2012年1月17日火曜日

バグフィルターで放射性物質が除去できるか? ~放射能汚染廃棄物の焼却処理~

青木泰のブログさまブログより 作成日時 : 2011/09/26 19:36 


1)環境省、放射能汚染がれきは燃やしてよいと発表
 東北大震災と津波は、19,868名の死者と行方不明者を出し、
東北3県(岩手、宮城、福島)の海岸沿いの建造物をなぎ倒した。
その結果産み出された災害廃棄物(以下がれき)は、2400万トンにのぼり、
これは日本全国で1年間に排出される廃棄物の約半分という膨大な量に上った。

 それに加え、今回の災害は、大地震と津波によって、
福島原子力発電所の安定稼働に必要な冷却水の供給が途絶え、より深刻になった。
炉心がメルトダウンし、1号機から3号機で次々と爆発を起こし、
4号機では、使用済み燃料プールも爆発した。
その結果100京ベクレルという天文学的な放射性物質が、環境中に放出された。
放射性のセシウム量としては、広島・長崎の時の168倍もが、
放出されていると国会で報告された。

 放射性物質は、露天に放置されていたがれきを汚染し、がれきの処理は、
より困難になった。

 そうした6月23日、環境省は、放射能汚染されたがれきの処理方法として、
可燃ごみは市町村の清掃工場の焼却炉で焼却し、不燃ごみは除洗せず、
埋立て処分する方針を発表した。
焼却炉は、バグフィルターが付設されていれば良いとした。
環境省の肝いりで作られた
「災害廃棄物安全評価検討委員会」(=有識者検討会)
でも了解されたとマスメディアに流された。
<ここでは焼却問題について検証する。>

2)放射性物質は、燃やすことで無くなるわけではない。
 清掃工場の焼却炉では、通常木や紙、生ごみなどの有機物が焼却される。
有機物は、焼却によって、
炭酸ガスや水蒸気などのガスと微細な粒子,煤塵となって煙突から排出される。
有機物は、
1割ぐらいの燃え殻,灰を残して、分解して無くなってしまう。
燃焼状態によって、煤塵が増えれば、煙突から黒々とした煙が出、
ダイオキシン等の有害物も排出されることになる。

 バグフィルターなどの集塵装置は、
この煤塵や有害物の除去装置としてつけられたものである。
しかし無機物である放射性物質は、焼却したからといって無くなる訳ではない。
焼却すれば、ガスや微細な粒子に形を変えて
清掃工場の煙突から放出される。
微細な粒子も総て取りきれるわけではなく、
気化したガスはバグフィルターで除去できない。
 ガスや微粒子になった放射性物質は、毒性がなくなるわけではなく、
拡散放出される。
放射性物質の排出源が、福島第1原発に加え、多発化されることになる。
(その上焼却灰に濃縮された形で残し、保管一つを取っても後処理を困難にする。)

3)放射性物質は、バグフィルターで除去できると裏付けなしに語る。
 有識者検討会の委員で環境省の方針を積極的に後押ししたのは、
国立環境研究所の大迫政浩資源循環・廃棄物研究センター長である。
大迫氏は、バグフィルターが付加されていれば、放射性物質を除去できるため、
煙突から煙となって拡散されることはないと
朝日新聞の週刊誌「アエラ」で語っている。
 しかし大迫氏らの発言は、
実証的な実験の裏付けがあって語っているわけでない。
 有識者会議に大迫氏が資料として提出した論文は、
放射性物質がバグフィルターで除去できるというものでなかった。

 その論文は、論題は、
「都市ごみ焼却施設から排出されるPM2.5等微小粒子の挙動」であった。
微小粒子が喘息等に影響を与えると言う米国や環境省の報告を受けて、
既存の焼却炉で除去できているかの実験をしたものである。
 微小粒子が、バグフィルターで
99.9%除去できたとする実験結果でしかなかった。

