託実効線量

預託実効線量 (11/4/2)

前回、放射能と暫定基準値について述べました。

・・・まぁ、実際には、放射線や放射能に詳しくない人には、いや詳しい人でも、
あれこれ説明されても、何だかんだ言って良く分からないものは分からない
わけです。

いきなり Bq(ベクレル)だの、Sv(シーベルト)だの、一般には馴染みのない
初めて聞くような単位を持ち出されたり、暫定基準値とかいう得体の
知れない言葉が出てきたり、ニュース報道は具体的な基準の意味も示さずに
基準の何倍」とか「通常の何万倍」とか言ったり・・・

(放射線・放射能に関しては、「通常」は桁違いに低いレベルなので、何万倍とだけ言うと、下手に
誤解を招くおそれもありますね。本当に危険なのか、通常が低すぎて実は大したこと無いのか)


実際、放射線については、「どれだけ浴びるとどうなる」という確定的な
データが無く、臨床例自体が乏しいという背景もあります。
まだ放射線防護の考えが出る前に浴びて症状が出た人の記録とか、
広島や長崎の原子爆弾による被爆者(こちらはでなく)の症例、
チェルノブイリやスリーマイル島の原発事故における周辺住民の症例、
東海村JCO臨界事故の症例・・・そうした、大なり小なり放射能・放射線が
関係した事故における症例を分析するなどして、構築するしかないわけです。

例えば、「一度に全身に3Sv浴びると50%が死亡」というものも、まさか
100人集めて3Sv相当浴びせたら半数が死亡したとかいう臨床的な
実験データがあるわけではありません。そんなことしたら大変です。
ですが、過去の症例から、大雑把に言って、平均的に、そのくらい浴びれば
そのくらいの影響になるだろう、というのは正しい
と言って良いと思います。


それでも、症例が少なく、推定ばかりで、不確実で安心できん!
と不信を募らせる向きもあるでしょうが、それを言ってしまえば、
毒物の致死量だって、実際は似たようなものです。

例えばダイオキシン
2,3,7,8-テトラクロロジベンゾダイオキシンは、半数致死量(LD50)が
体重1kgあたり0.0006~0.002mg(ミリグラム)とされますが、まさか
100人ずつのグループを沢山集め、それぞれに一定量のダイオキシンを
与えて半分が亡くなったグループの量を半数致死量にしているわけでは
ありません。そんなことしたら大問題です。動物実験等の結果をもとに、
それをヒトに当てはめて推算しているに過ぎません。

特に、動物実験では、毒になるかどうかは生物によって異なっているのが
当たり前なので (だからこそ、細菌には毒で哺乳類には何でもない抗生物質というものが
存在する)
、なるべくヒトに近い哺乳類でテストするわけですが、それでも
テオブロミンのように、ヒトとイヌで致死量がかなり異なるものもある。
(なので、犬には絶対にチョコレートをあげないで下さいね)

そのような動物実験からヒトに当てはめて致死量を推算することは、
どの程度確からしいのか? 一部の毒物は、旧ナチスなどの人体実験の
結果が、実は大いに役立っているのですが。

美容外科で使われることが多くなったボトックス(ボツリヌス菌の毒素)
などは、半数致死量が資料により1000倍も開きがあるくらいです。
それでもダイオキシンより毒性の高い最強の生物毒であるのは間違いない
のですが、知らない人は安易に美容外科で注射してもらいますね・・・


それはともかく、放射線核種についても、非常に多くのものがあり、
1種類1種類、放射線を出す確率も違うし、出す放射線の種類もエネルギーも
違います。異なるエネルギーの異なる放射線が、人体組織(これも沢山
ある)にどんな影響を与えるか、詳細なデータはありませんが、少ない症例を
元に、同じエネルギーでもガンマ線X線ベータ線よりも中性子線
アルファ線の方が人体への影響は大きい、ということ分かっていて、
ガンマ線・X線・ベータ線の場合の「何倍」という倍率(放射線荷重係数)を
出してあります。

