原発の不都合な真実

原発の不都合な真実
 「地球温暖化防止に役立つエネルギー」「安定供給が可能で、発電コストも安い!」-。
安全、安定、安価に加え、クリーンだとされてきた原発。
しかし、実際はどうなのでしょう。
日本と世界の環境問題やエネルギー問題を第一線で取材してきた共同通信の記者が、コラムやインタビューなどで解説するシリーズです。
 筆者は井田徹治・共同通信編集委員
井田徹治(いだ・てつじ) 1959年東京生まれ。83年東大文学部卒、同年共同通信社入社。91年科学部、ワシントン支局を経て、2010年から編集委員。環境と開発の問題を長く取材。著書に「生物多様性とは何か」(岩波新書)など。
 第1回 「原発は温暖化対策に役立たない」
第2回 「原子力ルネッサンスの幻」(その1)
第3回 「原子力ルネッサンスの幻」(その2)
第4回 「インタビュー企画 アースポリシー研究所代表のレスター・ブラウン博士」
第5回 「インタビュー企画 緑の党所属のシルビア・コッティングウール連邦議会議員」
第6回 「インタビュー企画 再生可能エネルギー財団の理事長に就任したトーマス・コーバリエル氏」
第7回 「インタビュー企画 環境エネルギー政策研究所の松原弘直主席研究員」
第8回 「インタビュー企画 橘川武郎・一橋大教授」
第9回 「原発は安価か? 建設コストは増加の一途  「リスク大きい」と格付け会社」

 第1回 「原発は温暖化対策に役立たない」

【原発の不都合な真実】

原発は温暖化対策に役立たない-

この世界には、はるかに有効な二酸化炭素の排出削減政策がたくさんある

 日本の原子力推進派の主張には
さまざまな事実誤認がある。その一つは「原子力発電の推進が地球温暖化対策に欠かせない」という主張だ。1997年、気候変動枠組み条約の第3回締約国会議で採択された京都議定書で、日本は2008~12年までの平均で温室効果ガスの排出量を1990年比で6%削減するという義務を負った。その直後に通商産業省(当時)が国の政策として打ち出したのが「原発20基の増設」という目標だった。
 民主党が打ち出した「2020年までに1990年比で25%削減」という目標達成を視野に入れて昨年6月にまとめられたエネルギー基本計画にも「2020年までに9基、30年までに計14基の原発を新増設する」との文言が盛り込まれた。地球温暖化問題が深刻化し、温室効果ガスの排出削減の必要性が叫ばれるようになって以来、原子力は日本の温暖化対策の中で中心的な位置を与えられ、これが「国策」として原子力を推し進める重要な根拠とされた。
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 2000年以降、東北電力女川原発3号機、東通原発1号機など新規の原発が運転を開始し、電力供給に占める原子力の比率も徐々に高まったのだが、グラフからも分かるように日本の二酸化炭素排出量の増加には歯止めがかからなかった。逆にこの間、排出量を大きく減らしているのは、ドイツ、デンマーク、スウェーデンなどで、いずれも原発の新増設などに頼らずに、温暖化対策を進めている国である。
 