 実際廃棄物関係の専門誌である「月刊廃棄物」では、
大迫氏は、

「元来放射性物質は廃棄物処理法に含まれていなかったので、
われわれ国立環境研究所は、知見もノウハウもほとんどありませんでした。」

「自治体からの要請に基づいて、
排ガス中の挙動や
放射能レベルが高くなる原因究明などについての調査なども行ってゆきます。」

と語っている。
 アエラで語った「放射性物質は除去できる」というのは
裏付けなく話していたにすぎない。

4)放射能汚染物焼却の背景
 市町村の焼却炉は、有害物の除去装置として造られたものでない。
 市町村の街中から排出される生活ごみの量を減らす
減容化のための手段に過ぎない。
バグフィルターなどの除去装置は、
焼却の過程で産み出される有害物や
吐き出される有害物を除去するための装置に過ぎず、
放射性物質に限らず、有害物を除去分解するための装置ではない。

 今回の環境省の方針や大迫氏などの判断には、
放射性廃棄物を市町村の焼却炉で燃やした時の周辺への影響を
真剣に検討した後は見られない。

 東北大震災で発生した大量のがれきを町中からなくしたいということがあり、
従来の災害廃棄物と同様に
市町村の焼却炉で燃やすということになったと考えられる。
当初は、放射能の影響を考えていたが、
放射能汚染されたがれきを燃やさなくとも、
すでに市町村の焼却炉から排出される焼却灰は、
放射能汚染度が高く、
がれきを投入しても影響はないと今回の措置に踏み込んだものと考えられる。

 しかし災害地だけでなく、
東日本各地の市町村の焼却炉で放射能汚染されたごみが燃やされている。
焼却灰が高濃度汚染されているのは、
街路樹や公園、庭木などの樹木が放射能汚染され、
それらの剪定ごみを燃やしている自治体が多く、その影響と考えられる。

 バグフィルターで捕捉された
煤塵(飛灰ともいう)や
燃え殻等を焼却灰というが、
焼却灰が高濃度汚染されているというのは、
相応の放射性物質が煙突から環境中に排出されているということである。

 この事実を前にして、
国民のために環境を守り、科学的な対処を考える環境省や専門家ならば、
今すぐ市町村での剪定ごみの焼却をやめさせなければならない。

 ところが、
どうせ現状の市町村の焼却炉でも
放射能汚染物を燃やしているのだから
そこに放射能汚染がれきが追加されても、大したことはないだろうというのが、
環境省が取った、放射能汚染がれきの焼却方針化といえる。

5)バグフィルターを付設した焼却炉の影響
 バグフィルターは、布や不織布で作られた袋状のフィルターで、
掃除機のフィルターと基本的には同じである。
ごみ焼却炉で燃やされ大量に排出される排ガス中には、
微細な粒子状の煤塵が含まれているため、
これをバグフィルターを通して除去することが目的である。
その際ダイオキシンなどの有害化学物質も除去される。

 布で作ったフィルターで、微細な粒子が取れるのは、
布の表面に微細な塵が蓄積し、
層をなしそこを通るより微細な粒子も取ることができるようにしているからである。
これは掃除機のフィルターにごみがたまると
急に吸い込みが悪くなるが、
その分より細かなチリも取ることができるのに似ている。

 層を成し厚みを増すと、排ガスも流れなくなるため、
焼却炉のバグフィルターには、振動させて、たまったチリを落としたり、
逆からガスを流し布にたまったチリを落とすように工夫している。

 チリの層がふるい落とされた時には、
排ガスの流れがよくなるために、その分微細なチリは除去できなくなる。

 またふるい落としのタイミングが悪い時には、
焼却炉から排出される秒速数メータの排ガスの圧力で、
バグフィルターが破れ破損することがある。

 また焼却炉から排出される排ガスの温度は850℃前後であるが、
バグフィルターの前で、200℃前後に冷却するようにしている。

 しかし温度が下がりきらないことがあり、
その時熱風がバグフィルターを破損するため、
排ガスの流れを切り替えて、
直接煙突に排ガスを流すバイパスを設けている焼却炉もある。
(「プラスチックごみは燃やしてよいのか」青木泰著、リサイクル文化社P170~)

 このときにはもちろん放射性物質を始め有害物質は
煙突からそのまま大気中に放出される。
いずれにせよ、このようなバグフィルターの技術の状況で、
バグフィルターで放射性物質は除去できるというのは、
ざるで水をすくうことが出来るというに等しい暴論である。

