■Ⅳ. 文献リスト
番号 | 日本語タイトル | 要約 | 図表点数 | 原文タイトル | 著者名 | 雑誌名、巻(号)、頁、年 | 論文種別 | 対象核種 | 研究対象 | 本文・URL・PDF |
1 | 加工処理が食品における放射性物質の含量に及ぼす影響 -放射線評価との関連- | 従前に公表されたデータをもとに、加工処理および調理過程が食品における放射性物質の含量に及ぼす影響を評価した論文である。魚介類では、放射性物質(226Ra、210Pbおよび210Po)の40 %以上が骨とともに除去された。 緑色野菜の文献データは実験条件の違いによりばらつきが大きく、例えば洗浄処理後の残存率は10 %~90 %(137Cs)、10 %~100 %(90Sr)であった。 穀物類については、放射性物質の50 %以上がふすまに含まれている。魚介類、肉類ならびに野菜類では、煮沸処理後の放射性物質(137Csおよび90Sr)の残存率は20 %~90 %に分布した。 乳製品ではバターの残存率が低かった。放射性物質の残存性を調査するにあたり、可食部と非可食部を正当に評価することが重要である、としている。 | Effect of Processing on Radionuclide Content of Food Implications for Radiological Assessments | Green N. and Wilkins B. T. | Radiation Technology Dosimetry, 67(4), 281-286(1996) | 原著論文 | ラドン-226、ポロニウム-210、鉛-210、セシウム-137、ストロンチウム-90 | 食品 | ||
2 | リスク評価:放射線汚染食品と住民の被曝線量 | チェルノブイリの原発事故によって、土壌が137Csに汚染されたベラルーシの研究報告書である。ベラルーシ国内で2つの研究地点を選択し、3つのシステム (農場、家庭菜園、森・川)で生産された農産物と、地元住民への影響について考察した。 地元住民の放射性セシウム総摂取量のうち、15~60%は農産物に由来した。調査対象者の食生活、農作物を生産する土壌、調査地点の気象条件など、様々な要因を考慮した研究が必要であると結論している。 | 表 5点 | Risk assessment: Radioactive contaminated food products and exposure dose of the population | Nadezhda V. Goncharova, Darya A. Bairasheuskaya | NATO Security through Science Series, Ecological Risk Assessment and Multiple Stressors, 6, 181-189(2006) | 原著論文 | セシウム-137 | 農産物 | |
3 | 葉物野菜の放射性核種の濃度(調理での低減について) | 葉物野菜での調理後の103Ru、134Cs、137Csの減少割合(Decontamination ratio*)を求めた論文である。 チェルノブイリ原子力発電所の事故に伴って放出された放射性核種を含んだ試料を秋田市内で入手した。 洗浄したホウレンソウの103Ruの減少割合は未洗浄の同様な試料に比べて、0.84±0.21であった。 水で茹でた後の葉物野菜や山菜の103Ruの減少割合は洗浄後の同様な試料に比べて、平均して0.72±0.20であった。 その結果、葉物野菜においては、未洗浄の試料に比べて、洗浄、ボイル処理を施した全体の減少割合は0.52±0.20となった。 同様に、134Cs、137Cs に対する、試料の洗浄後の減少割合は、それぞれ0.65±0.42、0.64±0.17、水で茹でた後の減少割合はそれぞれ、0.50±0.15、0.53±0.13であった。 洗浄、ボイル処理を施した全体の減少割合はそれぞれ、0.33±0.24、0.34±0.12となった。これらの結果は、原子力安全委員会によって実測値として明記されている減少割合0.5と同様な数値となった。 (*本文中の説明では (処理後の濃度)/(処理前の濃度)として計算) | 図 1点、表 5点 | Radionuclide contents of leafy vegetables; their reduction by cooking | Hisamatsu, S., Takizawa, Y. and Abe, T. | Journal of Radiation Research, 29, 110-118(1988) | 原著論文 | セシウム-131、セシウム-137 | 農産物 | |
4 | チェルノブイリ事故後の茨城から採集した試料のヨウ素131および他の放射性核種 | チェルノブイリ事故後の茨城から採集した試料を用いて131I、137Cs、134Cs、103Ruの核種について測定を行った論文である。 1986年5月で最も高い131Iの濃度は、降り始めの雨水中で98 Bq/L、松葉(生重量あたり)では400 Bq/kg、野菜(生重量あたり)で160 Bq/kg、海藻(生重量あたり)で52 Bq/kgであった。 雨水中の放射性核種のほとんどがIO3-、あるいはI-であった。また採取直後の雨水中の比率としては、IO3-がI-より高かったが、 保存中にIO3-がI-に変換されていった。葉物野菜に含まれていた131Iの約10%が洗浄で除かれ、茹で処理で70%が除去された、としている。 | 図 2点、表 7点 | Iodine-131 and other radionuclides in environmental samples collected from Ibaraki / Japan after the Chernobyl accident | Muramatsu, Y., Sumiya, M. and Ohmomo, Y. | The Science of Total Environment 67, 149-158(1987) | 原著論文 | セシウム-131、セシウム-137、ヨウ素-131、ルビジウム-103 | 農産物、水産物 | |
5 | 調理による葉物野菜、海藻のヨウ素131の低減 | 葉物野菜や海藻(クロモ)を試料として、調理による試料に含まれている131Iの減少割合(decontamination ratio*)を求めた論文である。 チェルノブイリ原子力発電所の事故に伴って放出された放射性核種131Iを含んだ試料を秋田市内で入手した。131Iの減少割合は生のホウレンソウに対して、洗浄したホウレンソウにおいて0.83±0.21であった。 さらに試料の葉物野菜と山菜においては、131Iの減少割合は、洗浄した試料に対して、水で茹でた試料において平均で0.51±0.19となった。 洗浄、ボイル処理を施した葉物野菜の全体の減少割合はそれぞれ0.42±0.19、となり、海藻においては0.68となった。 (*本文中の説明では (処理後の濃度)/(処理前の濃度)として計算。) | 図 1点、表 5点 | Reduction of 131I content in leafy Vegetables and seaweed by Cooking | Hisamitsu, S., Takizawa, Y. and Abe, T. | Journal of Radiation Research, 28, 135-140(1987) | 原著論文 | ヨウ素-131 | 農産物、水産物 | |
6 | チェルノブイリの放射能で汚染された地域の防護措置 | チェルノブイリ事故以降、放射能で汚染された地域の状況を調査した論文である。放射性核種の内部吸収によってベラルーシ、ウクライナ、ロシアの汚染地域住民の放射能レベルは確実に増加しており、放射性核種で汚染された地域の人々の健康を守るため、農業、林業、畜産、漁業に関して特別な保護が必要である。フェロシアン、ゼオライト、ミネラル塩の食品添加物は食肉中の放射性核種の減少に有効な処置である。農作物では、90Srの拮抗剤としてlime/Ca、137Csの拮抗剤としてK肥料、90Srと可溶性リン酸塩を形成するリン酸肥料を使用することで放射性核種が大幅に減少する。有機肥料と無機肥料を投入した牧草畑のディスク耕作(Disk tillage)と再深耕は、鉱質土壌で生育した牧草の3~5倍ほどに137Csと90Srを減少させる。放射性核種含有量を減らす食品加工法としては、穀物種子の洗浄、じゃがいものデンプンへの加工、炭水化物を含む食品の糖への加工、牛乳をバターやクリームへ加工する方法があり、さらに簡単な調理法によっても食品中の放射性核種を減少させることができる。ベラルーシでは、放射性核種の分散を防ぐため森林の植樹を行い、天然の隔壁として効果をあげている。放射性核種の問題解決には150~300年を要すると考えられ、防護措置を何世代にもわたって行う必要がある、としている。 | 表 4点 | Protective Measures for Activities in Chernobyl's Radioactively Contaminated Territories | Alexey V. Nesterenko, Vassily B. Nesterenko | Annals of the New York Academy of Sciences, 1181, 311-317(2009) | 原著論文 | セシウム-137、ストロンチウム-90 | 食品、農産物、畜産物 | |
7 | 放射線核種の大量放出による健康への影響、農業システムにおける物理的移動と化学的・生物学的プロセス | 放射生態学的研究モデルの目的は、事故による環境への放射性核種の放出後に、現実的な線量予測を一般へ公表することである。本総説では、放射性物質の大気中への分散や食物連鎖を通じての移行に関与する重要な物理的、化学的、生物学的プロセスを提示する。チェルノブイリの事故の後、ベラルーシ、ウクライナでの131Iと137Csの堆積パターンをEURAD (EURopean Acid Deposition)モデルによって予測した結果について議論する。最も重要な生態学的プロセス、例えば、放射性物質の付着、遮断、移行、風化、土壌から植物への移行、植物から動物/畜産物への移行、農業環境での季節の影響などについての全般的な概要を提示する。これらの個々のプロセスに関する例をチェルノブイリの事故後の放射性セシウム、放射性ヨウ素に関する実験結果を示し、議論している。 | 図 5点、 表 2点 | Health impacts of large releases of radionuclides. Physical transport and chemical and biological processes in agricultural systems | Voigt G. | Ciba Found Symp., 203, 3-20(1997) | 総説 | ヨウ素-131、セシウム-137 | 農産物、畜産物、環境(土壌・水等) | |
8 | チェルノブイリ区域由来の完熟ダイズ種子のプロテオーム解析は汚染環境への植物の順応を示唆している | 種々の放射線事故シナリオに使用するため、理想的な防護剤の探索が60年以上行われてきた。この総説では、電離放射線の急性障害および晩発障害に対して防護する可能性をもつ物質および方法について評価し、主に、(1)WR-2721などのアミノチオール系防護剤の線量低減効果、(2)SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)などの抗酸化酵素あるいはその模倣薬について、投与にともなう放射線防護効果、(3)抗酸化栄養素(ビタミンA、C、E、α-トコフェロールなど)の放射線防護効果を概説している。また、(4)フラボノイド類およびポリフェノール類などの植物化学物質の放射線防護効果について、これまでの研究例を取りまとめている。 | 図 6点、 表 2点 | Proteomic Analysis of Mature Soybean Seeds from the Chernobyl Area Suggests Plant Adaptation to the Contaminated Environment | Maksym Danchenko, Ludovit Skultety, Namik M. Rashydov, Valentyna V. Berezhna, L'ubomi´r Ma´tel, Tere´zia Salaj, Anna Pret'ova´, and Martin Hajduch | Journal of Proteome Research, 8, 2915-2922(2009) | 原著論文 | セシウム-137 | 農産物 | |
9 | チェルノブイリの事故後の20年間にわたる農業防護対策の実施:学んだ教訓 | チェルノブイリ事故後の農業防護対策とその結果についてまとめた総説である。チェルノブイリNPP(原子力発電所)の事故は、原子力エネルギーのこれまでの歴史上で最も深刻なものであるが、被災地での汚染食料の摂取が、住民の重要な放射線被曝源となった。ベラルーシ、ロシア、ウクライナの被災地域では、人々の被曝低減及び農業への影響軽減を目的として、広範囲にわたるさまざまな防護対策が実施された。本総説では、これら3地域で20年間にわたって実施された防護対策で得られた重要なデータを初めて要約すると共に、この経験から学んだ重要な教訓も記述している。 | Twenty years' application of agricultural countermeasures following the Chernobyl accident: lessons learned | Fesenko SV, Alexakhin RM, Balonov MI, Bogdevich IM, Howard BJ, Kashparov VA, Sanzharova NI, Panov AV, Voigt G, Zhuchenka YM. | Journal of Radiological Protection, 26, 351-359(2006) | 総説 | セシウム-131、セシウム-137、ヨウ素-131 | 食品、農産物 | ||
10 | オーストリアにおけるチェルノブイリ放射性降下物に由来する食物汚染調査 | チェルノブイリの放射性降下物が広範囲に生じた後、食料中のセシウム137の放射能濃度減少量が大規模調査により評価された。本論文では、1986年に放射性降下物が堆積後、異なる時期にオーストリアにおける1,000サンプル以上の食料中のセシウム137の放射能濃度についての調査が行われた結果を報告している。堆積後1年目における調査では、セシウム137の放射能濃度は最大値と比較して、ミルク・果実においては6-10%に、また、穀物・ジャガイモ・野菜においては3-6%に減少した。有効半減期の計算結果は一連の核兵器実験後に観察されたものよりも著しく短く、長期被曝は従来見積もられていたよりも小さいと結論された。堆積の翌年から50年間の放射性降下物の摂取量は、初年度における摂取量のおよそ1.3倍であった。2002年におけるオーストリア人(成人)の放射性降下物摂取量は大人で2.24マイクロシーベルト、5歳児で0.88マイクロシーベルトであり、1986年の摂取量の0.5%以下、天然放射性核種に由来する摂取量の0.7%に等しい、と報告されている。 | Investigation of food contamination since the Chernobyl fallout in Austria | Schwaiger M., Mueck K., Benesch T., Feichtinger J., Hrnecek E., Lovranich E. | Appl. Radiat. Isot., 61, 357-360(2004) | 原著論文 | セシウム-137 | 農産物 | ||
11 | セシウム、ストロンチウムおよびルテニウムの牧草・野菜への移行に関する動的モデルの構築 | 1988年から1993年にかけて原子力安全防護研究所は、放射性エアロゾルの偶発的かつ局所的な汚染における野菜への移行に焦点をあてた研究プログラムを実施し、その結果をまとめた論文である。野菜(果菜類、葉菜類および根菜類)と牧草に関した研究から、汚染経過のさまざまの時点での収穫あるいはは挿し木(cuttings)処理におけるセシウム、ストロンチウムおよびルテニウムの移行要因を決定することが可能となった。これらの研究成果に基づいて構築した動的モデルで、汚染発生後の数カ月間における野菜および牧草の放射活性変動を評価することが可能となった。このモデルは原子力事故後に活用される放射線生態学モデルASTRALの一部を構成している、と報告している。 | 図 2点、 表 2点 | Dynamic modeling of the cesium, strontium and ruthenium transfer to grass and vegetables | Renaud P., Real J., Maubert H., Roussel-Debet S. | Health Physics, 76, 495-501(1999) | 原著論文 | セシウム、ストロンチウム、ルテニウム | 農産物 | |
12 | 香港で消費される3種類の野菜への137Csの移行(transfer)の評価 | 本論文では、香港で消費される3種類の野菜、チンゲンサイ(Brassica chinensis)、レタス(Lactuca sativa)、セロリ(Apium graveolens)への137Csの移行を表すために、動的食物連鎖モデル(dynamic food chain model)を構築した。一部のパラメータはこの研究で得られた実験データから推定した。実験データには、高解像度ガンマ線分光法(high resolution gamma spectrometry)、各野菜に対する最大作物バイオマス(maximum crop biomass)、乾燥/新鮮重量比(dry-to-fresh ratio)、土壌のかさ密度、空気中の平均137Cs濃度によって決定される、土壌から各野菜への137Csの移行係数(transfer factor)が含まれている。導出されるパラメータには、堆積速度と根の取り込み速度、耕作の情報、ロジスティック成長モデル、野菜中の放射性核種濃度が含まれている。動的食物連鎖モデルをBirchall-Jamesアルゴリズムによって解き、表面直下の土壌、つまり0.1-25cmの土壌層における137Cs濃度と、収穫後の洗浄していない野菜中の137Cs濃度を導いた。モデルとパラメータの妥当性を確かめるために、実験的に得られた濃度とモデルから計算された濃度を比較し、よく一致することが明らかになった。としている | 図 3点、 表 3点 | Assessment of the transfer of 137Cs in three types of vegetables consumed in Hong Kong | Yu KN, Mao SY, Young EC | Applied Radiation and Isotopes, 49, 1695-1700(1998) | 原著論文 | セシウム-137 | 農産物 | |
13 | 調理過程における汚染ニホンナマズからの137Cs除去 | 本論文では、137Csで汚染された魚の除染方法について報告している。下ごしらえ(dressing)や調理法によって魚からどの程度放射能が除去されるのかを調べるために、137Csで汚染されたニホンナマズを使用した。下ごしらえ中に、洗浄によって生魚に含まれていた137Cs放射能のうち6.0%が除去された。この洗浄魚から非食部(例えば、骨、ひれ、内蔵、肝臓、腎臓)を切除し、可食部を洗浄することによって、さらに放射能の30.3%が除去された。さまざまなスパイス、植物油、野菜を使って、東南アジアや東アジア諸国で一般的に行われている調理法で、魚カレーを作った。調理過程で、下ごしらえした魚に含まれていた137Cs放射能のうち61.6%が除去された。このような一般的な下ごしらえと調理過程によって、最初に生魚に存在した137Cs放射能の74.7%が除去された。調理中に魚肉片から溶け出た放射能はカレーの成分全体に分布していることがわかった。平均すると、下ごしらえした魚に存在した放射能の38.5%が、調理後の魚肉片に残っていた。カレーのルウには下ごしらえした魚の放射能の平均34.8%が含まれていた。具の野菜には4.0%(カリフラワー)から7.2%(ジャガイモ)が含まれていた。魚からの放射能の多くが通常の家庭での料理の過程で除去されると結論してよいかもしれない。と示唆している。 | 図 2点、 表 5点 | Removal of 137Cs in Japanese Catfish during Preparation for Consumption | M. A. Malek, M. Nakahara and R. Nakamura | Journal of Radiation Research, 45, 309-317(2004) | 原著論文 | セシウム-137 | 水産物、食品 | |
14 | チェルノブイリ事故からの生態学的な教訓 | 1986年に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故は、ウクライナとベラルーシに今日まで継続する深刻な環境問題を引き起こしただけでなく、北半球の高緯度地方の大部分を汚染した。英国の高地では、初期の汚染から17年ほど経過した後にも生態学的な問題が未だ継続しており、本論文ではその概説を示す。1986年の5月に放射性セシウムおよび放射性ヨウ素が堆積後の牧草ならびに土壌の放射能測定から、放射性ヨウ素の急速な崩壊と、放射性セシウムの粘土粒子への付着による固定化が示された。しかしながら、これらの研究はイギリス農漁食糧省の勧告と同様に、粘土含量が高く有機物の少ない低地の農業土壌に基づいている。英国高地における放射性セシウムの挙動については、高い流動性と生体利用性が維持されていることが明らかとなっている。このことは、放射性セシウムが食物連鎖を通じてヒツジへ移行することとなる。結果として省庁は禁止措置を定め、ヒツジの販売と移動を英国の高地の広大な地域に渡って禁止し、この禁令はいくつかの農場では今日まで適用されている。現在の予測では、このような禁令が状況によっては今後数年間にわたって継続することが示唆されている。高地における放射性セシウムの流動性の原因究明研究は、植生および特に土壌特性を中心として集中的に行われてきた。高いレベルの堆積が起こり、羊の放牧を禁止すべき、特に脆弱な土壌型が特定された。先行研究の多くは、低い粘土質含量が流動性の主要因であることを示唆していが、非常に高い有機質含量もまた重要な役割を果たしていると信じられており、これは湿潤・酸性である英国高地の土壌特性である。この状況から言えることは、広域的な汚染の影響を予測するにあたり、異なる生態系の中で生物地球化学的な経路を基本的に理解することが重要であるということである。 | 図 3点、 表 6点 | Ecological lessons from the Chernobyl accident | Bell, J. N. B., Shaw, G. | Environmental International, 31, 771-777(2005) | 原著論文 | セシウム、ヨウ素 | 環境(土壌・水等)、畜産物 | |
15 | トナカイにおける放射性セシウムの吸収、保持および組織分布: 食事および放射性セシウム起源の効果 | 本論文では、チェルノブイリ原発事故によって生じた放射性セシウムのトナカイへの影響を調べている。 トナカイ(Rangifer tarandus) 足肉(calves)における放射性セシウムの吸収および保持について、異なる割合の地衣類、濃厚飼料および化学形態の異なる放射性セシウム(チェルノブイリ事故で生じた塩化セシウム134の水溶液もしくは放射性降下物)を含む餌を与えたグループ間で比較した。1日当たりの放射性セシウム降下物の摂取量は15-23 kBqであったのに対し、塩化セシウム134の摂取量は70-1,160 kBqに及んだ。地衣類のみを食事として与えられた動物における赤血球中放射性セシウムの半減期は、地衣類と濃厚飼料の混合食を与えられた動物よりも40%超過した(17.8+/-0.7日に対し、12.7+/-0.4日)。放射性セシウム半減期における尿および便排泄物の割合は、それぞれ約60%および40%である。トナカイ肉への移行係数(F(f))は、放射性セシウム降下物の場合0.25+/-0.01(日/kg)、塩化セシウムの場合、1.04+/-0.03(日/kg)と見積もられ、このことは、放射性セシウムの生体利用効率および保持率の両方が異なることを反映している。さらに、1988年の地衣類におけるチェルノブイリの放射性セシウムの生体利用効率は、塩化セシウム134と比較し、約35%であると見積もられている。 | Absorption, retention and tissue distribution of radiocaesium in reindeer: effects of diet and radiocaesium source | Skuterud L., Pedersen O., Staaland H., Roed KH, Salbu B., Liken A., Hove K. | Radiation and Environmental Biophysics, 43, 293-301(2004) | 原著論文 | セシウム-134 | 畜産物 | ||
16 | 低レベルウラン汚染土壌のクリーンアップのための植物を利用した環境浄化(phytoextraction) | 核燃料サイクルからの流出(spill)はウランによる土壌汚染を招いた。放出レベル程度の小規模汚染の場合には、低コストで効率的な浄化措置が推奨される。本論文では、核燃料処理で生じる低レベルウランで汚染した砂質土壌を、植物吸収によって必要な放出限界を達成できるかどうかを検討するために実行された研究結果を報告している。供試した2種の土壌は、対照土壌(317 Bq/kgのウラン238)及び同じ土壌を重炭酸塩で洗浄したもの(69 Bq/kgのウラン238)であり、試験用植物としてライグラス(細麦;Lolium perenne cv. Melvina)およびカラシナ(Brassica juncea cv. Vitasso)を用いた。これら植物体による土壌放射活性の年間除去率は0.1%以下であった。収穫1ヶ月前に25 mmol/kgのクエン酸を添加することにより、ウラン吸収能力が500倍高まった。15,000 kg/haの細麦および10,000 kg/haのカラシナにより、それぞれ年間当たりの土壌放射活性の最大3.5%および4.6%が除去可能である。重炭酸塩で洗浄した土壌および対照土壌では、要求される土壌放射活性減衰水準の1.5倍および5倍を示すことから、放出限界に達するには10~50年かかると予想される。しかし、クエン酸を土壌へ添加することにより、乾物生産量は減少する、としている。 | 図 5点、 表 4点 | Phytoextraction for clean-up of low-level uranium contaminated soil evaluated | Vandenhove H., Van Hees M. | J. Environ. Radioact., 72, 41-45(2004) | 原著論文 | ウラン-238 | 環境(土壌・水等) | |
17 | 食品中の長寿命放射性セシウム,Cs-134 and Cs-137,のガンマ線スペクトロメトリによる検出:試験室間共同試験の要約 | 本論文では、食品中のCs-134とCs-137のガンマ線スペクトロメトリによる測定法の妥当性確認のための試験室間共同試験の取りまとめ結果を報告している。方法は、低分解能のNaI(Tl)シンチレーション検出器と波高分析器(マルチチャンネルアナライザ)で構成されるガンマ線スペクトロメータシステム。試験室数:13、食品カテゴリー:3種の食品(ハチミツ、ミルク、ミックスハーブ)、配付資料数 4種類x 2併行 合計8個。高分解能GeLi検出器を用いた基準測定と比較した両核種の分析精度は98~103%の範囲。併行相対標準偏差(RSDr)は, Cs-134の2濃度121または337 Bq/kgに対して11.7または4.3% Cs-137濃度、210~1,130 Bq/kgの4試料に対しては2.0~7.3%の範囲。 室間再現相対標準偏差(RSDR)はCs-134で4.3~7.4%, Cs-137で10.7~14.9%であった。この方法は、「新鮮な」核分裂生成物(訳注:I-131やBa-140, La-140等の短寿命核種)の減衰後に利用可能である。ただし、900秒間の計測で放射能が<100 Bq/kgとなる試料やCs-137/Cs-134の放射能比が10を超える試料に対しては適さない。食品中のCs-134, Cs-137を検出するガンマ線分析法としてAOAC International のFirst Action Methodに採択されたことが報告されている。 訳注:AOAC Official Method 996.05 Cesium-134 and Cesium-137 in Foods γ-Ray Spectrometric Method, に Final Action 1998 として収載) | 表 1点、 表 2点 その他 分析法プロトコールを掲載 | Determination of long-life radiocesiums Cs-134 and Cs-137 in food by gamma-ray spectrometry: summary of collaborative study | Beljaars PR, Van Dijk R., Geertsen JA, Nootenboom H. | Journal of AOAC International, 80(3), 545-548(1997) | 原著論文 | セシウム-134、セシウム-137 | 分析技術 | |
18 | チェルノブイリ事故後20年間における農業分野での対応措置に関する総合的レビュー | チェルノブイリ原発事故によって多大な影響を受けたベラルーシ、ロシアおよびウクライナの各国では、農業分野においても様々な対応措置が講じられてきた。本総説では、1986年から2006年までの20年間における農業分野での対応措置について、鍵となるデータを収集すると共にその有効性について検証し、最終的に、これらの対応策により内部被曝を30~40%低減出来たものと結論している。 | 図 10点、 表 13点 | An extended critical review of twenty years of countermeasures used in agriculture after the Chernobyl accident | Fesenko SV, Alexakhin RM, Balonov MI, Bogdevitch IM, Howard BJ, Kashparov VA, Sanzharova NI, Panov AV, Voigt G., Zhuchenka YM | Science of The Total Environment, 383, 1-24(2007) | 総説 | セシウム、ヨウ素 | 農産物、畜産物 | |
19 | チェルノブイリ事故に伴う137Cs放射性降下物のデータを活用した食物連鎖モデルの検証および農業分野における対応措置の有効性に関する考察 | 本論文では、チェルノブイリ事故による汚染が大きかったロシアの地域において、10年間(1986~1996年)に亘って収集された137Cs放射性降下物のデータを、IAEAの「BIOMASSプログラム」に適用することにより、放射線学的評価の信頼性について検証を行った結果を報告している。結論として、陸上における食物連鎖モデルの一つである「SPADE」が、農業分野における対応策のシミュレーションおよび有効性の評価に利用できることが実証された、としている。 | 図 11点、 表 4点 | Testing of a foodchain model using Chernobyl137Cs fallout data and considering the effect of countermeasures | Ould-Dada Z. | Science of The Total Environment, 301, 225-237(2003) | 原著論文 | セシウム-137 | 農産物、畜産物 | |
20 | オーストリアアルプス地帯の農業における137Csおよび90Srのミルクへの移行 | オーストリアのアルプス地方は、旧ソ連邦の国以外では最もチェルノブイリ事故により汚染された地域である。本研究で調査を行ったSalzburg県の137Csによる土壌表面汚染は中央値で31.4 kBq m-2であり、場所によっては90 kBq m-2を超える。植物からミルクへの移行を調べるために、2002年と2003年の夏にサンプリング調査を行い、その結果を本論文で報告している。得られたデータをもとに137Csおよび90Srのミルクへの移行係数(fm)を、それぞれ0.0071±0.0009 d l-1および0.0011±0.0004 d l-1と算出した。今回得られた137Csの移行係数は、集約農業地帯で得られた値に比べてかなり高いものる、としている。 | 図 3点、 表 5点 | 137Cs and 90Sr transfer to milk in Austrian alpine agriculture | Lettner H., Hubmer A., Bossew P., Strebl F. | Journal of Environmental Radioactivity, 98, 69-84(2007) | 原著論文 | セシウム-137、ストロンチウム-90 | 畜産物 | |
21 | 大麦からビールへのセシウム137の移行 | チェルノブイリ事故の結果、セシウム137で汚染された大麦からビールが醸造されてきている。醸造のすべての工程および製造プロセスのすべての副産物について、セシウム137の放射能を測定した。その結果、大麦のセシウム137の約35%がビール中に回収された。加工品と生原料との濃度比として定義される加工処理率(processing factor)は、麦芽が0.61、小麦胚芽3.3、ビール粕0.1、ビール0.11となった、としている。 | 表 2点 | The transfer of 137Cs from barley to beer | Prohl G., Muller H., Voigt G., Vogel H. | Health Physics, 72, 111-113(1997) | 原著論文 | セシウム-137 | 食品 | |
