東京新聞 9月14日 チェルノブイリ膀胱炎
『チェルノブイリ膀胱炎』 尿から内部被ばく
20年で2倍 研究者の福島氏 危惧
東京新聞 9月14日 こちら特報部
福島第一原発事故から半年、子どもの尿から放射性セシウムが検出されるなど、福島県内では内部被ばくの危険にさらされている。
チェルノブイリ原発事故で、がん発症の因果関係が認められたのは小児甲状腺がんのみだった。
だが、土壌汚染地域からはセシウムの長期内部被ばくによる『チェルノブイリ膀胱炎』という症例の報告もある。
提唱者で医学博士の福島昭治・日本バイオアッセイ研究センター所長に話を聞いた。
「セシウム137は、膀胱にたまり、尿として排泄される。絶えず膀胱に尿がたまっている前立腺肥大症の患者なら『影響が出やすいのでは』と思ったんです。」
化学物質の健康被害を研究する同センター(神奈川県秦野市)で、福島氏は研究に取り組むきっかけを振り返った。
1986年4月、旧ソ連、現ウクライナでチェルノブイリ原発事故が発生。10年後の96年、大阪市立大学医学部第一病理教室教授だった福島氏は、ウィーンで開かれたWHOの会議に出席した。
その際、事故の健康被害を研究していたウクライナの教授らと意気投合し、共同研究を始めた。
同国では、10万人当たりの膀胱がんの発症率が86年に26.2人だったのが、96年には36.1人と、約3.1倍に増加していた。
原発事故で大量に放出されたセシウム137は土壌に付着し、放射能は30年で半減する。
汚染されたほこりや食品などを口から体内に取り込むと、腎臓を通って尿から排泄されるのは40日から90日もかかる。
「セシウムによる長期被ばくが原因ではないか?」そう考えて福島氏らは94年から2006に、前立腺肥大症の手術で、切除された膀胱の組織(131例)を分析し、その多くに異常な変化を見つけた。
「顕微鏡で組織を見て、すぐに『これは今までに経験のない病変だ』と驚いた。」と福島氏。
通常は同じ大きさに整然と並んでいるはずの上皮の細胞が不揃いな形に変化しており、上皮の下にある粘膜の層には液がしみ出して、線維と血液が増えていた。
福島氏らは、居住地別に患者を「赤い放射線量地域」(一平方キロ当たり30~5キュリー)、「中間的な線量地域」(5~0.5キュリー)、「非汚染地域」の三つのグループに区分。
鉱泉量と中間的線量の地奇異の約6割で、膀胱がんの前段階である「上皮内がん」を発見した。一方、非汚染地域での発症はなかった。
病変は、DNAでがんの発生を抑える「P53遺伝子」などが、セシウムのガンマ線などで変異して損傷したのが下人と見られた。
福島氏らは、「膀胱がん化する恐れが高い慢性の増殖性膀胱炎と結論づけ、2004年に「チェルノブイリ膀胱炎」と命名した。
その後、同国の膀胱がんの発症率は2005年には50.3人と、20年前の2倍近くにまで増加した。
「長期にわたる疫学的な調査を実施していれば膀胱がんとの因果関係も分かったはず。」と福島氏は力を込める。
日本でも、チェルノブイリ膀胱炎のような現象は起こるのだろうか。
先の三グループの患者の尿中のセシウム濃度は、1リットル当たり平均で、高線量地域は約6.47ベクレル。中間的線量地域が、約1.23ベクレル、非汚染地域が約0.29ベクレルだった。
東京新聞 9月14日 がん発症の恐れも
がん発症の恐れも 福島でも影響懸念 防御と除染急務
福島原発事故を受け、厚生労働省が5月から6月に行った母乳の放射性物質調査では、福島、二本松、相馬、いわき各市お女性7人から1リットル当たり、1.9~13ベクレルのセシウムを検出。
同省は「乳児が飲み続けても健康に影響はない」との見解を出したものの、ウクライナの尿中のセシウムと近いレベルとあって、危惧する研究者も少なくない。
