2012年1月7日土曜日

放射能汚染された土壌改良に微生物の活用を ―微生物的環境技術研究所、平井孝志さんに聞く

放射能汚染された土壌改良に微生物の活用を
―微生物的環境技術研究所、平井孝志さんに聞く―


 福島原発による放射性物質が東日本を中心に広範囲にわたって降り注ぎ、土壌の汚染が深刻化している。その汚染された土地をどのように浄化していけばいいのだろうか。土壌の劣化を防ぎながら改良するには、生態系に基づいて微生物群を活用し、「共生と循環」の視点に基づいた土づくりが欠かせないといわれる。長年にわたって森林再生や土壌改良を研究してきた微生物的環境技術研究所主幹(滋賀県草津市)、平井孝志さんに聞いた。

<平井孝志(ひらい・たかし)1930年大阪市生まれ。72年に微生物的環境技術研究所(滋賀県草津市)を設立し、現在、同研究所主幹。地球生態系再生のために独自の「自然学」を展開。92年のブラジルで開かれた地球環境サミットでは、日本人のその環境再生の践者として紹介され、2001年の世界湖沼会議では「水浄化の新技術開発シンポジウム」の座長を務める。連絡先は同研究所(077-562-9011代表)>

平井孝志02

 土壌が放射能汚染されると、農作物が育てられなくなる。仮に育てても、汚染された食物は食べることができず、農家の人たちの悩みは深い。チェルノブイリ事故で、国土の4分の1が放射能で汚染されたベラルーシでは25年たった今も放射能汚染との格闘が続いている。
福島原発事故の影響で福島県では稲作の田植え作業だけでなく、大豆やソバなどの畑作物も種まき時期を遅らせ、畑を耕す作業は放射性物質が広がる恐れがあるため取り組まないことを農家に求めている。

―放射能汚染された土地の改良には長期にわたる取り組みが必要です。平井さんは、どのように対策をとっていけばいいとお考えですか。
◆このまま土壌に対して有効な施策を行わなければ、数十年の後、放射能が検出されなくなったとしても、だれも住めず、農作物を育てられない不毛の土地になってしまいます。しかし、私たちが長年、研究を重ねてきた技術を利用すれば、汚染された土地をただ浄化するだけでなく、肥沃でかつ化学性物質の少ない良質の土壌に改良することが可能だと考えています。より短期間で素敵な田畑や宅地への転換を図るためには、特に「発酵フミン化堆肥システム」は非常に有効です。これは自然の理にかなった技術です。

 ー土壌を発酵させるのは、いろんな微生物が共存し、活性化させることですね。自然肥料を使って発酵させ、団粒化した土壌の中で酸素を循環させて、微生物を呼吸させていくことですか。
 ◆多くの人は、土壌の中で微生物の生態がどうなっているのか、無頓着です。しかし、微生物なしには、私たちが生きていけないことを再認識しなくてはなりません。今回の放射能汚染からの土壌改良の問題はそのことを考えるいい機会です。

 そもそも土の中で豊かな生活を展開しているはずの微生物は今、かなり危機的な状況に陥っています。それは、殺虫剤や除草剤などの農薬は、特定の害虫や病原菌だけを殺すために使われるものですが、ほかの有益な微生物も一緒に殺してしまいます。

そうすると、土の中の生態系がくずれ、土は死んだ状態になりますから、作物もうまく育ちません。そこで、養分を補うために化学肥料をどんどん入れるとますます土の力は弱くなり、作物も弱くなって病気になりやすくなります。

 さらに農薬を使い続けることで病原菌は耐性をもち、より強い農薬が必要になります。そんな悪循環の中で、生態系が崩れてしまっているのです。だからちょっとした異常気象でも米や野菜が収穫できなくなってしまいます。

 微生物は、私たちの生命にとってほんとうに大切なもので、微生物の活動が地球を支えているのです。46億年前に地球が誕生し、約40億年前に最初の生命体が生まれたと考えられています。その最初の生命体こそが微生物で、そこからある種の微生物が進化して、高等植物や動物になっていきました。

