シリーズで書こうと思っている「原発深層流」も「原発用語集」も、これから長い間、つきあわなければならない「原発」を理解するために、連休までに少し勉強するのが目的です。
第一回目は、「核爆発」、「臨界」、「核分裂」、「被曝」、「被爆」などの難しい用語についてです。できるだけわかりやすく書くように努力します.
・・・・・・・・・
専門家は、難しい専門的な研究をするのですから、それなりに用語も複雑になり、用語の定義も厳密にしなければなりません。でも、そのまま社会の人に言うと、あまりに多くの言葉が氾濫して、混乱を招きます.
たとえば、私の場合でも「武田は、臨界のことを核爆発と言っている」とか「被爆と被曝を区別していない」などと言う人がいて、それが混乱を呼びます.
本当は、専門家なら「臨界」と「核爆発」はよく分かっているのですから、私が使っている意味も理解できるはずなのですが?そうでもないのです。
・・・・・・・・・
原発(今、日本で使っている原発)でおこることで、私たちが覚えておくのは、「核分裂」と「核爆発」だけです。そのほかは専門用語ですから、忘れても福島原発で起こることは全部、理解できます.
・・・・・・・・・
「原子力」にはいろいろありますが、日本で電気を作るのに使っているのは、「ウラン235というものが、「割れる=分裂」時に出す熱を利用する」というものです。
つまり、「ウラン235の核分裂」の熱を使って電気を起こすということだけで、あまりに単純です。
この「核分裂」ででる熱はものすごいのですが、それでも1ヶのウラン235が分裂しただけではたいした熱は出ません。そこで、多くのウラン235を「連続的に分裂させる」ことによって、実際に役立つような熱を取り出します.
・・・・・・・・・
家で石油ストーブを焚いたり、自動車にガソリンを入れてエンジンで爆発させることと同じですが、ウランの場合は「分裂の熱」で、石油では「酸素との反応の熱」です。
ウランはただ自分で分裂するだけで熱を出しますから、石油ストーブが燃えるより簡単で、「酸素が不足するから不完全燃焼する」などということもなく、単に自分で分裂さえすれば良いのです。
でも、それが逆にアダになります.
石油を燃やすときには、石油をちょっとずつ出せば少しずつ燃えますし、燃えすぎると何かをかけて「酸素を遮断する」ことをすれば、燃えなくなります。
ところが、
ウランは「まとまっていないと熱を出さない」、
「自分だけで割れて熱を出す」ので、
原子炉にウランをちょっとずつ入れることはできません。
大量のウランを一度に原子炉に入れておきます.
そうすると、
今度は「一気に核分裂が起きて原爆になる」と言うことになるので、それを何とか「ちょっとずつ分裂する」ようにします。
なにしろ、ヘマしたら原爆になってしまうのを、
「やっとやっとちょっとずつ」させるのですから、苦労が絶えません。
「やっとやっとちょっとずつ」させることを「臨界」と言い、
原子力の人はこれに苦労するので、
どうしても「臨界」という言葉を使いたくなりますし、
「臨界を知らない人は素人だ」という事になりますが、
「臨界」というのは専門家だけが知っていれば良い「運転上の用語」です。
良く「原子炉が臨界に達した」と言われますが、
「原発が核爆発を始めた」でも良いのです。
・・・・・・・・・
つまり、一気に爆発して爆弾になるのも「核爆発」ですし、
「ちょとずつ」爆発させて原発にするのも「核爆発」です。
中身は同じです.だから、でる放射性物質も同じで、
原発事故の時に広島の経験を活かすことができるのです.
「核爆発」するのは、多くのウランが「核分裂」するのですから、
分裂して2つのものができます。
それが良く報道される、
「ヨウ素、セシウム、ストロンチウム、プルトニウム」です。
110年前までは、
「酸素は酸素、炭素は炭素で変わらない。
ウランはウランで、ウランがヨウ素になることはない」
と思われてきましたが、
キュリー夫人が「違う!」ということを発見して、
人間は「原子力」というのを知ったのです.
ウランが割れるときに、あまりに急激に割れるので、
「不安定=放射線を出す」なものができます。
それが「放射性ヨウ素、放射性セシウム、放射性ストロンチウム、
そしてプルトニウム」です。
この放射線が人間の体を壊します.
・・・・・・・・・
ところで、原子力では「核爆発」というと広島を思い出しますので、できるだけ使わず、
「臨界」という本来は意味の違う言葉を使ってきました。
今回の事故が起こってみると、
私は「人が驚くから別の言葉を使う」
ということも事故の原因となったと思い、
「核分裂」と「核爆発」だけを使って説明をしてきました。
・・・・・・・・・
最後に、「被曝」と「被爆」の区別ですが、本来は「被ばく」と書いて「曝、爆」をあまり区別しない方が良いかも知れません。
「曝」というのは「さらす」という意味ですから、「放射線に曝されて被害を被る」の「被」と「曝」からの用語です.また「爆」は「爆弾」の縛ですから、「爆弾で被害を受ける」という意味になります.
原爆も原発も「核爆発」ですから、被爆でも良いのですが、放射性物質からの被害の場合は、正しくは被曝、面倒なら被ばくとすれば良いでしょう。
あまり重要なことではありませんが。
(平成23年4月15日 昼の12時に執筆)
武田邦彦
0 件のコメント:
コメントを投稿