 グラフにある8カ国の中で、原発建設を強力に進めている唯一の国である日本の排出量だけが目立って増えていることが分かる。このことは、原発頼みの日本の温暖化対策が完全に失敗していることを示している。逆に言えば、この世界には原発に頼ることよりも、はるかに有効な二酸化炭素の排出削減政策がたくさんあるということだ。
 排出量を大幅に減らしている3カ国に共通している政策は、二酸化炭素の排出量に応じて課税する炭素税やエネルギー税の導入、強力な再生可能エネルギー導入支援政策、厳しい省エネの義務づけといったエネルギーの需要と供給、両面からの多彩な政策である。日本ではこのところ普及が停滞しているコージェネレーション(熱電併給)などの「熱」利用の効率化のために強力な規制を導入している点も共通している。3カ国とも自然エネルギーの電力の固定価格制度を導入していて、大規模水力を含めた自然エネルギーが電力に占める比率はドイツが18%、デンマークが29%、スウェーデンに至っては56%という高さである。
 3カ国ともグラフから分かるように二酸化炭素の排出量は減らしているが、この間にきちんと経済成長を続けている。過去20年間、ほとんど経済成長をしていないのに、電力消費量と二酸化炭素の排出量だけが急増している日本の状況は明らかに異常である。
 つまり、原発の新増設を進めるよりも、規制を強化して省エネを進め、風力や太陽光、バイオマス発電などの自然エネルギーを進め、原発では温排水として単に海に捨てているだけの廃熱を有効利用する方が、はるかに有効な温暖化対策になるのだ。
 自然エネルギーの拡大や熱の有効利用のためには、電力や熱の消費地に近い場所で、小規模分散型の発電設備で電気を作り、その時に出る熱も有効に利用するということが必要になる。このような小規模分散型のエネルギー総合供給システムの方が、大規模集中型の発電システムに比べてはるかに効率的な上、コストも安い
 例えば、ドイツの電気料金は家庭用の場合は、炭素税などのために日本より10%ほど高いが、産業用電力は日本の3分の2という安さである。省エネが進めば需要家は、電気料金やエネルギーコストの削減によって長期的に利得があるのだが、原発の建設は省エネの動機づけとはなり得ない。しかも、今回の東京電力福島第1原発の事故の結果、明らかになったように、電力の安定供給という点からも、小規模分散型のシステムの方が、大規模集中型に勝っているのである。
 自然エネルギーの拡大が、原子力の拡大よりも効率的な二酸化炭素排出削減対策であることは今年の5月に、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表した特別報告書の中でも指摘されている。
 大規模集中型の原子力発電を集中的に立地することに頼ってきた日本の誤ったエネルギー政策と温暖化対策の中で、小規模分散型の効率的なエネルギーの総合供給システムは顧みられず、原発建設に多大なコストを投じたために、エネルギーの需要と供給のシステムを改革するのに必要な「機会費用」も奪われた。この結果、日本は、自然エネルギーの開発や省エネの推進で他の先進国に大きく遅れを取った。世界で急速に拡大している自然エネルギー関連ビジネスでの日本企業の立ち遅れは深刻だ。原発依存の日本の二酸化炭素排出削減政策の弊害は大きい。(共同通信編集委員 井田徹治)


第2回 「原子力ルネッサンスの幻」(その1)

原子力ルネッサンスの幻(その1)

-温室効果ガスの削減策として原子力を再評価しようとの動きが喧伝される中、原発の退潮が始まっていた

 家庭やオフィスでのエネルギー消費の増加が続くことを前提に、運転中の二酸化炭素の排出が少ない原子力発電と、価格の安い石炭による火力発電を拡大してきたのが日本のエネルギー政策の姿といえます。しかし、需要側の対策がおろそかにされていたため、このところ日本の省エネは進んでいません。
日本の一人当たりのエネルギー消費は増加傾向にあり、近年、減少が目立つ英国よりも多く、かつてはかなりの差があったドイツにも並ばれました。1次エネルギー供給量1単位当たりの国内総生産(GDP)を指標としてみても、英国、ドイツ、デンマーク、スウェーデンなど多くの欧州諸国の方が日本よりエネルギー効率が高いのが現状です。
「原子力ルネッサンス」という言葉はなぜ生まれたのでしょうか。それは真のルネッサンスなのでしょうか。今回はチェルノブイリ原発事故以降の各国の動きを追っていきます。
 前回は、原発の増設が有効な地球温暖化対策だとは言えず、世界には原発に頼らずに温室効果ガスの排出量を減らし、なおかつ経済成長も遂げている例が少なくないことを紹介した。

