土壌からコメへのセシウム移行係数を10%と設定し、
5000Bq/kgを上回る水田の作付けを制限しました。
計算上は、500Bq/kgを超えるコメはないと考えています」と説明する。
規制値を500Bq/kgに設定した根拠を聞くと、
「それを決めたのは食品安全委員会」だという。
食品安全委員会は、
野菜類、穀類、肉・卵・魚のセシウム暫定規制値を500Bq/kgと設定している。
ところが、食品安全委員会に聞くと
「(規制値を決めたというのは)誤解です。決めたのは厚生労働省」だという。
そこで厚生労働省に問い合わせてみた。
すると
「ICRP(国際放射線防御委員会)の指針に基づいた、
原子力安全委員会の数値を援用しています」とのこと。
ICRPの勧告したセシウムの被曝限度5mSv/年を、
日本人の食生活に合わせて計算したものだという。
しかし、チェルノブイリ原発事故を経験したベラルーシの規制値は、
パンが40Bq/kg、飲料水が10Bq/kg(日本は200Bq/kg)など、
日本よりもずっと厳しい。
また、子供の食べ物に関してはさらに厳しい基準値が定められている。
◆消費者の口に入る前の玄米・白米段階で綿密な調査が必要
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土壌の放射能がどれだけ玄米や白米の部分に移行するということだ。
(財)環境科学技術研究所の塚田祥文氏の調査によると、
イネが土壌から吸収した放射性核種がイネ全体に移行する割合は、
ストロンチウム90が0.09%、
セシウム137が0.003%。
そのうちそれぞれ1%、7%が白米部分に移行し、
大部分が藁など“食べない”部分に移行するという(図参照※)。
可食部、とりわけ玄米から糠を除いた白米の場合は
ほとんど放射能が移行しないということになる。
※イネにおける部位別乾燥重量とストロンチウム、セヒウムの分布割合(%)
http://nikkan-spa.jp/85350/inegraph
一方で、まったく逆のデータもある。田崎和江・金沢大学名誉教授が福島県飯舘村の水田の土を使ってイネを栽培し、収穫したコメ(籾米)から2600Bq/kgのセシウムが検出されたという。藁は2200Bq/kg、根は1500Bq/kgで、土壌の線量は5万Bq/kg。塚田氏のデータとはまったく違う数値が出た。「可食部の放射線量が最も高くなり、衝撃を受けた」と田崎教授は語っている。二本松市の検査では、500Bq/kgを超えたコメがつくられた土壌は3000Bq/kgだった。土壌からの移行率が高すぎる。これはどう考えたらいいのだろうか?
「放射線防御プロジェクト」メンバーである内科医の土井里紗氏はこう語る。
「その土地の条件によって、汚染度は変わってきます。消費者の口に届く直前の、玄米と白米段階での汚染調査を徹底する必要があるでしょう。そして、基準値以下なら『安全』と言うのではなく、その数値を明らかにしたうえで消費者の選択に任せるべきでしょう」
ところが現在の状況は、「出荷が認められたものはすべて安全!」とでも言うかのように、詳細なデータが伏せられたまま新米が流通しようとしている。例えば、村井嘉浩宮城県知事は「詳細な数値を出したところで消費者の皆さんは理解ができない。(500Bq/kg以下の)証明書がついていればどれだけ食べても問題がない」と8月22日の記者会見で語っている。
まさに消費者をバカにした発言という他はないが、我々の主食のコメは、こんなテキトーな感じで「安全」だと決められているのだ。
取材・文/北村土龍 撮影/田中裕司