福島市の市民団体「福島老朽原発を考える会」も、チェルノブイリ膀胱炎の研究報告に着目する。
5月下旬、福島市の6~16歳の子ども男女10人の尿に含まれる放射性物質を採取し、フランスの放射線測定機関に検査を依頼。さらに7月下旬には追跡調査のため、この10人を再検査した。
このうち9人からは再検査の時点で県外に避難しており、5月の検査に比べて尿中のセシウム濃度は20~70%減少した。
逆に、福島市に残っていた一人は、セシウム137が11%像の1リットル当たり0.87ベクレルを検出した。
新たに県内の10代男女5人を検査すると、一人はセシウム34が同1.8ベクレルと、これまでで最高の値を記録した。
同会は7日、都内で尿検査の結果を発表した。
坂上代表は、「福島では日常的な呼吸や食事により、内部被ばくが続いている可能性が高い。汚染地域に住み続けることで、チェルノブイリ膀胱炎のような症例が起きかねない。」と懸念。
福島県民健康管理調査で行われる尿検査は、セシウムを検出できる下限値が13ベクレルと高すぎることを指摘し、「より精度の高い検査を導入すべきだ。」と改善を求めた。
土壌汚染の程度については、ウクライナと福島県を比較すると、ウクライナの高線量地域は、キューリーからベクレル換算で、1キログラム当たり、約13万8000~2万3000ベクレル。中間的線量地域では2万3000~2000ベクレル。
宇串間市などは、この中間的線量地域に近い数値だ。
同様の線量の南相馬市で除染活動に携わる東大アイソトープ総合センター長の児玉龍彦教授は「すでに膀胱がんなどのリスクが増加する可能性のある段階と見るべきだ。一刻も早い除染が必要」と軽傷を鳴らす。
原発被災地の住民の間では、尿中の放射線量に対する関心も高まっている。南相馬市は15日から、これまで対象外だった7歳未満の未収額児のヨウ検査を無料で始める。
同市が内部被ばくを検査するホールボディカウンターは、測定に3分ほどの制止が求められ、体格も合わない未就学児童を除外。市民から尿検査の要望が寄せられて実現するものの、ここでも検出限界が20ベクレルと高いのが難点だという。
チェルノブイリ周辺では、免疫力が低下し、各種の感染症が多発した。
では、膀胱への内部被ばくを抑えるにはどんな対策を採ればいいのか。
前出の福島氏は「尿をためないように、なるべくトイレに行くこと。マスクで防御し、安全な食材を選ぶこと。当時のウクライナは、食材を含め、日常生活の管理や指導がしっかりされず、被害を広げた面もある。」
行政に対しては、定期的な長期の検査を求める。
「がん細胞ができてから『がんです』と診断されるまで、一般に20年の期間がある。」
適切な対応をとることで、正常に戻ることもある。
最後に福島氏は、こう強調した。
「『福島膀胱炎』が起きないようにすることは十分できるはずだ。適切な情報を得ることが安全安心を守ることについながる。風化させないよう、一人一人が意識を高めてほしい。」
児玉龍彦教授 論文
児玉龍彦氏の論文 “チェルノブイリ膀胱炎” ―長期のセシウム137低線量被曝の危険性(医学のあゆみ pdf)
http://bit.ly/p5up20
セシウム137 は,核実験以前には地球上に存在しなかった.強いγ線を放出し,1987 年のゴイアニア被曝事故では死亡例も知られる.
児玉龍彦氏 医学のあゆみ(pdfファイル)
(1)チェルノブイリ原発事故から 甲状腺癌の発症を学ぶ http://bit.ly/pDPdd5
(2)チェルノブイリ膀胱炎 長期のセシウム137低線量被曝の危険性 http://bit.ly/p5up20
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