二酸化炭素を出さないからといって大規模な原子力発電所を次々と建設するよりも、省エネなどのエネルギーの需要サイドの対策を進め、再生可能エネルギーを拡大させる方が効率的な温室効果ガスの排出削減策となりうることをデンマークやスウェーデン、ドイツなどの例が示している。
 といっても、供給力の大きい原発に、温室効果ガスの削減策として期待する声は根強い。温室効果ガスの排出削減が各国にとっての大きな課題となる中、温暖化対策としての原子力の役割が強調されるようになり、これまで否定的な見方が多かった原子力を再評価しようとの動きが広がっていると言われている。「原子力ルネッサンス」などと呼ばれた動きである。
 原子力推進派によって「原子力は温暖化防止に貢献する」と喧伝されるようになったのは、主に今世紀に入ってからだ。1986年のチェルノブイリ原発事故以降、原子力利用に消極的だった国々で、原子力利用の前向きな見直しが始まったこともさかんに取り上げられ「原子力ルネッサンス」との言葉も生まれた。だが、その内実を見てみると、これらの国で原子力開発が進んだとは言えず、欧米の専門家の中には「原子力ルネッサンスは幻だった」と指摘する人も少なくない。東京電力福島第1原発の事故によって、原子力への厳しい世論が高まる中、原子力の退潮は確実だ。
 推進派によって「原発推進に転じた」とされた国は、米国、英国、スウェーデン、イタリアなど。米国では2005年、ブッシュ政権下で成立したエネルギー法に原発建設への優遇税制や融資保証などが盛り込まれた。英国のブレア政権も07年、政府のエネルギー白書で「原発は温暖化防止上、重要な手段だ」と指摘、08年の法律にも原発の新規建設の支援を明記した。イタリアには原発は存在しないが、08年に発足したベルルスコーニ政権が電力不足などに対応するために新規原発の建設を進める方針に転換。スウェーデンも、原発推進に積極的な政党が与党連合政権に加わったため、原発の段階的な廃止という従来の政策を転換し、老朽化を原因とする既設原発の立て替えを認めることを決めた。これらが「原子力ルネッサンス」を主張する人々の主な根拠となっているようだ。
 だが、これらの国々では原発の新設はまったく進んでいない。唯一、米国で1988年に80%以上建設が進んだところで止まっていた原発の建設が再開されただけ。米国内ではさまざまな建設計画がまとまったものの、資金面を含めて実現性が高いものは少ない。
 英国では「政府がいかに奨励しようが企業に原発建設の動きはない。逆に英国の原子力産業はリストラが進み、原子力産業の空洞化が起こっている」というのは英国のある専門家の見方だ。労働党政権後の現在の連立政権には、原発に消極的な自由民主党が加わったこともあり、英国内で原発の新規着工を目指す動きはみられない。
 スウェーデンはどうだろう?同国の前のエネルギー庁長官のトーマス・コバリエル氏は「原発の建設は認めても、政府の資金援助などはない。スウェーデンの企業に原発建設に向けた目立った動きはなく、投資は再生可能エネルギーに向かっている。再生可能エネルギーにはエネルギー関連以外の企業からの投資も活発だ」と話す。氏は「いくら安いと言われても、事故があった時に批判されることになるので、電力の消費者も原発からの電力の購入に二の足を踏む」と言う。イタリアでも状況は似たり寄ったりだし、リトアニアで欧州連合(EU)加盟の条件として09年末に旧ソ連型の原発が閉鎖されたため、原発を持つ国・地域の数も31から30に減っている。
 欧州の先進国の中で、原発の新規着工があったのは2005年、フィンランドのオルキルオト原発3号機と07年、フランスのEPR1号機の2件だけだ。両国とも別に脱原発や反原発から転換をした国ではなかったので、原子力の復興、ルネッサンスとは言い難い。推進派によって喧伝された原子力ルネッサンスはどうやら幻だったようだ。
 欧州では15年ぶりの原発の新規着工で注目されたフィンランドのオルキルオト原発だったが、運転開始の時期は少なくとも3年以上遅れ、既にコストも当初の見込みの1・8倍にもなっている。09年とも言われていた運転開式時期は13年以降となるのは確実で、最終的な費用は、当初見込みの2~3倍になるとの観測もでている。
 07年に着工したフランスのEPRも当初33億ユーロとされていた建設費が40億ユーロに上方修正された上、トラブルや安全性の不備の指摘による設計変更などが相次ぎ、運転開始のめどが立っていない。事業者のEDFはフラマンビルの運転開始目標を14年と、当初の目標から2年間繰り延べると同時に、総費用も50億ユーロとなる見通しだと発表している。
 先のスウェーデンのコバリエル前長官は「隣国のフィンランドの原発建設に関する状況も、スウェーデンの事業者が原発建設に踏み切らない大きな理由の一つだ」と指摘する。
英グリニッジ大のスティーブ・トーマス教授によると、08年1月以降に世界で着工された原発は32基。うち21基が中国、6基がロシアだった。同教授は「欧米では原子力ルネッサンスは起こっていない」と明言する。
 原発建設に投資家が二の足を踏むのは、フランスやフィンランドで実証されたように、拡大する一方の建設コストと完成までのリードタイムの長さ、事故のリスクや社会的な批判を浴びやすいという「評判のリスク」の大きさだ。政府がいくら支援策を講じても投資家が動かなければ、原発の建設は進まない。電力市場が自由化されている国での常識なのだ。
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 環境やエネルギーに詳しい米国・アースポリシー研究所のレスター・ブラウン代表は「米国ではリスクの大きさから原発はずっと昔に投資家から見放されている。政府がいくら支援策を講じてもウォールストリートは反応しない。投資は風力発電などの再生可能エネルギーに向かうだろう」と分析。「原発が建設されているのは、政府が補助金を投じている日本のような国か上意下達の命令で建設ができる発展途上国がほとんどで、市場に真実を語らせれば、原発の建設などできない」と指摘する。
 「原子力ルネッサンス」が喧伝される中で、こんな現実を背景に実は、原発の退潮が始まっていた。グラフは大手石油会社BPの資料のものだが、世界の原発の発電量が06年をピークに3年連続で減少していることが分かる。(続く)

 第3回 「原子力ルネッサンスの幻」(その2)
 

原子力ルネッサンスの幻(その2)

