低線量放射線の健康影響について
平成23年5月20日
平成23年5月26日改訂
平成23年9月8日改訂
平成23年10月24日改訂
原子力安全委員会事務局
平成23年5月26日改訂
平成23年9月8日改訂
平成23年10月24日改訂
原子力安全委員会事務局
標記に関する原子力安全委員会の考え方について説明いたします。
「確定的影響」は、比較的高い線量を短時間に受けた場合に現れる身体影響で、ある線量(閾値)を超えると現れるとされています。比較的低い線量で現れる確定的影響として、男性の一時不妊(閾値は0.15Gy、ガンマ線で150mSv相当)や、リンパ球の減少(閾値は0.5Gy、ガンマ線で500mSv相当)があります。100mSv以下では確定的影響は現れないと考えられます。
一方、「確率的影響」には、被ばくから一定の期間を経た後にある確率で、固形がん、白血病等を発症することが含まれます。がんのリスクの評価は、疫学的手法によるものが基礎となっています。広島や長崎で原子爆弾に起因する放射線を受けた方々の追跡調査の結果からは、100mSvを超える被ばく線量では被ばく量とその影響の発生率との間に比例性があると認められております。一方、100mSv以下の被ばく線量では、がんリスクが見込まれるものの、統計的な不確かさが大きく疫学的手法によってがん等の確率的影響のリスクを直接明らかに示すことはできない、とされております。このように、100mSv以下の被ばく線量による確率的影響の存在は見込まれるものの不確かさがあります※※。
そこでICRPは、100mSv以下の被ばく線量域を含め、線量とその影響の発生率に比例関係があるというモデルに基づいて放射線防護を行うことを推奨しております。また、このモデルに基づく全世代を通じたがんのリスク係数を示しております。それは100mSvあたり0.0055(100mSvの被ばくは生涯のがん死亡リスクを0.55%上乗せする。)に相当します。
なお、2009年の死亡データから予測された日本人の生涯がん死亡リスクは約20%(生涯がん罹患リスク〈2005年のデータで予測〉は約50%)です。また、その評価の基礎となった2009年度の全国のがん死亡率は10万人あたり約270人でしたが、都道府県別では10万人当たり190人~370人程度でした。
※原子力安全委員会では、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)及びICRPの文書から、その根拠となる部分を「低線量被ばくのリスクからがん死の増加人数を計算することについて」として抜粋しました。(平成23年9月8日)
※※ICRP Publ. 99「放射線関連がんリスクの低線量への外挿」では、第2章疫学的考察において、「数十mGyオーダーの被ばくに関連した過剰がんリスクの直接的な疫学的証拠」として、X線骨盤計測により放射線に胎内被ばくした子どもに関するいくつかの症例対象研究をあげていますが、「これらの胎内被ばく研究の解釈をめぐってはかなりの議論がある」としています。
出典 | : | ICRP Publ. 99 放射線関連がんリスクの低線量への外挿 国際放射線防護委員会 |
ICRP Publ.103 国際放射線防護委員会の2007年勧告 国際放射線防護委員会 | ||
放射線と線源の影響 2000年報告書 原子放射線の影響に関する国連科学委員会 | ||
放射線と線源の影響 2006年報告書 原子放射線の影響に関する国連科学委員会 | ||
がんの統計'10 (財)がん研究振興財団 | ||
人口動態統計 厚生労働省大臣官房統計情報部編 | ||
低線量被ばくのリスクからがん死の増加人数を計算することについて
平成 23 年 9 月 8 日
原子力安全委員会事務局
低線量被ばくのリスクから
がん死の増加人数を計算することが適切ではないことを示した
「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」及び
「国際放射線防護委員会(ICRP)」の報告書の記述は以下のとおりです。
(委員会は、チェルノブイリ事故によって
低線量の放射線を被ばくした集団における影響の絶対数を予測するために
モデルを用いることは、その予測に容認できない不確かさを含むので、
行わないと決定した。
強調されねばならないことは、
このアプローチは、
慎重なアプローチが習慣的にかつ意識して適用されてきている
放射線防護の目的で LNT モデルを適用することとは何ら反しない。)
〔事務局仮訳〕
ICRP Publication 103, 2007 年勧告
(訳文は日本アイソトープ協会の邦訳版に基づく)
総括
(集団実効線量は,最適化のための,
つまり主に職業被ばくとの関連での,
放射線技術と防護手法との比較のための1つの手段である。
集団実効線量は
疫学的リスク評価の手段として意図されておらず,
これをリスク予測に使用することは不適切である。
長期間にわたる非常に低い個人線量を加算することも不適切であり,
特に,ごく微量の個人線量からなる集団実効線量に基づいて
がん死亡数を計算することは避けるべきである。)
第 3 章 放射線防護の生物学的側面
3.2 確率的影響の誘発
(したがって,
委員会が勧告する実用的な放射線防護体系は,
約 100mSVを下回る線量においては,
ある一定の線量の増加は
それに正比例して放射線起因の発がん又は
遺伝性影響の確率の増加を生じるであろうという仮定に
引き続き根拠を置くこととする。(以下略))
(しかし,委員会は,
LNT モデルが実用的なその放射防護体系において引き続き
科学的にも説得力がある要素である一方,
このモデルの根拠となっている仮説を明確に実証する
生物学的/疫学的知見がすぐには
得られそうにないということを強調しておく。
低線量における健康影響が不確実であることから,
委員会は,公衆の健康を計画する目的には,
非常に長期間にわたり
多数の人々が受けたごく小さい線量に関連するかもしれないがん又は
遺伝性疾患について仮想的な症例数を計算することは
適切ではないと判断する。)
第 4 章 放射線防護に用いられる諸量
4.4 放射線被ばくの評価
4.4.7 集団実効線量
((中略)疫学的研究の手段として集団実効線量を用いることは意図されて
おらず,リスク予測にこの線量を用いるのは不適切である。その理由は,(例
えば LNT モデルを適用した時に)集団実効線量の計算に内在する仮定が大
きな生物学的及び統計学的不確実性を秘めているためである。特に,大集団
に対する微量の被ばくがもたらす集団実効線量に基づくそのような計算は,
意図されたことがなく,生物学的にも統計学的にも非常に不確かであり,推
定値が本来の文脈を離れて引用されるという繰り返されるべきでないよう
な多くの警告が予想される。このような計算はこの防護量の誤った使用法で
ある。)
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