22 | 気体放射性ヨウ素および粒子状放射性セシウムの葉物野菜への乾性沈着 | 本論文は放射性核種の葉物野菜への沈着について報告している。(放射線事故後のように)乾燥した気象条件で大気中に放出された放射性核種(例えば原子力事故後)は野菜を汚染し、食物連鎖を通じて人体被曝を引き起こすと予想される。この曝露経路を適切に評価できる実験データを得るために、放射性核種の葉物野菜への乾性沈着を、均質かつ制御されたグリーンハウスの環境で検討した。主要な元素形態である気体のヨウ素131、及び約1マイクロメーター直径の微粒子セシウム134をトレーサー(追跡子)として用い、これらの放射性核種によってどのような野菜が汚染されやすいかを調べた。また、水で野菜を洗浄することによって、汚染の残留性を調べた。 ほうれん草(学名: Spinacia oleracea)、サラダ菜(Lactuca sativavar. capitata)、エンダイブ(Cichorium endivia)、リーフレタス(Lactuca sativa var. crispa)、ちりめんキャベツ(ケールの一種)(Brassica oleracea convar. acephala) 、及び白キャベツ(Brassica oleracea convar. capitata)を実験に用いた。各野菜に沈着する放射性核種の変動については、ノンパラメトリックな(統計手法のうち,母集団の分布について一切の仮定を設けない)クラスカル・ワオリスの検定(Kruskal-Wallis Test)及びマン・ホイットニーの U 検定(U-test of Mann-Whitney)を用いて統計学的に評価した。その結果、野菜間で、ヨウ素131 及びセシウム134 の沈着に有意差が見られた。ヨウ素131 では、植物体単位重量あたりのほうれん草への沈着速度は、0.5-0.9 cm3g-1s-1であり、測定したすべての野菜の中で最も高かった。微粒子(134)Cs の沈着速度は、丸く組織化された構造の葉っぱをもつケールが最も高く、0.09 cm3g-1s-1であった。最も低い値を示したのはいずれも白キャベツで、(131)I は0.02 cm3g-1s-1、(134)Cs は0.003 cm3g-1s-1であった。すべての野菜において、気体ヨウ素の沈着は微粒子状セシウムの沈着に比べて有意に高かった。沈着の程度は葉の面積、気孔開度、及び植物形態に依存する。水洗浄による汚染除去は、ヨウ素では極めて限定的であったが、セシウムでは2分の1まで減らすことができた。と報告している。 | 図 4点、 表 5点 | Dry deposition of gaseous radioiodine and particulate radiocaesium onto leafy vegetables | Tschiersch J., Shinonaga T., Heuberger H. | Science of The Total Environment, 407, 5685-5693(2009) | 原著論文 | ヨウ素-131、セシウム-134 | 農産物 | |
23 | 中央スウェーデンにおける地衣類(Cladonia alpestris)試料中の129Iおよび137Cs濃度レベルと起源 | 地衣類は藻類と菌類の相利共生体(symbiosis)である。これらは、数十年来、重金属、有機化合物や放射性元素の大気降下物に対する生物指標として使用されている。特に2つ種Cladonia alpestris とCladonia rangiferinは、地衣類-トナカイ-人の食物連鎖において重要である。本論文では、大気中の核兵器爆発実験やチェルノブイリ原発事故からの放射性降下物で汚染された地衣類サンプル(Cladonia alpestris)の129I濃度を調査した結果を報告する。サンプルは、中央スウェーデンのLake Rogen地区(62.3゜N、12.4°E)で1961年~1975年と1987年~1998年の期間に収集され、異なる位置部位での分布を研究するため、CNA (Seville) で加速器質量分析計(accelerator mass spectrometry: AMS)を用いて解析した。以前測定した137Cs濃度も本研究で利用した。129Iの観察された濃度範囲は、1961年の最上層部分の(0.95 ± 0.13) × 108 at g-1から1987年の最下層部分の(14.2 ± 0.5) × 108 at g-1であった。129I/137Cs原子比は、核兵器実験の降下物を示す期間である1961年~1975年に収集した地衣類サンプルで0.12~0.27の間であった。1987年~1998年の間に収集された地衣類のサンプルにおいて、137Cs濃度の挙動は、チェルノブイリの放射性降下物を反映していた。地衣類の生育空間分布の観点からは、129Iは、主に最下層に蓄積され、一方、137Cs濃度は対照的に地衣類の最上位層に高く検出された。地衣類は、食物連鎖で地衣類-トナカイ-ヒトの最初の段階に位置し、また、トナカイは苔のカーペットの上層部を摂食することから、この垂直分布に関する結果は、放射線生態学にとって重要である、としている。 | 図 7点 | Level and origin of129I and 137Cs in lichen samples (Cladonia alpestris) in central Sweden | Gomez-Guzman JM, Lopez-Gutierrez JM, Holm E., Pinto-Gomez AR | Journal of Environmental Radioactivity, 102(2), 200-205(2011) | 原著論文 | セシウム-137、ヨウ素-129 | 農産物、環境(土壌・水等) | |
24 | 戦略モデルを用いた仮説汚染シナリオにおける最適な農業対策戦略の特定 | 本論文では、放射能汚染地域へ最適な対策戦略を役立てるために考案された空間的実行モデル(A spatially implemented model)を提案している。汚染地域内における集団および個人の被曝線量は、総放出線量(collective exported ingestion dose)と共に推定されている。様々な対策がモデルに組み込まれ、環境規制が必要に応じて盛り込まれている。本モデルは、実施コストの削減による利益とのバランスを比較するコスト関数(cost fuction)を用いることで、組み合わせた対策の有効性を評価する。最適な対策戦略は、コスト関数で最低値を示す個々の対策(およびそれらが実行される時間と場所)を組み合わせることである。モデルのアウトプットは決定的な解決策を見出すことではなく、意思決定過程に双方向的なインプットとなるべきである。カンブリア(イギリス)の仮定シナリオが実証モデルとして使われ、Cs-137、Sr-90、Pu-239/240、およびAm-241がそれぞれ1.7 × 1014, 1.2 × 1013, 2.8 × 1010 および 5.3 × 109Bqの総放出量となる原子力発電所事故のシナリオとしている。もしも、改善対策が全く実行されないならば、放出後10年に亘り生じる(主に137Csに由来する) 集団線量はおよそ36,000人-Svであるとモデルは予測している。 最適の対策戦略は約1億6,000万ポンドの費用で約33,000人-Svを逸らすと予測される。 最適戦略は耕起、AFCF(アンモニウム鉄ヘキサシアノ鉄酸塩)管理、カリウム肥料の活用、家畜に清潔な餌を与えること、および食事制限を混ぜ合わせることである。このモデルは、汚染地区内の特定地域において、一定期間、これらの対策が実施されるべきである、と提言している。 | 図 6点、 表 3点 | Identifying optimal agricultural countermeasure strategies for a hypothetical contamination scenario using the strategy model | Cox G., Beresford NA, Alvarez-Farizo B., Oughton D., Kis Z., Eged K., Thorring H., Hunt J., Wright S., Barnett CL, Gil JM, Howard BJ, Crout NM | Journal of Environmenntal Radioactivity, 83, 383-397(2005) | 原著論文 | セシウム-137、ストロンチウム-90、プルトニウム-239/240、アメリシウム-241 | 食品、農産物、畜産物、環境(土壌・水等) | |
25 | 放射能汚染された食料供給チェーン(food supply chain)の復旧におけるフィンランド利害関係者(stakeholder)の活動 | 本論文では、フィンランドにおいて放射能汚染された食料供給チェーン(food supply chain)の復旧に関する活動について報告している。一次生産、食品加工、食品流通および消費、食品安全および食品利用、ケータリング(配膳業)および宅配サービス、自然保全、環境影響の研究、およびマスコミに関わる、様々な組織および機関を代表する専門からなるグループが2001年に設立された。その目的は、農村地域に偶発的に生じる放射能汚染に対し、FARMINGネットワークプロジェクトへの参加を通じたネットワーク構築と利害関係者の対応力の強化であった。ミルクの大量生産地域における汚染を仮定することにより、放牧中の乳牛へ清浄な餌を確保する行動を評価する枠組みが提供された。翌年、グループは、STRATEGYプロジェクトによって報告された農村対策およびゴミ処理法のまとめを受理した。着実かつ単純な取組みとしての審査会(evaluation meeting)は有益かつ効率的であり、それらの知識を多くの専門分野にわたるグループが同時に情報交換することで、様々な対策に関する見解を共有できることを確認した。 優先事項は、放射能の測定と情報提供および幅広い層への助言である、としている。 | なし | Finnish stakeholder engagement in the restoration of a radioactively contaminated food supply chain | Rantavaara A., Wallin H., Hasunen K., Harmala K., Kulmala H., Latvio E., Liskola K., Mustonen I., Nieminen I., Tainio R. | Journal of Environmental Radioactivity, 83, 305-317(2005) | 原著論文 | セシウム、ヨウ素 | 食品、畜産物 | |
26 | 放射能汚染事故における家庭およびケータリング業での対応策 | この短報は、放射能汚染事故の緊急事態に対して確実に備えるため、フィンランドのケータリング事業者および一般家庭に対して実施された多くの調査について述べている。緊急事態が生じた際に、ケータリング調理現場で実施すべき対応策の具体的な提言が1994年に発行された。調査結果およびそこから得られる提案と共に、これらの提言の順守すべきレベルの判断に関する研究がまとめられている。緊急事態時の様々な状況に対処するための予備計画についても示され、また ケータリング調理現場における新たな課題についても触れている。 家庭での緊急事態用のための調理小冊子には、消費者の考え・提案に基づき、将来的に向上させることができる方法が示されている。 | なし | Preparedness of households and catering establishments for incidents involving radioactive contamination | Enqvist H. | Journal of Environmental Radioactivity, 83, 415-419(2005) | 原著論文 | 食品 | ||
27 | チェルノブイリ汚染地域における湖岸住民の内部被曝の主要因は湖魚である | 本論文では、1986年のチェルノブイリ事故後、1996年に2つ地域の摂食パターンと体内被曝調査が行われ、その結果を報告している。排水設備のない泥炭湖岸に位置するロシアのブリャンスク地域のKozhany村に居住する成人がセシウム137の重大な汚染を受けていることが明らかとなった。湖水および魚介類中のセシウム137含量は、地域の川および流水湖と比較して2桁高く、チェルノブイリ放射能汚染から10年経過した後も、高い汚染レベルの状態を保っている。湖水魚および森林中のきのこ混合物におけるセシウム137含量は、約10-20 kBq/kgであり、これら食料におけるロシアの暫定許容基準値を20-40倍超えた。 湖水魚の摂食が、Kozhany村住民の内部被曝の主な要因(40-50%寄与)となっていた。乳牛へのプルシャンブルー(Prussian blue)投与、調理前のキノコや湖魚の事前煮沸、という単純な対策をとることにより、放射性物質の降下後、10年が経過した時点でも、住民のセシウム137内部被曝線量を半減することが出来た、としている。 | 図 2点、 表 4点 | Lake fish as the main contributor of internal dose to lakeshore residents in the Chernobyl contaminated area | Travnikova IG, Bazjukin AN, Bruk GJ, Shutov VN, Balonov MI, Skuterud L., Mehli H., Strand P. | Journal of Environmental Radioactivity, 77, 63-75(2004) | 原著論文 | セシウム-137 | 水産物、畜産物 | |
28 | チェルノブイリ地方のシジュウカラ(Parus)卵中の抗酸化物質と孵化能 | チェルノブイリ事故の影響を大豆種子のタンパク質の変化を指標に解析した原著論文である。チェルノブイリ原子力発電所から100km離れた対照地域由来の完熟ダイズ種子と比較して約163倍のセシウム137で汚染されている地域で収穫された種子は小さくまた吸水も遅かった。対照地域由来・汚染地域由来それぞれの完熟ダイズ種子からタンパク質を抽出し、3連で2次元電気泳動の解析を行った結果、分離可能な698の異なるタンパク質のうち、大豆の由来によって発現量が異なる9.2%(64種)のタンパク質が見つかった。これらを液体クロマトグラフ-タンデム質量分析(LC-MS/MS)を用いて解析し、26種のタンパク質を同定でき、それらを解析した結果、グリシニン、ベーターコングリシニンなど種子貯蔵タンパク質の量的変化、デハイドリンのような重金属や凍結ストレスに対する抵抗性に関わるタンパク質の増加、パーオキソゾームベタインアルデヒドデヒドロゲナーゼの増加などが汚染環境順応に関係すると示唆される、とされている。 | 図 3点、 表 3点 | Antioxidants in eggs of great tits Parus major from Chernobyl and hatching success | Moller AP, Karadas F., Mousseau TA | Journal of Comparative Physiology B 178, 735-743(2008) | 原著論文 | セシウム、ヨウ素 | 畜産物 | |
29 | チェルノブイリ放射性核種の分布、移行、および環境・農業への影響 | 1986年のチェルノブイリ事故後、環境に放出された放射性核種の分布と移行に関する総説である。 チェルノブイリ事故では、放射能汚染地域での農村型食生活嗜好による汚染農産物の摂取が住民被曝をもたらした。事故の影響を減少させるための経済および放射線学による解決策の重要性が説明されている。生物相に直接放射能汚染が認められた地域は、食物連鎖を通して許容基準を超えた放射性核種の濃縮が認められた地域に比べ、基礎的な放射生態学的問題がかなり小さいことが述べられている。チェルノブイリ事故後の、長期間にわたる生態系(人間を含む)構成要素と放射線量間の放射性核種分布による作用が、正常な原子力発電所運転時と比較して検討されている。この分析は、仮に放射線基準が人間を防護するなら、生物相もまた、電離放射線から十分に防護されることを示している、としている。 | Chernobyl radionuclide distribution, migration, and environmental and agricultural impacts | Alexakhin RM, Sanzharova NI, Fesenko SV, Spiridonov SI, Panov AV | Health Physics, 93, 418-426(2007) | 総説 | セシウム、ヨウ素 | 農産物 | ||
30 | 秋まき小麦における放射性降下物セシウム137およびストロンチウム90の土壌から穀物への移行の品種内変動 | 放射線核種の土壌から穀物への移行について品種内変動を調べた原著論文である。同じ土地に生える異なる栽培品種(品種間"inter-cultivar" 変異)における降下放射性核種の根吸収の違いは、栽培品種の遺伝的な差異のみから影響を及ぼされるのではなく、それぞれの品種の栽培地域内の土壌から穀物への移行の空間的変動によっても影響を受けると言える。この品種内(intra-cultivar)変動は2001年と2002年にドイツのバイエルンにおける3ヶ所の異なる地域において、3種の春まき小麦品種、各品種4反復、を用いて、セシウム137およびストロンチウム90の調査が行われた。品種内変動は、双方の放射性核種について同じ地域で初期に測定された品種内変動と同じ範囲にあることが判った。セシウム137に関するデータの分散分析により、栽培地の土壌および気候(年間)と品種と土地の相互作用によってセシウム137の土壌から穀物への移行の変動が生じることを明らかにした。"栽培品種"という要素のみによる変動性への有意な寄与は検出できなかった。これは植物が野外実験で実施されているという複雑な環境条件に起因するかもしれない。降下放射性核種の低吸収小麦品種を見つけ、「より安全な」植物を育種するための標的を特定するため、根吸収の分子機構を研究した方が良いかもしれない、と結論づけている。 | 図 4点、 表 6点 | Intra-cultivar variability of the soil-to-grain transfer of fallout 137Cs and90Sr for winter wheat | Schimmack W., Gerstmann U., Schultz W., Sommer M., Tschopp V., Zimmermann G. | Journal of Environmental Radioactivity, 94, 16-30(2007) | 原著論文 | セシウム-137、ストロンチウム-90 | 農産物 | |
31 | シミュレーションした原子炉事故から放出される放射性セシウムと放射性ストロンチウムの温室栽培条件下における遮断、残存、移行 | 本論文では、原子炉の破壊によって放出され、穀類へ付着した放射性エアロゾルの挙動をシミュレーションした結果を報告している。 | Interception, retention and translocation under greenhouse conditions of radiocaesium and radiostrontium from a simulated accidental source | Vandecasteel CM, Baker S., Forstel H., Muzinsky M., Millan R., Madoz-Escande C., Tormos J., Sauras T., Schulte E., Colle C. | The Science of the Total Environment, 278(1-3), 199-214(2001) | 原著論文 | セシウム-137、ストロンチウム-90 | 農産物 | ||
32 | ハンガリーにおけるフードチェーンでの放射性核種監視戦略 | 食料、飼料、環境試料およびそれらの中の生物指標を含む約3,000サンプルが、毎年、ハンガリー農務省の放射能監視ネットワーク(Radiological Monitoring Network)によって調査されている。本論文ではこのネットワークの環境監視戦略および主要な特徴について説明されている。 ハンガリーで生産された全種類の食料中のセシウム137の比放射能(specific activity)の中央値は、定期的な全国的調査によれば、0.1 Bq/kg生体重を下回っている。大人の食物摂取による預託実効線量は、控えめに評価し、2004年におけるストロンチウム90は0.6マイクロシーベルト、セシウム137は0.3マイクロシーベルトと見積もられた。1998年 にスペインのアルヘシラスの製鋼所から偶発的に放出されたセシウム汚染について、ネットワークを構成する地域部局が、全ネットワークのデータベースを利用して、検出したかが示されている。 | 図 2点、 表 2点 | Radionuclide monitoring strategy for food-chain in Hungary | Varga B., Tarjan S., Suth M., Sas B. | Journal of Environmental Radioactivity, 86, 1-11(2006) | 原著論文 | セシウム-137、ストロンチウム-90 | 食品 | |
33 | チェルノブイリ地域で生育したアマ(flax)のプロテオミクス解析は、種子プロテオームへの汚染環境の影響は限定的であることを示唆している | 1986年4月26日のチェルノブイリ原子力発電所(CNPP)の事故は人類史上で最も重大な原子力災害である。チェルノブイリ原子力発電所に隣接した地域はストロンチウム90およびセシウム137を含む半減期の長い放射性同位体に実質的に汚染されたままであるが、驚くことに、現地の生態系はこの状況に適応してきている。本論文では、植物の適応性を評価するため、アマのプロテオミクス解析の結果を報告している。原子力発電所に隣接した地域に生育するアマ(Linum usitatissimum)品種Kyivskyiの種子をチェルノブイリ地域の放射性物質で汚染された土壌およびその対照区に播種した。成熟種子より総タンパク画分を分離し、タンデム質量分析を組み合わせた二次元電気泳動を用いて分析した結果、興味深いことに、放射性物質汚染環境での植物の成長は、ほとんど種子プロテオーム解析結果に影響を与えず、しかも両方の圃場(放射性同位体汚染地区および対照区)で収穫された種子で定量化可能な720個のタンパク質スポットの内、量的に異なるスポットはわずか35個(p <0.05)であった。量的差異が認められた35個のタンパク質スポットの内の28個のタンパク質は、最先端の質量分析イオン化法(MS(E)method)を用いて同定された。放射性物質汚染土壌で育った植物に由来する種子のプロテオーム解析により、認められたタンパク質の変化は、複数のシグナル伝達系に僅かな調整が起きたことを示す程度のものであった、としている。 | 図 6点、 表 2点 | Proteomics analysis of flax grown in Chernobyl area suggests limited effect of contaminated environment on seed proteome | Klubicova K., Danchenko M., Skultety L., Miernyk JA, Rashydov NM, Berezhna VV, Pret'ova A., Hajduch M. | Environmental Science & Technology, 44, 6940-6946(2010) | 原著論文 | セシウム、ストロンチウム | 農産物 | |
34 | 1998年から2008年までの間に認められた、南部ドイツ地域に生息するイノシシ(wild boar)のセシウム137汚染の時間依存性 | チェルノブイリ事故後、南部ドイツのいくつかの地域に生息するイノシシのセシウム137汚染レベルは、未だに数千Bq/kgを超えている。森林植物、きのこおよびノロジカ(roe deer)肉におけるセシウム137の濃度は、長期間で著しく減少したが、イノシシにおいては、ここ10年間の濃度が依然として一定している。本論文では、1998年から2008年までの間に、Landkreis地区のラーフェンスブルクで捕獲した656頭のイノシシの筋肉を分析した結果を報告する。セシウム137の放射能濃度は、5未満~8,266 Bq/kgと著しく変動しており、それが季節パターンに従っていることは、食餌習慣、飼料の利用効率、気象条件、およびイノシシ生体内でのセシウム137の特異的な動態、の変化に起因するものと考えられる。2000年から2008年までの間に、ラーフェンスブルク地区に生息するイノシシのTag valueは、0.008から0.062 m2/kgに変化した、と報告している。 | 図 3点、 表 2点 | Time-dependency of the 137Cs contamination of wild boar from a region in Southern Germany in the years 1998 to 2008 | Semizhon T., Putyrskaya V., Zibold G., Klemt E. | J. Environ. Radioact., 100, 988-992(2009) | 原著論文 | セシウム-137 | 畜産物 | |
35 | 春播き小麦6品種におけるセシウム137およびストロンチウム90の蓄積能比較 | 本論文では、チェルノブイリ事故により汚染された土地での野外試験が行われ、春播き小麦(コムギ;Triticum aestivum) 6品種のセシウム137およびストロンチウム90の吸収能が比較されている。全品種とも、ベラルーシにおける農業利用に公的認可され大量生産に用いられているものであるが、同じ栄養条件下で、各品種間の生産性には1.3倍程度の違いが認められた。小麦粒におけるセシウム137およびストロンチウム90の蓄積程度は、両放射性核種とも、濃度比で1.6倍程度の差が品種間で認められた。小麦粒および麦わらにおけるストロンチウム90の放射能濃度とカルシウム濃度間には、有意な正の線形相関が認められた。セシウム137の放射能濃度とカリウム濃度には、有意な相関は認められなかった。以上の結果は、一般的な農業生産で使用される春播き小麦品種では、セシウム137およびストロンチウム90が小麦粒以外の部位へ蓄積されることを示唆している。いくつかの春播き小麦品種においては、セシウム137蓄積が比較的低くなっていたが、ストロンチウム90の蓄積に関しては低くなっていなかった。クアトロという品種においては、他の調査品種と比較して、ストロンチウム90(小麦粒)およびセシウム137(小麦粒および麦わら)の放射性核種の吸収が有意に低かった。これらの品種を用いることで得られる放射性核種濃度の減少効率は、過去に土壌改良技術で達成された減少効率ほど高くはない。しかし、これらの品種の使用にともなう他の費用や収量低下はないため、汚染地域におけるこれら小麦品種の利用は、ストロンチウム90およびセシウム137の摂取を減少させるために、単純で、実用的かつ有効な方策として検討し、評価された小麦を農家が生産できるようにすべきである、としている。 | 図 5点、 表 4点 | Comparison of the accumulation of (137)Cs and (90)Sr by six spring wheat varieties | Putyatin YV, Seraya TM, Petrykevich OM, Howard BJ | Radiat. Environ. Biophys., 44, 289-298(2006) | 原著論文 | セシウム-137、ストロンチウム-90 | 農産物 | |
36 | 放射線防護剤の歴史と開発 | 種々の放射線事故シナリオに使用するため、理想的な防護剤の探索が60年以上行われてきた。この総説では、電離放射線の急性障害および晩発障害に対して防護する可能性をもつ物質および方法について評価し、主に、 (1)WR-2721などのアミノチオール系防護剤の線量低減効果、 (2)SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)などの抗酸化酵素あるいはその模倣薬について、投与にともなう放射線防護効果、 (3)抗酸化栄養素(ビタミンA、C、E、α-トコフェロールなど)の放射線防護効果を概説している。また、 (4)フラボノイド類およびポリフェノール類などの植物化学物質の放射線防護効果について、これまでの研究例を取りまとめている。 | History and development of radiation-protective agents | Weiss JF, Landauer MR | International Journal of Radiation Biology, 85, 539-573(2009) | 総説 | セシウム、ヨウ素 | 放射線防護 | ||
37 | 液体シンチレーションカウンタを用いた排水中89Srおよび90Sr迅速分析法 | 排水中の89Sr,90Sr分析に、液体シンチレーションカウンタを用いた迅速分析法の有効性についての論文である。妨害核種(54Mn,60Co,106Ru,137Cs)を含む模擬排水試料の分析結果から,十分に適用可能な優れた方法であることを確認した。また分析に要する期間は、従来法が2~3週間であるのに対して、本法では3~4日間と大幅に短縮できた、としている。 | Rapid Analysis Method of 89Sr and90Sr in Effluent with a Liquid Scintillation Counter | 中野 政尚, 檜山 佳典, 渡辺 均, 住谷 秀一 | Radioisotopes, 59(5), 319-328(2010) | 原著論文(和文) | ストロンチウム-89、ストロンチウム-90 | 分析技術 | ||
38 | 栽培キノコおよび培地中における放射性セシウム濃度 | 栽培キノコおよび培地中における放射性セシウム濃度を調査した論文である。埼玉県産のキノコの放射能を調査したところ,137Csは全ての試料から検出され,子実体は0.012~2.1 Bq/kg生,培地(菌床)は0.080~1.8 Bq/kg乾であった。子実体の137Cs濃度はキノコの種類によって異なり,ヒラタケおよびエノキタケが低く,シイタケおよびマイタケが高い傾向が認められた。また,137Csの濃度比(子実体/培地)は0.11~0.53であり,他の野菜等の移行係数に比べ高い傾向を示した、と報告している。 | Concentration of Radiocesium in Cultivated Mushrooms and Substrates | 三宅 定明, 日笠 司, 浦辺 研一, 原口 雅人, 大村 外志隆 | Radioisotopes, 57(12), 753-757(2008) | 原著論文(和文) | セシウム-137 | 農産物 | ||
39 | 放射性セシウムの水田土壌への収着挙動における粘土鉱物の影響 | 放射性セシウム (137Cs, 半減期30年) は放射性廃棄処分や原子力事故の際の環境影響評価において重要な放射性核種である。本論文では、日本各地から採取した30試料の水田土壌を用いて, 137Csの収着挙動に対する土壌特性の影響を検討し、各土壌試料の土壌-土壌溶液分配係数 (Kd) をバッチ収着実験から求めた。全土壌について, 137CsのKd値は269~16,637 L/kg (幾何平均2,286 L/kg) であり, Spearmanの順位相関 (相関係数Rc) 解析の結果, Kd値と相関を示したものは粘土含量のみ (Rc=0.55, p <0.005) であった。一方, 土壌への137Cs固定率は粘土含量より相対イライト含量と高い相関があり (Rc=0.68, p <0.001) ,土壌への137Cs固定率の推定にはイライト含量が非常に重要であることが示唆された、と報告されている。 | 図 6点、 表 2点 | Effects of Clay Minerals on Radiocesium Sorption Behavior onto Paddy Field Soils | 石川 奈緒, 内田 滋夫, 田上 恵子 | Radioisotopes, 56(7), 519-528(2007) | 原著論文(和文) | セシウム-137 | 農産物 | |
40 | サメに着目した放射能レベルの調査研究について | 愛媛県では、伊方原子力発電所周辺環境監視のため、1975年から環境試料中の放射能調査を実施している。本論文では、放射性物質の蓄積状況を長期間モニタリングすることが可能な指標生物としてサメに着目した。サメは食物連鎖の上位にあり、軟骨魚類であるため放射性核種を濃縮しやすいと考えられる。そこで、伊予灘沿岸の浅海に生息し、遊泳能力が弱く食用にもされるドチザメ科のサメ(シロザメ・ホシザメ・ドチザメ)を用いて筋肉中の137Csの測定、脊椎の椎体による輪紋調査および食餌調査を行った。筋肉中の137Cs海水中137Csの濃度と有意な相関関係がみられ、減少傾向を示していた。現在モニタリングに使用している魚種より137Cs濃度の高いサメで、137Cs濃度の推移を把握していくことが、今後の原子力発電所の周辺環境監視をきめ細かく行うために有効であると示唆されることが報告されている。 | 図 9点、 表 1点 | Radioactivity level investigation of shark | 松本純子, 宇高真行, 滝山広志, 篠崎由紀, 楠 憲一, 吉野内茂 | 平成17年度愛媛衛環研年報, 8, 49-52(2005) | 原著論文(和文) | セシウム-137 | 水産物 | |
41 | 海産生物と放射能-特に海産魚中の137Cs濃度に影響を与える要因について- | 環境中における海産生物中の137Cs濃度水準とその挙動、およびそれらを支配あるいは制御する要因について得られている知見をまとめた総説である。また、137Csだけではなく、安定Csや他の核種との関係なども必要にあわせて記載されている。 | 図 12点、 表 7点 | Marine Organisms and Radionuclides - With Special Reference to the Factors Affecting Concentration of137Cs in Marine Fish - | 笠松不二男 | Radioisotopes, 48, 266-282(1999) | 総説(和文) | セシウム-137 | 水産物 | |