-東電事故が世界に与えた衝撃は大きく、原発の退潮に拍車が掛かるのは間違いない。それが否定できない現実だ

 米国の環境シンクタンク、ワールドウオッチ研究所によると、2010年、風力や太陽光などの再生可能エネルギーの発電設備容量は3億8100万キロワットとなり、初めて原発の容量の3億7500万キロワットを抜いた。
 原発は、安全規制が厳しくなったことや建設費用の増加で1980年代後半から伸び悩む一方で、風力や太陽光などの再生可能エネルギーは地球温暖化対策で注目されて投資が集中、急激に増加したためだ。
 年間の発電設備容量の増加量の比較 World Watch Institute,2011
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 3種のエネルギーについて年間の設備容量の増減を示したグラフを見ると、原子力(赤)の停滞ぶりと風力(青)、太陽光(緑)の急伸ぶりは明確だ。
 もちろん容量は同じでも、再生可能エネルギーは稼働率で劣るのでこれだけで比較はできないが、この傾向が続けば、そう遠くない将来に発電量でも再生可能エネルギーが上回る時代がやってくるだろう。
 忘れていけないことは、ここで紹介したのはすべて、東京電力福島第一原発事故以前の状況だということである。悲惨な事故が世界の関係者に与えた衝撃は大きく、既に目立ち始めていた原発の退潮にこれが拍車を掛けることは誰の目にも明らかだ。
 2022年までにすべての原発を廃止することを決めたドイツのほか、ルネサンスの一翼を担うと目されていたイタリアでは、国民投票で原発再開の政府方針にノーが突きつけられた。03年の国民投票では原子力のモラトリアム(一次禁止)が否決されたスイスでも脱原発の方針が決まった。
 2000年以降、5基の原発が運転を開始、先進国の中では異例の拡大ぶりを示していた日本でも、今後、原子炉の廃炉が進む一方で、新増設はほぼ不可能な情勢なのだから、原子力への依存度は否が応でも減っていくことになる。
 米国電力大手NRGエナジーはことし4月、日本の東芝との合弁で建設計画を進め、「米国では79年以来の新規着工になる」と一部で期待されてきたテキサス州の原子力発電所計画への投資打ち切りを決めた。事業には東電も出資を計画していたのだが、NRGは、福島第1原発事故で「米国での原発建設が不透明となり、建設が予定通り進む可能性が著しく減った」と説明。約4億8100万ドルの損失を計上した。
 実は昨年((2010年)の原発の発電量はわずか2%とはいえ前年比よりも増えたのだが、事故後の各国の動向を見れば、ことしは原発の設備容量、発電量ともに大幅に減少するのは確実だ。中国やインドなどの新興国では今後も原発の増設が一定のペースで進むとしても、世界的にみればまだそのシェアは小さい。
 ワールドウオッチ研究所の報告書では、現在、世界で稼働中の原子炉の平均年齢は26歳。グラフを見ると、平均寿命を40歳とすればかなりの「高齢社会」であることが分かる。
 世界の原子炉の運転期間と基数 World Watch Institute, 2011
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 報告をまとめたマイクル・シュナイダー氏は「事故後の各国の反応を見れば、原子力が将来的に主要なエネルギー源となるとは考えられない」と指摘する。今後、先進国を中心に高齢化した原発の廃炉が進み、原子力の縮小は急速に進むことになるだろう。シュナイダー氏は「事故後の各国の反応を見れば、原子力が将来的に主要なエネルギー源となるとは考えられない」と明言する。これが世界の原子力を取り巻く否定できない現実である。

インタビュー企画 

「地震国、火山国の日本で最も潜在能力の高いものが地熱発電。太陽光や風力発電のため風況や天候を予測する技術も進む。今こそ政治的に不安定な中東に依存する化石燃料のリスクを見直せ」-レスター・ブラウン氏


