金子 憲治(日経エコロジー)
落葉や降雨に伴い、森林近くの放射線量が増加する場合がある。福島県内では本格的な除染が始まったが、場所によっては効果に限界も見える。
「近くの森林で葉が落ちる時期は地上1mの空間線量が上がる。マスクを着用したほうがいい」――
福島県南相馬市内で除染の実証事業に取り組む日本原子力研究開発機構・原子力人材開発センターの天野治氏は、こう警告する。6月以降、減少してきた地上1mの空間線量が9月以降、微増に転じている。山間部以外ではこうした変化はないという。漸減傾向であることを加味すると、新たに加わった放射性物質は、従来の1.7倍になっている可能性があるという(下のグラフ)。
福島第1原子力発電所は冷温停止状態を保っており、6月以降、放射性物質の飛散量は徐々に減っている。では、増えた放射性物質はどこから来たのか。天野氏は、木の葉に付着したセシウムの一部が、落葉に伴って大気中に飛散していると見ている。これまで樹木に付着したセシウムは、落葉によって根から吸い上げられ、森林内で循環すると考えられてきた。このため森に立ち入らなければ人への影響は少ないとされた。
だが、落葉時に壊れた細胞の微粒子にセシウムが付着して、大気中に再飛散する実態が明らかになった。
福島市内でも、6月以降に線量が上がった場所がある。神戸大学大学院海事科学研究科の山内知也教授は市民団体と協力し、渡利地区の線量を測定している。このうち小倉寺稲荷山の側溝では、6月に93万1000ベクレル/m2だったが、9月には479万4000ベクレル/m2に上昇した。
「渡利地区には周辺の山から水が流れて来る。一般的には降雨によって線量が低下すると思われているが、こうした地域では逆に雨の度に放射性物質の濃度が上がることが分かってきた」と山内教授は言う。
南相馬市馬場地区でも、周辺の山からの流水によって、田畑の線量が上がる場所のあることが、地元建設会社の測定で明らかになっている。
福島市では居住空間に近い森林に関しては、落ち葉を除去するなどの措置を検討しているが、降雨や落葉に伴う森からの新たなセシウム拡散は、この程度の除染では防げない可能性が強まっている。だが、森林の除染に関し、政府はまだ明確な方向性を示していない。
「山の森林にセシウムが蓄積されている限り、周辺では居住地域だけを除線しても、効果は限定的だ。線量によっては除染とともに避難も考えるべき」と、山内教授は警鐘を鳴らす。
(日経エコロジー2012年1月号より)
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