42 | 伊方沖の魚類中137Cs濃度の変動要因について | 愛媛県では、伊方原子力発電所周辺環境監視のため、1975年から環境試料中の放射能調査を実施している。本論文では、降下物、海水、海底土および魚類について、これまでの調査結果を取りまとめ、137Csの伊方における環境中での挙動、特に人に対する内部被ばくの原因となる魚類中の137Csに関し、汚染変動およびその要因について解析した。海水中の137Cs濃度については、チェルノブイリ原発事故以降緩やかな減少傾向がみられており、降下物中の137Cs濃度と有意な相関がみられた。海底土中の137Cs濃度については、チェルノブイリ原発事故以降緩やかな減少傾向がみられ、海水中の137Cs濃度と有意な相関があった。調査した魚4種類(カサゴ、メバル、カワハギ、ベラ)ともに137Csが検出され、チェルノブイリ原発事故後、減少傾向がみられた。また、海水中の137Cs濃度と有意な相関がみられ、濃縮係数を求めると、魚種によって違いがみられた。魚類中の137Cs濃度の推移を今後長期的に監視していくには、食物連鎖上の高位に位置し、魚体の大きさおよび雌雄年齢等を判断することによって、変動因子を少なくできる魚種を対象としたきめ細かい調査をしていくことが有効であると示唆されたと、報告されている。 | 図 24点、 表 4点 | Factors on Variation of 137Cs Concentration in Fishes of offshore Ikata | 篠崎由紀,武田尚彦,善家久隆,武田伸也,楠 憲一,園田浩二 | 平成15年度愛媛衛環研年報, 6, 69-75(2003) | 原著論文(和文) | セシウム-137 | 水産物 | |
43 | 再懸濁(resuspension):日本における人工放射能堆積に関する10年間スケールのモニタリング | つくば市の国立気象研究所(MRI)で毎月、90Sr と137Csの大気降下物濃度を監視している。本論文では、1990年代における90Srと137Csの堆積レベルと一時的な傾向について報告する。現在の90Srと137Cs濃度は大幅に減少したものの、これら核種は1990年代を通じて降下物試料で連続的に検出されている。この期間中にMRIで観測された年間堆積濃度は、90Sr(137Cs)で70~180(140~350)mBq/m2/yearであった。十分に長い時間スケールでは、堆積の減少傾向は明らかに過去の成層圏放射性降下物と異なっている;それよりはるかに遅くなる。従って、成層圏以外の貯留場所が90Sr と137Csの少量を提供している。単純計算では、大気中の人工放射能の潜在的な供給源として、海洋の重要性は否定される。本研究では、堆積物のこれら放射性核種は、再懸濁過程:presuspension processes (土壌・塵懸濁過程:soil dust suspension processes)に由来することを実証する。時系列監視による一時的な傾向は、再懸濁を無視したモデルで予測されたUNSCEAR報告書2000との相違を明らかにしている。年間降下物中の90Sr(137Cs)の放射能は10年(20年)の半減期であった。これらの値は、文献で報告されている日本の表層土壌における90Sr と137Csの滞留半減時間(half-residence time: HRT)の値とほぼ一致した。また、表層土壌(0~10 cm)についての文部科学省科学技術環境放射線データベース(the MEXT Database)から得られた90Srと137Cs濃度の全国的なデータから計算されたものに匹敵するものであった。137Cs / 90Srの放射能比に関して、1990年代にMEXTデータベースで収集された日本全国表層土壌データ(中央値:5.3、n=584)とMRIでの降下物試料データ(平均2.1、n=82)とは一致しなかった。これは、黄砂が人工放射能の大部分を日本の大気に運搬してきているのではないかとの我々の以前の仮説を指示するものである。環境中に分散した長寿命の人工放射能の消長に関する研究は、より大きな時空間スケールで行う必要がある、としている。 | 図 5点、 表 2点 | Resuspension: Decadal Monitoring Time Series of the Anthropogenic Radioactivity Deposition in Japan | Igarashi Y., Aoyama M., Hirose K., Miyao T., Nemoto K., Tomita M., Fujikawa T. | Journal of Radiation Research, 44(4), 319-328(2003) | 原著論文 | セシウム-137、ストロンチウム-90 | 農産物、畜産物 | |
44 | 環境放射能調査研究成果論文抄録集(平成21年度) | 文部科学省主催の環境放射能調査研究成果発表会において、関係省庁の試験研究機関、都道府県等が実施した環境放射能調査研究等の成果を発表している。最新の平成22年12月に開催された発表会の成果論文抄録集である。 Ⅰ.環境に関する調査研究(大気、陸)に15報、 Ⅱ.環境に関する調査研究(海洋)に18報、 Ⅲ.食品および人に関する調査研究に3報、 Ⅳ.分析法、測定法等に関する調査研究に1報、 Ⅴ.都道府県における放射能調査に47報 の計74報の原著論文が収載されている。 | 文部科学省 科学技術・学術政策局 原子力安全課防災環境対策室 | 第52回抄録集(平成21年度), 1-262(2009) | 原著論文 | セシウム-137、ストロンチウム-90、トリチウム、ヨウ素-131、プルトニウム-239、プルトニウム-240 | 食品、農産物、畜産物、環境(土壌・水など) | PDF入手可 | ||
45 | 漁場を見守る | 文部科学省の委託を受けて、(財)海洋生物環境研究所は、全国にある原子力発電所等の周辺15海域および青森県六ヶ所村にある核燃料サイクル施設の沖合領域の主要漁場における海水、海産生物および海底土の調査を行った結果並びに他の機関で調査された海洋環境の放射能データなどを収集・整理し、海洋環境放射能総合評価のための基礎資料として文部科学省に報告している。本解説は、平成20年度のこの報告内容を図を多く使いわかりやすく解説したものである。 | 図 20点 | 財団法人 海洋生物環境研究所 | 海洋環境放射能総合評価事業海洋放射能調査(平成20年度), 1-32(2008) | 解説 | セシウム-137、ストロンチウム-90、トリチウム、プルトニウム-239、プルトニウム-240 | 水産物 | PDF入手可 | |
46 | 平成20年度 環境放射能水準調査結果 | 日本分析センターは、文部科学省の委託を受け、我が国における関係諸機関の環境放射線・放射能に関する各種の調査情報を収集・整理し、環境放射線データベースに登録している。この資料は、データベース活用の一環として、環境放射能水準調査に係わる当該年度および過去3年間の結果を総括的に把握するために作成された最新ものである。 「2.環境放射能水準調査結果のまとめ」の章においては、「2.2 調査結果の集計表」に環境放射線レベルを総括的に把握するための集計結果を、また「2.3 調査結果の経年変化図等」に代表的な試料の放射能レベルおよびその推移を視覚的に把握するための図等を、さらに「2.4 調査対象の試料数等」に調査の規模等を把握するための調査試料数等の一覧表が示してある。 | 図 2点、 表 12点 | 財団法人 日本分析センター | 総括資料, 1-136(2008) | 報告書 | セシウム-137、ヨウ素-131、ストロンチウム-90 | 環境(土壌・水等)、畜産物 | PDF入手可 | |
47 | 日本で消費されるキノコ中の137Cs と40Kの濃度およびそれらキノコの摂取による被曝量 | キノコは、放射性セシウムを蓄積することで知られているため、日本で消費されるキノコについて調査した論文である。キノコの摂食による放射性セシウムの摂取量を推定するために、一般に消費されるキノコ4種(シイタケ、ブナシメジ、マイタケ、マツタケ)の約30試料について137Cs と40K濃度を測定した。検出濃度範囲は、137Csで0.060-29 Bq/kg (湿重量)、また40Kで38-300 Bq/kg (湿重量)であった。137Csの幾何平均濃度は0.56 Bq/kg (湿重量)であり、40Kの平均濃度は92 Bq/kg (湿重量)であった。シイタケの137Cs濃度は、菌床(おがくず-米ぬか培地)栽培のものが、丸木床(天然木樹皮)栽培のものよりも低かった。分析結果と現状の日本の食品消費量データを基に算出したキノコを介した一人あたりの137Cs年間摂取量は、3.1 Bqで、この核種の総食物摂取量の約28%に相当した。キノコを介した137Csの実効線量当量は、以前の研究で得られた値の約半分の4.0 x10-8 Svであった。キノコを介した137Cs摂取量の最近の減少は、おそらくキノコ栽培方法の丸木床から菌床へのシフトと関連があると推察される、と報告されている。 | 図 2点、 表 3点 | Concentrations of137Cs and 40K in Mushrooms Consumed in Japan and Radiation Dose as a Result of Their Dietary Intake | Ban-Nai T., Muramatsu Y., Yoshida S. | Journal of Radiation Research, 45(2), 325-332(2004) | 原著論文 | セシウム-137、カリウム-40 | 農産物 | |
48 | 東海村廃棄物処理プラント事故で放出された放射性セシウムの茨城県つくば市における大気濃度:予測と観測の比較 | 1997年3月11日に火災と爆発事故が動力炉核燃料開発、東海村のアスファルト固化施設で発生した。この事故によって放出された放射性セシウムを茨城県つくば市の大気測定によって調査した論文である。放出された134,137Csは、つくば市の国立気象研究所で収集されたエアフィルタのサンプルで3月10日~3月12日にかけて検出された。134Csと137Csの大気濃度は、それぞれ100および10 Bq/m3 で、この結果は、地域住民に放射線被曝がほとんどなかったことを示唆している。この期間の137Cs大気濃度の平均は、高感度γ線検出器で測定した1997年の2月から4月にかけてのベースラインの大気濃度(<1 Bq/m3)に比べ約100倍高かった。測定データとガウスプルームモデル(Gaussian plume model)を使用した単純計算では、東海村事故による放射能の最小排出量は約60 MBq~600 MBqの範囲内と推定される、としている。事故が起きた週の気象条件も記載されている。 | 図 6点、 表 5点 | Air Concentration of Radiocaesium in Tsukuba, Japan Following the Release from the Tokai Waste Treatment Plant: Comparisons of Observations with Predictions | Igarashi Y., Aoyamaa M., Miyao T., Hirose K., Komura K., Yamamoto M. | Applied Radiation and Isotopes, 50, 1063-1073(1999) | 原著論文 | セシウム-134、セシウム-137 | 環境(土壌・水等) | |
49 | 海産生物中の放射性セシウム濃度とその変動 | 財団法人海洋生物環境研究所は科学技術庁(現文部科学省)の委託により海洋環境放射能総合評価事業の中で、原子力発電所等周辺海域放射能調査を1983年(昭和58年度)から開始した。15年近くにわたって実施してきた調査結果から、日本沿岸の海産生産物中の人口放射性核種、特に137Csとその挙動について紹介している。 | 図 11点、 表 2点 | 財団法人 海洋生物環境研究所 | 海洋研リーフレット No. 11, 1-18(1999) | 総説(和文) | セシウム-137 | 水産物 | PDF入手可 | |
50 | 火山灰土壌(黒ボク土)から作物への放射性ヨウ素の移行要因 | 火山灰土壌から農作物への放射性ヨウ素の移行率を測定するため、放射性トレーサー実験による調査報告である。黒ボク土から作物の可食部への移行率(新鮮重量当たり)は、水セリ、0.24; レタス、0.00098; 玉ねぎ、0.0011、大根、0.0044、カブ、0.0013、ナス、0.00010、となった。小麦の可食部への放射性ヨウ素の移行率(乾重量当たり)は、平均0.00015であった。ヨウ素の作物体中の分布も調べたところ、葉部への移行率が塊茎、果実や穀粒のものに比べて高くなる傾向があった。水セリは非常に高い移行率を示したが、それは、酸化還元電位の低下により、土壌から溶脱したヨウ素の土壌水溶液での灌水条件で栽培されることが原因である。この研究で得られたデータは、核分裂サイクル燃料に関連した長寿命のヨウ素-129(1.57×107年の半減期)を評価する助けになる、と期待される。 | 図 4点、 表 4点 | Transfer Factors of Radioiodine from Volcanic-ash Soil (Andosol) to Crops | Ban-Nai T., Muramatsu Y. | Journal of Radiation Research, 44(1), 23-30(2003) | 原著論文 | ヨウ素-131、ヨウ素-129 | 農産物、環境(土壌・水等) | |
51 | 洪水後の放射性セシウムの根吸収変化を予測するための実験法 | 本論文は、洪水後の放射性セシウムの根吸収変化を予測するための実験法を提示している。チェルノブイリ事故で影響を受けた地域において、食物連鎖における放射性セシウム取り込みの変化を説明する主要因として、洪水後の土壌溶液組成の変化を仮定した。洪水循環(flooding cycles)が続いた後の土壌溶液組成の変化をモニターする実験系を設定した。実験は、対照的な初期の土壌溶液組成(K+の初期濃度が高いおよび低い場合)の試験土壌について、カラムおよびバッチ処理によるアプローチで行った。カラム実験結果から、根からの放射性セシウム吸収の増加を示すパラメーターであるNH4+濃度の増加が示唆された。K+初期濃度が高い土壌におけるバッチ試験結果は、複数回の洪水後、特に洪水の水量/土壌量の比が高い場合は、K+濃度が閾値以下(およそ0.5~1 mmol/L)まで減少することがあり、放射性セシウムの移行を増大させる可能性を示唆した。低いK+初期濃度土壌では、洪水条件が土壌溶液のK+およびNH4+濃度を増加させた。洪水で影響を受けたウクライナ地域由来の土壌と試験土壌との比較の結果、土壌溶液の初期組成に関わらず、いずれの土壌においても土壌溶液組成の最終段階は類似していることが示唆された。更に、同じ地域に由来する非洪水土壌との比較から、他の土壌パラメーター(例えば、セシウム137の放射能濃度、粘土質含量、放射性セシウム潜在遮断性(radiocaesium interception potential(RIP);土壌の放射線セシウム特異吸着量を見積もるパラメーター)など)の変化についても、洪水による付加的作用の評価のために監視すべきであることが示された。つまり、根吸収における変化は、土壌溶液中のRIP, K+およびNH4+値の変化状態に依存する,と報告された。 | Laboratory experiments to predict changes in radiocaesium root uptake after flooding events | Camps M., Hillier S., Vidal M., Rauret G. | Journal of Environmental Radioactivity, 67, 247-259(2003) | 原著論文 | セシウム | 農産物、環境(土壌・水など) | ||
52 | ラットのヨウ素131曝露に対するヨウ化カリウムおよび過塩素酸アンモニウム投与による改善効果の評価 | 原子炉事故および核テロの脅威は、放射能汚染に関連する有害な健康リスクについての懸念を高めた。ヨウ化カリウム(KI)は、一般的な放射性核分裂生成物であるヨウ素131曝露の治療のために米国食品医薬品庁で現在承認されている、唯一の薬剤介入である。ヨウ化カリウムは有効ではあるが、その放射線防御効果を最大限にするためには、放射性曝露の前もしくは曝露後出来るだけ早く(数時間以内に)投与されるべきである。チェルノブイリ原子炉事故の際には、何千人もの人々に放射能汚染が生じたが、ヨウ化カリウムは直ぐには投与されず、投与の遅れは小児甲状腺癌の発生率を高めた。過塩素酸塩は、ヨウ化物の甲状腺取り込みを妨げ、甲状腺から遊離ヨウ化物を放出する能力を持つため、ヨウ素131毒性に対するもう一つの薬剤放射線防護剤として提案された。この論文は、放射性ヨウ化物(ヨウ素131)による甲状腺曝露を抑えるヨウ化カリウムおよび過塩素酸アンモニウムの能力を比較する目的で、ラットのヨウ素131曝露に対するヨウ化カリウムおよび過塩素酸アンモニウム投与による改善効果について報告している。ラットにヨウ素131トレーサー経口投与後0.5時間および3時間に30 mg/kgの過塩素酸アンモニウムもしくはヨウ化カリウムを投与した。対照群と比較し、両薬剤処理は同程度にヨウ素131の甲状腺曝露を抑え、65~77%低減させた。過塩素酸アンモニウムは、安定ヨウ化物と比較して、全身放射線防護効果が高かった。ヨウ化カリウム投与動物は、15時間後、尿中に30%のヨウ素131を排泄したのみであったのに対し、過塩素酸アンモニウムを投与したラットでは、47%であった。つまり、ヨウ化カリウムおよび過塩素酸アンモニウムは、ヨウ素131曝露後最大3時間まで、ヨウ素131の甲状腺曝露を抑えることができることを示唆している。過塩素酸アンモニウムは、身体からのヨウ素131除去能力が高いため、ヨウ化カリウムよりも防護剤として優れているかも知れない、している。 | 図 2点、 表 3点 | Evaluation of potassium iodide (KI) and ammonium perchlorate (NH4ClO4) to ameliorate 131I-exposure in the rat | Harris CA, Fisher JW, Rollor EA 3rd, Ferguson DC, Blount BC, Valentin-Blasini L., Taylor MA, Dallas CE | Journal of Toxicology and Environmental Health PartA, 72, 909-914(2009) | 原著論文 | ヨウ素-131 | 放射線防護 | |
53 | 放射線防除:現状と今後の展望 | 放射線防除の現状と今後の展開をまとめた総説である。今日の高まりつつある核/生物学的/化学的脅威の環境では、意図しない電離放射線被ばくの健康危害リスクから特別な高リスク集団だけでなく、広く一般の人々も守るための、安全かつ効果的な措置を持つ必要がある。未だ満たされていない夢は、想定される或いは現実の核/放射能事故発生前に副作用がなくて容易に経口投与できるグローバルに有効な薬を保有することである。そのような理想的な放射線防護剤は未だなく、その開発と人への使用認可は今後の大きな課題である。アミノチオール(aminothiol)族の代表種の薬剤、例えばAmifostine(MedImmune社、ゲイサーズバーグ、メリーランド州)は、正常組織の放射線照射や放射線作用を持つ化学物質への暴露に対する強力な細胞保護剤(cytoprotectant)であることが証明されている。Amifostineは、現在臨床的に使用されているが、薬物毒性、限られた時間の保護作用および薬剤管理の難しさなどの要因から、臨床以外での有効利用が制限されている。新しい安全で効果的な放射線防護剤(radioprotectant)探索が、次のような研究開発戦略のもと、現在、精力的に行われている。(1)新規化学物質や天然物の大規模スクリーニング、(2)毒性のある既知の放射線防護剤の再構成/再構築(3)本質的に毒性がない、適度に保護作用を持つ栄養補助食品(nutraceutical)の利用(4)放射線防護の相乗効果を促進するために、異なる保護作用メカニズムを持ち、毒性がある薬剤の低用量による組み合わせ(5)暴露後の治療法での保護効果に期待できることを前提に、毒性を低減させる代償として、薬効の低レベル化を受容。これらの戦略のどれが最終的に成功するかを予測することは難しいが、有用な保護剤が市場に現れる確率が高くなることは確かである。このような状況は、放射線防護への関心の復活、連邦政府機関による技術革新に対する支出の増加、および米国食品医薬庁(FDA)の新しい承認ガイダンス策定への動きにより作り出されている、としている。 | 図 2点、 表 4点 | Radiation Protectants: Current Status and Future Prospects | Seed TM | Health Physics, 89(5), 531-545(2005) | 総説 | セシウム、ストロンチウム、ヨウ素 | 防護技術 | |
54 | 糸状土壌細菌Streptomyces sp. K202株のセシウム蓄積特性 | 糸状土壌細菌であるK202株は、食用キノコが(Boletopsis leucomelas)生育していた土壌から分離され、その形態的特徴およびLL-2, 6-ジアミノピメリン酸の存在からストレプトミセス属(Streptomyces)に属するものと同定した。本論文では、K202株の糸状細胞におけるCsの細胞質での存在形態および細胞外から細胞内への取り込みを調べた結果を報告している。その結果、Csは2つのステップを介して細胞内に蓄積することが示された。最初のステップでは、Cs+は直ちに負に帯電した細胞表面に非特異的に吸着し、次のステップでこの吸着Cs+が細胞内に、一部はエネルギー依存性輸送システムを介して取り込まれる。また、培養液にCs+が存在するとK+の細胞内への取り込みが大きく阻害されることから、一部のCs+は、K+との競合により菌糸状細胞に取り込まれることが判明した。このことは、Csの一部はカリウム輸送システムを介して取り込まれることを示唆している。さらに、133Cs-NMRスペクトルやCsを蓄積した菌糸のSEM-EDXスペクトルから、Csには細胞内で少なくとも2つの状態で存在することが判明:ポリリン酸のような細胞間物質にCs+がトラップされた状態およびCs+が細胞内プールに存在する状態、としている。 | 図 5点、 表 1点 | Characteristics of cesium accumulation in the filamentous soil bacteriumStreptomyces sp. K202 | Kuwahara C., Fukumoto A., Nishina M., Sugiyama H., Anzai Y., Kato F. | Journal of Environmental Radioactivity, 102(2), 138-144(2011) | 原著論文 | セシウム | 環境(土壌・水等) | |
55 | 北方林生態系での植物および菌類中の137Csレベルに関するカリウム単独施肥の長期的効果 | 本論文では、中央スウェーデンの森林生態系において、1992年のカリウム単独施肥(100 kg K ha-1)による137Cs移行への長期的効果を検証した結果を報告している。 3種の低成長多年生低木であるギリュウモドキ(Calluna vulgaris)、コケモモ(Vaccinium vitis-idaea) 、コケモモ(Vaccinium myrtillus)および4種の野生のカビ(Cortinarius semisanguineus, Lactarius rufus,Rozites caperata, Suillus variegatus)について、137Csの放射能濃度を測定した。カリウム施肥後17年が経過した施肥区での植物およびカビへの137Csの移行は、コントロールの非施肥区のものに比べ大幅に低下していた。137Csの放射能濃度は、カビの胞子嚢果(sporocarps)で21から58%また植物では40から61%もコントロールと比較してカリウム施肥区で低かった。効果は統計的に有意ですべての種において顕著であったが、研究期間を通じて、セシウム放射能濃度の減少は、植物の方が菌に比べて一貫していた。菌類や植物中の137Cs放射能濃度のカリウム施肥による低減効果は、時間の経過とともに減少したが、施肥17年後の2009年でも効果を維持していた。これらの成果は、森林へのカリウム施肥は、植物および菌類への放射性セシウム蓄積を低減するために適切かつ有効な長期的措置であることを示唆している、としている。 | 図 5点、 表 2点 | Long-term effects of single potassium fertilization on 137Cs levels in plants and fungi in a boreal forest ecosystem | Rosen K., Vinichuk M., Nikolova I., Johanson K. | Journal of Environmental Radioactivity, 102(2), 178-184(2011) | 原著論文 | セシウム-137 | 農産物、環境(土壌・水等) | |
56 | チェルノブイリ事故後、長期にわたるロシア連邦の農村集落での住民被曝と防護措置実施に関わる重要な要因 | 本論文では、チェルノブイリ事故後のロシア連邦の農村集落での住民被曝と防護措置実施に関わる要因について報告している。ロシア連邦のチェルノブイリ事故後の年間被曝量1mSv/aを超える汚染地域を、セシウム-137汚染濃度、内部被曝線量、および森林との隣接度により分類した。最大汚染地域を例外として、内部被曝線量は植物根の吸収できるセシウム-137量の低下に伴い減少した。セシウム-137汚染濃度が555(kBq /m2)を超える地域では逆の傾向が見られた。これは、措置の縮小や停止および立ち入り制限措置が継続している地域の森林産物の消費増加により説明可能である。27集落を対象に過去の措置効果の評価および住民への被爆とその経時変化を支配する最重要な要因の特定を検討した。最大40%の被曝線量を低減する措置の効果は長期的には低下傾向にあった。農村集落における継続的な環境浄化の必要性を、一部集落および全汚染地域に対して評価したところ、措置は少なくとも2045年まで重要な要因であることがわかった。根圏の改良(耕起、すきお越し、および蒔き直し)およびセシウム結合物質(フェロシン)の動物への投与による内部被曝線量低下の大きな効果が特定の集落で認められた。森林から離れたところにある集落では汚染濃度で標準化した内部被曝線量と集落周辺の泥炭層の割合の相関に直線関係が見られた。森林近辺の集落ではこの関係は弱く、内部被曝線量は森林食品産物による影響を強く受けていることが示唆された。牛乳は未だロシア農村集落での内部線量に最も関与の大きい製品であるが(森林から離れた集落では70%以上の寄与率である)、森林近辺の集落ではキノコによる内部被曝線量に対する影響が乳による影響と同程度であることが報告されている。 | 図 3点、 表 11点 | Important factors governing exposure of population and countermeasure application in rural settlements of Russian Federation in the long term after the Chernobyl accident | Fesenko S., Jacob P., Alexakhin R., Sanzharova NI, Panov A., Fesenko G., Cecille L. | Journal of Environmental Radioactivity, 56, 77-98(2001) | 原著論文 | セシウム-137 | 農産物、畜産物、環境(土壌・水等) | |
57 | チェルノブイリ原子炉事故で放出されたヨウ素-131およびセシウム-137のミルクへの移行 | 放射性核種の大気から牧草-ミルクへの移行に関して、乾燥堆積および湿潤堆積(wet deposition)がそれぞれヨウ素およびセシウムの移行に重要であったことを示す論文である。Bq /L単位で測定したミルク中のヨウ素-131濃度は、Bq /m3単位の空気中ヨウ素-131粒子濃度の1000~2000倍の数値を示した。ヨウ素の牧草からミルクへの移行は既存のモデルの予想通りであった。セシウム堆積の10%が牧草の可食部に取り込まれた。セシウムの牧草からミルクへの移行は既存モデルの予想より1桁低かった、と報告している。 | 図 2点、 表 1点 | Transfer to milk of131I and 137Cs released during the Chernobyl reactor accident | Tracy BL, Walker WB, McGregor RG | Health Physiology, 56(2), 239-243(1989) | 原著論文 | ヨウ素-131, セシウム-137 | 畜産物、環境(土壌・水等) | |
58 | 西欧各地産エメンタルタイプチーズに含まれるストロンチウム-90, ウラン-238, ウラン-234, セシウム-137, カリウム-40, プルトニウム-239/240 | 本論文では、欧州各国のミルクプラントから収集したエメンタルタイプチーズに含まれる放射性核種の調査結果を報告している。同チーズ中のストロンチウム-90およびウランの定量法を示し、これによりチーズ中のストロンチウム-90含量は放牧地の高度と有意な相関(r=0.708, スチューデントt-試験=6.02)を示すことを明らかにした。ストロンチウム-90放射能は最大で1.13、最小で0.29 Bq/ kgであり、ウラン由来放射能は最大でもウラン-238換算27mBq/ kgと非常に低かった。ウラン-234/ウラン-238の比から各地でウラン-234が天然存在比より大きく濃縮されていることが示された。この濃縮はチーズの地理的生産地と有意な相関がなかったことから、牧草・土壌・地下水の地質学的特性に起因していると考えられる。これらの結果から、ミルク中のウランは、ウシの飼料由来よりむしろ飲水由来の影響が大きいと考えられ、この発見は核事故後の乳製品への放射性元素汚染のモデルに重要な知見を与える。また、ストロンチウム-90含量および少し信頼性は劣るがウラン-234/ウラン-238比はチーズの産地判別に用いることができる。セシウム-137放射能はすべてのサンプル(20種)で検出限界である0.1ベクレルBq /kg以下であった。チーズ中の天然カリウム-40放射能の値(15-21 Bq /kg)に基づき、ミルクからチーズへのアルカリカチオンの除去係数はおよそ20と計算された。プルトニウム放射能は0.3 mBq /kgの検出限界以下であった、としている。 | 図3 点、 表 3点 | 90Sr, 238U, 234U,137Cs, 40K and239/240Pu in Emmental type cheese produced in different regions of Western Europe | Froidevaux P., Geering JJ, Pillonel L., Bosset JO, Valley JF | Journal of Environmental Radioactivity, 72, 287-298(2004) | 原著論文 | ストロンチウム-90, ウラン-238, ウラン-234, セシウム-137, カリウム-40, プルトニウム-239/240 | 畜産物、食品 | |
59 | アルギン酸カルシウム、フェリシアン化鉄(II)、ヨウ化カリウムおよび亜鉛-DTPA同時経口摂取によるラットのストロンチウム-85, セシウム-137, ヨウ素-131, セリウム-141体内残留の減少 | 本論文では、アルギン酸カルシウム、フェリシアン化鉄(II)、ヨウ化カリウム混合物およびキレート剤としてのジエチレントリアミン5酢酸亜鉛(亜鉛-DTPA)の同時経口摂取が、放射性ストロンチウム、セシウム、ヨウ素、セリウムの体内残留にどのような効果を及ぼすかを調べている。7週齢雌ラットに、この解毒剤を実験開始から3日間投与し、放射性元素は実験2日目に投与した。ストロンチウム-85, セシウム-137, ヨウ素-131経口投与およびセリウム-141腹腔内投与6日後およびセリウム-141経口投与1日後に、全身、胴体、消化管、肝臓、腎臓および各重要臓器の放射性元素の残留を調べた結果、四薬品同時経口摂取により、経口摂取の放射性ストロンチウム、セシウム、ヨウ素および腹腔内投与の放射性セリウムの体内残留が減少した。亜鉛-DTPAは混合物中の解毒剤の効果を低下させず、また、混合物は亜鉛-DTPAの効果に有意な影響を与えなかった。以上の結果から、アルギン酸カルシウム、フェリシアン化鉄(II)、ヨウ化カリウムおよび亜鉛-DTPA同時経口摂取は、特に環境中放射能濃度が長期間上昇する場合の事後治療に有用な可能性がある、としている。 | 表 2点 | Reduction of 85Sr,137Cs, 131I and141Ce retention in rats by simultaneous oral administration od calcium alginate, ferrihexacyanoferrate (II), KI and Zn-DTPA | Kargacin B., Kostial K. | Health Physics, 49(5), 859-864(1985) | 原著論文 | ストロンチウム-85, セシウム-137, ヨウ素-131, セリウム-141 | 防護技術 | |
60 | 牧草地の放射能汚染時における乳牛への清浄給餌のコストと実用性 | フィンランドの酪農において、放射能事故1年目に汚染された牧草の摂取を減らす対策として、他の粗飼料の供給が不十分な状況で清浄給餌を行うための、農園および地域のコストを試算した論文である。試算にはミルク生産に関する支出および収入を考慮し、経済計画のために開発した農園モデルを用いた。仮想汚染シナリオは、環境への拡散および陸上食物連鎖に伴う移行に関するRODOSモデルにより構築した。仮想的に環境拡散および堆積が起きた2つの類似したシナリオの6月上旬および7月の介入コストを見積もった。参照として、地域の飼料をすべて置き換える場合のコストを計算した。後者のシナリオでは、飼料を交換するコストはサイレージの入手しやすさにより6月が7月よりも高かった。最初のケースでは、清浄給餌のための追加費用は通常の生産コストの1/5であった。農業者への効果的な助言/支援サービスは、実質的な措置実施に貢献するものの、高コストと不十分な清浄飼料の供給であれば、清浄給餌の利用には限度がある、としている。 | 図 9点、 表 1点 | Costs and practicability of clean feeding of dairy cattle during radioactive contamination of grasslands | Rantavaara A., Karhula T., Puurunen M., Lampinen K., Taulavuori T. | Journal of Environmental Radioactivity, 83, 399-414(2005) | 原著論文 | セシウム、ヨウ素、ストロンチウム | 畜産物 | |