 事故発生から6カ月以上がたってもいまだに収束しない東京電力福島第1原発事故。原発と石炭火力発電に多くを依存してきた日本のエネルギー政策の根本的な見直しは避けられない。内外の専門家に、日本の今後のエネルギー政策の在り方などを聞いた。
 米国の著名な環境シンクタンク、ワールドウオッチ研究所の創設者として知られる著名な環境思想家で、今は環境シンクタンク、アースポリシー研究所代表のレスター・ブラウン博士は、原子力のリスクとともに化石燃料のリスクにも注目すべきだと言う。
 ―原発事故から何を学ぶべきか。
 「三つのリスクに注目するべきだ。地震活動が世界でも特に活発で、人口密度が高い日本に54基もの原発を並べることには大きなリスクがあることは以前から指摘されていた。地震国、火山国である日本にとって最もリスクが大きい発電手法が原発だ。逆に最も潜在能力の高いものが地熱発電なのだが、日本の地熱発電の開発は遅れている。日本は逆のことをやってきてしまったと言える。一方で、化石燃料の大量使用には、『アラブの春』にみられるように政治的に不安定になった中東の石油に大きく依存するリスクや地球温暖化のリスクが高まっているという問題がある。今回の事故はそんな中で起こった。日本人はエネルギーの将来を考え直す時で、決め手は、再生可能エネルギーだ」
 ―再生可能エネルギーの現状は。
 「温暖化の原因となる二酸化炭素を出さず、設備投資が少なくて済むので、米国をはじめ各国で投資が急拡大している。やがては枯渇する油田や炭鉱への投資と違って、再生可能エネルギーへの投資は、地球が続く限り利益が得られる。原発事故はいつ起こるか予測できず、一度発生すると、大量の電力が一度に失われる。これが今回の教訓だ。だが、分散型の再生可能エネルギーにはその心配もない」
 ―不安定で、量が小さいとの批判があるが。
 「どこかで風が吹き、太陽が照っているものだ。風況や天候を予測する技術は進んでおり、安定度は高まっている。設備の数が増えればさらに安定度は増す。トヨタなどが開発を進めているプラグインハイブリッド車が家庭に普及すれば、自動車を蓄電池代わりに使って、ためておいた電力を必要な時に利用することも可能になる」
 ―原子力は有効な地球温暖化対策だとの指摘があるが。
 「建設コストが高く、事故のリスクも大きい原発に頼るよりも省エネや再生可能エネルギーの開発を進める方がはるかに効率的な温暖化対策になる。原発に多大な資金を投じることは、省エネや再生可能エネルギー開発の機会費用を奪うことになるので、逆効果だと言える。米国政府は積極的な原子力の利用を打ち出しているが、米国ではリスクの大きさから原発はずっと昔に投資家から見放されている。政府がいくら支援策を講じてもウォールストリート(の投資家)は反応しない。事故によってこの傾向はさらに強まり、投資は風力発電などの再生可能エネルギーに向かっている。英国など、政府が原発推進の方針を打ち出している他の先進国でも状況は同様だ」
 ―日本の再生可能エネルギーの可能性は。
 「日本には世界有数の地熱エネルギーがある。なぜ、これを利用しないのか理解できない。自然環境保護からの反対があるのは理解できるが、近年は2本の井戸を深くまで掘る新技術が開発され、限られた面積の発電所で大量のエネルギーが得られるようになった。日本には太陽光や風力の資源も豊かで、将来的にはすべての電力をまかなえるだけの能力がある
 ―日本のエネルギー政策への提言は。
 「日本政府は原子力の研究開発には年間23億ドルの投資をしているのに風力には同1千万ドル、地熱の研究開発への投資はほとんどゼロだ。原子力のための資金を再生可能エネルギーに回せば、多くのことができる。電力市場の自由化と国の支援策が必要で、技術力でまさる日本の産業界はこの分野で世界のリーダーになれるはずだ。日本は、持続可能なエネルギーのためのビジョンを持つべきで、政治家がどれだけ切迫感を持って改革に取り組むかが問われている」(聞き手・井田徹治)
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 レスター・ブラウン 1934年、米ニュージャージー州生まれ。米農務省勤務などを経て74年にワールドウオッチ研究所を設立。環境問題に関する報告書や政策提言の発表、環境思想の提案などによって世界的に知られる。食料問題、人口問題、エネルギー問題などに詳しい。2001年、米ワシントンにアースポリシー研究所を設立、代表を務める。

「法律で再生可能エネルギー電力の全量買い取りと送電優先化を義務付け、投資家も安心できる環境をつくる。

それは子どもたちや次世代に対する貴重な投資でもある」

-シルビア・コッティングウールさん

 2022年までに原発廃止を決めたドイツ。この決定に大きな役割を果たした「緑の党」に所属する国会議員、シルビア・コッティングウールさんは、日本でもドイツ同様、脱原発は可能だと指摘する。


