About IAEA JAPAN Proficiency Test
Proficiency Testについて
非破壊で多核種の同時定量ができるγ線スペクトロメトリーは,近年,装置のスペック改善や,様々な解析ソフトでの容易な操作の実現化により幅広く普及している。しかし,その手軽さゆえに十分な知識や注意がないまま試料測定が行われ,その値が独り歩きしている場合も少なくない。特に昨今の原発事故の影響により,これまで一般に扱われなかったような環境試料の測定や多機関での相互比較が必要な場合は細心の注意が必要である。
たとえば,各研究機関が所持するゲルマニウム(Ge)半導体検出器にも同軸型,井戸型,平板型など様々なGe結晶型があり,それぞれ測定可能なエネルギー範囲や得意な測定核種が異なっている。また,その結晶型の違いから,試料のジオメトリーもそれに応じたものとなる。使用している遮蔽材や試料容器,周辺電機によるノイズ,宇宙線や地殻からの自然放射線量もそれぞれの機関により異なるため,測定目的核種のバックグラウンドも一様ではない。特に,Cs-134については,今後の線量評価上,重要であるが,ほとんどの機関では,Cs-134のスタンダードで効率校正を行っていないのが現状である。使用する解析ソフトの特異性も報告されているため,測定目的核種の検出効率は検出器ごとに一様ではない。
さらに,天然試料を扱う場合には目的核種以外に含まれる妨害核種の存在や,試料組成物質(マトリクス)によるγ線エネルギーの自己吸収なども無視できない。このため,測定試料と同様な組成を持つ環境試料を用いた検出効率算出は非常に有用である。しかしながら,わが国においては,土,水,草等の環境試料のスタンダードは,存在しないのが実情であった。
このような中で,IAEAによる放射性核種測定値相互評価の一つであるProficiency Test(PT)では,環境試料を用いたスタンダードの測定値を相互比較することにより,各研究機関が報告する値の正確性を確かめるだけでなく,より正確かつ精密な測定のために専門家より改善策やアドバイスを受けることができる。
恩田研究室がこれまでに参加したPT
IAEA/AL/166
「Report IAEA-CU-2006-02 Proficiency Test on the Determination of Cs-137 and Pb-210 in spiked soil」
IAEA/AL/171
「Report IAEA-CU-2006-03 World-Wide Open Proficiency Test on the Determination of Gamma Emitting Radionuclides」
IAEA Proficiency Testについての記述 恩田教授 IAEA Proficiency Testに興味を示してくださり、ありがとうございます。 1. 我々は下記実試料を提供することが可能です。 2. 土壌 3. 草(Cs-137, K-40) 4. 水(Cs-137, Cs-134) 5. エアフィルタの模擬試料(Cs-137) 6. 高濃度および低濃度(ガンマ線放出核種)の校正用エアフィルタに加え、ブランク用のエアフィルタも配布されます。エアフィルタの模擬試料の詳細は添付ファイルに記しています。 |
これまでのIAEA Proficiency Testはこちらから。
IAEA JAPAN Proficiency Testの詳細
2011年3月11日に発生した東日本大地震を起因とした大津波による福島第一原子力発電所における事故直後から、我が国が直面する喫緊の課題として、筑波大学は恩田教授を筆頭に放射性核種の移行について調査および評価してきた。そのために、筑波大学恩田教授とIAEAはTechnical Contractを結んだ。
今後の環境試料の分析において、放射性核種の正確な定量、また様々な環境試料における正確なスタンダードが必要であることは言うまでもなく、しかし国内にそれらを満たすスタンダード試料がなかったため、長期交渉の結果、IAEAより標準試料を提供していただき日本限定で各機関のテストを行うことが可能となった。
これは IAEAによる福島復興支援のプロジェクトでもある。
オリジナルレターはこちら。
2011年7月21日 Mr. Daud Mohamad 福島原子力発電所事故により影響を受けた環境の修復に関して、IAEAには多大なるご協力をいただき、感謝申し上げます。 日本の試験所における環境試料中の放射性核種の測定分析の品質を確保するために、「放射性核種の定量に関するProficiency Test」の実施について、IAEA環境研究所の Shakhashiro氏にご検討をお願いしたく存じます。 環境放射能相互校正を目的としたIAEA環境研究所と筑波大学によるJapan Proficiency Testの共同実施についてご検討いただけると大変感謝いたします。 既に、日本文部科学省ならびに日本原子力開発機構の行政担当者には技能試験の構想について話をしており、参画への承諾を得ております。また、この技能試験は、日本から輸出する食品等の測定精度を担保するためにも重要であると考えております。 繰り返しになりますが、ご尽力ありがとうございます。 敬具 恩田裕一 |