61 | 放射性核種の畜産物への移行:移行係数の改訂推奨値 | 本論文は、種々の放射性核種の畜産物への移行に関して報告している。広範囲にわたるロシア語の総説情報を含め、畜産物への放射性核種の移行係数を導くために使用できるデータの編集に着手してきており、示されているデータベースは、(i)牛、羊及び山羊の乳、(ii)牛、羊、山羊、豚と鶏の肉、そして(iii)卵に対する一連の放射性核種に対して移行係数の推奨値を提供するために用いられてきた。これらの値は、TRS 364(「温暖地での放射性核種の移行予測のための特性値ハンドブック」、国際原子力機関、1994年)と呼ばれたハンドブックに代わる、移行特性に関する国際原子力機関の新たなハンドブックで使われている。本論文では、データの同定・照合の方法と手順、そして用いた前提について概説している。TRS 364における“予想”値と、新たなデータベースから得られる改訂されたハンドブックにおける推奨値との間には、顕著な差がある。3つのミルクの推奨値で、TRS 364の値と比較して、少なくとも一桁大きくなり(クロム及びプルトニウム(牛)、プルトニウム(羊))、一つのミルクの推奨値で低い値となる(ニッケル(牛))。肉では、4つの値(アメリシウム、カドミウム及びアンチモン(牛)、沃素(豚))で、TRS 364の値よりも、少なくとも一桁大きくなり、8つの値(ルテニウム及びプルトニウム(牛)、ルテニウム、ストロンチウム及び亜鉛(羊)、ルテニウム及びストロンチウム(豚)、マンガン(鶏))で少なくとも一桁小さくなる。論文では、これらのデータには多くのギャップがまだあることも指摘している。 | 図 1点、 表 10点 | Radionuclide transfer to animal products: revised recommended transfer coefficient values | Howard B. J., Boresford N. A., Barnett C. L., Fesenko S. | Journal of Environmental Radioactivity, 100, 263-273(2009) | 原著論文 | ヨウ素、ストロンチウム、セシウム、プルトニウムなど多数 | 畜産物 | |
62 | 塩性湿地植物から羊の組織、乳への放射線核種の移行 | セラフィールド再処理プラントからアイルランド海に放出される放射性核種は、イギリス西海岸沿いの、海潮で洗われる牧草地に堆積する。これら牧草地の多くで羊や牛が放牧されている。本論文ではセラフィールドプラントの近くで収穫した塩性湿地植物を、子羊や成体の雌羊に8週間与えた制限給餌研究について報告している。可食組織に含まれる60Co、95Nb、106Ru、134Cs、137Cs、238Pu、239,240Pu、241Amの放射能濃度を測定し、移行パラメーターを試算した。数種の放射性核種については、(短期間の試験では)食餌中の放射能濃度と平衡に達しないと考えられる。それでも本研究の期間は、子羊が塩性湿地で放牧される期間と同程度であり、農業管理の観点から十分現実に即したものである。セラフィールド近隣の塩性湿地で放牧される成体羊乳に含まれる137Csと239,240Puの放射能濃度を測定した現地調査研究についても併せて報告している。 | 図 2点、 表 6点 | The transfer of radionuclides from saltmarsh vegetation to sheep tissues and milk | Beresford NA, Howard BJ, Mayes RW, Lamb CS | Journal of Environmental Radioactivity, 98(1-2), 36-49(2007) | 原著論文 | コバルト-60、ニオブ-95、ルビジウム-106、セシウム-134、セシウム-137、プルトニウム-238、プルトニウム-239, 240、アメリシウム-241 | 畜産物 | |
63 | 環境大気中の放射能モニタリングをするための最適試料容量 | 本論文では、環境大気中の放射能モニタリングをするための最適空気試料容量を求める方法について記載する。ハンフォードでの環境大気中の放射能測定における最適試料容量は約1, 000立方メートルであった。流速を増加させサンプリング時間を長くすると計測精度が上がる。しかし、この容量以上では精度の上昇はわずかであり、また、フィルターからの粒子の脱落、アルファ線測定効率の低下およびサンプリングポンプの負荷が問題となる、としている。 | 図 4点、 表 2点 | Determining the optimum sample volume for environmental airbone radioacitivity monitoring | Boothe G F, Priddy G R, Ruben R H, McBaugh D. | The Radiation Safety Journal, 94(Supplement1) S21-S26(2008) | 原著論文 | イットリウム-90、セシウム-137、カリウム-40、ルビジウム-87、トリウム-234、プロトアクチニウム-234、鉛-214、ビスマス-214、鉛-210、ビスマス-210、ラジウム-228、アクチニウム-228、鉛-212、ビスマス-212、タリウム-208、トリウム-231、アクチニウム-227、鉛-211、タリウム-207、ウラン-238、ウラン-235、ウラン-234、プルトニウム-239、リウム-232、アメリシウム-241、ラジウム-226、ポロニウム-210、リウム-230 | 分析技術 | |
64 | 原子力事故後の給餌に利用する際の動物飼料中の放射線核種の基準値(working level)の算定 | 本論文には、将来、原子力事故が起こった際に、ヨーロッパ委員会で利用される市販動物飼料原料中の放射性セシウムの最大許容限度が記載されている。英国での利用においてはより具体的なガイダンスが必要である。典型的な家畜飼料や飼料原料中の放射能濃度、飼料から製品への移行率の情報から、飼料原料と水中のセシウム-134、137とストロンチウム-90の実用的な基準値(working level)が算定され、その基準値(working level)を適用することにより、牛乳や畜肉、卵における放射能濃度が、対応する評議会の食品介入レベル(Council Food Intervention Level)を超えないように保証されなければならない。家畜飼料は複雑であるが、5%もしくはそれ以上の放射能の摂取に寄与するのが1~2種類の飼料原料に限られている。これらの飼料原料中の放射性セシウムの基準値(working level)は、最大許容レベルの20倍より高いものから20倍程度までと広く分布している。ほとんどの場合においては、最大許容レベルは不必要に厳しすぎる。乳牛と産卵鶏用を除き、飼料中のストロンチウム-90の基準値(working level)は放射性セシウムに比べて一般的に高い。本論文では、実効性に影響を与える要因と、畜産物中の放射能濃度の低減対策として給餌内容を変えることの効果についても,言及する。 | 図 4点、 表 7点 | Derivation of Working Levels for Radionuclides In Animal Feedstuffs for Use Following AaNuclear Accident | Woodman R F M, Nisbet A F | Health Physics, 77(4), 383-391(1999) | 原著論文 | セシウム-134、セシウム-137、ストロンチウム-90 | 畜産物 | |
65 | 放射線生物学:放射線防護の概念 | この総説では、これまでの放射線生物学の進展について紹介している。放射線の作用機構が長年に渡り研究され、遺伝子変異や染色体変化が放射線によるDNA損傷やDNA修復エラーにより引き起こされることが明らかとなっている。放射線量とDNA損傷の関係についての研究は今後も重要性が高く、このメカニズムを基礎とした発癌の危険性の指標となる放射線量反応モデルが検討されている。放射線生物学の研究は、放射線被曝から人間の健康を守るための最善の方法に常に着目している。 | Radiation biology: concepts for radiation protection | Preston R J. | Health Physics, 88(6), 545-556(2005) | 総説 | 防護技術 | |||
66 | チェルノブイリ事故後の牧草-乳牛-牛乳経路におけるヨウ素とセシウムの移行 | 本論文は、チェルノブイリ事故後の放射性物質の牧草-乳牛-牛乳経路における移行を報告している飼料や牛乳における131Iと137Csの時間依存的濃縮を示す150以上のデータセットを、最小区画分析モデルを用いて評価した。牧草-乳牛-牛乳経路におけるセシウムの移行は、3区画モデルで説明できた。131Iについては、牛乳への緩慢な分泌を示すデータセットが少ないため、特定のモデルは結論づけられなかった。牧草における風化半減期と、飼料から牛乳への平衡移行係数は、ほぼ正規対数型の頻度分布を示した。植物での風化半減期の平均値は、ヨウ素では9.1±0.6日、セシウムでは11.1±0.8日で、1986年以前に行われた実験による平均値とよく一致した。飼料から牛乳への平衡移行係数の平均値は、ヨウ素では3.4±0.4 10-3dL-1、セシウムでは5.4±0.5 10-3dL-1であった。これらはともに、チェルノブイリ事故前のデータセットから計算された平均値より低かった。この違いについては(1) 放射性降下物は可溶性のトレーサーに比べて取り込まれにくい、(2) 移行過程が緩慢なため、いくつの実験において チェルノブイリ事故後の移行係数が早期に結論づけられ過小評価された、(3) 甲状腺で固定中に崩壊するため、131Iの移行は長寿命のヨウ素同位体に比べて少ないことにより説明づけられる。飼料から牛乳への131Iの移行は乳量と関係するが、セシウムについては、乳量および飼料タイプの影響は明白ではなかった、としている。 | 図 3点、 表 5点 | Transport of Iodine and Cesium via the Grass-Cow-Milk Pathway after the Chernobyl Accident | Kirchner K. | Health Physics, 66(6), 653-665(1994) | 原著論文 | ヨウ素-131、セシウム-137 | 畜産物 | |
67 | キノコにおける放射性核種137Csの蓄積 | 放射性セシウム(137Cs)は、地表や生物圏を汚染する放射性核種の一つであり、核爆発に由来する放射性降下物として、生物地球化学的循環サイクルに入り込む。137Csはいろいろな土壌および:キノコから検出されるがキノコに含まれる137Cs量は種によって異なることが報告されていることから、この論文では、12種のキノコを、1974年6月29日から10月9日に、欧州5カ国から収集し、乾燥させたのち、137Cs放射能が10pciまたは5pCiの低いレベルまで測定できる装置を用いて、137Cs蓄積のばらつきを定量的に調査した結果を報告している。キノコによって、137Csの蓄積に大きな差異が見られ、また、137Csはキノコの軸部分より傘により多く含まれることが多くのキノコで確かめられた。数名の専門家は地衣類-トナカイ-ヒトにおける食物連鎖を介した137Cs被曝(burden)に相関があることを見出しているが、キノコに含まれる137Cs量にこのような大きなばらつきがあることは、食用キノコの摂取によるヒトの放射線被曝(radiation burden)の推定が難しいことを示している、と報告している。 | 図 2点、 表 1点 | Accumulation of the Radioactive Nuclide137Cs in Fruitbodies of Basidiomycetes | Haselwandter K. | Health Physics, 34(6), 713-715(1978) | 原著論文 | セシウム-137 | 農産物 | |
68 | 放射性物質降下後のミルク中のセシウム濃度の長期的減少 | チェルノブイリ事故後のオーストリアにおけるミルク中の放射能の経時的変化を調査した論文である。放射性物質降下後の急激で短期的な放射能減少と、事故後数年にわたる中期的な放射能の減少の両方が、放射性降下物から予測される全被爆を推定するために非常に重要である。局所的な放射性物質降下量、植物間の差異、あるいは動物の個体ごとの代謝の差異等によるアーティファクトを避けるため、広域な生産物を測定対象とし、オーストリアの大規模粉ミルク工場で生産された粉ミルクの中の放射能濃度の測定を行ったところ、事故直後の1986年5月から8月までの間、半減期約34日間の速度で放射能が減衰した後、数年間に亘って放射能のゆっくりとした減少が見られ、見かけの半減期は、1.5-2.0 年のレベルであったと報告している。。生産場所の違いによる放射能の減少の差異についても論じており、また、ミルクと乳製品の放射性セシウム量は、牧草や干し草中の存在量に直接的に依存しており、ミルクの放射性物質の時間的変動は、それら原料の放射性物質の時間的変動と密接に対応してる、としている。この結果から、論文では、牧草や干し草を餌としている牛や羊の肉の放射性物質は、放射性物質降下直後にその動物体内での生物学的半減期が放射線量の減少に影響を与える場合を除き、同様の時間的変動パターンを示すことを示唆している。 | 図 6点、 表 1点 | Longterm reduction of ceasium concentration in milk after nuclear fallout | Muck K. | The Science of the Total Environment, 162:63-73(1995) | 原著論文 | セシウム-137 | 食品、畜産物 | |
69 | ミルクの放射性ヨウ素汚染への防護措置について | 放射性ヨウ素で汚染したミルクの防護措置についてまとめた総説である。放射能汚染していない餌を乳畜に与えることが、ミルクの放射性ヨウ素汚染への最も効果的な防護措置である。また、地上に降下する他の放射性核種汚染への防護措置としても一定の効果が期待できる。他に、放射能の物理的減衰に十分な期間日持ちする乳製品に、ミルクを加工することも効果的である。ミルク中の放射性ヨウ素を低減するには、餌に添加剤を与えるという代替手法も効果がある。非放射性ヨウ素の投与は現場で実際に利用できる選択肢であるが、ミルク中の放射性ヨウ素レベルをせいぜい3分の1程度にしか低減できない。特に反芻動物の場合、既に大量のヨウ素を餌から摂取しているため、非放射性ヨウ素剤の効果を期待するには、十分に高い量(乳牛には少なくとも1日1g)を与えなければならない。今のところ、異なる反芻動物種で設定された非放射性ヨウ素の最適投与量を他の反芻動物種に適用しても良いかどうか判断するにはデータが足りない。過塩素酸塩やチオシアネートなどの他の化合物もミルクや甲状腺への放射性ヨウ素移行を低減する。これらの化合物も非放射性ヨウ素と同程度の効果があると思われる。しかし、これらの化合物を放射性ヨウ素に適した添加剤として考えるには、ヒトや反芻動物への効果や悪影響(=毒性の有無)に関する情報が不十分である。本総説では、動物種によって放射性ヨウ素がどの程度ミルクへ移行するのか、ヨウ素剤の経口投与でどの程度抑えられるのか、過塩素酸カリやチオシオン化カリを投与した際の動態や効率に関して、それぞれ図表を引用して説明している。また、本文内では、ヨウ素剤やその他添加剤のリスクやベネフィットに関した論文を多数紹介している。 | 図 2点、 表 3点 | A Review of Countermeasures to Reduce Radioiodine in Milk of Dairy Animals | Howard J.B., Voigt G., Segal G.M., Ward M.G. | Health Physics., 71(5), 661-673(1996) | 総説 | ヨウ素 | 食品、畜産物 | |
70 | 放射性エアロゾルのうちで植生による捕捉分の測定値の解析 | 大気中に放出された放射性核種の一部は植生に捕捉される。このエアロゾル放射線は、経口や体外からの曝露でヒトに影響する放射線量となりうる。本論文は、この放射線がヒトに与える影響を評価モデル式によって正確に見積もるために、植生に捕捉されたエアロゾル測定値rを統計学的に解析したものである。まず、過去の研究で測定された牧草地およびその他の植生における放射能の平均値をまとめた。しかし、測定サンプル数が少なく、土地の水分状態の影響も受けるため、特に、牧草地以外の葉物野菜や園芸作物の栽培地で得られた値を用いることには注意する必要がある。rは草本密度Yvとの相関式で直接的な関係が認められ、牧草地での測定値rは正規分布していることが示された。線量評価モデルで使われるr/Yv比の変動性の確率分布関数は対数正規分布に近似した、と報告している。 | 図 2点、 表 4点 | An analysis of measured values for the fraction of a radioactive aerosol intercepted by vegetation | Miller CW | Health Physics. , 38(4), 705-712(1980). | 原著論文 | ヨウ素、セシウム | 農産物 | |
71 | ヨウ素131で汚染された野菜での放射能の保持と除去 | 本論文では、原子力発電、核燃料リサイクル施設、その他の場所で起きた放射能汚染の際の有効なガイドラインを策定するために、隔離条件下で、ヨウ素131をNaI溶液として食用植物に散布した際にどの程度保持されるか、さらにその汚染が除去できるかについて検討した結果を報告している。葉物植物が放射性ヨウ素を最も高く保持するため、放射能漏れの際に一番注目すべきものであった。多くの植物に散布した放射性ヨウ素の75~90%は、通常の調理過程で除去することが可能であったことから、食用時に非常に高い汚染状態となっていることは、限定的と考えられた。重大な放射能漏れ事故の際に放射性ヨウ素の体内への取込を防ぐためには、一番危機的な状況下では放射能漏れ以前に調製された食品に極力切り替えることが良いと考えられる。様々な植物に対して放射性ヨウ素を除去するための体系的な知見は、適切な行動を取る際の一助となるであろう、としている。 | 表 5点 | Retention and removal of 131-I from contaminated vegetables | Thompson J.G. Jr., Howe S. M. | Health Physics Pregamon Press, 24(March), 345-351( 1973) | 原著論文 | ヨウ素-131 | 食品、農産物 | |
72 | 内部被曝量測定に関する総説 | 本稿では、内部被曝量測定の研究史と現状について概説する。具体的には、測定基準と測定モデル、線量係数(dose coefficients)と摂取保持率(intake retention fractions)の導出、バイオアッセイ測定、摂取量と線量の算出、について触れる。さらに、特別の設備あるいは作業のための内部被曝量測定や、計画を実行するための方法論の必要性についてのガイダンスを作成し、提供する。また、内部被曝量測定の目的についての議論のみならず将来的な展開と方向性への提言も盛り込んでいる。 | 表 2点 (数式31点) | Internal dosimetry: A review | Potter CA | Health Physics, 88(6), 565-578(2005) | 総説 | ラジウム-226、ウラン、プルトニウム-239 | 防護技術 | |
73 | チェルノブイリ事故後のセシウム137汚染食品の摂取による内部被曝 報告1.一般モデル:ウクライナ・リウネ州(Rovno Oblast)の成人の摂食放射線量と被曝対策の効果 | 1986年4月のチェルノブイリ事故では70-100 PBqの ①異なる措置策が講じられた場合に ②事故後6年までの限られた期間であるが、リウネ州(Rovno Oblast)北部の成人に対して(第1報)、そのモデルを当てはめて検証することである。 成人が実際に受けた放射線量は、措置を実施しなかった場合と比べて、1/4から1/8に減少した、と報告している。 | 図 12点、 表 11点 | Internal Exposure from the Ingestion of Foods Contaminated by 137Cs after the Chernobyl Accident. Report 1. General Model: Ingestion Doses and Countermeasure Effectiveness for the Adults of Rovno Oblast of Ukraine | Likhtarev I. A., Lionella N. K., Vavilov S. E., Gluvchinsky R. R., Perevoznikov O. N., Litvinets L. N., Anspaugh L. R., Kercher J. R., Bouville A. | Health Physics, 70(3), 297-317(1996) | 原著論文 | セシウム-137 | 食品 | |
74 | 放射性核種の淡水生物相への移行に関する国際的モデルの妥当性確認試験 | 国際原子力機関の放射線安全性のための環境モニタリング(EMRAS)プログラムの下で、カナダ原子力公社Chalk River研究所敷地内にあるPerch湖での60Co、90Sr、137Cs、3Hの放射能を、11の予測モデルを用いて、淡水域における最初の有機物生成生物、無脊椎動物、魚類、両生類、爬虫類、および哺乳類について予測した論文である。追加の作業と解析により放射性核種移行の予測が改善されるが、そのために必要な地域の数が、種々の生物種の予測値と実測値を比較することで明確になった。いくつかの生物種に関して、相違点は栄養レベルや安定な類似性による影響のような生態学的要因によって説明できる。哺乳類、両生類、爬虫類では、一部関連データの不足のため、モデル予測値と実測値の一致程度は比較的低かった。 さらに、他の水域での状態を代表する条件での実験から得られた予測濃度は、過小評価となることがあった、としている。 | 図 2点、 表 15点 | An international model validation exercise on radionuclide transfer and doses to freshwater biota | Yankovich TL, Vives i Batlle J, Vives-Lynch S, Beresford NA, Barnett CL, Beaugelin-Seiller K, Brown JE, Chen J-J, Copplestone D., Heling R., Hosseini A., Howard BJ, Kamboj S., Kryshev AI, Nedveckaite T., Smith JT, Wood MD | Journal of Radiological Protection, 30, 299-340(2010) | 原著論文 | コバルト-60、ストロンチウム-90、セシウム-137、トリチウム | 水産物、環境(土壌・水など) | |
75 | 放射性セシウムの起源が放射性降下物のトナカイ肉への移行に与える影響 | スウェーデン国内5地域におけるトナカイの放射性セシウム汚染のデータおよび放射性セシウムの補間堆積データを使用し、トナカイ肉への移行の空間的変動を数値化し、異なる地域におけるこの数値が時間とともにどのように変化するかを考察した論文である。また、世界的な放射性降下物あるいはチェルノブイリの放射性降下物による汚染の程度は地域により異なっていたため、放射性セシウム降下物の起源または年代(age)がトナカイ肉への移行に与える影響についても解明することができた。放射性セシウムのトナカイ肉への移行については、著しい地域差があった。チェルノブイリ起源の137Cs が少なかったスウェーデン北部の2地域では、チェルノブイリからの放射性物質の降下開始後の最初の年の食肉処理最盛期に算出した総移行係数(aggregated transfer coefficient)(Tag)は、低かった(0.15および0.36 m2kg‐1、1-4月)。チェルノブイリ由来の放射性堆積物が大部分を占めたスウェーデン中央部の2地域(総堆積(total deposition)の各83%および93%)で冬季(1-4月)に算出した平均Tag値は、それぞれ0.78 m2kg‐1 と 0.84 m2kg‐1であり、トナカイ1頭の最大値は 1.87 m2kg‐1であった。初秋から晩冬にかけてトナカイの食餌が汚染の少ない維管束植物から、より汚染の多い地衣類に変化することを受け、Tag値は3倍に増加した。1986年から2000年にかけてのトナカイ肉中の137Csの減少は地域によって異なり、チェルノブイリ起源の降下物が少なかった北部2地域では、有効半減期(Tef)がより長く(それぞれ11.0および7.1年)、その他の3地域では半減期がより短かった(3.5-3.8年)。この観測結果は、チェルノブイリ起源の降下物が最も少ない地域で、初秋における減少が見られなかったことも含め、中長期にわたり土壌中の放射性セシウムが徐々に、しかし、可逆的に固定する(fixation)という理論を支持するものである。これらの結果は、137Cs のトナカイ肉への移行の程度およびその時間経過による減少は、放射性セシウムの起源の違いにより影響を受けること、また、更なる事故の際には、それ以前の汚染が放射性セシウムの移行に重大な影響を与えるで可能性があるとしている。 | 図 3点、 表 5点 | Effect of origin of radiocaesium on the transfer from fallout to reindeer meat | Birgitta Ahman, Simon M. Wright, Brenda J. Howard | The Science of Total Environment, 278, 171-181(2001) | 原著論文 | セシウム-137 | 畜産物 | |
76 | 泥炭地植生におけるカリウムおよび放射性降下物セシウム134、137の土壌から植物への移行の季節的変化 | 泥炭湿原において放射性核種等の土壌から植物への移行を解析した論文である。泥炭湿原の植物3種(ミネハリイ(Trichophorum caespitosum)、ヌマガヤ(Molinia coerulea)、カルーナ(Calluna vulgaris))を対象に、1987年6月から11月に約14日間隔で137Csの濃度、137Cs対134Csの比および非放射性Kを定量した。多年生根のみを持ちながら、古い葉を枯らして毎年発芽するミネハリイ(Trichophorum caespitosum)とヌマガヤ(Molinia coerulea)の2種の草本では、生育期において137Csの濃度が大幅に減少した(各1800-240および4000-320 Bq kg-1乾燥重量)。この2種の草本では、カリウムと放射性セシウムの季節変動に非常によく似た傾向がみられ、その結果137Cs対Kの比は年間を通しほぼ一定であった。一方、チェルノブイリからの放射性降下物で表面が汚染された常緑植物のカルーナ(Calluna vulgaris)(ヒース)では、放射性セシウムが葉から吸収され植物内部に移行したにもかかわらず、1987年中のKおよび137Csの濃度はむしろ一定であった(葉 約10,000 Bq kg-1、茎 約5000 Bq kg-1乾燥重量)。2種の草本について、植物対土壌の濃度比率(CR)を 総137Cs、世界的な放射性降下物由来の137Csおよびチェルノブイリ由来の137Csに分けて計測した。ミネハリイ(Trichophorum caespitosum)では、世界的な放射性降下物由来の137CsのCRは春から秋にかけて1.9から0.08に減少し、チェルノブイリ由来の137CsのCRは1.4から0.2に減少した。ヌマガヤ(Molinia coerulea)でも同様の傾向がみられた。CR値の季節的変化および世界的な放射性降下物由来のCs137とチェルノブイリの瓦礫からの137Csに異なる挙動が見られたことについて考えられる理由を検討した。泥炭土への137Csの収着に関する分配係数Kd(distribution coefficient Kd)を使って(Baesの式で)求めたこれらの植物のCRの推定値は、生育期において観測された平均CR値に非常によく一致していた、と報告している。 | 図 4点、 表 3点 | Seasonal Variation of Soil-to-Plant Transfer of K and Fallout 134,137Cs in Peatland Vegetation | K. Bunzl and W. Kracke | Health Physics, 57(4), 593-600(1989) | 原著論文 | セシウム-134、セシウム-137、カリウム | 環境(土壌・水など) | |
77 | 牛乳のヨウ素移行係数値の再評価 | 環境から牛乳への131Iの移行を予測する際の移行係数(fm)として1×10-2 d/lが多くの公表された環境評価で使用されているが、アメリカ合衆国原子力規制委員会の規制ガイド1.109では、fmの値として牛乳で0.6×10-2 d/l、ヤギ乳で6×10-2 d/lを推奨している。本論文では、これらの値の妥当性について検討するため、出版された文献中のデータから、家畜によるヨウ素の吸収と畜乳への蓄積が平衡状態において測定されたと考えられるデータを選択し分析した。分析の結果、地域に特有な測定値がない場合においては、fmの値として牛乳で1×10-2 d/l、ヤギ乳で0.5 d/lが適切であることが明らかになった、としている。 | 表 2点 | A Review of Measured Values of the Milk Transfer Coefficient (fm) for Iodine | Hoffman FO | Health Physics, 35(Aug.), 413-416(1978) | 原著論文 | ヨウ素-131 | 畜産物 | |
78 | チェルノブイリの放射性降下物によって汚染された、北東スコットランドの牧草地で放牧されている、子羊中の137Cs、134Csおよび110mAg | 本論文では、低地の牧草地に放牧されている子羊の組織中における放射性セシウムレベルの減少について、チェルノブイリの放射性降下物による汚染から18および115日後に、子羊をと殺し調査した。この間に非汚染飼料を摂取していた個体におけるセシウムの放射能は、当初の3.5%に減少したが、汚染された牧草地に放牧され続けていた個体では、その減少は当初の13%であった。子羊が放牧されたこの地における、牧草中の137Csの濃度は、汚染から11から110日の間に半減期22日で減少した。なお、放牧される子羊により牧草地から除去される放射性セシウム核種の量は、全体のわずか0.01%であり、(1年後においても)40%以上が表層から10mm以内の土壌中に残存していた。牧草からみつかった少量の110mAgは、半減期8.9日で減少した。また、この放射性物質は肝臓組織へ蓄積することが明らかになった、としている。 | 図 2点、 表 5点 | Cesium-137, 134Cs and 110mAg in Lambs Grazing Pasture in NE Scotland Contaminated by Chernobyl Fallout | Martin C. J., Heaton B., Thompson J. | Health Physics, 56(4), 459-464(1989) | 原著論文 | セシウム-137、セシウム-134、銀-110m | 畜産物 | |
79 | 陸上および水中生態系における90Sr と137Csの生態学的半減期 | 本論文は、陸上および水中生態系における90Sr と137Csの生態学的半減期を明らかにすることを目的としている。ドイツ,デンマーク,オーストリア,スウェーデン各地で牛乳,穀物,果実,ジャガイモ,肉などの食品中における90Sr と137Csの生態学的半減期を過去の調査結果などを統合して総合的に算出し、また,森林や安定した土壌,牧草地帯,さらには河川における90Sr と137Csの生態学的半減期についても同様の手法で幅広く検討した。その結果,137Csは牛乳中で1.9~9.5年,小麦で3.0~6.1年,大麦で2.5~4.5年,ライ麦で2.8~4.5年,ジャガイモで2.4~7.8年,牛肉で4.1~45年,豚肉で1.8~15.9年であった。また90Sr は牛乳中で6.3~77.1年,小麦で8.6~17.4年,大麦で5.2~18.6年,ライ麦で4.0~11.9年,ジャガイモで10.9~28.4年であった。また,森林中の各種樹木の葉における137Csの半減期は1.3~11年と大きな幅があった。土壌(深さ10センチ程度)では137Csの半減期は土壌の性質によって大きく異なり,砂質の土壌では3.7~50年程度であったが,粘土質の土壌では33~294年と長時間を要することが明らかとなった。牧草地帯では137Csの半減期は1.3~55年で,牧草の種類によって大きく異なり,葉物よりも草の方が短い傾向にあった。淡水系の河川では調査した10地点の大部分は1年以下であった。また各種魚類における137Csの半減期は短いものでは半年以内,長いものでは6年にも及ぶものがあった。本論文では、生態学的半減期は水系や土壌など汚染が均一ではない場合には,観察期間を相当に長く取ることが重要である、としている。 | 図 6点、 表 15点 | Ecological half-lives of 90Sr and 137Cs in terrestrial and aquatic ecosystems | Prohl G., Ehlken S., Fiedler I., Kirchner G., Klemt E., Zibold G. | Journal of Environmental Radioactivity, 91(1-2), 41-72(2006) | 原著論文 | ストロンチウム-90, セシウム-137 | 農産物、畜産物、水産物、環境(土壌・水など) | |