○土の中の生命の循環を

 ー土の中では微生物を含めた生命の循環が行われ、その循環がスムーズに流れていくことで「いい土」となるのですね。
 ◆微生物には、まず酵母やバクテリア、植物の祖先である藻類、カビ、そしてアメーバーなどの原生動物までを含めたものを指します。その微生物も生物である以上、活動のためのエネルギーや、自分の身体をつくる栄養が必要で、私たち人間とまったく同じです。私たちが、元をただせば微生物から進化したことの証拠なのかもしれません。嫌気性や好気性なども、微生物のひとつのキャラクターですが、微生物は栄養の摂り入れ方によっていろいろな個性に分かれます。

 微生物のなかでももっとも古い歴史を持っているのが、無機物(炭素を含まない物質/簡単な炭素化合物/鉄のように一種類の元素でできている物質)をエネルギーとする微生物たちです。硝化菌などが代表ですが、これらは土の中でアンモニアをエネルギー源にして硝酸をつくりだします。

 硝酸は農作物の健全な発育に欠かせない物質ですから、彼らが元気に活躍できるように願わずにはいられません。それから、光をエネルギー源にしているのが光合成細菌です。これらの微生物は光合成により酸素をつくりだし、植物の大事な養分になる窒素も取り込んでいます。
 そして、土の中の微生物の中心的存在が、有機物(糖やタンパク質など。無機物以外の化合物のこと)を摂取して活動するものたちです。このなかには、マメ科植物の根と共生している根粒菌などがあります。根粒菌は、根から糖などをもらったお返しに、タンパク質の元となる窒素化合物を根に与えています。多様な微生物たちが活発に活動していれば、植物は元気に育ち、私たちに豊かな農作物を与えてくれるのです。

 ―発酵した堆肥を使って土壌を改良することはわかりました。ところで、「フミン化」とはそもそもどういうことですか。
 <「フミン質」は、動植物の遺体が土に埋もれ、土壌中の微生物の働きによって複雑に分解・重合を繰り返して生成した有機化合物の総称。環境中での金属の存在状態に影響を与えると共に、近年は有害な有機物と結合、その残留や拡散に影響することが指摘されている。
 「フミン酸」は動植物に由来する天然物質であり、日本語では腐植酸と呼ばれ、いわゆるフミン質(腐植質)を構成する一成分、と解説書などで説明されています>

◆そもそも地球生態系の基本的な動静というか、本質とは何かと問えば、それは「共生と循環」ということになります。たくさんの生物群が一緒に共存して、食べて食べられてという「食連鎖」という姿で何億年も続いています 
 人類が発生してからは、人間が他の動物たちの食糧として生育することはありませんが。
大まかに生物は動物と植物に分けられています。その継ぎ目にはすべて微生物が何十万種類にも分かれて埋め込まれ、あらゆる排泄物の生命界への再生供給という形で死体の処理にも加わり、次の生命エネルギーに変換しています。そのことで食糧=生物群の輪は途絶えることなく、何億年も続いてきたのです。その死態系から生態系の継ぎ目のところで作用しているのが“フミン”という言葉で総称される物質なのです。

 ―その“フミン”がこの土壌改良の基本にあるのですね。
◆そうです。十分に発酵が進み、極々微細な活性化始動物質ともいえる“フミン”は、例えて言えば、微生物の“うんこ”の発酵の産物なのです。生命活力の重要な源流で、有機廃棄物の資源化処理という循環の蝶番の役割を果たすと思われます。今回の東北地方の農地、住居地域の復興にあたっても、その“フミン”の不可思議な力(宇宙力といってもいいかもしれません)を活用し、土地の生産性をよみがえらせたいのです。

 ―微生物的な処理では放射能汚染の回復はできないという意見もあります。放射性物質は原子核分裂といういわば生態系外の反応から生まれたもので、放射線で傷つけられた生命遺伝子の一部は修復されるものの、強い放射線を浴びると生命遺伝子そのものが切断されてしまうといわれていますが。