2011年8月19日 日本における全国技能試験の実施のご依頼に関して 恩田博士 2011年7月21日付でいただいたお手紙においてご依頼いただいた、日本における環境試料中の放射線核種の同定に関する全国技能試験について、IAEAでご依頼を受け入れることになりましたことを喜んでご報告いたします。本試験は、日本の試験所が放射線核種によって汚染された環境試料の測定分析結果の品質を確保することの支援を目的とします。 本技能試験の実施の技術的詳細については、本技能試験の実施担当官であるIAEA環境研究所のAbdulghani Shakhashiro氏と直接ご相談ください。 敬具 Daud Mohamad |
我々は、今回のプロジェクト「The IAEA-TEL-2011-08 National Japanese Proficiency Test on the determination of radionuclides in soil, grass, water and air filters」 が日本の測定値の信頼性を担保するのに非常に重要なことであると考えている。
Japanese Proficiency Test: 調査の詳細
(IAEA Japan Proficiency Test) IAEA環境ラボラトリーが筑波大学生命環境系恩田研究室と協力して実施する、IAEAによる環境物質の放射性核種測定値相互評価プロジェクト(IAEA Japan proficiency test)につきまして、サンプルを受け取りましたら、分析を開始する前に添付の参加者への指示書類(F-04)をよく読み、できるだけ早く受領書(F-05)をご返送ください。 IAEAから送付するパッケージにはサンプルが9点入っており、更に筑波大学を通じ土壌サンプルが4点送られる予定です。サンプルの詳細とこのテストで分析に要求される測定は以下の表に記されています。
放射性核種を放出しているガンマ線のレベルは、従来のHPGe相対効率35%のガンマ線スペクトロメーター を使用して、6-10時間以内で測定できるレベル。 分析結果と予想される不確定要素は所定の報告用紙でご報告下さい。 ワードフォーマットを使用した電子フォームを使用して下さい。手順の分析的パフォーマンスを評価するために、PTで使用した分析手順の情報が必要です。お手数ですが、報告用紙F-03に必要事項をご記入下さい。 更に、重要なことですが、貴研究室における手順と品質管理方法を手短に記載願います。この情報は、手順と品質管理方法記載フォーム(F-03)をご利用下さい。 結果報告の締め切り日は、2012年4月15日です。 IAEAのもとに、印刷された報告書(F-01,F-02)がきちんと完成され、日付、サインが記入された状態で届く事が肝要です。この報告書がこの課題の有効な結果となり、結果を確認する決定的な出所となるからです。 参加者のデータは、下記3つの基準について評価されます: A)分析者の値とIAEAの値の相対バイアスは、パーセント表示されます。 B)zスコアは下式により計算されます: (式:添付ファイル参照 ) 「目的への適合性」の原則に従い、標準偏差(δ)の目標値は: (式:添付ファイル参照 ) 試験所の実施能力は、|zスコア|≦2の場合に満足、2<|zスコア|<3の場合に疑わしい、|zスコア|≧3の場合に不満足と評価されます。 C)技能試験結果は、真度ならびに精度の評価基準に照らし合わせ、「受容可能」、「警告」、「受容不可」に評価されます。 真度 真度の評価では、参加者の結果が下式を満たす場合、「受容可能」とされます。 (式:添付ファイル参照 ) 精度 精度の評価では、各参加者の推定量Pは下式によって計算されます。 (式:添付ファイル参照 ) Pは、参加者により申告された測定の不確かさに直接依存します。検体の濃度や放射能レベル、 測定工程の複雑などが考慮された各分析対象核種の精度の受容限界(LAP: Limit of Acceptable Precision)は、事前に定義されています。 P≦LAPであれば、参加者の結果は「受容可能」と評価されます。 最終評価では、真度と精度は併せて評価されます。最終評価で「受容可能」とされるには、両方の評価基準を満足しなければなりません。 すなわち、もし真度と精度のいずれかにおいて「受容不可」と評価された場合は、最終評価も「受容不可」となります。 