80 | 25年間に及ぶ陸生および水生生物による放射性核種のモニタリング | 原子力発電所周辺でガンマ線を放つ放射性核種濃度を水域と陸上で25年間モニターした結果をまとめた論文である。。この種のものでは、長期にわたって実施され、かつ独立に検証された唯一の環境調査である。放射線影響を受けやすいもので、環境に関与し、生物濃縮しているものとして、着生藻類、凝集沈殿物、地衣類、腐植質を対象とした。これらはPPLサスケハナ原子力発電所近くのサスケハナ川とその周辺地域のモニタリングに用いられた。試料採取は最初の原子炉立ち上げ以前の1979年に開始し、その後24年間続けられ、この間に約300ヶ月分に及ぶデータセットが収集された。監視は1979年3月28日に起きたスリーマイル島事故の2ヶ月前から開始され、スリーマイル島下流の河川監視所のデータも含まれている。継続的な測定を行い、1986年にはチェルノブイリからの放射性降下物も検出した。得られた結果から、着生藻類がモニタリングに最も適していることが示唆された。また、放射性核種によって吸着しやすい生物が異なることも判明した。地衣類と腐食質は本質的には地上に設置されている放射性核種検出器と同等である。放射性ヨウ素131IはPPL原発からほとんど放出されていないものの、河川には混入していた。この放射性ヨウ素131Iは河川全体にわたって均一に分布しているわけではなく、より高濃度の放射性ヨウ素131Iは都市部近辺に多いことが明らかとなった。得られたデータによると、PPLサスケハナ原発から放出される放射性核種が、環境や住民の健康に負の影響を及ぼすものではないことが示唆された。この研究全体は背景放射線のデータベースとして有用であろう、としている。 | 表 6点 | 25-y study of radionuclide monitoring with terrestrial and aquatic biomonitors | Palms J., Patrick R., Kreeger D., Harris C. | Health Physics, 92(3), 219-225(2007) | 原著論文 | ヨウ素-131 | 環境(土壌・水等) | |
81 | アリューシャン列島アムチトカ島およびキスカ島における海水魚および海鳥中の放射性核種: 基準の確立 | アムチトカ島(北緯51度、東経179度)は1965年から1971年の間、3回の地下核実験場であった。1970年代半ば以来、この地域における海水魚および海鳥中の放射性核種に関する実質的な研究は存在していない。この研究ではアムチトカ島におけるマダラおよびタイヘイヨウオヒョウを含む10種の海水魚ならびにワシカモメ、エトピリカおよびホンケワタガモを含む5種の海鳥中の60Co、52Eu、90Sr、99Tc、129I、137Csおよびアクチノイド(241Am、238Pu、239,240Pu、234U、235U、236Uおよび238U)のレベルについて調査した結果を報告する。同種の試料をアムチトカ島から西へ130kmにおける標準地域であるキスカ島(北緯52度、東経177度)においても採取した。各試料は同一採取場で採取されたサイズの揃った(±15%)5個体以上の可食筋組織を混合したものとした。種間ならびにアムチトカ島およびキスカ島の試料間には差がないという帰無仮説について検証した。分析の結果、1,000 gの試料を72時間計測した場合において、多くの試料について放射性核種は検出限界以下であった。検出された放射線核種は137Cs、241Am、239,240Pu、234U、235U、および238Uのみであった。上位捕食の魚については137Csレベルの有意差が種間には存在したが地域間にはみられなかった。魚については10種中8種の一部の試料に、鳥についてはワシカモメのみにおいて検出限界以上の137Csが確認された。最も137Csレベルが高かったのはオショロコマの0.780 Bq kg-1(湿重量)およびマダラの0.602 Bq kg-1であった。アクチノイド全体では検出限界以上であったのは魚では234試料中73試料(31%)であったが、一方鳥においては98試料中3試料(3%)であった。自然界に元来存在する放射性核種である234Uおよび238Uはこれらの生体試料からは決まって検出されたが、アムチトカ島およびキスカ島間の試料中濃度の平均値に有意差は存在しなかった。アムチトカ島において検査した放射性核種の濃度は北半球の非汚染地域における濃度と同程度であり、汚染が知られているセラフィールド核燃料再処理工場周辺のアイリッシュ海よりも低かった、と報告している。 | 図 1点、 表 9点 | Radionuclides in Marine Fishes and Birds from Amchitka and Kiska Islands in the Aleutians: Establishing a Baseline | Burger J., Gochfeld M., Kosson D., Powers C.W., Friedlander B., Stabin M., Favret D., Jewett S., Snigaroff D., Snigaroff R., Stamm T., Weston J., Jeitner C., Volz C. | Health Physics, 92(3), 265-279(2007) | 原著論文 | コバルト-60、ユーロピニウム-52、ストロンチウム-90、テクネチウム-99、ヨウ素-129、セシウム-137、アメリシウム-241、プルトニウム-238、プルトニウム-239,240、ウラン-234、ウラン-235、ウラン-236、ウラン-238 | 水産物、環境(土壌・水等) | |
82 | チェルノブイリの放射性核種分布と移動、並びに、環境と農業における意味 | 1986年のチェルノブイリ事故により環境中に放出された放射線核種の分布と移動に関して記述する。チェルノブイリ災害は、被災地域おいて、放射線核種を含んだ農業生産物の消費が行われた。事故の影響を低減するための経済学と放射線学の重要性について記述する。放射線生態学の本質的な問題は、生物相の直接的な放射線汚染を受けた地域が、食物連鎖により許容基準濃度以上の放射線核種の濃縮があった地域に比べれば明らかに小さいという点にある。本論文は、被災地域の放射線によって誘発される生物相への影響に関して、災害発生後、長期間に渡り、ヒトを含む生態系への放射線核種の分布及び線量を通常の状況と比較して考察した。その分析結果から、放射線標準(radiation standard) がヒトに影響が無いレベルならば、生物相も電離放射線から適切に守られることを示していた、としている。 | 図 5点、 表 3点 | Chernobyl Radionuclide Distribution, Migration, and Environmental and Agricultural Impacts | Alexakhin RM, Sanzharova NI, Fesenko SV, Spirindnov SI, Panov AV | Health Phys, 93(5), 418-426(2007) | 原著論文 | セシウム-137 | 環境(土壌・水など) | |
83 | 放射線防護:現状と将来展望 | 論文「放射線防護:現状と将来展望」が、2004年度「放射線防護と測定に関する国際会議(NCRP)」において発表され、“Health Physic”の2005年11月号“The neutraceutical approach”の項目において出版された。この論文において、健康補助食品(dietary supplements)は、 栄養補助食品(neutraceutical) と記載され、保護効果は大きくは無いが無毒で、極めて認容性が良好であると分類されている。この論文は、果実と野菜による放射線防護に関する間違った議論を除けば、信用すべきであり完璧である。実験室レベル、並びに、疫学的レベルの事実が、それを証明している。例えば、疫学調査においては、広島と長崎の原爆からの生存者を対象にした、放射線誘発ガンに対する果実と野菜の保護効果に関する明瞭な事実が、最近報告されている。果実と野菜の抗ガン作用は、多数の弱い抗ガン作用を持つ成分の組み合わせによる相乗効果によるものであり、これが、同時に低い毒性となっている、としている。果実と野菜の放射線誘発ガンに対する保護機能に関しては、2005年にHayesらによる総説*が発表されている。 | Radiation Protectants; Current Status and Future Prospect | Hayes D. | Health Physics. 90(3):276. 2006. | 編集者への手紙 | 防護技術 | |||
84 | 放射線防護に関する国際委員会の歴史 | エックス線の発見から12ヶ月を経ずして、高線量被爆による重篤な影響に関する複数の論文が発表された。第一次世界大戦まで、複数の国において、放射線従事者の放射線被曝制限が提案されていた。1925年に、第一回「放射線に関する国際会議(ICRP)」がロンドンでおいて開催され、「放射線防護に関する委員会」の必要性が議論され、1928年にストックホルムで開催された第2回「放射線に関する国際会議」で、この委員会が設立された。本総説は、ICPRによる「放射線防護に関する委員会」の発展の歴史を、その方針と関わった重要人物を含めて、設立当所から現代に至るまでを追跡したものである。確定的影響を避けるための従事者の線量規制の段階から、公衆被爆増大の懸念に対応する確率的影響の認識を経るまでを辿っている。1928年から1990年までのICPRによる勧告に記載された主要な記事を取り上げてある。 | 表 12点 | A History of The International Commission on Radiological Protection | Clarke R., Valentin J. | Health Phys, 88(6), 717-732(2005) | 総説 | ヨウ素、セシウム、ストロンチウム等 | 防護技術 | |
85 | チェルノブイリ事故10年後のチェコ共和国森林でのトウヒ樹皮における137Cs放射能分布および樹皮総合移行率(bark aggregated transfer factor)に関する遡及的分析 | 1995年にチェコ共和国で192のサンプリング地点で収集されていたトウヒ樹皮サンプルの137Cs放射能(平均32 Bq kg-1)を分析した論文である。樹皮サンプルの137Cs放射能は、1986年のチェルノブイリ事故時に降水量の違いにより影響を受けた地域の137Cs堆積量とかなりの相関があった。樹皮の137Cs比放射能と137Cs堆積レベルの比から、樹皮総合移行率(Tag)は約10.5 × 10-3 m-2 kg-1と算出された。チェコ共和国のチェルノブイリ事故前の利用可能な土壌表面の137Cs堆積量および樹皮の137Cs残存比放射能(20 Bq kg-1)を考慮すると、実質総合移行率はチェルノブイリ事故後でT*ag(事故後) = 3.3 × 10-3 m-2 kg-1そしてチェルノブイリ事故前でT**ag(事故前)= 4.0 × 10-3 m-2 kg-1となった。トウヒ樹皮に関する137Cs のT*ag(事故後)は、1986年にチェコ共和国で137Cs降下物により、異なる影響を受けた地域間でそれほどの違いは認められず、これら総合移行率は、チェルノブイリ近郊の甚大な影響を受けた地域で報告された樹皮の平均総合移行率の値と殆ど同じであった。チェコ共和国でのチェルノブイリ事故前後の期間でのトウヒ樹皮に関する137Cs の総合移行率の数値の大きさも酷似していた。 地域の人為的大気汚染源の対策によって生じるトウヒ樹皮の酸性化の変動は、トウヒ樹皮での137Csの堆積と保持におおきな影響を与えなかった。樹皮のサンプリング地点の海抜が高くなると、事故時の降水で影響を受けた地域での樹皮における137Csの残存比放射能が上昇していた。これは海抜の上昇と共に降雨量が増加するためである、と報告されている。 | 図 5点、 表 3点 | Retrospective determination of137Cs specific activity distribution in spruce bark and bark aggregated transfer factor in forests on the scale of the Czech Republic ten years after the Chernobyl accident | Suchara I., Rulík P., Hülka J., Pilátová H. | Science of the Total Environment, 409(10), 1927-1934(2011) | 原著論文 | セシウム-137 | 環境(土壌・水等) | |
86 | 放射性セシウムの土壌-植物移行モデルの改良(使用パラメーターの縮小)と評価 | 放射性セシウムの土壌-植物移行モデルに関する論文である。既存の放射性セシウムの草本への移行モデルを小麦や大麦まで利用できるように拡張 し、また広範な土壌および接触時間のデータを使用して、モデルをパラメータ化した。モデル構造は、改訂され、モデルのパラメータ化に使用されていない利用可能なデータサブセットを用いて評価した。改訂モデルは、モデル構成要素の有用性を検証するために、体系的なモデル構造減少を試すための基礎モデルとして使用した。この解析でモデルの4つの変数(放射性セシウムの有機物質への吸着と土壌溶液のカリウム濃度のpH感受性に関係する変数)と一つの入力(pH)は必要ないことが示唆された。この解析の結果は、さらに、観測との比較により評価した縮小モデルを開発するために使用された。縮小モデルは、改良されて実用性が増し、少ない調整可能なパラメータと土壌特性の入力を備えている、としている。 | 図 4点、 表 5点 | Evaluating and reducing a model of radiocaesium soil-plant uptake | Tarsitano D., Young SD, Crout NMJ | Journal of Environmental Radioactivity, 102(3), 262-269(2011) | 原著論文 | セシウム | 農産物、環境(土壌・水等) | |
87 | 放射能汚染された牧草における85Srおよび134Csの有効半減期 | 本論文では、放射能汚染された牧草から放射線核種の減少、および付着した放射能の降雨による除去効果について、3種類の実験区画(220 m2)を用いて検討した結果を報告している。具体的にはWisconsin型の土壌断面高さ10インチ上に2インチの芝を移植したものを用いた。1966年の春に、自動散布機械を用いて140 m2の区画に85Srおよび134Csを各々10 mCi付着させた。区画の一部の牧草は、上部を自動的に覆うカバーで降雨を遮った。牧草の高さは区画ごとに2インチまたは6インチとした。遮蔽された区画の牧草は1-8日間隔で刈り取って、サンプルとした。ただし、開放部分は、75日間の実験中にあった20回の降雨毎に採取した。乾燥重量当たりの放射能の統計的な分析に基づいて求めた減衰曲線は、2種類の有効半減期を示した。遮蔽された部分の第一成分は、85Srが約10日、134Csが約15日であった。両放射性同位元素の第二成分は25日から50日以上の範囲であった。開放部分のサンプルは各降雨後、放射能が一様に低下した。85Srと134Csの半減期の第一成分は、それぞれ平均3-4日であった。そのとき、開放部分の第二成分は25日から50日以上の範囲であった、としている。 | 図 9点、 表 5点 | Effective Half-times of 85Sr and 134Cs For A Contaminated Pasture | Krieger HL, Burmann FJ | Health Physics, 17(6), 811-824(1969) | 原著論文 | ストロンチウム-85、セシウム-134 | 畜産物、環境(土壌・水等) | |
88 | 植生へのヨウ素沈着および植生上におけるヨウ素の生物学的半減期の測定 | 本論文では、Julich原子力研究所での圃場試験結果から、植生へのヨウ素の堆積速度は,単位面積あたりの植生の乾燥重,相対湿度,摩擦速度および生物学的線質係数に比例する半経験式を用いて表現できることを報告している。湿った牧草の表面上における放射性沈降物の堆積量は,乾いた牧草の表面の2倍以上であり、また,クローバーのヨウ素の堆積量は、牧草と比較して2倍以上であることを示している。ドイツ連邦共和国における干し草表面へのヨウ素の堆積速度は,給餌期間における平均として毎秒2cmと見積もられていたが、植生の表面は露や雨のために周期的に湿るため,堆積速度は毎秒約3cm程度に増加すると推測される。なお,エアロゾルおよびヨウ化メチルの堆積速度は,ヨウ素と比較して20分の1および200分の1程度であった。また,圃場試験結果によると,ヨウ素の牧草上における生物学的半減期は7.5日であった、としている。 | 図 4点、 表 6点 | Measurements of the deposition of iodine onto vegetation and of the biological half-life of iodine on vegetation | Heinemann K., Vogt KJ | Health Physics, 39(3), 463-474(1980) | 原著論文 | ヨウ素 | 畜産物、環境(土壌・水等) | |
89 | 植物に蓄積する放射性核種の環境半減期の調査 | 放射性核種は植物に集積した後、環境から除去される過程は初期汚染量を減衰させる放射性崩壊と結びついている。環境過程のみによって植物から放射能が半減する時間は境的半減期Twと呼ばれる。長寿命の放射性核種に関しては、汚染された土壌から得られた食品を摂取することでヒトが受ける線量はTw値(根からの取り込み量を決定する環境除去過程と初期被爆から収穫までの十分長い時間によって規定される)に直接的に影響される可能性がある。本論文では、様々な放射性核種について文献で報告されているTw値と堆積方法について調査した結果を報告している。 1)Tw値のばらつきに影響する因子は堆積する素材の物理化学的性質、植物のタイプ、生育型、気候、季節、および実験方法にある程度関連している。 2)成育中の植物のTw値は通常、休止期において報告された値より低い。 3)ヨウ素の蒸気と微粒子のTw値は他の元素微粒子で報告された値より小さい。 4)植物の重量ベースで算出されるTw値は土地面積ベースで算出される値より小さく、この違いは生育による希釈効果に起因する。 5)長寿命核種による汚染を評価するためにTw値を選択してもばらつきは生じるが、Twのばらつきは環境中放射性物質の評価で用いられる他の多くのパラメーターと比較して小さい、としている。 | 表 10点 | An examination of the environmental half-time for radionuclides deposited on vegetation | Miller CW, Hoffman FO | Health Physics, 45(3), 731-744(1983) | 総説 | ヨウ素-131、セシウム-141、セシウム-134、セリウム-144,ストロンチウム-90,ストロンチウム-89、ルテニウム-106、マンガン-54 | 農作物、環境(土壌・水等) | |
90 | 高密度群生土壌植物の放射性評価への影響調査-収穫植生に対する割合- | 本論文は、植物の土壌からの放射性核種の取り込み効果を確認するために、実験モデルを構築し、影響を調査した。その結果、土壌から植物への放射性核種の取り込みが高いほど、また収量が高い植物ほど土壌の正常化の速度が速かった。しかしながら、半減期の短い核種では、放射性核種の取り込みが高い植物の土壌正常効果の貢献は低かった、としている。 | 図 4点 | An examination of the effect in radiological assessments of high soil-plant concentration. Ratios for harvested vegetation | Schwarz G., Hoffman FO | Health physics, 39, 983-986(1980) | 原著論文 | テクニチウム-99 | 農産物、環境(土壌・水等) | |
91 | 環境中の137Csの崩壊 | 環境中の137Csの崩壊に関する多くの知見をまとめた解説である。Palmsらは、付着生物の環境セシウム137のレベルを経時的に調べた。25年間のモニターの結果、この核種は明らかにゆっくりと崩壊することを明らかにした。核実験によってこの核分裂産物が大気中に放出されて以来、健康研究の物理学者はこの核種の検出を続けた。私を含めて多くの人がこの核種レベルの低下を確認した。Palmの論文の確かなデータはこの崩壊の量的な評価を可能にした。 25年分のセシウム137のデータをプロットし、指数曲線で回帰させた。得られた崩壊定数は0.0753 y-1であった。この崩壊定数は、効果的半減期が9.2年であり、放射活性の半減期の30年より短いことを表している。この値の信頼区間は考慮しなかった。 Robinsonらは論文(2003)で、太平洋諸島の樹木の葉中のこの核種の有効半減期を特に注目していた。36年間の濃度測定で、彼らは8.5年(95%の信頼区間:8.0-9.8年)の値を得た。この生態系を考慮すると珊瑚環礁はPalmによって研究された温帯性生態系とは非常に異なるが、この有効半減期の値は良く一致する。仮に他のデータでもこの有効半減期が確実になるのであるなら、興味あることである。 樹木の根圏から取り除くことによって、Robinsonらは137Csは、土壌から地下水への移行により、樹木の根圏から減少するとした。おそらくPalmのデータにある同様の除去メカニズムが作用していものとしている。 | 図 1点 | Decay of environmental 137Cs | Cehn JI | Health Physics, 93(4), 325(2007) | 総説 | セシウム-137 | 環境(土壌・水等) | |
92 | チェルノブイリ放射性核種の分布と移動 | 1986年4月26日のチェルノブイリ原子力発電所第4号機の事故は、放射線防護における厳しい課題を提示したが、本論文は、チェルノブイリ放射性核種の環境汚染に関する予備的調査結果を報告している。事故の際、100ミリシーベルト(10レム)とする当時の暴露限界に基づいて人々が避難するために、早期の放射能測定によって汚染地域が決定された。特殊装備を備えた航空機による外部ガンマ線照射線量率及び放射線核種スペクトルの測定を行うことで、これらの地域を即時に決定した。その後、最も重要な長寿命放射性核種であるセシウム137の分布図はますます精緻になり、その後の事故の影響の管理状況の判定に用いられてきた。セシウム137の総放出量は70%がベラルーシ、ロシア連邦及びウクライナに堆積したが、また広く西ヨーロッパの国々にも堆積した。ヨーロッパ全域の汚染を示す二つの地図帳が作成され、ロシアの地図帳には他の放射線核種及び外部ガンマ線照射線量率のデータが含まれている。セシウムは揮発性であるため、放射性セシウムは揮発性放射線核種として挙動を示す。ストロンチウム90はその前駆物質である揮発性のクリプトンとルビジウムが反応炉の中で既に崩壊していることから、難揮発性元素としての挙動を示す。事故により放出されたほぼすべての難揮発性元素(ストロンチウム、プルトニウム等)は、反応炉から30㎞圏内にとどまった。本論文では、事故によるセシウム137の堆積の北半球全域を含むより完全な地図帳の開発が提案されており、また水は事故後のヒト曝露に関わる主要な媒介物ではなかった、としている。 | 図 4点、 表 3点 | Chernobyl Radionuclide Distribution and Migration | Izrael YA | Health Physics, 93(5), 410-417(2007) | 原著論文 | セシウム-137、ストロンチウム-90、プルトニウム-238等 | 環境(土壌・水等) | |
93 | 放射性物質下降後の食品中セシウム含量の長期的減少 | 放射性物質の降下後の長期間における体内への取り込みに関係する様々な食品中の放射能の長期的減少についての総説である。中央ヨーロッパの様々な国における減少程度をチェルノブイリ事故と過去の核実験とで比較した。また、核物質降下直後の短期的減少と最初の摂取被曝量に相当する1年間の経時変化についても記載した。初期の減少は、主として植物の生長にコントロールされている。成長期でのレタスやホウレンソウの効果的半減期は4.2日であり、牧草では10.5日)であり、、その結果として牛乳の半減期は33日であった。局所的な放射性物質降下、植物の違い、個々の動物の代謝の個体差による違いを除くため、食品のサンプリングは非常に広い地域とし、多数の試料とした。長期的内部被爆と関係する2年目以降何年にもわたる放射能の減少は、初期よりはゆっくりであったが継続した。それぞれの食品の半減期は、牛乳1.4~2.2年、野菜1.4~2.7年、芋類2.0~2.6年、穀類3.0~3.4年、果実1.2~1.6年であった。食品や地域による違いについても論じた。牛乳の半減期は、中央ヨーロッパの3カ国で異なり、オーストリア708日、ドイツ663日、チェコ538日であった。この半減期は、核実験の際の4.5~4.9年より大幅に短かった。これは、核実験の際の放射性物質の降下は何年にもわたったのに対し、チェルノブイリ事故の際は1回の短期間であったことで説明できる、としている。 | 図 18点、 表 3点 | Long-term effective decrease of cesium concentration in foodstuffs after nuclear fallout | Muck K. | Health Physics, 72(5), 659-673(1997) | 総説 | セシウム-137 | 農産物、畜産物 | |
94 | ベリー類等ツツジ科植物における放射性降下物137Csの蓄積 | いずれもツツジ科であるギョリュウモドキ(ヒース)Calluna vulgarisとビルベリーVaccinium myrtillusに比較的高い放射性降下物 137Csの比放射能を見出したことから、本論文では、ツツジ科カルナ属のギョリュウモドキと、ツツジ科スノキ属の食用ベリー類4種(ビルベリー、 クロマメノキVaccinium uliginosus、コケモモVaccinium vitis-idaea、ツルコケモモVaccinium oxycoccos)、および比較のためイネ科のヌマガヤMolinia coeruleaとカヤツリグサ科のミネハリイTrichophorum caespitosum、さらに土壌から植物への移行係数を算出するため周辺の土壌も採取し、137Csの比放射能を測定した。試料は1984年の6月から9月にかけて、アルプス山脈の北約 20 km、標高約 600 mのドイツ国内の湿地帯(泥炭地)から収集した。ツツジ科植物では、137Csの比放射能は、葉、花とベリー類の実で 330-1,590 Bq/kg(乾物重)と高く、茎と根では 210-430 Bq/kg(乾物重)と低くなる共通の分布パターンが見られた。ヌマガヤとミネハリイでは、137Csの比放射能は、緑色の若葉ではツツジ科植物と同程度であったが、黄色の古い葉ではその約7分の1と低かった。これは、秋に黄化した葉から根へN, P, K化合物が輸送され、蓄積される際に、Cs がKと代謝が類似しているために137Csも葉から根へ輸送された結果であろう。ドイツ他地域の飼料用農作物では 0.5-10 Bq/kg(乾物重)、森林開拓地から収集した混合植物体では 2-260で平均 61 Bq/kg(乾物重)との報告があり、また森で採取されたビルベリーの実は 47±21 Bq/kg(乾物重)であり、これらと比較すると、今回の湿地帯から収集した試料の137Csの比放射能は高い。これは湿地の土壌は、栄養素が乏しく、pHが低いからであると考えられる。ツツジ科植物は、菌根菌が共生して根に栄養塩類を供給することによって酸性土壌に生育するが、菌根菌が137Csの移行にどの程度の役割をはたしているかはまだ明らかではない。また、土壌から植物への移行係数は、ツツジ科植物の葉、花、実で1より高く、今回得られた値は、放射性降下物の137Csの直接の葉面吸収によるものであり、上限値であることが、本論文で予想されている。 | 表 1点 | Accumulation of Fallout 137Cs in Some Plants and Berries of the Family Ericaceae | Bunzl K., Kracke W. | Health Physics, 50(4), 540-542(1986) | 原著論文 | セシウム-137 | 農産物 | |
95 | 異なる環境源からの雌羊と授乳期の子羊への放射性セシウムの移行 | 本論文は、由来の異なる飼料を用いて、雌羊と子羊の組織への放射性セシウムの移行を室内実験で比較したものである。授乳中の雌羊にチェルノブイリ放射性降下物の汚染があるホソムギ(ペレニアルライグラス)、またはセラフィールド核燃料再処理工場の海洋投棄物の汚染のある塩性湿地植物を与えた。その結果、チェルノブイリ放射性降下物汚染のある牧草の方が雌羊の組織と乳への放射性セシウムの移行が多いこと明らかになった。植物飼料と乳の混合物を摂取している子羊に、チェルノブイリ由来とセラフィールド由来の二種類の植物のうち一方、または実験で使われた雌羊の乳を経由して放射性セシウムを与えた。子羊の組織への放射性セシウムの移行の度合いは、乳>チェルノブイリ放射性降下物(を含むホソムギ飼料)>セラフィールド投棄物(を含む植物飼料)、の順で減少した。子羊組織への放射性セシウムの移行は、雌羊組織へのそれを上回った。チェルノブイリ放射性降下物からのセシウム-137の移行係数は、最近の報告値よりも高く、雌羊筋肉で 0.12 d kg-1、子羊筋肉で 0.50 d kg-1であった。また、セシウム-137の雌羊乳から子羊筋肉への移行係数は 1.20 d kg-1であった、としている。 | 図 1点、 表 6点 | Transfer of Radiocesium from Different Environmental Sources to Ewes and Suckling Lambs | Howard BJ, Mayes RW, Beresford NA, Lamb CS | Health Physics, 57(4), 579-586(1989) | 原著論文 | セシウム-137 | 畜産物 | |
96 | 米国における放射線防護規定(Regulations)、勧告(Recommendations)と規範(Standards)の歴史 | 米国における放射線防護規定、勧告(Recommendation)、規範(Standards)の歴史に関する総説である。1895年にWilhelm Konrad Rentgenによりエックス線が発見されて3年後、PierreとMarie Curieによりラジウム元素が分離された。電離放射線の医学、科学、そして工学における利用の可能性への期待が巻き起こった。他の新技術と同様に、人類の進歩にとって放射線技術の利用はその利益と潜在的な有害性の双方をはかりにかける必要があった。初期においては、放射線の危険性は十分理解されていなかった。数十年を経て学会や業界団体(lay population)が増加し続け、電離放射線の利用のために標準化された手引書と勧告の確立が必要とされるようになった。現在では、職業労働者(occupational worker)及び一般人(general public)、及び環境を保護するため、米国放射線防護基準と勧告が多様化し、複雑化している。本総説では、放射線と放射性物質の安全な利用を保障するための放射線防護基準と規定の発展と適用の歴史について取りまとめた。米国の放射線防護政策のもととなっている。国際的及び米国内の科学的勧告・管理組織の発展と役割について解説する。 | 表 2点 | A Review of the History of U. S. Radiation Protection Regulations, Recommendations, and Standards | Jones CG | Heath Physics, 88(6), 697-716(2005) | 総説 | 放射線防護 | ||
97 | チェルノブイリ原子炉事故後の日本での牛乳や雨水中の131Iのモニタリングとヒト甲状腺線量当量の推定 | 本論文では、名古屋での(チェルノブイリからの8,000キロの距離)の牛乳および雨水中の131I含量を1986年の5月~7月にかけてモニタリングした結果を報告している。雨水中の観察された131Iの濃度範囲は5月4日の43.1 Bq/Lから7月12日の15 mBq/Lであり、ミルクで観察された濃度範囲は5月19日の21.8 Bq/Lから7月14日の11 mBq/L であった。事故後の最初の数週間の間は、牛乳中の131I濃度が雨水に比べて4~6倍高いと推定された。両試料の濃度は、ほぼ同じ有効半減期で減少した。すなわち有効半減期は、雨水では、5.9 +/- 0.3 日であり、牛乳では、5.0 +/- 0.2日であった。店頭販売の牛乳の131I濃度は日々変動し、新鮮乳に比べて0.07~0.2倍の範囲であった。成人および乳児に対する推定甲状腺線量当量は、自然放射線からの甲状腺への人口年間線量当量よりはるかに低い値であった、としている。 | 図 4点、 表 2点 | Monitoring of 131I in milk and rain water in Japan following the reactor accident at Chernobyl and estimates of human thyroidal dose equivalents | Nishizawa K., Takata K., Hamada N., Ogata Y., Kojima S., Takeshima K. | Health Physics, 55(5), 773-777(1988) | 原著論文 | ヨウ素-131 | 畜産物、環境(土壌・水等) | |
98 | 牛乳中の安定同位体および放射性ヨウ素濃度:ヨウ素の摂取量に依存する | 放射性ヨウ素の牛乳への転行を低減する措置として安定ヨウ素の利用可能性を検討するため、異なる量の安定ヨウ素で飼育した乳牛由来の牛乳中の安定ヨウ素および放射性ヨウ素濃度を調べた論文である。通常の乳牛の安定ヨウ素の平均摂取量の20mg/日に比べて、低摂取群(< 1.5 mg/日)では、放射性ヨウ素の移行が25%程度減少し、摂取量が10-500mg/日の範囲では何ら効果が認められなかった。一方、安定ヨウ素の摂取量が1000mg/日以上では、2桁の減少を達成できた。放射性ヨウ素の移行を顕著に低減するには、通常の安定ヨウ素摂取量の約100倍の投与摂取が必要であるが、このような過剰摂取により牛乳中の安定ヨウ素濃度がヒトの摂取基準を越える結果をもたらした。しかしながら、牛乳経路を介した安定ヨウ素の供給は、緊急事態におけるヒトの被曝線量低減のための予防策として有効である可能性がある、としている。 | 図 3点、 表 5点 | Stable and radioiodine concentrations in cow milk: dependence on iodine intake | Voigt G., Kiefer P. | Journal of Environmental Radioactivity, 98(1-2), 218-227(2007) | 原著論文 | ヨウ素-131 | 畜産物 | |