◆現場で汗をかくことが少ない学者、研究者の中には、そのように断言する人もいますが、私たち人間はもっと謙虚にならなくてはなりません。広島、長崎の原爆のとき、被爆地の周辺では100年は草木もはえず、稲も野菜もできない不毛の地に化すと恐れられました。しかし、実際には翌年から平年どおりの食糧を得られました。それらを食べた人たちもほぼ普通に生涯を終えました。

 ただし大切なことは発酵食品(味噌汁、海藻入りの具たくさんの汁)をよく噛んでたべること、白砂糖のように徹底して加工を施した食品を避け、ミネラルの豊富な胡麻を天然塩でまぶしたご飯をよく噛んで食べることで長崎で被爆した患者さんたちが寿命をまっとうしたといわれています(秋月辰一郎「死の同心円―長崎被爆医師の記録」)。大豆は排毒力に優れていますし、藻類・昆布は腸内微生物を活性化させ、排便力を強くするので、体内に放射性物質を長くとどめないようにします。抗酸化力も強く、細胞の修復力を高め、抗病性が高いのもうなずけます。

○活性炭で放射性物質を除去

 ―具体的には、汚染された土壌の改良をどう進めていけばいいのですか。
◆大地に散在している放射性物質を多孔質物質(活性炭、珪藻土など)に吸着させ、それらをミネラルが豊かな上質の熟成堆肥とからめることで、膨大な微生物群(土壌1グラム中に1~3億個)が放射能を吸収、保存してくれます。
 
 そこでまず、放射性物質を多孔質物質に吸着してもらい拡散を止めたうえで、生き物である微生物群(例えば、十二分に発酵させた堆肥を混ぜた土壌では、表土15~20センチ厚の1メートル四方には5~10兆個もいる)が放射能処理に参加してくれます。かつて荒涼としていた地球上で生態系が生まれてくる途上で、微生物群が生産豊かな土地を作り出した驚異的な力はすごいことです。真剣、誠実に挑戦してみることが肝要です。

 ―それにはどのくらいの期間、かかりますか。
 ◆まず、微生物、家畜糞尿、ミネラル(花崗岩の粉末)を用いて完熟させ、「発酵フミン化堆肥を製造します。それを完熟させるのに、1年ほどかかります。
 同時に活性炭の粉末(炭の中にある多元素微量ミネラル群の作用で放射性物質を取り込みます)を製造します。
 この両者を混ぜたものを土壌に振りまき、鋤き込みます。年に2回(できれば3回)、3~4年続けます。そのことによって、放射能汚染はゼロとはいいませんが、かなり解消されるはずです。また完熟堆肥にミネラルを加えておくことで、微生物とミネラルが豊かになり、農耕に適した土に改良されていくと期待されます。

 ―今回の汚染地域はかなり広がっています。その地域を浄化するためにはかなりの資材が必要になりますね。
◆そのためには、完熟堆肥プラントは家畜の生産地ごとの規模で設置する必要があります。また糞尿の堆肥化を東日本の広い規模で進めることで、現在いたるところで問題になっている糞尿処理、悪臭の問題の解決につながります。同時に産業も活性化します。
 
 漁業の盛んな地方ですから、貝や魚のアラ不食魚を徹底して素材として活用するのもいい方法です。山の落葉も積極的に活用できます。

 ―プラントの建設や資材の調達にはどれくらいの期間がかかるとみておられますか。

◆2~3年は必要です。現在の原発の放射性物質の放出がなくなるまで数年かかるといわれています。そのため、土地改良を目的とした資材の調達(全国規模での発酵フミン化堆肥プラントの建設、畜産業の振興によるフンの入手ルートの確立、魚のくず、骨などを利用した完熟堆肥の製造、活性炭の製造)には十分に時間があります

