山さんは「安全宣言が出たと言っても、放射性セシウムが検出された地域があるのも事実。消費者の本当の反応が分かるのは、家庭内の在庫がさばけるという意味からも、もう少し先になる」とみている。
ことしの福島産のコシヒカリは、これまで同程度の評価を受けた北関東産より60キログラム当たり1000~1500円低い価格で取引されている。米価は全国的には上昇しており、福島米の価格低迷は市場の目の厳しさを物語る。
特に販売不振になる可能性があるとみられているのが家庭向け。「福島の農家には申し訳ないが、ことしは福島米は一粒も扱わない」。従来、福島産のコシヒカリやひとめぼれを主力商品としてきた首都圏の米穀店はそう言い切る。
店頭には栃木産や茨城産の新米コシヒカリが並ぶ。だが福島県に近い点がマイナス材料となり、売れ行きは振るわないという。「千葉産でさえ嫌がる客もいる。福島産では勝負にならない」と話す。
生産、流通、消費の関係者が決定的なダメージになったと口をそろえるのが、予備検査で二本松市小浜のコメから暫定基準値と同じ1キログラム当たり500ベクレルの放射性セシウムが検出された問題だ。
「本検査で基準値を下回っても、いったん500ベクレルが出た事実は消えない。二本松産、それが混じっているかもしれない福島産を買う消費者がどれだけいるだろうか」と福島県内の米穀業者は懸念する。
一方、業務用は低価格が受けて引き合いが予想外に強まっている。複数産地のコシヒカリをブレンドすれば「国内産コシヒカリ100%」の表記が可能となり、流通サイドにとっては福島産と明示しないで済むという。
大手のコメ仲介業者は「福島米の品質の高さは業界では常識。それが今、日本一安い。検査も通っているから安全性もお墨付き。割安感があり、外食産業には魅力的だろう」と指摘する。
本来の品質に見合った価格を付けられず、福島産を名乗ることをはばかる状況がいつまで続くのか。県内の農協幹部は「ことしは全量売り切ることが大事だ。ある程度、買いたたかれても仕方がない」と苦しい胸の内を明かす。
◎お墨付きでも期待薄/組合、業務用に活路求める
福島県で作付けされた全てのコメが「安全」とのお墨付きを得た。名目上は大手を振って出荷される。だが、福島第1原発事故の影響で販売不振が予想され、農家ら関係者の表情はさえない。
二本松市小浜地区。山あいに小さく、不整形な水田が点在する。9月の予備検査では、そのうち1カ所のコメから国の暫定基準値(1キログラム当たり500ベクレル)と同じ放射性物質が検出された。
本検査で「シロ」と認定されたとはいえ、汚染米のレッテルを貼られたことに、周辺の生産者のショックは大きい。
「売れ行きは芳しくないだろう」。農業手塚源司さん(75)は半ばあきらめ顔だ。基準値と同水準の放射性物資が検出されたコメの水田は比較的離れているが、「小浜のコメというだけで一緒くたにされる。うちのコメだけ特別ということにはならない」と話す。
80アールで約4000キロのコシヒカリを作っている。昨年は60キロ約1万2000円の値が付いた。ことしも既に刈り取りを終えて天日干しにし、出荷を待っている状態だ。
「ことしは粒ぞろいで出来が良かったが、売れても半値以下になるかもしれない。台無しだ」と手塚さん。東電に補償を求めるが、「不十分な対応に終わる可能性がある」と不安は消えない。
「二本松産米は一切駄目だ」
郡山市の米穀卸の梅本典夫さん(60)は取引先の大手商社から、そう言い渡された。
梅本さんは県米穀肥料協同組合の理事長。組合は、小浜地区のコメは基準内でも全量を出荷停止にするよう県に求めている。「小浜のコメの印象が福島米全体のイメージ低下を招く。小浜のコメを切り離した方が他産地のためになる。小浜地区の農家には金銭で補償すべきだ」と訴える。
福島米を敬遠する消費者心理は根強く、個人向けの販売は厳しい。梅本さんは「外食産業など業務用に活路を見いださざるを得ない。風当たりは強いが、きちんと検査して安全性を粘り強く訴える」と決意する。
福島米は良質な割に手頃な価格で、もともと全体の出荷量の6~7割が業務用として出回っている。ことしは風評被害で割安感が増し、業務用の売れ行きは堅調だ。
二本松市の三保恵一市長は「予備検査で高い放射性物質が出てから緊張が続いていた。安全だと証明されて安堵(あんど)した」と、ほっとした表情を見せた。
市はコメを一袋ずつ全て検査するよう国と県に求めている。東電には検査費用と価格下落分の補償、基準値を超える放射性物質が検出された場合の全量買い上げを要求した。
三保市長は「販売が本格化しないと影響は分からないが、損失は避けられない。農協と協議して賠償を求める」と述べた。
◎宮城米は滑り出し順調/9月の安全宣言浸透か/ペース鈍く、先行き不安も
福島より一足早く、9月29日に安全宣言を出した宮城県では、県産米の約6割を取り扱う全農宮城県本部が6日、県内で新米を発売。7日には県外への出荷も開始した。
「出荷は順調に進んでいる。放射性セシウム問題で、消費者が宮城の新米を敬遠しているという空気は感じられない」と話すのは渋谷潤太郎副本部長。
コメの品薄感から、全農宮城県本部が設定したひとめぼれの相対取引基準価格は60キロ1万4500円。前年より2500円も上がり、小売価格も上昇している。
みやぎ生協店舗商品部のバイヤー横山明夫さんも「まだ出回り段階で計り知れない部分はあるが、消費者の不安感は想定したより小さい。県の安全宣言が浸透した結果ではないか」と受け止めている。
ただ、売れ行きのペースは昨年より鈍いようだ。横山さんは「買いだめの反動が若干出ている印象だ」と語る。みやぎ生協の場合、8月のコメ販売量は例年の倍近く。牛肉の放射性セシウム汚染をきっかけにコメにも懸念が広がり、2010年産米を購入した家庭が増えたため、とみられる。
横山さんは「安全宣言が出たと言っても、放射性セシウムが検出された地域があるのも事実。消費者の本当の反応が分かるのは、家庭内の在庫がさばけるという意味からも、もう少し先になる」とみている。
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