99 | セシウムとフェリシアン化鉄:ベルリン青(Prussian blue)の結合に関する定量解析 | 不溶性のベルリン青(PB)としても知られているフェリシアン化鉄 (Fe4III[FeII(CN)6]3)は、市販医薬品, Radiogardaseの有効成分(active pharmaceutical ingredient, API)である。Radiogardaseは、放射能拡散兵器(dirty bomb)のような重大な放射線事故において、放射性セシウム(Cs)やタリウムによる内部被曝の医学的防護薬としてFDAから承認されている。多くの前臨床および臨床試験でPBは金属陽イオンの排泄を高める治験試薬として評価されている。様々な物理的・化学的条件下で不溶性PBへのセシウム結合能を詳細に検討したin vitroでの研究報告は殆どない。本研究の目的は、培地のpH、粒子サイズ、および保管条件(温度)などの特定の化学的・物理的要因によるPB APIsおよび医薬品のin vitroでの結合能を評価することである。In vitroでの実験条件に関して、PBがヒト消化管(GI)で遭遇する環境条件を反映するために、試験したpH範囲は、pH1~9であった。セシウム結合の測定は、胃腸管滞留時間を考慮して、1~24時間の範囲とし、妥当性が確認された原子発光分光法(AES)を用いて行った。その結果、pH、露出時間、保存温度(含水率に影響を与える)と粒径がセシウムのPB APIと医薬品への結合に重要な役割を果たしていることが示された。セシウム結合能は、1~2の胃内pHで最低で、生理学的pH7.5で最高となった。乾燥貯蔵条件は、PBからの水分損失を生じ、その結果、胃内滞留時間に比例して、PBのセシウム結合能力に重大なマイナス効果を与えた。PBのセシウム結合能は粒子サイズの違いによっても影響を受けた。幾つかのPB APIと医薬品では、セシウム結合能がバッチ差による影響を受けた。特定の物理化学的特性は、PB APIおよび医薬品の初期結合能力および想定した胃および消化管滞留時間条件下での全体的な結合能力に影響を与えることが示唆された。これらの物理化学的特性は、医薬品の特定の製造および貯蔵条件下で品質予測に、また、PBの臨床効果を高めるために利用することができる,としている。 | 図 11点、 表 3点 | Quantitative determination of cesium binding to ferric hexacyanoferrate: Prussian blue | Faustino PJ, Yang Y., Progar JJ, Brownell CR, Sadrieh N., May JC, Leutzinger E., Place DA, Duffy EP, Houn F., Loewke SA, Mecozzi VJ, Ellison CD, Khan MA, Hussain AS, Lyon RC | Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis, 47(1), 114-125(2008) | 原著論文 | セシウム-134 | 防護技術 | |
100 | 野菜と果実の保存前処理における放射性ストロンチウムおよびセシウムの除去 | 意図的なストロンチウ-89とセシウム-134の汚染実験で、いくつかの野菜や果物の保存前処理による放射性物質の低減効果を4年間に渡った研究で評価した論文である。作物に利用される多くの前処理の組み合わせに対して、一般的な凍結、脱水、または缶詰などの加工処理条件で汚染させた放射能の60~95パーセントを除去できた。サヤエンドウのスプレー洗浄は、サヤと種子の機械的分離中に種子を汚染する放射性物質のかなりを除去できる。スプレー洗浄は、イチゴの外部汚染ストロンチウム-89をそれほど除去せず、内部汚染の放射能除去に至ってはさらに低くなる。炭酸ナトリウムと塩化カルシウム溶液による粉砕イチゴ処理によって、遠心分離(種子やアルカリ土類炭酸塩除去のため)後にクエン酸で酸性化した低放射能の少し塩辛いジュースが得られた。このジュースのアスコルビン酸量は、処理により僅かに減少した。セシウム-134で汚染したトマトピューレをイオン交換樹脂で処理し、遠心分離すると放射能の低い上清画分が得られた。内部的汚染したトマトとジャガイモの放射能は、イオン交換樹脂を加えたこれらの懸濁液を振とうすることによって、かなり低減することができる、としている。 | 表 10点 | Removal of Radioactive Strontium and Cesium from Vegetables and Fruits during Preparation for Preservation | Ralls JW, Maagdenberg HJ, Guckeen TR, Mercer WA | Journal of Food Science, 36(4), 653-656(1971) | 原著論文 | セシウム-134、ストロンチウム-89 | 農産物 | |
101 | "金属フェロシアン化物-陰イオン交換樹脂"による牛乳および水中のCs-137とI-131の同時吸着 | 陰イオン交換樹脂マトリックス中で金属フェロシアン化物を沈殿させて作られる"金属フェロシアン化物-陰イオン交換樹脂"は様々な種類の水溶液中のセシウムイオンを選択的に吸着するために使われている。この樹脂は、金属フェロシアン化物と陰イオン交換樹脂両方の性質を併せ持つ。本論文では、この樹脂による水および牛乳中の放射性セシウムと放射性ヨウ素の同時吸着について検討した。結果は、Cu、FeおよびNiフェロシアン化物などの"金属フェロシアン化物-陰イオン交換樹脂"は、大量の試料溶液からの定量的な放射性セシウムと放射性ヨウ素の迅速かつ簡便な濃縮に使用できることを明らかにした。本論文では、チェルノブイリ原発事故後、日本で収集された雨水と牛乳中の137Csと131Iの除去についても述べる。 | 図 4点、 表 1点 | Simultaneous Adsorption of Cs-137 and I-131 from Water and Milk on "Metal Ferrocyanide-Anion Exchange Resin" | Watari K., Imai K., Ohmomo Y., Muramatsu Y., Nishimura Y., Izawa M., Baciles LR | Journal of Nuclear Science and Technology, 25(5), 495-499(1988) | 原著論文 | セシウム-137、ヨウ素-131 | 畜産物、環境(水・土壌など) | |
102 | 放射性セシウムの食品への移行に関する時間的および空間的予測 | 本論文は放射性物質の食品への移行予測を目的としている。空間的土壌データベース(交換性K、pH、粘土含量と有機物含量)から利用可能な土壌の特性を使用して食品中の放射性セシウム濃度予測するために、最近開発された半機械的時間モデルを用いた。土壌特性、放射性セシウム沈着、作物の生産データなどのイングランドとウェールズに関する土壌特性についてのラスタデータベースを食品中の放射性セシウム濃度(Bq/ kg)についての時空間パターンを予測するために使用した。農業生産のための空間データとこれらの予測を組み合わせることにより、放射性セシウムの面積あたりの放出(output)が推定でき、著者らは、これをflux(単位面積当たりのBq/年)と定義した。モデル予測を1986年のチェルノブイリ事故により比較的高レベルの放射性降下物汚染を受けたイングランドとウェールズの地域(グウィネッドとカンブリア)における牛乳中の放射性セシウム汚染の観測データと比較したところ、予測モデルでグウィネッドおよびカンブリアにおける牛乳中の放射能濃度の観測データ変動のそれぞれ56%および80%を説明できた。本論文で提示しているイラスト化した空間予測結果は、食品の汚染地域に関して、イングランドとウェールズの北方および西方地域が放射性セシウム堆積に対して脆弱であることを示唆した。また、fluxを用いて脆弱性を評価した場合には、空間パターンがより複雑で、食品に依存するようになる、としている。 | 図 5点、 表 4点 | Temporal and spatial prediction of radiocaesium transfer to food products | Gillett AG, Crout NM, Absalom JP, Wright SM, Young SD, Howard BJ, Barnett CL, McGrath SP, Beresford NA, Voigt G. | Radiation and Environmental Biophysics, 40(3), 227-235(2001) | 原著論文 | セシウム | 食品 | |
103 | 低線量と低線量率の意味すること | 本文献は、放射線物質防御雑誌(Journal of Radiological Protection)の編集委員会が、低線量被曝に関するグラハム・スミス氏の提言を報告した総説である。低線量被曝において、β粒子やγ線が細胞内を通過することで生じる電子がDNAに損傷や変異を引き起こし発がんにつながるリスクがあり(確率的影響)、そのリスクは線量に比例して増大する。より高い線量では、異なる場所で生じるDNA損傷の相乗効果によって線量及びリスクの関係は2次曲線を示す。細胞には自己修復能力があるため、積算値が同じでも、繰り返し被曝した場合と一度に被曝した場合を区別して評価すべきである。1990年国際放射線防護委員会(ICRP)は、「低線量」とは吸収線量で0.2Gy以下、より高い場合は時間あたりの線量率が0.1Gy/h以下とし、リスク係数2を適用し、高線量の場合に比べリスクは半分であるとしている。しかし主として日本での生存被爆者のデータを元に線量とリスクの関係が決められているため、低い線量を長期間繰り返し被曝したときの評価ができていない。最近の論文では、低線量率でありながら積算値で上のICRP基準を超えた被曝事例が低線量影響評価から除外されているという問題がある一方、現在、原子力関連労働者の被曝データが蓄積されてきており、詳しい統計調査が可能になってきている。そこで、本総説では、低線量と低線量率のより良い定義を提示しており、低線量の基準値を、蓄積線量で100mGy以下、時間あたりの線量率を5mGy/h以下として確率的影響を評価することを提案している。 | The meaning of low dose and low dose-rate | Wakeford R., Tawn EJ | Journal of Radiation Protection, 30, 1-3(2010) | 総説 | 特定無し | 放射線防護 | ||
104 | 過去60年間の放射線事故 | 第2次大戦以後の主な放射線被爆事故例を紹介した総説であり、国連「放射線の影響に関する科学委員会」報告(2007年)およびその他の信頼できる文献から、少なくとも600の事象と約70の深刻な事故による200の致死的な急性被爆例について検証し、その中から、分野毎に代表的なもの44件について、詳詳している。医療分野での誤投与、誤飲による内部被曝の事例を除いて、事故の50%は産業分野で発生し、20%は研究分野、12.5%は原子力発電分野、10%は医療分野、5%は軍事分野で発生した。事故例は、発生から公知までの期間(直後、遅滞、公開されず)及び事故の重篤度(簡単に管理可能、管理困難、破局的)に基づき、9グループに分類している。本総説では、訓練不足などヒューマンエラーが主要な事故原因であることを指摘している。 | 表 1点 | Radiation accidents over the last 60 years | Nénot JC | Journal of Radiation Protection, 29, 301-320(2009) | 総説 | コバルト-60、セシウム-137、イリジウム-192、ヨウ素-131、ストロンチウム-90、ポロニウム-210、リン-32、ラジウム-226、キン-198 | 放射線防護 | |
105 | 実験室レベルの加工操作での野菜からの放射性ストロンチウム、セシウムの除去 | 本論文では、施設内での放射性物質添加の養液栽培野菜を用いて、いくつかの加工処理での放射性ストロンチウム(90Sr)やセシウム(137Cs)の除去効果を検討した結果を報告している。もっとも除去効果の高かったのは、キュウリの酢漬け処理と缶詰処理の組み合わせで、放射性セシウム(137Cs)で94%、放射性ストロンチウム(90Sr)で64%であった(注:このキュウリの酢漬け処理は 4 mm厚でのスライスで行われており、このサイズでの洗浄のみのデータ(コントロール)がないため、酢酸溶液での移行促進効果なのか、表面積が広くなったことでの拡散移行のみの効果かは不明)。缶詰処理は、豆類とケールにおいて両方の放射性物質で、かなりの除去効果が認められた。冷凍処理での除去効果が有意に認められたのは、ケールを処理した際の放射性セシウム(137Cs)のみであった。サツマイモのブランチング処理においては、放射性物質の皮部から内部への移行が認められたことから、曝露された芋などは加熱処理前に剥皮を行うべきである。加工の前処理(洗浄処理等)においては、豆類での137Cs以外では有意な除去効果が認められなかった、としている。 | 表 4点 | Removal of Radioactive Strontium and Cesium from Vegetables during laboratory Scale Processing | Weaver CM, Harris ND | Journal of Food Science, 44(5), 1491-1498(1979) | 原著論文 | セシウム-137、ストロンチウム-90 | 農産物 | |
106 | 134Csを含む模擬落下物のマツおよびオークへの残留 | 本論文では、放射能物質のマツ及びオークへの残留を報告している。ストローブマツ(Pinus strobus:マツの一種)小木及びアカガシワ(Quercus rubra:オークの一種)を屋外に置いて、134Csを含み直径85-175μmの石英粒子で作った模擬落下物で汚染させた。その後、最長33日間、間隔をおいて全木を刈り取り、それぞれについて134Csの残留量を測定したところ、模擬落下物の葉に残留した初発画分は、マツ(0.24)よりもオーク(0.35)で高かったが、1時間後では、広葉樹であるカシワでは134Cs初発濃度の90.5%が消失したのに対し、マツでは10%しか消失しなかった。これら初期残留の違いは、これら二種の顕著に異なる枝葉形状への風の影響に関連している。両木の有効半減期を0-1日、1-7日、7-33日の間隔において計算したところ、マツにおいては、各々0.25日、4.53日、20.66日であり、オークでは、0.12日、1.41日、24.86日であった。粒子(134Cs)の消失は、主として本実験中の風雨による風化が原因であった。以上、本実験期間中に放射性核種の総消失量の割合が高かったことは、汚染後の風及び最初の降雨の各影響により説明される、としている。 | 図 2点、 表 2点 | Retention of a fallout simulant containing134Cs by pine and oak trees | Witherspoon JP, Taylor FG Jr | Health Physics, 17(6), 825-829(1969) | 原著論文 | セシウム-134 | 環境(土壌・水等) | |
107 | 畜産物の放射性セシウム汚染低減のための形態の異なるヘキサシアノ鉄酸剤のロシアでの利用 | 本論文は畜産物の放射性物質の汚染低減を目的としている。ヘキサシアノ鉄酸は、家畜の放射性セシウムの取り込みや牛乳や牛肉への移行を低減する放射性セシウム結合剤として知られている。ロシアではセシウム-137と結合するフェロシン(5 % KFe[Fe(CN)6]と95 % Fe4[Fe(CN)6]3の混合物であるヘキサシアノ鉄酸塩製剤)を開発し、1989年から1992年にかけて、形態の異なるフェロシンについて、セシウム-137結合剤としての有効性をはじめ、潜在的毒性、牛乳の生産率への影響、家畜の健康への影響、日常の農作業での使いやすさを調べた。フェロシン剤は、高純度(98 %)粉末、徐放性のこぶ胃用の大粒丸薬(rumen boli)(フェロシン含有量15 %)、塩塊 (salt lick) (フェロシン含有量10 %)、10 %フェロシンをしみこませたおが屑(bifege)の4種の形態で提供されているが、どの形態のフェロシンを投与しても、乳牛、羊、豚から畜産加工品への放射性セシウムの移行を抑制した。高濃度フェロシン粉末を乳牛1頭あたり毎日3~5 g投与した場合には、セシウム-137の牛乳への移行を90 %減少させることができた。フェロシン大型丸薬(1個あたりフェロシンを30 g含有)の1頭あたり3個の単回投与では、セシウム-137の移行を2ヶ月間で50~75 %低下させた。10 %フェロシンを含有する塩塊(salt lick)(1回に与える22 kgの塩塊には0.22 kgのフェロシンが含まれている)は10日間で50 %低下させた。一方、おが屑(bifege)を1日30~60 g(フェロシン量に換算すると3~6 g/日)ずつ与えた場合は、セシウムの移行を90~95 %低下させた。おが屑(Bifege)は現場での取り扱いも容易で効果も高かった。1994年に集団農場や個人農場で大規模試行した場合には、顕著な効果が認められなかったため、1996年に注意深く制御した条件下で4種のフェロシン剤について再度比較評価を行い、1989-1992年に行った実験の結果(大きな低減効果)は妥当であることを示した。また、ヘキサシアノ鉄酸塩製剤を原則として毎日投与することなど、推奨方法通りに実施することが重要であることを報告している。 | 図 2点、 表 6点 | The use of hexacyanoferrates in different forms to reduce radiocaesium contamination of animal products in Russia | Ratnikov A N, Vasiliev A V, Alexakhin R M, Krasnova E G, Pasternak A D, Howard B J, Hove K., Strand P. | Science of the Total Environment, 223(2-3), 167-176(1998) | 原著論文 | セシウム-137 | 畜産物、放射線防護 | |
108 | アルファ線やガンマ線を放出する放射性核種を含む液体試料の一段階前処理法による迅速スクリーニングと分析 | 短期間に多数の液体試料を分析でき、幅広い放射性核種を測定できる多面的放射化学分析法を開発した。一段階のみで特異的、迅速な前処理が可能で、連続的・並列的に正確に高い精度で分析対象を定量できる。また、この前処理法で調製した同じ試料を、総アルファ線量計測、ガンマ線分光法、アルファ線分光法のそれぞれで測定することができる。放射線による非常事態が起きて、保護活動の根拠となる分析データが緊急に必要となるような場合には、特に魅力的な方法といえる。簡便で迅速であるため、現場に移動可能な実験室においても実施できることから、実験施設に試料を持ち込む時間と費用を節約できる。この前処理方法は、試料の100 mLにバリウム-133と鉄-59をトレーサとして添加し、硫酸バリウムや水酸化鉄を用いて化学的に共沈分離するものである。調製試料中の総アルファ粒子活性を、バックグランドの低いガス比例計数管で測定し、続いて高純度内蔵ゲルマニウム検知器付きのガンマ線分光システムにより、光子放出体(photon-emitters)を分析した。トレーサとして用いたバリウム-133と鉄-59のガンマ線を定量することにより、硫酸バリウムと水酸化鉄画分の回収率をそれぞれ評価した。放射核種の硫酸バリウムもしくは水酸化鉄との共沈について選択性を調べた結果、セリウム-139、トリウム-230、アメリシウム-241以外は、どちらか一方に優先性を示した。トリウム-230とアメリシウム-241の標準物質を用いて、沈殿量に対するアルファ線量の検出率の検量線(Alpha-mass-efficiency curve)を作成した。この研究では、マンガン-54、コバルト-57、コバルト-60、亜鉛-65、ストロンチウム-85、イットリウム-88、カドミウム-109、スズ-113、セシウム-137、セリウム-139、水銀-203、ポロニウム-209、ラジウム-226、ラジウム-228、トリウム-230、アメリシウム-241、天然ウランを含む放射性核種の混合物を用いた。このうち、ガンマ線に関しては、セシウムと水銀以外は71~103 %の回収率であり、定量的に分析できた。調製試料中のアルファ線を放出する同位体の同定と定量は、半導体検出器の一種であるPIPS(passivated implanted planar silicon)を用いたアルファ線分光により行った。この方法で核分裂産物を捕獲して分析できることが明らかになった、としている。 | 図 5点、 表 8点 | Rapid screening and analysis of alpha- and gamma-emitting radionuclides in liquids using a single sample preparation procedure | Parsa B., Henitz J B, Carter J A | Health Physics, 100 (2), 152-159(2011) | 原著論文 | マンガン-54、コバルト-57、コバルト-60、亜鉛-65、ストロンチウム-85、イットリウム-88、カドミウム-109、スズ-113、セシウム-137、セリウム-139、水銀-203、ポロニウム-209、ラジウム-226、ラジウム-228、トリウム-230、アメリシウム-241、天然ウラン | 分析技術 | |
109 | ヒトが摂食する動物肝臓中のプルトニウム-239/240とセシウム-137降下物量 | 数種の動物の肝臓に含まれる放射性降下物Pu-239/240とCs-137の量を測定した。その結果、と殺されるまでの期間が短く2年未満である豚、七面鳥、鶏、ノロジカ(roe-deer)、若い北ドイツ荒れ地羊(North German moorland sheep)、および牛の肝臓からは、2-20 fCi/Kgと比較的低濃度のPu-239/240が検出された。一方、老齢でと殺されたシャモア(シャモア属のカモシカ)(chamois)と北ドイツ荒れ地羊の肝臓は 80-100 fCi/Kgを示した。これは長い生育期間にPu-239/240が蓄積されたためと考えられる。豚、ノロジカ、羊、牛、および若い荒れ地羊(moorland sheep)の肝臓に含まれるPu-239/240の濃度は、他の食品に含まれるPu-239/240濃度と同じオーダーであった。Cs-137については羊、ノロジカ(roe-deer)、豚、鶏、七面鳥では低い濃度(10-50 pCi/Kg)、シャモア羊(chamois)ではいくらか高めの濃度(151 pCi/Kg)であった。一方、荒れ地羊(moorland sheep)では若い羊について3,690 pCi/Kg、老いた羊について1,300 pCi/Kgという高い値となった。これは荒れ地羊(moorland sheep)の主なエサであるギリュウモドキ(ヒース)(heather)にCs-137が蓄積されているためと考えられる。 | 図 3点、 表 1点 | Fallout 239/240Pu and 137Cs in Animal Livers Consumed by Man | Bunzl K., Kracke W. | Health Physics, 46(2), 466-470(1984) | 原著論文 | プルトニウム-239/240、セシウム-137 | 畜産物 | |
110 | 放射線検出器の歴史 | 本総説には放射線検出器の発展の歴史が紹介されている。その中では人間の感覚による放射線の知覚を初めとして、写真、熱量計、色素線量計、イオンチャンバー、電位計、検電器、比例計数管、ガイガーミュラー計数管、スケーラ-・レートメーター(scaler and rate meter)、シアン化白金バリウム蛍光板、シンチレーションカウンター、セミコンダクター検出器、蛍光線量計、熱蛍光線量計、光刺激蛍光線量計、DIS (Direct Ion Storage)、エレクトレット、クラウドチャンバー、バブルチャンバー、泡線量計といった機器およびその技術に関する情報を納めている。 | 図 18点 | A History of Radiation Detection Instrumentation | Frame PW | Health Physics, 88(6), 613-637(2005) | 総説 | 限定無し | 分析技術 | |
111 | ミルクからの放射能除去 - 総説 | 本論文はミルクおよび乳製品に含まれる放射性同位体の除去に関する報告の総説である。消費者の放射能リスクを最小化する処理法として、本論文では次の項目を挙げている。1)保存法:冷蔵・冷凍下、または濃縮・粉末の形態での保存により、短い半減期の放射性核種の放射能を除去することができる。(ヨウ素-131(半減期8日)ならば2カ月で99%減少する。)従って、ヨーグルトの保存やチーズの熟成は、放射能除去の有効な手段である。また、比較的長い半減期のストロンチウム-89(半減期50日)の有する放射能の非活性化には、ミルクパウダーやハードチーズに加工してからの保存が有効である。2)分配法:放射性ストロンチウム、放射性ヨウ素、放射性セシウムは主にミルクの水溶層に存在する。従って、ミルクをバターに加工すること、およびカード(フレッシュチーズ)の製造工程における乳凝固手法の改良を行うことにより、製品中の放射性核種の濃度を減少させることが出来る。3)イオン交換法:高コストではあるが、大規模な自動化されたプラントでのイオン交換処理により、ミルクに含まれる放射性核種(ストロンチウム-90、ヨウ素-131、およびセシウム-137)を90 %以上除去できる。またミルクからの放射性核種の除去と関連して、本論文ではミルクの電気透析等の処理手法についても短く記載されている。 | Decontamination of radioactive milk - a review | Patel AA, Prasad SR | International Journal of Radiation Biology, 63(3), 405-412(1993) | 総説 | ヨウ素-131、セシウム-137、ストロンチウム-90、ストロンチウム-89 | 食品、畜産物 | ||
112 | 含水率、地球規模のセシウム-137降下物の草地土壌での深度プロファイルおよび外部ガンマ線線量率の変動 | 本論文は、1950年代から1960年代にかけて行われた核実験による地球規模的な137Cs降下物濃度をバイエルン地方(ドイツ)の複数の草原地の土壌の0~30 cmの連続層で測定した結果を報告している。表層から4~15 cmの土壌層で最高活性濃度が検出された。地域ごとにかなり大きく変動するが、セシウム濃度の垂直分布に基づき、それぞれの土壌層における137Cs降下物の平均残留半減期を区画モデルによって推定したところ1.0~6.3年/cmの値を示した。全土壌層及び全地域を平均した平均残留半減期は2.7±1.4年/cmであり、チェルノブイリ事故に由来する同じ地域の137Csの平均残留半減期の約2倍に相当した。深度分布から決定した土壌中の137Cs降下物から生ずる外部ガンマ線線量率は、0.34 ~0.57 (平均0.45±0.07 ) nGy/h per kBq/m2であった。土壌の含水率と最も関連性の高い永久しおれ点(permanent wilting point)および圃場容水量間の線量率の違いは、全ての地域の永久しおれ点線量率の10 %に過ぎなかった、としている。 | 図表 6点 | Variability of water content and of depth profiles of global fallout 137Cs in grassland soils and the resulting external gamma-dose rates | Schimmack W., Steindl H., Bunzl K. | Radiation and Environmental Biophysics, 37, 27-33(1998) | 原著論文 | セシウム-137 | 環境(土壌・水等) | |
113 | 飲料水および淡水食材(淡水魚など)からの放射線被曝を低減させる措置に関する批評的総説 | 放射性降下物がもたらされた後の地表水からの放射線被曝を低減させる、多くの実施可能な措置がある。。地表水域の放射能汚染について、政策立案者の意志決定に参考可能な選択肢を批評している。飲料水における放射能を減少させる最も効果的で実行可能な方法は、水処理及び流通段階における管理である。本論文は、飲料水供給経路において、放射線量を減少させる方法として、川及び貯水池での放射能濃度を低減するための介入措置は、実用性および効果の面で期待できないことを主張する総説である。淡水魚摂取を禁じることは効果があるが、調理前の段階で、魚に含まれる放射能を低減させる幾つかの実行可能な措置がある。湖水へカリウムを添加することは、状況によっては有望と考えられるが、湖を石灰処理したり生態系操作(biomanipulation)したりすることは、放射性セシウム低減には効果がないことがわかった。著者らが知る限り、未検証ではあるが、湖に石灰をまくことは魚中の放射性ストロンチウムを低減させるのに有効となると予想され、またストロンチウムで汚染された魚から骨を除去することは、最も効果的な調理方法であるが、塩漬けしたり冷凍したりすることでも、魚中の放射性セシウム濃度を抑えることができると期待される。 本総説では、国民への正確な情報提供は、対策措置推進のための重要な要素であることが強調されている。 | 図 3点、 表 8点 | A critical review of measures to reduce radioactive doses from drinking water and consumption of freshwater foodstuffs | Smith JT, Voitsekhovitch OV, Hakanson L., Hilton J. | Journal of Environmental Radioactivity, 56, 11-32(2001) | 総説 | セシウム | 水産物、農産物 | |
114 | チェルノブイリ事故後の野菜におけるヨード含量の変化 | チェルノブイリ事故後の甲状腺腫誘発地域で育てられた野菜は、生育初期及び成熟期において、それ以外の地域において育てられた野菜と比較してヨード濃度が低いことを報告する論文である。同じ地域においては、生育後期の野菜と比較して生育初期の野菜はヨード含量が高く、幾つかの種については、甲状腺腫誘発地域に育つ生育初期の野菜において、非甲状腺腫誘発地域の自然野菜と比べてヨード含量が高い。1986年4月のチェルノブイリ原子力発電所における事故後、植物のヨウ素代謝が乱れた、としている。 | Changes in the iodine content of vegetables following the Chernobyl accident | Teodoru V., Cucu D. | Endocrinologie, 29, 175-179(1991) | 原著論文 | ヨウ素 | 農産物 | ||
115 | チェルノブイリ原子炉事故後に生じた放射性降下物に含まれる放射性同位体(ヨウ素-131、セシウム-134およびセシウム-137)のチーズ製品への移行 | 本論文では、チェルノブイリ原子炉事故後の放射能汚染物質について、チーズ製品の製造過程における移行調査の結果を報告している。羊のミルク及びチーズ製品(Gruy?re)試料での放射性ヨウ素及びセシウム濃度について、10日間連続して製造製品の調査を行なった結果、放射性核種(ヨウ素131、セシウム134及びセシウム137)の濃度が100Bq/Lであるミルクから、82.2 +/- 3.9Bq/kgのヨウ素、及び平均42.3 +/- 2.3Bq/kgのセシウム同位体を含むチーズが生産されることが明らかとなった。同じミルクから得られるクリーム中のヨウ素131濃度は26.7+/- 2.8Bq/kg、セシウム-134とセシウム-137の平均濃度は18.6 +/- 1.9Bq/kgである、としている。 | Transport of the radioisotopes iodine-131, cesium-134, and cesium-137 from the fallout following the accident at the Chernobyl nuclear reactor into cheesemaking products | Assimakopoulos PA, Ioannides KG, Pakou AA, Papadopoulou CV | Journal of Dairy Science, 70, 1338-1343(1987) | 原著論文 | ヨウ素-131、セシウム-134、セシウム-137 | 食品、畜産物 | ||
116 | 実験室用高純度ゲルマニウム検出器スペクトル分析システムの校正ドリフト | 高純度ゲルマニウム(HPGe)スペクトル分析システムにより未知の放射性核種を同定するためには、エネルギー値の正確な校正が重要である。HPGeスペクトル分析システムにおいて、エネルギー値の校正がドリフトする原因としては、室内の温度、システムに負荷した電圧、電子機器の個体差およびその他の様々な影響がある。このエネルギー校正におけるドリフトの性質解明のために、実験室用HPGe検出器スペクトル分析システムを用いて、検出器電圧、アンプの増幅率およびプリアンプの増幅率を含むシステムパラメーターに変更を加えず、校正スペクトルを数ヶ月間収集した結果を本論文では報告している。一定の方法により90日以上校正を行い、検出器のエネルギー値校正の経時的なドリフトを評価するために校正結果を比較した。36%HPGeシステムの分析結果では、ドリフトの平均値は校正するエネルギー値よって異なり、一日当たり0.014keVから0.041keVの間にあたる、と報告している。 | 図 2点、 表 6点 | Calibration drift in a laboratory high purity germanium detector spectrometry system | Dewey S C, Kearfott K J | Health Physics, 94(Supplement 1), S27-33(2008) | 原著論文 | アメリシウム-241、バリウム-133、セシウム-137、コバルト-60 | 分析技術 | |