○がれき、廃材の活用を

 ―東日本大震災で大量にでた廃材の活用も提言されていますね。
 ◆活性炭の製造には、災害ででてきた廃材(木材)を活用してはどうでしょうか。今回は、土に中に鋤き込みますので、上質でなくとも、炭の粉であれば十分です。活性炭製造を被災地で行うことで、雇用にもつながり、ふるさと復興への意欲をかきたてますね。

 ーそれはいいですね。

◆たとえば、地震、津波などで破壊され、生じたガレキの中から、木材と呼んでいいものを拾い上げて積む。小さい山にしておいて、すぐに崩しながら取り出して炭焼き釜に奉仕こめるようにします。
 
 その釜は、適当な間隔を置き、ドラム缶やトタンなどを利用し土泥などで作った簡易的なものでいいのです。東北地方は山林の豊かなところで、炭焼きの技法を指導してくれる人はたくさんおられる。その人たちを核に共同作業で、炭を焼き、できあがったものを手作業でも粉砕すればいい。この作業に一釜あたり数人が作業し、それぞれ日当8000円程度を得られるようにします。土壌改良には、大量の人手が必要となりますが、そのために被災して職を失った人々たちの雇用対策につながります。

 -そうやってできた炭の粉をさきほどの完熟堆肥と花崗岩(または珪藻土のような多孔質の土)と混合させるわけですね。
◆そうです。それを10アール(1反)の田畑に8~10トンの割合で散布し、よく土壌と混ぜるのです。耕運機で10日に一度ぐらい3、4回まんべんなく混ぜます。そして繁雑に田畑での放射線量を計る。線量が多いところには、混合堆肥土壌を多めに入れていきます。復興途上にあっても、未来の見えるような施策をぜひとも実行してほしい。そのためにこれまで研究を重ねてきた「微生物フミン化堆肥システム」を活用していただければ、うれしいですね。

○明日への強い一歩を

 ー放射能汚染を除去するのにヒマワリやナタネを植えるといいようです。農地を再生するには成長の早い浅根性の植物を植えて、いわゆる“捨てづくり”を繰り返す必要があるといわれています。菜種は収穫して油を搾ると、油には放射性物質は含まれない。繊維類等の固体残留物に放射性物質が残り、有用な油分と分離できるそうですね。
 ◆それはチェルノブイリですでにテスト済です。放射線量が減るうえで油もとれます。そのようなことを重ね、自分たちで人が住むことができ、農耕も可能な土地へと改良したという自信こそが地域の発展につながるのではないかと思います。生態系のなかで欠くことのできない微生物。だからこそ、ちゃんと微生物が生態系の中に位置づけられるようにしていけば、地球を、本来進む方向へ導いていってくれるのでしょう。本当に微生物は大切です。

―辛い思いをした農家の方々には全くお金が入りませんし、農作物をつくっても食べることができません。多くの人々の英知を結集し、支えていかなくてなりませんね。

◆人間が直接、食べる野菜の栽培が懸念されるのであれば、そういう土地にヒマワリ、ナタネ意外にジェトロファの栽培も効果的だといわれています。これは多くの実をつけますが、との実からは油がたくさん絞れるので燃料には最適です。

 これから夏場にかけてはアカシアの樹を仮植することも良いでしょう。アカシアは土泥分から水と一緒にミネラルを吸い上げ、丈夫な樹です。2~3年密稙して、その根から十分に放射性物質を吸収してもらって、それから食糧野菜をまくという手もあります。
 
 たくさんの人の知恵を結集すれば、けっして悲観することはないと思います。私たちの周辺の根の張りのよい植物はすべて放射性物質を吸ってくれます。宇宙から授かった生命に感謝し、明日に強い一歩を踏み出そうではありませんか。

1 件のコメント:

Unknown さんのコメント...

NAGI様 フェイスブックでいつも拝読させていただいてます。
環境にいい洗剤を探していたところ、平井孝志さんが開発した商品に出会いました。調べているとこのページに入り、放射能汚染の具体的な対処があることを知りました。是非とも実現することを願います!

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