6)大学の論文の結論を覆す実証例。
 バグフィルターについて少し付け加えておくと、
大学の研究発表で発表された事例と実際には大きく違うことがいくつかある。

 今回の有識者検討会で出された
微小粒子除去の実験報告の京都大学の高岡准教授の論文では、
99.9%除去できるとなっていた。

 この論文の結論から言うと
焼却炉でごみを燃やしたときに発生する
SPMやPM2.
(*SPMは、10ミクロン前後、PM2.5は、2.5ミクロン以下の微粒子。)
の微粒子はほぼ除去できる。
そのためバグフィルターを付設した焼却炉の周辺では喘息は起こらないとなる。

 しかし神奈川県横浜市の栄区のごみの焼却炉が、
稼働を停止したところ周辺の小学校の喘息の被患率が、
桂台小学校では、19.7%から9.4%に半減し、
本郷小学校では15.6%から5%に3分の1になった。
(「プラスチックごみは燃やしてよいのか」青木泰著、リサイクル文化社P184~)

 また日の出の最終処分場内に作られた
エコセメント工場の近くにある青梅市の第2小学校では
喘息の被患率が、
エコセメント工場が稼働した2006年の翌年の2007年から大きく変化した。
それまで0%~0.8%の間で推移してきた被患率が、
2007年度に一気に14%に増加し、
2010年まで13~14%の間となっている。

 また同じ高岡氏は、
東京23区清掃一部事務組合の焼却炉で
水銀が自主規制値を超えて排出され、
清掃工場が止まった後の講演会で、
焼却炉で排出される水銀は97.5%除去できると話していたが、
その後の調査の中で、
金属水銀は原理的にも除去できないこと
焼却炉メーカ自身が除去できないと発表していたことが分かった。

 このように学者の研究論文で発表した少数の事例を基に、
行政官庁は、バグフィルターで何もかも除去できるとしがちだが、
それをそのまま前提にすることはできない。


2011年10月20日

パンツでおならは防げない-バグフィルターに見るウソ

他の記事も読みたくなったら道案内
なにか知りたいことがあるならば右側の検索ボックスを。(Googleは複合検索可能)
ブログ記事は、引用元リンクを明示の上ご自由にお使いください。


先日書きました環境省のガレキ処理の自治体アンケート・・狡猾な罠のコメント欄にいただいた情報
環境ジャーナリスト 青木泰さん
月刊廃棄物2011 october P57から抜粋させていただきました。
http://dl.dropbox.com/u/40607011/%E7%A6%81%E3%81%98%E6%89%8B.pdf
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有識者検討会で、放射性物質がバグフィルターで除去できるかどうかの検討のために提出された研究論文は、京都大学の「都市ごみ焼却施設から排出されるPM2.5等微小粒子の挙動」という論文であり、放射性物質を除去できたという報告ではない。ここでは喘息の原因となる微小粒子は、バグフィルターを通せば99.9%除去できると報告しているが、ガスは検討対象から外れている。
このような論文で、放射性物質はバグフィルターでほぼ取れるというのは、サッカーのゴールネットで野球のボールを捕獲できるというに等しい暴論である。
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なかなか、有意義な情報です。この種の議論は、魚で放射性物質は濃縮しないという内容で私も見たことがあります。まず、いろいろと情報を集めてみることにしました。


ここのサイトが、このバグフィルターについては、詳しくまとめてあります。(筆者ですから、当たり前ですね)
青木泰のブログ
バグフィルターで放射性物質が除去できるか? ~放射能汚染廃棄物の焼却処理~
3)放射性物質は、バグフィルターで除去できると裏付けなしに語る。
有識者検討会の委員で環境省の方針を積極的に後押ししたのは、国立環境研究所の大迫政浩資源循環・廃棄物研究センター長である。大迫氏は、バグフィルターが付加されていれば、放射性物質を除去できるため、煙突から煙となって拡散されることはないと朝日新聞の週刊誌「アエラ」で語っている。
しかし大迫氏らの発言は、実証的な実験の裏付けがあって語っているわけでない。
有識者会議に大迫氏が資料として提出した論文は、放射性物質がバグフィルターで除去できるというものでなかった。

その論文は、論題は、「都市ごみ焼却施設から排出されるPM2.5等微小粒子の挙動」であった。微小粒子が喘息等に影響を与えると言う米国や環境省の報告を受けて、既存の焼却炉で除去できているかの実験をしたものである。
微小粒子が、バグフィルターで99.9%除去できたとする実験結果でしかなかった。