もし精度もしくは真度のいずれかが「受容不可」と評価された場合には、追加でバイアスの確認が必要となります。 報告結果の相対バイアス(R.Bias: relative bias)を最高受容バイアス(MAB: maximum acceptable bias) と比較します。 もしR.Bias≦MABであれば最終評価は「警告」となります。「警告」には主に二つの状況が考えられます。 一つは、MABの範囲内ではあるものの、小さな測定不確かさによりバイアスが生じる場合です。 二つ目は、関連する不確かさは大きいが属性値に近い結果が報告されている場合です。もしRB>MABであれば、最終評価は「受容不可」となります。 敬具 Abdulghani Shakhashiro Environment Laboratories Department of Nuclear Science and Applications, IAEA 国際原子力機関 |
in soil, grass, water and air filters 重要:これら資料を取り扱う前に ✔荷物の梱包内容を確認し、「試料受領確認書」様式05に記載されている項目と梱包内容を照合してください。 ✔「試料受領確認書」様式05に日付を記入、署名し、標準試料グループ宛てにFAXあるいは郵送にて返送してください。 1.分析対象
ガンマ線放出核種のレベルは、従来のHPGe ガンマ線スペクトロメータを用いて35%相対効率で6-10時間以内に測定できる程度です。 2.分析方法・手順の選択 参加者は、どのようなルーチン分析手法を用いても構いません(ただし、これら試料を新たな分析手法の確認に用いてはなりません)。 試料ビンの中の土壌試料は、1gについて均一性が確認されています。 3.試料の説明 a.水サンプル01、02、03: 試料源: オーストリア・サイバースドルフにおいて採取された水道水です。 水サンプルは、既定量の認証放射性核種の混合溶液を重量測定法を用いてスパイクし、2% m/m硝酸で酸性にしました。試料ビン封入後に均一性の確認試験を実施したところ、許容結果を示しました。 b.土壌サンプル04: 試料源: バルク試料は、ウクライナ・チェルノブイリ地域近くの農場にて採取されました。 サイバースドルフ試験所の標準試料グループにより、1990年に300kg以上もの土壌が採取されました。ドラムミルで粉砕、ふるいにかけ、150ミクロン以下の試料が均一化されました。 試料ビン封入前に均一化の確認試験を行いました。10試料ビン(それぞれにつき繰り返し3回)について全ての測定分析対象核種について分析することにより、均一化の確認を行いました。 ガンマ線放出核種については試料30g中の、そして放射性核種については試料1g中の均一性について確認試験を行いました。 各参加者には、試料ビン1本(150g)が配布されます。放射性核種の放射能レベルは比較的低くなっています。 c.草サンプル05、06、07: 試料源: バルク試料は、ウクライナ・チェルノブイリ地域近くの農場にて採取されました。 サイバースドルフ試験所の標準試料グループにより、1990年に200kg以上もの試料が採取されました。ドラムミルで粉砕、ふるいにかけ、250ミクロン以下の試料が均一化されました。 試料ビン封入前に均一化の確認試験を行いました。10試料ビン(それぞれにつき繰り返し3回)について全ての測定分析対象核種について分析することにより、均一化の確認を行いました。 ガンマ線放出核種については、試料30g中の均一性について確認試験を行いました。 d.エアフィルター08、09、10: フィルタ作製: 添加模擬エアフィルタは、HDP素材(直径:47mm、厚さ:0.40mm)です。放射性核種は、フィルタの六角格子上に19滴付着させています。 有効な付着物の直径は34mmです(図1へ)。模擬フィルタ上のスパイク箇所は、コンタミネーションを防ぐため、黄色い粘着紙で覆ってあります。 粘着紙の厚さは約0.1mmです。この粘着紙は、測定のためにフィルタを透明プラスチックホルダより取り出した後で剥がさないでください。 万が一フィルタが破損した場合の放射性核種の属性値やそれに付随する不確かさについては、技能試験実施者は保証いたしません。 図1-スパイクパターンの模式図。各付着滴は小さな円で示されています。d=7.4mm、o=4.2mm 4.試験試料の取扱い A.土壌ならびに芝サンプル ✔発送時に試料が分離する可能性がありますので、試料を分取する前に2分程試料ビンを振ってください。 ✔試料ビンを開ける前に粉末が落ち着くのを待って下さい。 ✔試料ビンを開ける際には、微粒子が研究室内に絶対に飛び散らないよう、細心の注意を払ってください。 ✔測定分析後、試料の一部(最低2g)を乾燥させ、乾湿質量比を求めてください。推奨する乾燥条件は、一晩105℃です。 B.水サンプル ✔試料ビンを量り、総重量(スクリューキャップ・ラベルが付いた、受領時のまま)を「試料受領確認書」様式05に記録してください。 ✔ガンマ線測定あるいはH-3測定の試料カウント容器に移す前に、十分に試料を攪拌してください。 ✔すべての結果は質量ベースで報告してください。試料あるいはその一部を重量で測ることを推奨します。 5.報告要件 ✔結果は報告様式F-01からF-03(送付状を参照)を用いて報告してください。 ✔結果の値とその