―福島第1原発の事故をどうみるか。
 「5月に日本の市民団体などの招待で福島県飯舘村などにも行き、原発事故の悲惨さを体感した。飯舘村の村長が『東京電力には何も期待できない』と話していたのが印象的で、彼らの苦労は痛恨の極みだ」
 ―事故からどんな教訓を得るべきか。
 「技術力が高い日本のような国でも自国の原発の安全を保てなかった。原発のリスクは巨大で、すべての国はこれを深刻に受け止めなければならない。大規模な放射性物質の汚染を伴うような大事故が起こったら、どんな国であってもきちんとした対応はできないだろうと実感した」
 ―脱原発で減少する電力供給をどう補うことができるだろうか。
 「原発の電力を補うのは再生可能エネルギーだ。2000年に緑の党が連立内閣に加わった時に脱原発と対になるものとして、再生可能エネルギー開発を強力に進めるための新たな法的な枠組みをつくった。再生可能エネルギーの電力の全量買い取りを電力会社に義務付け、その電力を送電の際に優先することを義務化するのが主な内容で、この結果、太陽光や風力の発電が急拡大した」
 ―再生可能エネルギーの買い取り制度の意義は。
 「再生可能エネルギーに対し、投資家が安心して投資できるようになる環境をこの法律がつくり出した。事業への投資は、市民や州政府などの地方自治体が主体だったが、最近では電力会社の投資も拡大している。ドイツでは、大規模集中型の電力供給から、小規模分散型へのシフトが起こっている。再生可能エネルギーの拡大は脱原発と結び付いたもので、脱原発はエネルギーシフトを実現するための条件だ」
 ―ドイツでは電力の安定供給に問題はなかったのか。
 「現在、ドイツの電力供給の18%は再生可能エネルギーだが、大きな問題は起こっておらず、まだ拡大の余地はある。アルミ製造などの電力多消費型産業から、安定供給への不安の声は出たが、彼らも積極的に議論に参加し、自らどんな貢献ができるかを検討した。結果的に風力発電や太陽光発電産業が成長し、関連機器製造のためアルミの需要が増えるなど、業界への利益もあった
 ―日本のエネルギー政策への提言を。
 「日本にはドイツを上回る日照や水資源があり、風力資源も豊かな上、ハイテク産業もある。海洋エネルギーの潜在力も大きい。静岡県の浜岡地区の海岸には、巨大な防潮堤よりも風力発電基地や海洋エネルギー基地の方がふさわしい。エネルギー政策を決める上では、市民の意見をきちんと取り込むことが大切なことをドイツの経験が示している。脱原発と再生可能エネルギーへの投資は、子供たちや次世代の安全とエネルギー安全保障に対する貴重な投資だと考えるべきだ」(聞き手・井田徹治)
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シルビア・コッティングウール 1952年、ドイツ・カールスルーエ生まれ。緑の党の運動にかかわり、2005年に連邦議会議員に初当選。気候変動問題や原子力、エネルギー問題に取り組む。

第6回 「インタビュー企画 再生可能エネルギー財団の理事長に就任したトーマス・コーバリエル氏」
 


  先進的なエネルギー政策で知られるスウェーデンは、バイオマスエネルギーの活用などを進め、経済成長を遂げながら、温室効果ガスの排出も大きく減らしてきた。08年3月から、そのスウェーデンのエネルギー庁長官を務め、このほど、日本のソフトバンクの孫正義会長が設立した「再生可能エネルギー財団」の理事長に就任したトーマス・コーバリエル氏は、日本のエネルギー政策は今、大きな岐路に立っていると話す。