実際廃棄物関係の専門誌である「月刊廃棄物」では、大迫氏は、「元来放射性物質は廃棄物処理法に含まれていなかったので、われわれ国立環境研究所は、知見もノウハウもほとんどありませんでした。」「自治体からの要請に基づいて、排ガス中の挙動や放射能レベルが高くなる原因究明などについての調査なども行ってゆきます。」
と語っている。
アエラで語った「放射性物質は除去できる」というのは裏付けなく話していたにすぎない



東京23区のごみ問題を考える
資料9    放射能を帯びた災害廃棄物の処理に関する検討(大迫委員)(2011年6月5日(独)国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター) 【7/8】から
2011102001.jpg2011102002.jpg


バグフィルターとはそもそもどんな装置なのでしょうか?
株式会社 フィルターサービスから
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このフィルターを作っている会社
国鳥繊維工業
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たいそうな名前がついていますが、所詮このようなもの。これで、放射性物質がほとんど取り除けるとは、とても思えません。・・・ちなみに、原発でもこのバグフィルター使っています。


この赤丸で囲んだところにあるのがバグフィルター。私自身勤務中に取り替えたこともあります。
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こんなフィルタごときでセシウムが防げるはずがないのに、環境省は取り除けるという結論を簡単に出しています。最初に紹介しました青木泰氏のかかれた論文が非常にわかりやすいので、引用させていただきます。


バグフィルターで放射性物質が除去できるのか?
災害廃棄物の焼却処理で、俄然注目されたのはバグフィルターである。マスメディアでも有識者会議の報告として「バグフィルターで放射性物質が100%除去できる」という報道がなされた。環境省の担当者に聞くと「それは100取れると断言しているわけではない」「排ガスは調べていない」という答えが返ってきたが、結局環境省の方針では、バグフィルターを敷設した焼却炉で燃やせばよいということになり、「バグフィルターで放射性物質は除去できるが一人歩きしてしまった。本当なのか。
市町村の焼却炉は、家庭や地域の小規模事業者から排出された可燃ゴミを約1/10に減らす減容化のための手段に過ぎない。敷設されているバグフィルターなどの除去装置は、焼却の過程で生み出される煤塵や有害物を除去するための装置に過ぎず、高濃度に放射能汚染されたものを除去分解するための者ではない。
福本勤精華大学講師は、放射性物質は燃やせば、微細なチリとガスになり、これらがバグフィルターで除去できるかは、実際の焼却炉や実験炉を使った実証実験を行う必要があると主張する。もともと「パンツでおならは防げない」と関口鉄夫元信州大学教授が語るように、フィルターでガスは除去できない。
有識者検討会で、放射性物質がバグフィルターで除去できるかどうかの検討のために提出された研究論文は、京都大学の「年ゴミ焼却施設から排出されるPM2.5等微小粒子の挙動」という論文であり、放射性物質を除去できたという報告ではない。ここではぜんそくの原因となる微小粒子は、バグフィルターを通せば99.9%除去できると報告しているが、ガスは検討対象から外れている。
このような論文で、放射性物質はバグフィルターでほぼ取れるというのは、サッカーのゴールネットで野球のボールを捕獲できるというに等しい暴論である 



フィルターの仕組みを知っている人には、あまりにも明らかな話です。よく知らない単語が出てきたときには十分に注意する必要があります。


つまり、震災のガレキを受け入れ、焼却処分した場合、セシウムをはじめとするほとんどの放射性物質は周囲に飛散し、近隣の住民を内部被曝させるというわけです。国の検討はこの程度の底の浅い思慮による結論です。このような結論を真に受けて、被害を被るのは我々国民。一体なぜ、こんな集団自殺にも等しいことを平気で指示できるのでしょうか。私にはどう考えても理解できません。そして、こんなバカなことを辞めさせるためには、ひとりひとりが役所の人に電話をして、正しい知識を伝えることなのです。あとは、環境省トップの地元民の方(静岡県らしいですが)も是非、担当している国会議員の事務所に対して声を上げていただけますようお願いいたします。




環境省は、もともと環境庁だったのです。目的は、
地球環境保全、公害の防止、自然環境の保護及び整備その他の環境の保全(良好な環境の創出を含む。)を図ることを任務とする(環境省設置法第3条)。


全く持って正反対のことをやっているようにしか私には見えませんが・・・













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