117 | シミュレーション降雨での放射性汚染物質の堆積に関する粘着紙による捕集効率の測定 | 核兵器開発での放射性降下物の日常的な監視のために、粘着紙による捕集測定が1950年代に使用された。本論文では、シミュレーション降雨条件での数種類の可溶性および不溶性の放射性汚染物質の湿性沈着測定のための粘着紙による捕集効率を測定している。粘着紙の捕集効率は、大きい不溶性粒子で最も高く、水溶性のイオン性物質で最低であった。 ベリリウム7とヨウ素131の値は、降雨量が2.5 mmで約0.30(30%)、20 mmで約0.04?0.06(4%-6%)であった。捕集効率値と降雨量とは負の相関があり、降雨強度には影響を受けなかった。降雨量や降雨強度どちらも、大きな不溶性粒子の捕集効率に大きな影響を与えない、としている。本論文は、比較的簡易な粘着紙を利用した捕捉分析の可能性を示唆している。 | 図 3点、 表 3点 | Determining the Collection Efficiency of Gummed Paper For the Deposition of Radioactive Contaminants in Simulated Rain | Hoffman FO, Thiessen KM, Frank ML, Blaylock BG | Health Physics, 62(5), 439-442(1992) | 原著論文 | ヨウ素-131、ベリリウム-7 | 分析技術 | |
118 | ギリシャ周辺の海洋表層の137Cs濃度 | 本論文では、現在のギリシャ周辺海域の海水表層の137Cs濃度の地理的分布を調べ、海洋資源の摂取を通じたヒトの年間預託実効線量(CED:Committed Effective Dose)を推定・評価している。チェルノブイリ事故直後はエーゲ海北部で137Cs濃度が特に高く、さらに、137Csがドニエプル川へ流出した結果、黒海・ダーダネルス海峡を経由して北エーゲ海に到達し、この海域での濃度を上昇させている。137Cs濃度は北エーゲ海で平均11 Bq/m3、その他のギリシャ周辺の海域で平均5.2 Bq/m3で事故前の平均値1.5 Bq/m3と比較して高くなっている。しかしながら、推定された年間預託実効線量はヒトの年間許容放射線量の1 mSvを下回っており、しかも海洋魚のDIL (Derived Intervention Level)値(1 mSvの年間放射線量の限界を超えないヒトの最大許容摂取量)はギリシャ海水中の137Cs濃度より少なくとも770倍高い、と報告している。 | 図 1点、 表 1点 | The concentration of137Cs in the surface of the Greek marine environment | Florou H., Nicolaou G., Evangeliou N. | Journal of Environmental Radioactivity, 101(8), 654-657(2010) | 原著論文 | セシウム-137 | 環境 | |
119 | 放射能漏出事故での食品の放射線防護対策のためのALARA(as low as reasonably achievable)アプローチ | 本論文では、放射能漏出事故での食料の適切な汚染防護対策(最大許容濃度設定など)決定を行うための2つのアプローチに基づいた方法を検討・評価している。第1のアプローチ方法は、1人当たりの最小および最大の介入レベルに基づいて、それぞれの食品の年間摂取量を考慮に入れる。第2のアプローチ方法は、費用対効果分析に基づく。4つの食品(ミルク、肉、生鮮野菜、とうもろこし)と2つの核種(137Cs、131I)に関して、幾つかの想定シナリオ(単一或いは複数食品への単一或いは複数核種汚染)でのこれらのアプローチに基づいた方法を適用した結果から、これらの方法は相補的で、第1アプローチは個々のリスクに、第2アプローチは全体のリスクに関係付けられる、と報告している。 | 図 1点、 表 1点 | An ALARA approach to the radiological control of foodstuffs following an accidental release | Lombard J., Coulon R., Despres A. | Risk Analysis, 8(2), 283-290(1988) | 原著論文 | セシウム-137、ヨウ素-131 | 防護技術 | |
120 | 次亜ヨウ素酸としての131I(HOI)の大気中から植物への移行 | 本論文では、実験室レベルでのモデル環境下における次亜ヨウ素酸(HOI)の空気中から植物への移行を測定している。原子炉内の循環している空気中の131Iのほとんどは次亜ヨウ素酸として存在し、環境中に放出された131Iは、空気から牧草、牧草から家畜のミルクへ移行することで人体に取り込まれると考えられる。次亜ヨウ素酸の植物への蓄積速度は、ヨウ素I2と有機ヨウ化物(CH3I)の中間の値を示し、大気中粒子に吸着したヨウ素の蓄積速度の半分の値である、と報告している。 | 表 1点 | Air-to-vegetation transport of 131I as hypoiodous acid (HOI) | Voilleque PG, Keller JH | Health Physics, 40(1), 91-94(1981) | 原著論文 | ヨウ素‐131 | 農産物 | |
121 | 天然および人工放射性核種の生物への蓄積を長期間モニタリングする際のモデルとしての地衣類の有効性 | 本論文では、セシウム137を始めとする放射性核種の生物への蓄積を長期間モニタリングする際のモデルとしての地衣類の有効性を調べている。ここで測定されている核種は、チェルノブイリ事故由来のセシウム137、宇宙線由来のベリリウム7、天然放射性ウラン核種およびトリウム崩壊系列である。測定サンプルである地衣類はフランスの2つの地域で採取され、その中には石炭火力発電所から様々な距離に位置する地点およびウラン鉱石残渣の廃棄施設に近い地点に由来するものが含まれている。1994年に採取された地衣類の解析から、放射性ウラン核種およびトリウム崩壊系列の放射線濃度は、火力発電所からの距離に比例して減少すること、ウラン残渣廃棄施設の近郊では廃棄されてからの時間経過と共に減少することが報告されている。さらには、チェルノブイリ事故後10年以上も経過しているにも関わらず、全てのサンプルからセシウム137が検出されることも示しており、その測定結果を基に本核種の生物学的半減期を 2.6 ±1.2 年であると推定している。一方、放射性鉛(270Pb)の生物学的半減期は 0.7 ± 0.1 ~ 3.3 ± 0.7 年であると計算されている。 本論文は、放射性核種の生物への蓄積を評価する際のモデルとしての地衣類の有効性を示唆するものである。 | 表 2点 | The potential of lichens as long-term biomonitors of natural and artificial radionuclides | Kirchner G., Daillant O. | Environmental Pollution, 120, 145-150(2002) | 原著論文 | セシウム-137、ベリリウム-7、放射性ウラン核種、トリウム崩壊系列 | 農産物 | |
122 | 様々な放射性核種の畜産物への移行係数の算定 | 本論文では、様々な放射性核種の畜産物への移行係数算定の詳細が解説されている。そこでは、1994年にIAEAによって報告された移行係数(TRS 364)を改定するために、その礎となるデータベースの再構築について言及されている。具体的には、ロシア語で書かれた情報や1990年代初頭に発表されたデータの取り込み等が報告されている。また、今回の改訂(2009年)においては、成長した家畜における消化管からの吸収係数を、ICRPによって勧告されたヒト成人の値とほぼ同じとして移行係数が算定されている。さらに本改訂版では、TRS 364に比べてより多くの放射性核種について畜産物への移行系係数が示されている。また、移行係数に代わる指標としてconcentration ratio (CR) の使用が提案されており、その考え方についても解説されている。 本論文は、改訂された放射性核種の畜産物への移行係数に関して、その算定方法の根拠を示すものである。 | 図 1点、 表 5点 | Quantifying the transfer of radionuclides to food products from domestic farm animals | Howard BJ, Beresford NA, Barnett CL, Fesenko S. | Journal of Environmental Radioactivity, 100, 767-773(2009) | 原著論文 | セシウム、ヨウ素、ストロンチウム等対象核種 | 畜産物 | |
123 | 土壌中における放射性降下物の拡散様式:濃度-深度相関プロファイルに及ぼす吸着特性の不均一性の影響 | 本論文では、土壌中における放射性核種の動態解明を目的として、実測値から得られた濃度分布について理論的に考察している。放射性降下物の土壌中の分布を測定すると、その濃度が正規分布に従わず、ピーク地点よりさらに深いところで予想外に高い濃度を示すことがしばしば観察される(テーリング現象)。対流-分散モデルに基づいたモンテカルロ法(乱数を用いたシミュレーション法)による計算から、テーリング現象が土壌の水力特性または吸着特性、あるいはその両者の不均一性(対数正規分布に従うと仮定)により説明できることを報告している。しかしながら、吸着特性のみを変数にした単純なシミュレーションからは、実測された濃度分布を再現できないことも報告されており、正確な予測には対象地点における水力特性および吸着特性の実測値が必要であるとしている。 本論文は、土壌中における放射性核種の動態予測には、対象地点における水力特性および吸着特性の把握が重要であることを示唆するものである。 | 図 2点 | Migration of fallout-radionuclides in the soil: effect of non-uniformity of the sorption properties on the activity-depth profiles | Bunzl K. | Radiation and Environmental Biophysics, 40, 237-241(2001) | 原著論文 | 限定なし | 環境 | |
124 | ため池中に安定同位体セシウムを実験的に添加した場合における異なった栄養段階の水生生物によるセシウムの蓄積 | 本論文では、池や湖などの浅瀬に放射性セシウムが外部から添加された場合の、プランクトンを起点とした食物連鎖および付着藻類を起点とした食物連鎖におけるセシウム動態を予想することを目的として、実験的にため池に安定同位体133Csを添加し、各生物相における133Csの濃度を測定している。本論文では、セシウムの取り込みおよび排出の速度パラメーターを水や生物相における133Csの濃度を時系列で測定することにより概算し、このパラメーターを、各生物の生体内における133Csの最大濃度、最大濃度到達時間、蓄積率の推測に利用した。その結果、プランクトンを餌とするボウフラの一種(insect larvaChaoborus punctipennis)、付着藻類を餌とするカタツムリの一種アメリカヒラマキガイ(Helisoma trivolvis)は133Cs添加後の最初の14日以内に133Csの濃度が最大となった。一方、魚類のブルーギル(Lepomis macrochirus)およびブラックバス(Micropterus salmoides)は添加後170日よりも後に最大となった。プランクトンを起点とする食物連鎖と付着藻類を起点とする食物連鎖では、133Csの蓄積率は異なっていたが生物濃縮は同程度であった。本実験により魚における133Csの生物濃縮も示され、魚食を主としない魚類であるブルーギルは魚食性魚類であるブラックバスの三分の一の蓄積率であることが示唆された。また、ブラックバスの133Cs蓄積率は付着藻類やアメリカヒラマキガイよりも大きいが、体重当たりの最大濃度はブラックバスよりも付着藻類やアメリカヒラマキガイの方が大きい、と報告している。以上の解析結果は生態系におけるセシウムの生物濃縮を予測するために利用される。 | 図 4点、 表 4点 | Cesium accumulation by aquatic organisms at different trophic levels following an experimental release in to a small reservoir | Pinder III JE, Hinton TG, Taylor BE, Whicker FW | Journal of Environmental Radioactivity, 102, 283-293(2011) | 原著論文 | セシウム-133 | 水産物 | |
125 | 時系列的な空中リモートセンシングによるリブル川河口におけるセシウム-137の移動と堆積層の推定 | 本論文では、イングランド北西部リブル川河口(ラムサール条約に登録された湿地)において、潮の満ち干の繰り返しによってもたらされる懸濁沈殿物(浮遊土砂)総量および放射性核種濃度の測定に時系列的な空中リモートセンシングが適用できるかを評価することを目的として、1997年および2003年に時空間的高解像度空中撮影を行っている。2003年7月17日、河口は鉛直方向によく混合されているという仮定を確かめるために、潮の満ち干の時系列的な画像を収集することにより浮遊粒子状物質(SPM)と水柱の濁度測定を同時に行い、それにより表層 SPM の空間統合的推定値を鉛直方向に外挿することの正当性を示した。リブル川河口の137Csの放射能濃度は、比較的変動の少ない SPM と137Csの相関に基づき計算した。画像から得られた表層の SPM および137Csの推定値とリブル川河口の二次元流体力学モデル(VERSE)による水量の推定値を合わせて、河口全体における沈殿物と137Csの総量を得た。これは、約1万トンの沈殿物と 2.72 GBqの137Csが2003年7月にモニターされた潮の干満により堆積されたことを示す。この結果は、実地調査から得られた堆積層の高さの変化と比較したところ、ほぼ一致した。不確実度解析による沈殿物総量および137Cs 濃度は最終推定値で、総量の約 40 %程度であった、と報告している。本論文は、潮の満ち干を繰り返す潮間帯環境における正味の沈殿物総量と放射性核種濃度の空間統合的推定値を測定するための新しいアプローチを提示している。 | 図 4点、 表 4点 | Estimating sediment and caesium-137 fluxes in the Ribble Estuary through time-series airborne remote sensing | R. Wakefield, A.N. Tyler, P. McDonald, P.A. Atkin, P. Gleizon, D. Gilvear | Journal of Environmental Radioactivity, 102, 252-261(2011) | 原著論文 | セシウム-137 | 環境 | |
126 | 非耕作草地土壌における放射性核種の垂直移動 | 本論文では、草地土壌における放射性核種の移動モデルを評価することを目的としてもっともポピュラーな2つのモデルについて、統計学な観点から評価を行っている。コンパートメントモデルの適用性の制約からCDEモデルが有効なことが示された。放射性セシウムについては、CDEモデルによって推奨される値が導かれる。ただ、セシウム以外の放射性核種と、温暖ではない環境の土壌については、データが不足していることが示された、と報告している。本論文は、CDEモデルによる放射性核種移行の有効性を示唆するものである。 | 図 3点、 表 1点 | Vertical migration of radionuclides in undisturbed grassland soils | Kirchner G., Strebl F., Bossew P., Ehlken S., Gerzabeck MH | Journal of Environmental Radioactivity, 100, 716-720(2009) | 原著論文 | セシウム-137 | 環境 | |
127 | チェルノブイリ放射性核種の体外排出 | 本稿は、BELRAD Instituteが11年間携わってきた放射能汚染地区の食料および放射性核種量のモニタリングを行った知見を基に、体内の放射性物質の除去に効果的な対策を提言したものである。 チェルノブイリ事故から22年経過しているが、重度の汚染地域においては、汚染された製品の摂取が避けられないために線量限度は年間 1 mSvを越えている。BELRAD 研究所は、子供たちの被曝を効果的に低減するためには、公的に認められている危険限界(例:15-20 Bq/kg)の30%に達した段階で治療介入を行うことが必要であると提唱している。ベラルーシの重汚染地域居住者のCs-137の体内蓄積量を計測したところ、公式の線量一覧表では年間の負荷量を 1/3 ~ 1/8 に過小評価していることが示された。また、BELRAD 研究所は治療を目的として、16万人以上のベラルーシの子供を対象に1996年から2007年の間にペクチン添加食品物を摂取させてきた。ペクチン添加食品を摂取することがCs-137の体外への排出に効果的な方法である可能性がある、としている。 | 図 4点、 表 4点 | Decorporation of Chernobyl Radionuclides | Nesterenko VB, Nesterenko AV | Annals of the New York Academy of Science, 1181, 303-310(2009) | 総説 | セシウム-137 | 防護技術 | |
128 | 香港での淡水養殖魚の放射能汚染に対する各種防護対策による摂取線量の低減 | 本論文では、香港で放射能事故が起こった場合の淡水養殖魚の摂食による摂取線量と、淡水魚養殖場での対策による摂取線量の削減効果の試算が行われ、その結果を報告している。香港の淡水魚養殖体系に基づき作成されたモデルから、放射能事故後最初の一年間の淡水魚摂食による線量係数は 1.15 mSv/MBq m-2と試算された。放射能事故が生じた際の淡水魚養殖における摂取線量の削減対策として、(A)養殖の休止、(B)汚染水の除去、(C)堆積物の除去が考えられ、これら対策の事故後の実施時期に応じた削減線量が試算された。養殖の再開時期と摂取線量の関係について詳細に調べられ、事故から6カ月後に再開した場合のその後一年間の摂取線量は、事故後短期間で養殖を再開した場合の半分と試算された。養殖魚中の放射線濃度からその魚を摂食した場合の摂取線量の見積りが可能な計算式が導き出された。以上の結果は、意思決定者が放射能事故により汚染された淡水養殖魚の摂食で生じる摂取線量を制限する上で有効である、としている。 | 図 2点、 表 2点 | Dose reduction associated with various countermeasures in freshwater fish contamination in Hong Kong | Poon CB, Au SM | Journal of Radiological Protection, 20, 197-204(2000) | 原著論文 | セシウム-137 | 水産物 | |
129 | チェルノブイリの放射性物質の食品と人体の汚染 | 本総説では、チェルノブイリ事故による欧州諸国での食品の放射性物質汚染状況と食品を介した人体の汚染を紹介している。多くの欧州諸国では、乳製品、野菜、穀物、肉および魚中のI-131、Cs-134/137、Sr-90等の放射性核種は、チェルノブイリ事故直後(1,000倍相当)に急増した。1991年までに、合衆国が欧州諸国から輸入した食品の多くに測定可能な量のチェルノブイリ汚染があった。また2005年から2007年の間にも、ベラルーシのゴメリ、モギレフ、およびブレスト州において、小規模農家が生産した牛乳の 7-8 %や他の農産物の 13-16 %から、許容基準を越えるCs-137が検出された。2000年にも、ウクライナのロブノとジトームィル州で収穫された野生のキイチゴときのこでは、最大 90 %がCs-137の許容基準を超えていた。体重と新陳代謝の違いのため、子供の放射線被曝は同じ食事の大人のものより 3-5 倍高い。ベラルーシ、ゴメリ州のナロヴリャ地区では、1995年から2007年にかけて、子供の最大 90 %でCs-137蓄積のレベルが 15-20 Bq/kgより高く、最も高いレベルでは最大 7,300 Bq/kgの蓄積があった。ロシア、ベラルーシ、ウクライナにおけるCs-137とSr-90の体内への取り込み量は、1991年から2005年の間でむしろ増加した。現在の降下している放射性物質の 90 %がCs-137であり、その半減期は約30年であり、汚染地区の危険性は今後3世紀に渡って続くと考えられることが、紹介されている。 | 図 10点、 表 8点 | Chernobyl's Radioactive Contamination of Food and People | Nesterenko AV, Nesterenko VB, Yablokovb AV | Annals of the New York Academy of Sciences, 1181, 289-302(2009) | 総説 | セシウム-137、134、ヨウ素-131 | 農産物、畜産物、水産物 | |
130 | 水耕栽培条件下で栽培されたヒマワリの137Csおよび90Srの吸収 | 本論文では、90Srと137Csを添加した培地でヒマワリを水耕栽培し、成長後の各部位での放射能の吸収量を測定し、その結果を報告している。栽培後32日目において、元の水耕液に含まれていた137Csの約 12 %、90Srの約 20 %がヒマワリに蓄積された。Cs、Srともに、放射性核種と非放射性核種の蓄積における挙動には有意差はなかった。ヒマワリ中の放射能分布について、オートラジオグラフィーにより調べた結果、137Csにおいては、主に節、葉脈、そして若葉中に分布が見られた。90Srについては、葉脈、茎、主根、気孔に高い放射能が局在していた。非放射性CsおよびSrを用いた実験では、水耕液中のCsおよびSrの初期濃度が増加するほど、ヒマワリ植物体中に吸収されるCsおよびSrの割合は減少した。一方、放射性CsおよびSrを用いた、より低濃度における実験では、元の水耕液中の放射性90Srの量が多いほど、ヒマワリ中に吸収される90Srの量が減少したが、137Csについては、元の水耕液中の放射性137Csの量が多いほど、ヒマワリ中に吸収される137Csが増加した。これは、明らかに137Csが能動的に取り込まれているからであると、筆者らは説明している。さらに、137Csの吸収に対するK+およびNH4+の影響、および90Srの吸収に対するCa2+の影響について調べた結果、水耕液中に 10 mM K+および 12 mM NH4+が存在したとき、水耕液中の初期放射能の 24-27 %と最も高い137Csの蓄積が観測された。一方、90Srについては、水耕液中に 8 mM Ca2+が存在するとき、水耕液中の初期放射能の約 22 %と最も植物体中への蓄積が多かったと報告している。なお、著者らは最後に、今回の水耕栽培法による実験は根からの吸収をみるための一つのモデルにすぎないので、今後、通常の土壌での成長条件下での根からの吸収や土壌-植物間の関係の情報を得るためにフィールド実験が必要である、と述べている。 | 図 6点、 表 5点 | 137Cs and 90Sr uptake by sunflower cultivated under hydroponic conditions | Soudek P., Valenová S., Vavríková Z., Vanek T. | Journal of Environmental Radioactivity, 88, 236-250(2006) | 原著論文 | セシウム-137、ストロンチウム-90 | 農産物 | |
131 | 137Cs汚染土壌浄化を目的とする台湾原産植物種の評価と137Csの土壌から植物への移行におけるカリウム添加および土壌改良の効果 | 本論文では、台湾原産の植物種(野菜4種および緑肥植物2種)が、汚染土壌から放射性核種137Csを除去する目的で使用可能かについて検討している。137Cs汚染土壌および改良土壌(137Cs汚染土壌に園芸土壌を混合)でキャベツ、ホウレン草、レタス、大根、ナタネ、クローバーを栽培し、137Csの移行係数(transfer factor)が高かったナタネについては、土壌へのカリウム添加が植物への137Cs移行に及ぼす影響を検討した。改良土壌で栽培した植物は、汚染土壌で栽培した植物よりも高いバイオマス生産性を示し、中でもナタネ地上部は、バイオマス生産性が最も高く、137Csの移行係数も最大であった。また、現地の肥料に通常使用される 100 ppm濃度の塩化カリウムを添加した土壌で栽培したナタネでは137Csの移行が抑制されたと報告している。本論文は、台湾で一般的緑肥として利用されるナタネは、経済的また実質的に137Cs汚染土壌浄化に適した植物である可能性を示唆するものである。 | 図 3点、 表 1点 | Screening plant species native to Taiwan for remediation of137Cs-contaminated soil and the effects of K addition and soil amendment on the transfer of 137Cs from soil to plants | Chou FI, Chung HP, Teng SP, Sheu ST | Journal of Environmental Radioactivity, 80, 175-181(2005) | 原著論文 | セシウム-137 | 農産物、環境 | |
132 | 環境中の90Srの生物的モニターとしての鹿の角 | 環境における適切な放射線防護は、放射性核種含有量の変化に敏感な生物的モニターを特定しておく必要がある。カルシウムとSrの化学的な類似により、哺乳類の石灰化組織は90Srのよい生物的モニターになると考えられる。本論文では、毎年抜け落ちる鹿の角がその伸長期間における生態系への放射性Sr汚染の深刻度推定に利用可能かについて検討している。サンプルはスペイン西部、南西部のさまざまな地点で採取した。90Srの平均値は( 70 ± 43 (S.D.)) Bq/kg d. w.で変動幅は( 16 - 218 ) Bq/kg d. w.であり、放射性核種は角の各部位に均等に分布していた。角の90Sr含有量と土壌の90Sの蓄積量はよい相関を示した。角の226Ra(天然ウラン由来)とその他の安定元素(Ca、Mg、Sr、K)の含有量測定では、安定元素の値は、分析したサンプルのなかで実質的に一定であり、測定濃度は Ca >> Mg > K >> 90Sr > 226Ra の順で減少した、と述べている。 | 図 2点、 表 3点 | Antlers of Cervus elaphus as biomonitors of 90Sr in the environment | Baeza A., Vallejo I., Guillen J., Salas A., Corbacho JA | Journal of Environmental Radioactivity, 102, 311-315(2011) | 原著論文 | ストロンチウ-90 | 畜産物 | |
133 | ネバダ試験区域における放射性核物質の土壌から空気中、野生植物、カンガルーネズミ、放牧牛への移行 | 本論文では、アメリカ合衆国エネルギー省ネバダ応用生態学グループ(NAEG)がネバダ核実験場およびその近郊での90Sr、137Cs、238Pu、241Am、239Puなどの核物質が土壌からどれだけ動植物に移行するかを測定した結果を報告している。 NAEGは1970年から1986年にかけてネバダ核実験場の兵器試験区域や隣接する区域の環境放射性核種の調査を行った。核分裂実験区域と非分裂実験区域で(1)土壌粒子の分布と239+240Puから生じる放射性物質の物理化学的特性(2)239+240Puの再浮遊率(3)超ウランおよび放射性核分裂産物の土壌から野生植物、カンガルーネズミ、放牧牛への移行について調査した。 平均すると、土壌から大気、野生植物の表面、カンガルーネズミの消化管への超ウラン放射性核種の移行は分裂実験区域よりも非分裂実験区域において大きい値を示した。この結果は調査した非分裂実験区域においては、分裂実験区域よりも再浮遊し吸引されやすい微粒子土壌の割合が多いことを示唆している。 非分裂実験区域のカンガルーネズミの消化管(内容物含む)や放牧肉牛のルーメン内容物における239+240Puの乾燥重量あたりの平均含有量は同等であった。また、非分裂実験区域、分裂実験区域ともに、カンガルーネズミの消化管以外の部位と消化管、消化管と野生植物の239+240Pu含有濃度比に統計的有意差はなく同程度であった。一方、非分裂実験区域における消化管以外の内臓と消化管(ルーメン内容物)の239+240Pu含有濃度比は、カンガルーネズミの場合は、放牧肉牛と比較して有意に30倍大きい値であり、239+240Puの組織への移行が放牧肉牛よりもカンガルーネズミで顕著であることを示唆している。 分裂実験区域では、カンガルーネズミの消化管以外の部位における放射性核物質の生体利用性が90Sr>137Cs>238Pu>241Am>239+240Puであることが示唆された。また、90Srの消化管からの消化管以外の部位への移行が、他の核種に比べ高いことや、239+240Puが比較的毛皮に移行しやすいことなどが述べられている。 | 図 8点、 表 2点 | Radionuclide Transport from Soil to Air, Native Vegetation, Kangaroo Rats and Grazing Cattle on the Nevada Test Site | Gilbert RO, Shinn JH, Essington EH, Tamura T., Romney EM, Moor KS, O'Farrell TP | Health Physics, 55, 869-887(1988) | 原著論文 | ストロンチウム-90、セシウム-137、プルトニウム-238、239、アメリシウム-241 | 農産物、畜産物、環境 | |
134 | 木材灰を施肥後の泥炭地森林におけるベリー類、キノコ、ヨーロッパアカマツの針葉による137Csの吸収 | フィンランドでは木材を燃料として用いることが多く、そこから生じる灰は森林の肥料として利用されることがある。本論文は、木材灰を施肥した後の、排水された泥炭地におけるヨーロッパアカマツ(Pinus sylvestris L.)の針葉、ベリー類(クラウドベリーとハイデルベリー)、キノコ(ベニタケ)における137Cs の放射能濃度を分析したものである。1997年にフィンランドの2つの沼地で行われたフィールド実験で、2種類の灰(木の皮と泥の混合物から製紙工場で作られた、(1) 自然な塊と、(2) 2-10 mmに粒化したもの)をそれぞれ2種類の量(3,500または3,700 kg ha-1と10,500または11,000 kg ha-1)施肥した。この肥料灰には、1 m2あたり137Csが420~2,800ベクレル含まれた。フィンランドの泥炭層では、表面 0 ~ 10 cmでは、10 ~ 20 cmよりも137Csの濃度が高い傾向があるが、主に1986年のチェルノブイリ事故に依る影響であり、1950年代からの核実験によるものは僅かと考えられている。施肥の翌1998年に、灰を10,500 kg ha-1施肥した区における表層泥炭での137Csは、乾物 1 kg当たり 210 ベクレルと、調べた中で最も高値を示した。これは施肥していない対象区の表層に対して3倍以上高い値であった。一方、いずれの植物でも、137Cs濃度は対象区と比べて増加せず、セイヨウアカマツの針葉では、施肥翌年の137Cs濃度は減少傾向であった。本論文の結果は、木材灰を肥料として用いるリサイクルシステムは、植物における137Csの高濃度化を起こさないことを示唆するものである。 | 表 5点 | Uptake of 137Cs by berries, mushrooms and needles of Scots pine in peatland forests after wood ash application | Vetikko V., Rantavaara A., Moilanen M. | Journal of Environmental Radioactivity, 101, 1055-1060(2010) | 原著論文 | セシウム-137 | 農産物、環境 | |
135 | 放射性物質の淡水生物相への移行に関するロシア語文献のレビュー | 本論文では、旧ロシア国内のロシア語で発表された淡水生物相への放射性核種の移行に関する約130の報文をレビューし、生物種ごとの濃縮係数(以下CR値)に関して、英語で情報を提供することを目的としている。報文にあるCR値を、淡水域における国際的なレビューと比較したところ、いくつかの核種については、以前報告されている平均値と良い一致を見た。しかし、241Am(二枚貝、カタツムリ、浮魚類)、60Co(カタツムリ、底魚、虫の幼虫)、90Srと137Cs(底魚、動物性プランクトン)では、以前報告されていたものとは異なっている、と報告している。 本論文は、淡水生物種に関する35種類の放射性核種と11種の生物グループでの濃縮係数について、まとまったデータを提示するものであり、淡水生物での放射性核種の評価に有効なデータの幅を改善すると考えられる。 | 図 5点、 表 13点 | Radionuclide transfer to freshwater biota species: review of Russian language studies | Fesenko S., Fesenko J., Sanzharova N., Karpenko E., Titov I. | Journal of Environmental Radioactivity, 102(1), 8-25(2011) | 総説 | アメリシウム-241、コバルト-60、ストロンチウム-90、セシウム-137 | 水産物 | |
136 | ベラルーシにおけるセシウ-137、ストロンチウム-90汚染農地の修復対策とその実践 | ベラルーシ国内では、チェルノブイリ原発事故によりセシウム-137、ストロンチウム-90に汚染された農地が存在し、そこで収穫された農産物は内部被ばくの原因となっており、また汚染地域社会の活性低下をもたらしている。本論文では、この問題に対処するために有効な農業上の対策について、過去に報告のあるデータに基づいて効率性と受容性の観点から総括を行っている。具体的には、土壌改良による牧草栽培、セシウム吸着剤の飼料への添加、施肥、ジャガイモ栽培、ナタネのような工芸作物栽培への土地利用の転換に関して検討が行われている。 筆者は、優先すべき対策は、放射性物質の低減とともに、放射能が基準値を超えない農作物の生産による汚染地域住民の収入増加につながるものであるべきとした上で、最も有効な対策は徹底的な土壌改良による牧草栽培(radical improvement of meadows)であり、放射性核種を約1/3に低減可能である、と報告している。さらに、セシウム-137吸着剤であるプルシアンブルーの飼料への添加投与についても低コストで畜産物へのセシウム-137の移行を1/3程度に低減できる有効な手法である、と報告している。 | 表 5点 | Remediation strategy and practice on agricultural land contamination with137Cs and 90Sr in Belarus | Bogdevitch I. | Published in: Eurosafe. Paris, 2003, 25&26, November 2003, Environment and Radiation protection, Seminar 4, 83-92 | 総説 | セシウム-137、ストロンチウム-90 | 環境 | |