―福島第1原発事故をどうみるか。
 「事故は、結果的に極めて深刻なものになった。幸いなことに、風が海側に向かっていたために、日本人の健康と経済にとって本当に破局的な結果だけは避けられた。これは不幸中の幸いだったといえる」
 ―スウェーデンの原子力政策はどうなっているのか。
 「スウェーデンでは1999年から2005年にかけて2基の原発を閉鎖した。現在の連合政権誕生時の合意で、古くなった原発をコスト高を理由に新しくすることは認めるが、新規の建設には一切、政府の補助はしないということになっている。事故後もこれは変わっていないが、新規原発建設の動きはない」
 ―その理由は。
 「隣国のフィンランドは新規原発の建設を決めたが、09年に予定されていた完工は13年に延び、総工費も2~3倍になるとされている。原子炉のコストがとても高いということが最近、はっきりと認識されてきた。原子力が経済的に割に合わないということだ。誰も巨額の投資をしたがらず、誰も大事故のリスクを負いたがらない。原発の電力を好んで買う企業も少ない。事故があった時に責任を問われ、非難されるからだ
 ―原発閉鎖で二酸化炭素の排出量は増えたのか。
 「1990年以来、スウェーデンの経済は1・5倍に成長したが、排出量は約20%減っている。決め手となった政策は、CO2の排出量に応じて化石燃料に課税する炭素税の導入で、風力発電やバイオマスなどの再生可能エネルギーの競争力が高まった。現在、多くの国の産業が化石燃料価格の高騰で苦しんでいるが、スウェーデンの産業界は、ずっと以前から高い化石燃料価格に対応してきたので、今は強い国際競争力を持っている」
 ―再生可能エネルギーの現状は。
 「昨年、大型水力を含めた再生可能エネルギーで発電した電力量は、全消費量の55%強に達した。風力発電は予想を超えるペースで拡大し、価格はどんどん安くなっている。さまざまな企業が風力発電に投資をしていて、原子力とは対照的だ。バイオマス発電はスウェーデンの重要な成功例の一つで、石油や原子力の代替、温室効果ガスの排出削減、農業廃棄物問題の解決など多くの利点がある」
 ―なぜ、日本の財団への転職を決意したのか。
 「日本の友人から『日本の再生可能エネルギーの普及に貢献してくれないか』と依頼された。福島原発事故という悲劇的な事態に直面した後、日本のエネルギー政策は大転換を求められている。スウェーデンでの再生可能エネルギー開発の経験などを基に、日本のこれからに貢献したいと考えた」
 ―日本への提言は。
 「エネルギー政策の改革で重要な点は、送電や配電事業を、発電事業から分離して市場をオープンにすることだ。これまで同様、巨大な電力会社が送配電網をコントロールするならば、新しい発電設備を電力網に接続することを難しくして、新しい参加者を市場から締め出すことを可能にしてしまう。これでは新たな技術の開発や新規参入が進まなくなり、電気料金も安くならない。補助金の廃止や、炭素税のように環境への悪影響を価格に反映させるといった経済的な手法も重要になる」
 ―転換は可能だろうか。
 「国内の市場が育たなかったために、日本の再生可能エネルギー関連ビジネスは厳しい状況に置かれている。だが、日本の技術は一流だし、風力や太陽光の資源はデンマークやスウェーデンより豊かだ。各国が積み上げた多くの政策も大きな参考になる。既得権益を排して民主的なエネルギー政策を実現するのか、過去の誤りを繰り返すのか、日本は今、岐路に立っている」(聞き手・井田徹治)
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トーマス・コーバリエル 1961年スウェーデン生まれ。物理学、環境経済学などが専門。バイオマスエネルギー関連企業などを経て2008年3月から、スウェーデン政府のエネルギー庁長官。この9月から日本の自然エネルギー財団の理事長に転身。

第7回 「インタビュー企画 

      環境エネルギー政策研究所の

      松原弘直主席研究員」
 


 世界各国で急伸しているにもかかわらず、日本では停滞が深刻な再生可能エネルギーを使った発電。環境エネルギー政策研究所の松原弘直主席研究員は再生可能エネルギー拡大を後押しする政策の重要性を指摘する。


―再生可能エネルギーの現状は。
 「風力発電や太陽光発電のほかバイオマスや地熱、太陽熱利用などを中心に世界の再生可能エネルギーを使った発電は年々、加速的に普及している。2010年に再生可能エネルギーの発電設備容量は3億8100万キロワットとなり、原子力発電の総容量を超えた。日本の原発事故の影響で今後、原子力は減少が確実な一方、自然エネの急拡大は当分、続くだろう」
 ―拡大は欧州が中心なのか。
 「ドイツは電力に占める再生可能エネルギーの比率を00年の6・8%から10年には16・8%にまで増やしている。デンマークやスペインは25%を超え、電力供給の中で中心的な役割を果たしている。風力発電が急増しているのは米国と中国で、この2カ国がトップを争っている」
 ―日本の状況は。
 「日本の再生可能エネルギーは停滞が目立つ。長い間、太陽光発電の設備容量では世界1位だったが05年にドイツに抜かれた。その後、差はさらに広がり、10年末にはスペインにも抜かれて3位に転落した。風力発電の容量は10位にも入らない。大規模水力発電を含めた再生可能エネルギーを使った電力の比率は00年度の約9%からほとんど増えていない」
 ―その原因は。
 「日本は風力や太陽光、バイオマス、地熱など再生可能エネルギー資源に恵まれているし、技術もあれば資金もある。なかったものはそれを後押しする政策だ。ドイツやスペインなどは再生可能エネルギーの電力を固定価格で長期間、買い取ることを電力会社に義務づける法律を制定した結果、自然エネが急拡大したが、日本では10年ほど前に、電力会社などの反対で法律の制定が頓挫し、後れを取ってしまった」
 ―固定価格買い取り制度の利点は。
 「電力会社に、再生可能エネルギーの電力を優先的に受け入れ、長期間にわたって発電事業が成り立つ固定価格で買い取ることを義務づける。これによって安心して発電事業に投資ができるようになる。デンマークでは市民出資による風力発電の事業が急増した。日本でも導入は不可欠だ」
 ―電気料金の上昇への懸念があるが。
 「買い取りによって増加した費用の一部は電気料金に上乗せされるので、料金は上昇するが、結果的に、高騰が著しい化石燃料価格の影響を減らすことができる。化石燃料を海外から買うのと違い、国内のビジネスへの投資が拡大するし、雇用を生む。負担ばかりを強調せずに、制度のメリットをもっと評価するべきだ」
 ―具体的には。
 「日本で固定価格買い取り制度を導入し、20年度に水力発電を含めた再生可能エネルギーによる発電量を全電力の38%にすると仮定して、必要な費用などを試算してみた。2020年度に買い取り制度によって電気料金に上乗せされる金額は1キロワット時当たり約3円と推定された。一方で発電に使う化石燃料価格は今後上昇が見込まれ、20年度には電気料金は1キロワット時当たり13円近く高くなると予測される。だが、この段階で再生可能エネが38%入っていれば、価格上昇分は9円に抑えられ、4円分安くできる。買い取り制度による負担増3円よりも、化石燃料費の削減効果の方が大きくなる可能性を示している」
 ―今後への提言は。
 「20年に再生可能エネルギーを使った電力の比率を大型水力を含めて37%にすることを提案している。それでも電気料金の価格上昇は1キロワット時当たり最大3円程度で、予想される化石燃料価格の上昇による影響に比べれば大きくはない」(聞き手・井田徹治)
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まつばら・ひろなお 1963年生まれ。90年、東工大大学院修了。工学博士。製鉄会社研究員、コンサルタントなどを経て2005年から現職。持続可能なエネルギー政策研究やエネルギー工学が専門。