ただ、その放射線荷重係数も、大雑把に1倍・5倍・10倍・20倍というのが
設定されているくらいです。


それでも、人々を放射線から守るために、ICRP (International
Comission on Radiological Protection, 国際放射線防護委員会)

先生たちは、様々な放射性核種について 1Bq (ベクレル。1秒間に1回
放射線を出す。より正確には1秒間に1個の放射性同位体原子核が
崩壊する)の放射能を体内に摂取してしまった場合に、どれだけ人体への
影響があるかを、線量(Sv、シーベルト)の形で一覧にしてくれました。

物質(核種)も、放射線の種類も、エネルギーも異なる放射線も、とりあえず
シーベルトの単位になってくれれば、その大小で人体への影響を比べる
ことができます。

ただし、体内への摂取については、同じ内部被曝でも、経口(=食べる・飲む。
消化吸収から体内に摂取)と吸入(=吸う。気道・肺を通して体内に摂取)で
異なるということが分かっているので、別々に勘定されています。


次の表は、ICRP Publication 72 で勧告された、成人の一般公衆
放射性物質を経口または吸入で摂取した場合の実効線量係数の一部です。

ICRP Publication 72 (1996) ●ICRP ──国際放射線防護委員会


放射性核種預託実効線量係数(1Bqあたり) 半減期
記号核種名  経口摂取
 [マイクロSv]
  吸入摂取
 [マイクロSv]
3Hトリチウム
(三重水素)
 0.000 04   0.000 2612.3年
14C炭素14 0.000 58   0.005 85730年
40Kカリウム40 0.006 2   0.002 112.8億年
45Caカルシウム45 0.000 71   0.003 7163日
58Coコバルト58 0.000 71   0.002 170.8日
60Coコバルト60 0.003 4   0.0315.27年
89Srストロンチウム89 0.002 6   0.007 950.5日
90Srストロンチウム90 0.028   0.1629.1年
91Srストロンチウム91 0.000 65   0.000 419.5時間
92Srストロンチウム92 0.000 43   0.000 232.71時間
129Iヨウ素129 0.11   0.0361570万年
131Iヨウ素131 0.022
 0.18 (乳児)
   0.007 4
    ? (乳児)
8.04日
133Iヨウ素133 0.004 3   0.001 520.8時間
134Csセシウム134 0.019   0.0202.06年
136Csセシウム136 0.003 0   0.002 813.1日
137Csセシウム137 0.013   0.03930.0年
226Raラジウム226 0.28   9.51600年
232Thトリウム232 0.23110.0140億年
235Uウラン235 0.047   8.57.04億年
237Uウラン237 0.000 76   0.001 96.75日
238Uウラン238 0.045   8.044.7億年
238Puプルトニウム238 0.23110.087.7年
239Puプルトニウム239 0.25120.02.41万年
(表に転記ミスがあったらお教え下さい・・)

なお、「1Bqの吸入摂取」とは、吸い込んだ総量が1Bqであって、
器官や肺など呼吸気道に取りついた量が1Bqというわけではありません。
なので、純粋に、「目の前に、1Bq分の放射能を持つ粉があって、
これを一気に吸い込む
」といった状況が相当します。


この実効線量係数は、放射能の量であるベクレルを、その放射性物質を
摂取した場合の人体への影響シーベルトに換算してくれます。

ただ、放射線について知識のある人であれば、半減期の短いものは
すぐ無くなるが、半減期の長いものは、長年影響するのではないか?・・・
と思うかも知れません。

が、この実効線量係数で出てくる線量(Sv)は、「預託実効線量」です。

預託実効線量というのは、半減期とか、代謝による排出速度なども
考慮し、体内でどのように放射能が減少するかを計算して、成人
(作業者および成人の一般公衆)では「摂取後50年間の積分期間内の総計」を、
子供では「摂取した年齢から70歳までの積分期間内の総計」を、
出しています。