✔すべての結果は、2011年11月15日付の数値に減衰補正してください。 ✔不確かさは、すべての不確かさ要素を確認、考慮した上で、合成標準不確かさ(1シグマレベル)として報告してください。 |
Japan Proficiency Test 参加機関
竹中千里:名古屋大学大学院 生命農学研究科田野井慶太郎:東京大学大学院 農学生命科学研究科
三村徹郎:神戸大学大学院 海事科学研究科
松永武:日本原子力研究開発機構 東海研究開発センター
大槻勤:東北大学 電子光理学研究センター
横山明彦:金沢大学 理工研究域物質化学系(放射化学研究室)
大浦泰嗣:首都大学東京 理工学研究科 分子物質化学専攻
篠原厚:大阪大学大学院 理学研究科 化学専攻(放射化学)
高橋嘉夫:広島大学大学院 理学研究科
恩田裕一:筑波大学大学院 生命環境科学研究科
関友博:日本環境株式会社 中央研究所
徳田堅一郎:株式会社ユニチカ環境技術センター
松岡敬子:株式会社環境管理センター 分析センター 大気・マテリアル分析グループ
市川勝比古:いであ株式会社
関口和弘:内籐環境管理株式会社 環境分析部
小野寺明:エヌエス環境株式会社 東北支社 放射線調査部
浅井啓吾:日本総研株式会社 経営計画推進室
実吉敬二:東京工業大学大学院 理工学研究科基礎物理学専攻
難波謙二:福島大学共生システム理工学類
五十嵐康人:気象研究所 環境・応用気象研究部
山本政儀:金沢大学 環日本海環境研究センター
Japan PTに関する新聞報道
2012年02月04日 朝日新聞:正確な放射能測定へ試料提供 土壌測定のばらつき校正2012年02月04日 毎日新聞:福島原発:放射性物質測定精度向上へ標準試料…筑波大配布
福島原発:放射性物質測定精度向上へ標準試料…筑波大配布
筑波大は3日、東京電力福島第1原発事故に伴う植物や土など環境中の放射性物質の測定精度を高めるため、国際原子力機関(IAEA)から提供された測定の物差しとなる標準試料を国内21研究機関に配布したと発表した。
事故後、さまざまな研究機関が放射性物質を測定しているが、植物や土壌、水などは放射線を吸収するため正確な数値が分かりにくかった。
IAEAは水、土、草、空気清浄機などに使われるエアフィルターに微量の放射性物質を埋め込んだ標準試料を作製。放射性物質の種類や濃度が異なる計10種類を、名古屋大、東京大、日本原子力研究開発機構東海研究開発センターなどに無料で配った。各機関は4月上旬までに試料を測定。5月以降、筑波大に集まって精度を確認し、IAEA担当者から技術指導を受ける。
計画を主導する筑波大の恩田裕一教授は「測定値を保証するためには同じ材料による正確な測定が重要だ」と話す。【安味伸一】
毎日新聞 2012年2月4日 10時55分
正確な放射能測定へ試料提供 土壌測定のばらつき校正
国際的に信頼される正確な放射能測定を目指して、国内にある21施設が国際原子力機関(IAEA)と共同プロジェクトを始めた。協定を結んだ筑波大が3日、発表した。IAEAが放射性物質を含む土壌などの標準試料を、東大や大阪大など各施設に提供。標準試料を測定して出た値と正しい値とを比べ、測定機のばらつきを校正する。
放射能測定値は、放射性物質から出るガンマ線の値をもとに計算して求めるが、一定方向のガンマ線しか測れず、水や土などに一部吸収される。正確な測定のためには、実際に何%のガンマ線を測れるのか事前に考慮しておく必要がある。この前提が正しくないと、誤った測定をすることになる。
これまで日本には、国際的に標準となっているIAEAの標準試料がほとんどなく、十分な校正ができなかった。国内で測定し汚染度が基準値以下とされた茶葉が輸出先のフランスで基準を上回る問題も起きた。
IAEAは福島復興支援の一環として、土壌、水、草などの標準試料を無料で提供した。筑波大を通じて、日本原子力研究開発機構や大学などに配布した。各施設で4月中旬までに測定し結果をIAEAに送る。IAEA側は「正解」を各施設に通知した上、担当者が5月以降に来日し、技術指導を行う。
担当の恩田裕一筑波大教授は「日本発の測定値が国際的に信用されるだけでなく、『本当に正しい測定結果なのか』という一般の人の不安にも応えられる」と話す。(岡崎明子)
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