137 | 土地固有の元素(特にヨウ素)を用いた家畜製品への放射性核種の移行係数の検証 | 本論文では、植物からミルク、卵、肉等の家畜製品への放射性核種の移行に関するデータを充実させることを目的として、カナダの酪農、家禽およびその他の畜産農家において土地固有の元素を用いて調査した移行データを定量化している。特に本論文では、核燃料廃水由来のヨウ素-129の挙動を正確に査定する必要があったため、ヨウ素(I)について詳細に報告している。また重要な知見として、製品/基質の濃度比(CR)が種を越えて一定であり、一方従来の断片的な移行係数(TF)は家畜の体重(餌の摂取量)によって異なることから、長期の査定にはTFよりCRを用いるモデルへの変更が推奨されると提唱している。 | 図 4点、 表 6点 | Verification of radionuclide transfer factors to domestic-animal food products, using indigenous elements and with emphasis on iodine | Sheppard SC, Long LM, Sanipelli B. | Journal of Environmental Radioactivity, 101, 895-901(2010) | 原著論文 | ヨウ素-129(安定同位体) | 畜産物、食品 | |
138 | 小さな森林湖における魚類へのセシウム-137の移行 | 本論文は、1988年から1992年の間にかけて、フィンランドの森林中の河川が流入する湖と流入しない湖での魚類へのセシウム-137の移行について、線形回帰モデルを用いて解析したものである。湖水と魚類におけるセシウム-137の分析結果より魚類の濃縮係数を算出し、この間、流入河川のある湖では、この係数は1年につき 9 %ずつ減少した一方で、流入河川のない湖では、1年につき 4.3 %ずつ増加したことを明らかにしている。また、セシウム-137の移行程度は、パイクとパーチ(いずれも淡水魚の種類)とでは有意に異なり、前者では後者と比較し 1.6 倍大きいことを示すとともに、パーチにおいて濃縮係数は、体長が 1 cm増加するごとに、平均で 3.4 %増加したことを示している。さらに、濃縮係数に及ぼす水質の影響は、流入河川のない澄んだ湖と流入河川のある濁った湖とでは、異なる傾向であったことを示している。 | 図 3点、 表 5点 | Transfer of 137Cs into fish in small forest lakes | Saxen R., Heinavaara S., Rask M., Ruuhijarvi J., Rand H. | Journal of Environmental Radioactivity, 101, 647-653(2010) | 原著論文 | セシウム-137 | 水産物 | |
139 | チェルノブイリ原子力発電所周辺地域の選抜した無脊椎動物中のプルトニウム,137Csおよび90Sr | 本論文では、チェルノブイリ原子力発電所周辺地域の無脊椎動物の放射能汚染状況を把握することを目的として、カブトムシ,アリ,クモおよびヤスデを含む陸生の無脊椎動物の20以上のサンプルにおける放射性物質(プルトニウム,137Csおよび90Sr)量を報告している。放射性核種の比率の分析より、放射性核種の移行には動物種間の違いがあること、Partial Least-Squares法(PLS)を用いて多変量解析した結果、動物体における高いセシウムの放射線量は主に落葉落枝層の表面に生息しているような比較的小さい生物に多く見られ、これに対し、高いストロンチウムの放射線量は落葉落枝層の中で生息している生物に多く見られること、またプルトニウムについては明確な結果が得られなかったことを報告している。 | 図 3点、 表 5点 | Plutonium, 137Cs and90Sr in selected invertebrates from some areas around Chernobyl nuclear power plant | Mietelski JW, Maksimova S., Szwalko P., Wnuk K., Zagrodzki P., Blazej S., Gaca P., Tomankiewicz E., Orlov O. | Journal of Environmental Radioactivity, 101, 488-493(2010) | 原著論文 | プルトニウム,セシウム-137, ストロンチウム-90 | 環境 | |
140 | 野菜によるセシウム-134の取り込みは酸性土壌に施用される消石灰に影響される | 本論文では、酸性土壌に消石灰(水酸化カルシウム)を添加した場合に、大根、キュウリ、大豆、ひまわりが取り込むセシウム-134の量について検討したものである。各々可食部と非可食部についてセシウム-134濃度と消石灰添加量との相関を検討し、全体的な傾向として消石灰を多く施用した時に吸収されるセシウム-134が低下することを見出し、その低下割合はひまわり種子における 1/1.6 から大豆の非可食部における 1/6 の間に分布していた。植物中のカリウム濃度も減少したが、セシウム-134ほどの低減効果はなかった。一方、セシウム-134とカリウムの土壌から植物への移行係数は大幅に低下したが、これは、土壌の石灰化がセシウム-134吸収に及ぼす影響がカリウム吸収に及ぼす影響よりも強いことを示唆するものであった。この観察結果ついて、土壌マトリックスや植物内でのイオン間相互作用という観点から議論し、消石灰の施用によるカルシウム濃度の上昇により土壌マトリックスへ固定されるセシウム-134量が増えたため、その結果、植物に取り込まれるセシウム-134が減少したのだろう、と考察している。 本論文は、野菜へのセシウム-134の取り込みが酸性土壌への消石灰の施用程度によって変わることを示したものである。 | 図 1点 | 134Cs uptake by four plant species and Cs-K relations in the soil-plant system as affected by Ca(OH)2application to an acid soil | Massas I., Skarlou V., Haidouti C., Giannakopoulou F. | Journal of Environmental Radioactivity, 101, 250-257(2010) | 原著論文 | セシウム-134 | 農産物、環境 | |
141 | 牧草地の土壌におけるセシウム-137の垂直移動の空間的多様性と長期予測への影響 | セシウム-137のヒトへの長期の移行経路として、地表に降下したセシウム-137を吸収した植物を介した経路が懸念される。その際、農地や牧草地の根圏(深さ 0~7 cmの土壌)における放射性物質の残存量が重要になってくる。そのため、様々な土壌の地表近くの放射性セシウムの垂直方向の移動に関する研究が数多く行われている。本論文では、現在広く使用されている土壌中のセシウム-137の移動モデル(dispersion-conversionモデル、residence timeモデル、back-flowモデル)に対する、移動パラメーターの影響を調べるために、実際にチェルノブイリ由来のセシウム-137が降下した牧草地におけるセシウム-137の深度分布を測定している。さらに、得られたデータから移動パラメーターを求め、この牧草地における20年、50年、100年後の根圏土壌のセシウム-137の頻度分布予測を行った。本論文によると、移動パラメーターに空間的多様性のみを考慮した場合は、residence timeモデルで予測される中央値は、他の2モデルの予測値よりも常に有意に高い値を示したが、空間的多様性に加えてセシウム-137の堆積量も考慮した場合には、3つのモデルで予測した中央値は100年後の予測においてのみ有意差を生じた、と報告している。 | 図 9点 | Spatial variability of the vertical migration of fallout 137Cs in the soil of a pasture, and consequences for long-term predictions | Bunzl, K., Schimmack, W., Zelles, L., Albers, BP | Radiation and Environmental Biophysics, 39, 197-205(2000) | 原著論文 | セシウム-137 | 環境 | |
142 | 異なるタイプのハチミツ中のプルトニウム-239/240、セシウム-137、ストロンチウム-90およびカリウム-40 | 本論文では、異なるタイプのハチミツ(花蜜、甘露蜜、ヘザーハニー)に含まれる放射性核種の濃度を測定し、比較している。その結果、プルトニウム-239/240、セシウム-137、ストロンチウム-90、カリウム-40の濃度は、ハチミツの種類によって異なっていた。ハチミツを放射性核種のバイオインジケーターとして利用するには、花粉分析によってハチミツの性質を調べることが必要である、と結論づけている。 | 表 2点 | 239/240Pu, 137Cs,90Sr, and 40K in Different Types of Honey | Bunzl, K., Kracke, W. | Health Physics, 41, 554-558(1981) | 原著論文 | プルトニウム-239/240、セシウム-137、ストロンチウム-90、カリウム-40 | 農産物、食品 | |
143 | 放射性セシウムの植物吸収:機構、制御、応用のレビュー | 本論文では、放射性セシウムの植物吸収に与える様々な要因のうち、特にカリウム輸送系の重要性を述べている。放射性セシウムによる土壌汚染は長期に渡って放射線の影響を与える。なぜなら、放射性セシウムは食物連鎖を通して容易にヒトに移動するからである。植物吸収は、土壌からヒトへの放射性セシウム移行の主要経路である。放射性セシウムの吸収をコントロールする植物関連因子中、カリウム供給が水溶液からのセシウム吸収に最大の影響を及ぼす。放射性セシウムの吸収は、植物根細胞膜において2つの主要輸送経路(カリウムイオントランスポーターとカリウムイオンチャネル)によって行われる。外部のカリウム濃度が低い場合( 0.3 mM未満)では、カリウムイオントランスポーターはセシウムイオンをほとんど区別しない(各イオンとの親和性は、K > Cs > Rb > Na > NH4)。一方、外部カリウムイオンが高濃度( 0.5 - 1 mM)になるとカリウムイオン吸収系がカリウムトランスポーターからカリウムの吸収に対して高い選択性を持つ( K > Rb > Na > Cs )カリウムイオンチャネルに切り替わる。放射性セシウムは植物ではカリウム輸送系によって吸収される可能性が高いが、セシウム:カリウム比は植物によって一定ではない。内部セシウム濃度(乾燥重量)は、同条件下で育った異なる植物種間で 20 倍程度の差が出る。ファイトレメディエーション(植物による環境浄化)は放射性セシウム汚染土を除染するための可能な選択肢だが、それには何十年もの長い時間がかかる、大量の廃棄物を生み出す、ということが大きな問題点となる、と論じている。 | 図 2点、 表 4点 | Plant uptake of radiocaesium: a review of mechanisms, regulation and application | Zhu YG, Smolders E. | Journal of Experimental Botany, 51, 1635-1645(2000) | 総説 | セシウム-134、セシウム-137 | 農産物、環境 | |
144 | 半自然生態系のコケ類への238U、226Ra、232Th、40Kおよび137Cs移行の定量 | 本論文では、陸上生物相における放射性核種の移行データの蓄積を目的として、コケ類におけるウラン-238、ラジウム-226、トリウム-232、カリウム-40およびセシウム-137の濃縮比を測定している。また、放射性核種の濃縮比と土壌の物理化学的特性との関連性についても調べている。本論文で得られた濃縮比のデータは、放射性核種、特に天然放射線核種の移行パラメーターのデータベースに有益な情報を追加することとなる、と述べている。 | 図 2点、 表 7点 | Quantification of transfer of 238U,226Ra, 232Th, 40K and 137Cs in mosses of a semi-natural ecosystem | Dragovic S., Mihailovic N., Gajic B. | Journal of Environmental Radioactivity, 101, 159-164(2010) | 原著論文 | ウラン-238、ラジウム-226、トリウム-232、カリウム-40、セシウム-137 | 環境 | |
145 | 放射線生態学、放射線生物学そして放射線防護:枠組みと問題点 | 本論文では、環境防護の枠組み構築の方法論について述べている。一般人の放射線防護体系は古くから存在し、今でもICRP(国際放射線防護委員会)によって、現在の被曝状況と予測される被曝状況を包括するように改良が加えられている。しかしながら、環境防護に関しては、ようやく体系的な取り組みが始まったばかりである。環境防護の枠組みの構築にあたっては、スケールは異なるが、人の防護体系と並行した枠組みを軸として展開するべきで、放射線生物学に基づいた、放射線生態学の中心をなすものでなければならないとしている。 | 図 2点 | Radioecology, radiobiology, and radiological protection: frameworks and fractures | Pentreath RJ | Journal of Environmental Radioactivity, 100, 1019-1026(2009) | 総説 | 特になし | 防護技術 | |
146 | ヨーロッパアカマツ植林が、チェルノブイリ広葉樹林の森(赤い森)の廃棄物埋設地点からのセシウム-137およびストロンチウム-90の長期間再循環に与える影響 | 本論文では、チェルノブイリのいわゆる赤い森(広葉樹林)中の廃棄物埋設地点において、ヨーロッパアカマツ植林による放射性物質(セシウム-137およびストロンチウム-90)の移行・循環を調査している。廃棄物埋設溝(No.22)で15年間生長した平均的樹木の地上部バイオマスには、埋設溝外でのものと比較して、1.7 倍のセシウム-137および 5.4 倍のストロンチウム-90が蓄積しており、埋設廃棄物質に含まれる 0.024 %のセシウム-137および 2.52 %のストロンチウム-90に相当すると見積もっている。樹木が埋設溝内のストロンチウム-90およびセシウム-137を吸い上げる能力は、一年あたり最大 0.82 %および 0.0038 %であると報告している。計算モデルを用いた評価によると、最大のストロンチウム-90の循環が植林後 40 年で起こり、樹木の生長サイクルを通じて、埋設溝内ストロンチウム-90の 12 %が表層土に移行し、7 %が樹木中に保持されると予測している。 | 図 3点、 表 3点 | Impact of Scots pine (Pinus sylvestris L.) plantings on long term 137Cs and 90Sr recycling from a waste burial site in the Chernobyl Red Forest | Thiry Y., Colle C., Yoschenko V., Levchuk S., Hees MV, Hurtevent P., Kashparov V. | Journal of Environmental Radioactivity, 100, 1062-1068(2009) | 原著論文 | セシウム-137、ストロンチウム-90 | 環境 | |
147 | 植物における134Csの取り込みの土壌特性および時間との関係 | 植物によるセシウムの取り込みは、その植物が生育する土壌の性質に大きく影響を受ける。本論文は、ヒマワリおよび大豆について、土壌の性質と134Csの取り込みとの関係を調べることを目的とし、これらの植物を7種類の異なる土壌でポット栽培し、134Csを添加して植物体への取り込みを経時的に調べたものである。134Csの取り込みは、土壌から植物への移行係数 (transfer facter, TF, Bq kg-1 plant/Bq kg-1 soil)および1ポットにおける1日当たりの吸収量(フラックス, Bq pot-1 day-1)としてみた。その結果、1)TFやフラックスは、ヒマワリの方が大豆よりも大きいが、これらの値は2種の植物において強い相関が見られ、即ち、134Csの取り込みに対する土壌の性質の影響は似ていると考えられること、2)しかしながら、TF からみた134Csの取り込みに対する土壌の影響はヒマワリの方が大きく、土壌の影響は植物の性質に依存すると考えられること、3)TFおよびフラックスの値は、土壌の陽イオン交換容量に対する1価の陽イオンとしてのカリウムイオンとアンモニウムイオンの合計濃度の比に対して負の指数相関を示すこと、などを報告している。これらの結果は、植物におけるセシウムの取り込みをコントロールするための土壌の特性として、交換性のカリウムイオンおよびアンモニウムイオンの濃度が重要である事を示唆している。 | 図 4点、 表 4点 | Plant uptake of134Cs in relation to soil properties and time | Soudek P., Tykva R., Vanek T. | Journal of Environmental Radioactivity, 59, 245-255(2002) | 原著論文 | セシウム-134 | 農産物、環境 | |
148 | 南ポーランド森林地帯における各種キノコ中の137Csと40K | 本論文では、2006~2007年にわたり南ポーランドの森林地帯数千平方メートルを対象として,70種類以上のキノコを収集し放射能レベルを測定している。また並行して2006年10月に土壌中の137Csの蓄積量を測定した結果,64 ± 2 kBq/m2と比較的高い値を示した。この土壌中の高い放射能レベルは表層の 6 cmに集中していた。収集したキノコは放射性セシウムとカリウム-40とを測定した結果,最も高いセシウム-137の値を示したのは2006年に収穫されたLactarius helvus(アカチチモドキ)で 54.1 ± 0.7 kBq/kg(乾物換算)であった。また,数例であったが半減期の短いセシウム-134も検出された。調査結果全体を通じた結論として,キノコ中に放射性セシウムが蓄積されることが確認された。蓄積はキノコの生育特性,特に土壌中への生育深度によって大きく異なることが明らかとなった、と報告している。 | 図 3点、 表 2点 | 137Cs and 40K in fruiting bodies of different fungal species collected in a single forest in southern Poland | Mietelski JW, Dubchak S., Brazej S., Anielska T., Turnau K. | Journal of Environmental Radioactivity, 101, 706-711(2010) | 原著論文 | セシウム-137, カリウム-40 | 農産物、環境 | |
149 | 廃棄物処理場候補地の土壌からのセシウム-137およびコバルト-60の拡散移動に関する実験室における研究 | 本論文では、核廃棄物処理場における放射性物質の拡散および吸収特性を明らかにすることを目的として、核廃棄物処理場設置が検討されている南オーストラリア州の土壌を再現した試験土壌の放射性物質の実効拡散係数および吸収係数を数値的、実験的に算出している。対象核種には、セシウム-137およびコバルト-60が用いられた。実効拡散係数は、両方の核種で約 10- 6 cm2・s-1であり、過去の文献値より高い値であった。一方、実効吸収係数は、セシウム-137については数値計算と同等であったが、コバルト-60では、想定と大きく異なった。これは、コバルト-60の実効吸収係数は、pH上昇により大幅に上昇することに由来すると考えられる。本論文では、セシウム-137およびコバルト-60の実効拡散係数および実効吸収係数を明らかにするとともに、それらの数値計算による予測が容易ではないことを示している。 | 図 2点、 表 3点 | Laboratory studies of the diffusive transport of 137Cs and 60Co through potential waste repository soils | Itakura T., Airey DW, Leo CJ, Payne T., McOrist GD | Journal of Environmental Radioactivity, 101, 723-729(2010) | 原著論文 | セシウム-137、コバルト-60 | 環境 | |
150 | ヒマワリ、ヨシ、ポプラの137Cs吸収に関する実験室条件下での解析 | 本論文ではヒマワリ(Helianthus annus L.)、ヨシ(Phragmites australis L.)、ポプラ(Populus simonii L.)(テリハドロノキ)のセシウム-137の吸収の違いについて報告している。0.5 mM (14 MBq l-1)の塩化セシウムを含む液で32日間の水耕栽培を行い、その間の植物内部へのセシウムの分布をオートラジオグラフィーで、また残りの培養液に含まれる放射性セシウムを液体シンチレーションカウンターで調べた。セシウム-137の吸収はポプラ、ヨシ、ヒマワリの順で多く、ポプラでは栽培16日目で水耕液中のセシウム-137の 31 %の減少があった。またオートラジオグラフィーの結果、ヒマワリとヨシではセシウム-137が葉や根など全体に蓄積するのに対し、ポプラでは若い葉や葉脈に蓄積する様子が観察された。植物体内への吸収に関して、非放射性セシウム(セシウム-133)と放射性セシウム-137に違いはみられなかった。さらにヒマワリについては、水耕液中のカリウムイオン(K2SO4)やアンモニウムイオン(NH4ClとNH4NO3の濃度が2:1の液を使用)の影響も調べた。カリウムイオンについては、K2SO4が 1 mMの場合に他の場合の2倍以上の 14.2 %のセシウムの吸収が確認された。一方アンモニウムイオンの影響としては、水耕液のNH4Clが 6 mMでNH4NO3が 3 mMの場合に最大の吸収( 13.2 %)が確認された。これらの最大吸収条件は、植物の成長率が最大の条件に一致した、と報告している。 | 図 4点、 表 3点 | Laboratory analyses of 137Cs uptake by sunflower, reed and poplar | Soudek P., Tykva R., Vanek T. | Chemosphere, 55, 1081-1087(2004) | 原著論文 | セシウム-137 | 農産物 | |
151 | 「チェルノブイリ」事故下の子供がリンゴペクチンを摂取することで体内の137Cs量は減少する | 標準的な放射線防護措置の補完として、子供の体への137Cs摂取を減少させるために、特にウクライナではリンゴペクチン調製品が与えられている。「子供が放射線学的に汚染されていない食べ物を摂取していてもペクチン摂取は有効かどうか」、また、「この多糖類は腸内で137Csに結合し、腸内吸収を妨げるだけなのか」という疑問が持ち上がったが、「放射線学的に汚染されていない食べ物を摂取できるなら、ペクチンは役立たない」とみられている。本研究では、放射能汚染されたホメリ州に住む64人の子供を対象に、15 ~ 16 %のペクチンを含む乾燥粉末りんご抽出物とプラセボ粉末を用いて、無作為(ランダム)化された二重盲検対照試験を実施している。137Cs量の平均は約 30 Bq/kg-BW(体重)であった。試験は同時に、サナトリウム・シルバースプリングに1カ月滞在した子供に対しても実施された。この汚染されていない放射線環境下の施設では、放射線学的に「汚染されていない」食物が子供に与えられた。ペクチン粉末を摂取した子供における137Csレベルの減少は平均 62.6 %であったのに対し、「汚染されていない」食物および偽薬(プラセボ)を摂取した子供における137Csレベルの減少は 13.9 %であり、統計学的有意差があった(P値は1%以下)。この137Csの減少レベルには医学的な関連があり、プラセボグループのどんな子供も 20 Bq/kg-BW以下(Bandazhevskyによって特定の病理学的な組織の損傷に関連の可能性があると考えられている値)にはならず、平均 25.8 ± 0.8 Bq/kgであった。リンゴペクチンを摂取したグループにおける最高値は 15.4 Bq/kgであり、平均値は 11.3 ± 0.6 Bq/kg-BWであった、と報告している。 | 表 2点 | Reducing the 137Cs-load in the organism of "Chernobyl" children with apple-pectin | Nesterenko VB, Nesterenko AV, Babenko VI, Yerkovich TV, Babenko IV | SWISS MED WKLY, 134, 24-27(2004) | 原著論文 | セシウム-137 | 農産物、防護技術 | |
152 | 「チェルノブイリ」事故下の子供にみられる、137Cs量、循環器症状および食品との関係 -リンゴペクチン経口摂取後の予備調査結果- | チェルノブイリ原子力事故から17年が経過し、ベラルーシ南部住民の放射能汚染の大半は長寿命の放射性同位体の取り込みで引き起こされている。この地域の子供達の137Csレベルの変動は、摂取食物源(特に個人農家で生産された汚染牛乳の消費)に依存している。本論文では、ベラルーシの農村地域(137Cs汚染が 5 Ci/km2以上)の子供を体内137Cs量に応じ、3つのグループ(グループ1は、5 Bq/kg-BW(体重)以下、グループ2は 38.4 ± 2.4 Bq/kg-BW、グループ3は、122 ± 18.5 Bq/kg-BWとした。)に分け、137Cs量、子供の主な食物源および循環器症状との関連性を調査している。循環器症状、心電図の変化および動脈性高血圧の出現頻度は、体内137Cs量の高い子供の方が、非常に低い子供に比べ有意に高かった。中程度および高い体内137Cs量(グループ2および3)の子供に16日間リンゴペクチンを摂取させると、137Cs量は有意に減少した(グループ2および3においてそれぞれ 39 %、28 %減少)。心電図の変化は改善したが、循環器症状および高血圧はどのグループでも変化がなかった、と報告している。 | 図 3点、 表 2点 | Relationship between Caesium (137Cs) load, cardiovascular symptoms, and source of food in "Chernobyl" children - preliminary observations after intake of oral apple pectin | Bandazhevskaya GS, Nesterenko VB, Babenko VI, Babenko IV, Yerkovich TV, Bandazhevsky YI | SWISS MED WKLY, 134, 725-729(2004) | 原著論文 | セシウム-137 | 農産物、防護技術 | |
153 | 現在のベラルーシの子供における137Cs体内放射線量に関する研究-放射線量はさらに減少できるか? | チェルノブイリ原子炉事故後、ベラルーシの広い地域は放射性降下物質で汚染された。放射線量の長期的モニタリングと検証は、現在も進行中である。特別な関心がある住民グループは、汚染地域に住む子供たちである。1 mSvの年間線量限界は、時として超えることがあり、それは、携帯用の線量計でのモニタリング値が示すように、基本的には137Csの体内量が高いためである。 このような状況で、食品汚染対策に加え、可能な被曝線量の低減手段に関する評価研究行われている。特に、ベラルーシの科学者達は、被曝線量の低減効果が期待されるペクチン製剤(ビタペクト)の臨床応用に注目している。本論文では、ペクチン製剤の効果を検証するために、プラセボ対照を用いた二重盲検試験を実施している。放射能汚染を受けた子供の複数グループに、2週間サナトリウムに滞在してもらい、ビタペクトを服用させている。同数の対照群における子供はプラセボ製剤を服用させた。子供の137Cs体内被曝線量を試験前後に測定した。ビタペクト服用グループの被曝線量の平均減少率は 33 %であった。一方、プラセボ製剤を服用した子供の平均減少率は 14 %であり、非汚染食料の供給に起因すると考えられる。消化管において、ペクチンは化学的にセシウムのような陽イオンと結合し、その結果、糞便中への排せつを増加させることが知られている。この前提と代謝プロセスに基づく理論計算値は、実験的に示されたペクチン治療後の人体の放射性セシウムの保有率と質的に一致する、と報告している。 | 図 2点、 表 1点 | Studies on the current 137Cs body burden of children in Belarus-Can the dose be further reduced ? | Hill P., Schlager M., Vogel V., Hille R., Nesterenko AV, Nesterenko VB | Radiation Protection Dosimetry, 125(1-4), 523-526(2007) | 原著論文 | セシウム-137 | 農産物、防護技術 | |
154 | ラットにおける137Cs除染に関するプルシャンブルーおよびリンゴペクチンの有効性の比較 | 137Csは、1986年にウクライナで起きたチェルノブイリ原子力発電所の爆発の後に環境を汚染した最も重要な核分裂生成物の1つである。本論文では、2種類のキレート剤であるプルシャンブルーおよびリンゴペクチンについて、ラットを用いた137Cs除染の有効性の比較を行っている。137Cs溶液をラット1匹につき 5 kBqずつ静脈注射した。その後(セシウム汚染直後より)、プルシャンブルーもしくはリンゴペクチンを添加(1日 400 mg/kg相当)した飲料水を11日間与えた。キレート剤の有効性は、セシウムの糞便排泄量および投与11日後の組織・器官(血液、肝臓、腎臓、脾臓、骨格および残りの胴体)の蓄積量で評価した。プルシャンブルー処理後、排泄糞便中のセシウム濃度は5倍増加しており、測定した主器官におけるセシウム保持率の減少と相関していた。一方、リンゴペクチンを処理したラットと未処置のラットとの間には有意差は認められなかった、と報告している。 | 図 3点 | Comparison of Prussian blue and apple-pectin efficacy on 137Cs decorporation in rats | Gall BL, Taran F., Renault D., Wilk J.-C., Ansoborlo E. | Biochimie, 88, 1837-1841(2006) | 原著論文 | セシウム-137 | 農産物、防護技術 | |
155 | 肉の塩溶液浸漬による除染 | 本論文は、放射能汚染されたシカの肉を塩水に漬けることによって、肉のセシウム-137を除去できることを述べている。肉1kgあたり 570 Bq(25.4 nCi)のセシウム-137を含む雄のノロジカの脚の肉を用いた。この値は肉1kgあたり 178 pg(1.3 pmol)の放射性セシウムに相当する。この肉を、肉の8倍量の重量の 100 g/L (1.7 M) 塩化ナトリウムと 3 g/L (29.7 mM)の硝酸カリウムを含む塩水に漬けた。3週間後、肉の放射能は1kgあたり 70 Bq(1.9 nCi)にまで減少した。同様の結果は、別の2頭の雄のノロジカから取り出した肝臓、腎臓および心臓においても得られた。また、漬け込む塩水にカリウムは不要であることがわかった。218 Bqのセシウム-137を含む1kgの雄のノロジカの脚の肉を約50の断片に切り分け、100 gの塩化ナトリウム粉末と 500 mLの 1.7 M塩化ナトリウム水溶液に浸した。その後、毎日、塩水から肉を取り出し、100 mLの水で洗浄し、肉と塩水の放射能を測定した後、肉は 1 Lの 1.0 M 塩化ナトリウム水溶液に再び漬けた。5日後、肉の放射能は最初の放射能の 5 %以下に減少していた。著者らは、セシウムイオンに対して大過剰のナトリウムイオンを含む(今回の場合10の12乗倍)溶液に漬けることで、他の動物の肉も同様に除染が可能になると考えている。 | 図 1点 | Decontamination puts meat in a pickle | Wahl R., Kallee E. | Nature, 323, 208(1986) | 原著論文 | セシウム-137 | 畜産物 | |
156 | NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータによる穀物試料の放射性セシウム測定 -環境放射線の遮へい効果とGe半導体検出器測定との相関- | つくば市内の研究所の環境放射線レベルを例に、NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータによるγ線測定における環境中の放射線の鉛遮へい体による低減効果を検証した。また、大麦試料を用いて、適切な鉛遮へい体の使用条件下で、検出限界を超える正味計数率と暫定規制値以下の放射性セシウム濃度との関係に相関があることを実証した。 | 図 5点 | 亀谷宏美、萩原昌司、根井大介、柿原芳輝、木村啓太郎、松倉 潮、川本伸一、等々力節子 | 日本食品科学工学会誌, 58(9), 464-469(2011) | 原著論文 | セシウム-134,-137 | 食品 | PDF |
0 件のコメント:
コメントを投稿