2011年12月18日日曜日

原発における崩壊熱の意味

原発における崩壊熱の意味

原発の発電は、加熱により蒸気を発生させ発電機のタービンを回すという点で従来の火力発電と同じです。違いは熱の生成方法にあります。火力発電所(石炭)であれば石炭を燃やし蒸気発生用のボイラーを加熱しますが、原発では核分裂を利用します。福島の原発は沸騰水型原子炉(BWR - Boilng Water Reactor)と呼ばれ、反応炉のコア(訳注:燃料棒集合体を集積した原子炉の中核部分)で直接蒸気を生成し、それがタービンを回します。
稼動中の炉の熱の大半は、ウラニウム235(U-235)やプルトニウム-239(P-239)のような核分裂性同位体の核分裂によって生じます。中性子がこれらの同位体を分裂させると、巨大なエネルギーが解放されます。
このエネルギーは燃料、被覆管(訳注:燃料を隔離・保護するケーシング。詳しくは最初の記事をご覧ください。)、冷却材、そして構造物に吸収されます。平均では約80%の核分裂エネルギーが二つかそれ以上の数の核分裂生成物の粒子に(訳注:運動エネルギーとして)与えられ、そして、衝突距離が短いことから燃料中に留まります(訳注:衝突し、また熱を生む)。残りのエネルギーは中性子や各種の放射線を形成します。
制御棒が差し込まれ炉が停止するSCRAM状態(訳注:緊急停止のこと。諸説あるが、Safety Control Rod Axe Man = 制御不全の際に斧でロープを切断して制御棒を叩き込むロープカット役などに由来)では、核分裂は事実上停止し、出力は1秒経つ間に最大出力の7%程度にまで激減します出力がゼロにまで落ちないのは、それまでの燃料の核分裂で生成された放射性同位体があるためです。これらの同位体は核分裂生成物とも呼ばれ、崩壊を続ける過程で様々な放射線を発生させます。
ガンマ線(訳注:高エネルギーの電磁波)、ベータ粒子(訳注:電子・陽電子)、アルファ粒子(訳注:陽子2、中性子2からなるヘリウム4の原子核部分)などです。
この崩壊による放射線のエネルギーも燃料に吸収され熱を生みます。この熱のことを崩壊熱と呼びます。
崩壊が進めば進むほどこれら同位体は安定状態となり放射を止めるので、最終的には崩壊熱を生まなくなります。コアの加熱を防ぐためには、この崩壊熱の生成速度と同じ速さで冷却する必要があります。つまり、コア部分に(冷却)水を通し、熱を持ち去るのです。原子炉の各種の冷却装置はまさにこのためのものです。しかし、福島原発では地震に続く津波によってこれらシステムが正常稼動できなくなり、この崩壊熱の除去が困難になりました。
原子炉停止後の崩壊熱による熱量はどれくらい発生するのでしょうか?この計算方法はよく知られており、以下の図表が福島原発(訳注:福島第一原発のこと。原文では第一原子力発電所1//2/3号機をDaiichi-1/2/3と間違えて呼んでいる。図表も同じ。)の1-3号機についての推定値となります。地震発生(訳注:つまり原子炉緊急停止)からの経過時間に伴う発生熱量の推移です。実測ではありませんが、原子炉停止後の崩壊熱を計算する上で一般的なモデルに基づくものです。
図:地震直後のSCRAM(制御棒の完全挿入による緊急停止)からプロットした、経過時間(横軸)に対する崩壊熱量(縦軸)の推定グラフ。
f:id:arc_at_dmz:20110319005917j:image
表:各原子炉でのSCRAMの1秒後から1年後までの崩壊熱の遷移を推定した表。
日時(福島での現地時間)1号機の崩壊熱(MW)2、3号機の崩壊熱(MW)原子炉運転出力に対する比率
3/11/11 2:46 PM92.0156.86.60%
3/11/11 2:47 PM44.776.23.21%
3/11/11 2:48 PM36.962.82.64%
3/11/11 2:50 PM31.453.52.25%
3/11/11 3:00 PM24.141.01.73%
3/11/11 3:30 PM19.132.51.37%
3/11/11 8:00 PM12.821.90.92%
3/12/11 8:00 AM10.117.30.73%
3/12/11 8:00 PM9.115.50.65%
3/13/118.514.50.61%
3/14/117.813.20.56%
3/16/116.911.80.50%
3/20/116.110.50.44%
4/1/115.28.80.37%
7/1/113.76.30.26%
10/1/113.35.60.23%
3/11/122.95.00.21%
1号機の定格は460MWe(訳注:MW electrical、原子炉の熱生成量ではなく、それによって発電される電気量を示す。)で、2、3号機は784MWeです。しかし、様々な熱力学や現実の制約から、これはわずか33%程度の発電効率での発電量となります。つまり、熱的な出力(MWth=MW thermal)ではこれら定格の3倍程度となり、これが除去しなくてはならない真の熱量です。上の図表はこの熱量を記載しています。
崩壊熱は1日経過後には運転時出力の2%を切りますが、そこからの減少ペースは非常に緩やかです。そして1年後には0.2%程となります。この崩壊熱が除去されない場合、核燃料は加熱を始め、ジルカロイ製の被覆管の急速な酸化(~1200℃)、(同合金の)溶融(~1850℃)、そして燃料自体の溶融(~2400-2860℃)などの望ましくない事態が発生することになります。

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