第8回 「インタビュー企画 橘川武郎・一橋大教授」


 東京電力福島第1原発の事故を受けて脱原発を求める声が高まる。エネルギー産業の動向に詳しい一橋大の橘川武郎(きっかわ・たけお)教授は、再生可能エネルギーと省エネの可能性などに配慮した「リアルな原発の減らし方」の重要性を強調する。

 ―原発事故をどう見ているか。
 「非常用電源ひとつをとってみても、事故への備えが甘かったのは明白だ。これは東京電力だけの問題ではないだろう。米国のスリーマイル原発事故でもチェルノブイリ原発事故でもなかった複数の原子炉の事故だという点で、集中立地のリスクもあったと思う。事故調査委員会などでの詳細な検討が必要だ」
 ―原子力発電への考え方は。
 「電力の大きな供給源となったことや、コスト面、地球温暖化対策面などからして原子力は20世紀後半から21世紀前半の人類に重要な役割を果たした。今後もしばらくは必要だが、それは『必要悪』のようなもので、あくまでも過渡的なエネルギーだと考えている」
 ―なぜ過渡的か。
 「最大の理由は、放射性廃棄物の処理や処分の方法が決まっていないことだ。未来永劫(えいごう)にわたって処理ができないごみを出し、次世代に負担を負わせるようなエネルギーにいつまでも依存するべきではない。これまで一定の貢献をしてきたことは評価できるが、2050年ごろには役割を終えるだろう」
 ―脱原発を求める声が強まっているが。
 「原発を『たたむ』ことには賛成だが、現実的でリアルなアプローチが必要だ。再生可能エネルギーをいつまでにどれだけ増やすことができるか、省エネで電力消費をどれだけ減らせるかを見極め、現状からそれを引き算することで発電に占める原発の比率が決まってくる。再生可能エネルギーの電力に占める比率は、30年ごろに30%程度がいっぱいとみられるので、このころに原発の比率を今の約30%から20%程度に減らすというのが当面のリアルなところではないか」
 ―再生可能エネルギー拡大に何が重要か。
 「地熱発電を増やす上での障害になっている規制は何なのか、洋上の風力発電を増やそうとした時に漁業権と衝突する可能性はないのか、といった具体的な問題を洗い出し、それをクリアするためには何をするべきかという具体的な議論を進める必要がある。大量に再生可能エネルギーを入れるには技術的な課題もあるが、日本の企業も技術者もそれに挑戦するべきだ」
 ―電力市場の閉鎖性が問題視されているが。
 「総括原価方式と電力会社が地域市場を独占することで、原発でもうけを上げるというビジネスモデルができてしまった。今後は、市場独占を撤廃し、電力会社間の競争を導入しなければならない。需要側にも、たとえば大企業が自分の責任で、望ましいと思う電力を選ぶという競争がなければならない。その中で再生可能エネルギーの市場も形成されてくるはずで、電力会社も再生可能エネルギーを拡大せざるを得なくなるはずだ」(聞き手・井田徹治)
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きっかわ・たけお 1951年生まれ。エネルギー産業論が専門。東京大学社会科学研究所教授などを経て、07年4月から一橋大学大学院商学研究科教授。新たなエネルギー基本計画を議論する総合資源エネルギー調査会の基本問題委員会の委員。




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