なので、例えばヨウ素131の経口摂取で「1Bqあたり0.022マイクロSv
というのは、今、目の前に1Bq分の放射能を出す物質があったとして、
これを一度に食べた場合、その時から50年間にわたって体内で浴びる
内部被曝の合計が0.022マイクロSv
、ということです。

ですから、50年に比べて半減期が短いヨウ素131(半減期8.04日)は、
あるとき経口摂取した1Bqのヨウ素131の影響がその後50年間で
0.022マイクロSvと言っても、そのほとんどは最初の1年、それも
最初の80日で全量の99.9%を浴びきってしまいます。ちなみに
初日に浴びるのは全量の1/12、つまり0.0018マイクロSvです。
(1日ごとの線量は初日が一番多いので、日ごとの線量は0.0018マイクロSv/日以下)


半減期の長いものは、体内に完全に蓄積せず排出される場合は、
排出で減る方が早いので、半減期だけで述べることはできません。
ただ、仮に体内から排出されないとすると、半減期50年の場合でも
最初の2年以内に全量の99.9%を浴びきってしまいます。半減期が
何万年とか何億年であれば、50年にわたり均等に浴び続けることに
なるので、1日あたりの平均線量はむしろ低くなると言えます。

いずれにせよ、どのように放射能が減るかに関わらず、成人であれば
50年分の積分期間を設けてあるので、長期的な影響を知ることもできます。
また、その量を「一度に浴びた」と仮定して、急性的な影響の上限を
見積もることもできます。

よく、Q&Aや、似たようなブログのコメントで、「半減期があるから、
これを長い期間で積分するのか」といった指摘が見受けられますが、
1Bqをシーベルトに換算する実効線量係数は、既に預託実効線量として
物理学的・生物学的な半減期を考慮して、摂取後50年間の積分をしてある
ので、もう積分する必要はありません。

─── pierres blanches.


放射線安全教育の内容は、放射線業務従事者が、ほぼ最低限に近い形で
学ぶ内容ですが、それよりさらにエッセンスでもいいので、普段から普通の人も
一定の教育があったほうがいいのかなぁ
と思います。

こういう事態になってから、あれこれ言っても、難しいですよね。

もっとも、筆者の場合は、放射線業務従事者でもX線や放射光のような
どちらかというと普段は放射線業務でも自然放射線以上に浴びることが
無いような作業でしたが。

── ちなみに、放射線業務に従事する場合、フィルムバッジとか、
ガラスバッジとかの線量計を身につけるわけですが、私は大学院のとき、
たまにX線回折装置を使うことがあるため、1996年くらいからフィルムバッジを
持っていました。毎月、千代田テクノルの線量結果報告が来るわけです。

大学院を卒業し、就職して数ヶ月経ったころ、別の関係でまたX線回折装置を
使う必要があって、またフィルムバッジを着用することになったのですが、
特に、大学の時使っていたことを言わなかったものの、会社で使い始めて
最初に届いた千代田テクノルの線量結果報告は、どう見てもそこが1回目
ではなく、大学院で使い始めた時を始期にして「×回目」という途中の数値が
記されていたので、おそらく線量管理上、名前と生年月日から、同一人物
として継続管理されたのだと思われます。放射線の管理上は、年間は
もちろん、法定の5年間の線量限度もありますから、同一人物として5年間の
線量を追跡できないといけませんからね。

途中から、使う線量計タイプがフィルムバッジからガラスバッジNS型
(中性子も計測可能)に変わりましたが、1999年の東海村JCO臨界事故
時は、「もし中性子が0.1mSv以上来ていれば」その線量計でモニタできる
状態にありましたが、幸い、東京の某所では、その月に0.1mSv以上
検出されることはありませんでした。

残念ながら、今年の2月を最後に、業務都合でガラスバッジの使用をやめて
しまいました。もう1ヶ月か2ヶ月くらい、利用をやめないでいた方が良かった
かも知れないなぁと思う今日この頃です。

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