2012年2月18日土曜日

汚染がれき・処理の課題」

時論公論 「汚染がれき・処理の課題」2011年08月31日 (水)

谷田部 雅嗣  解説委員
東日本大震災が発生して、まもなく半年になろうとしています。
被災地では復興に向けて多くの努力が続けられています。
しかし、大量に発生したがれきに原発事故による汚染の影響が重なり、大きな妨げになっています。
今夜はこの汚染がれきの問題を考えます。
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原発事故がもたらしたもの
東京電力福島第一原子力発電所では地震と津波の影響で、原子炉の冷却系統の働きが失われ、水素爆発を起こしました。
この結果、放射性物質が広い地域に撒き散らされました。
この放射性物質が災害復興全体に大きな影響を与えています。
特にがれきの撤去への影響が注目されています。
最大の問題は福島県での汚染がれきの処理です。
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福島県の佐藤知事は「福島での最終処分場はありえない」として、県外で処理するよう国に要請してきました。
細野原発事故大臣はこれに答えて、「最終処分場を福島にすべきでない」とし、努力を約束してきました。
ところが、先週土曜日に菅総理大臣が福島県を訪れ、「中間貯蔵施設を福島県内に設置したい」との意向を伝えました。
佐藤知事は「突然の話で困惑している」と述べました。
中間貯蔵施設の先に県外への出口があるのか。
県民にも困惑が広がっています。
福島県の除染作業
福島県でも避難が続いている原発周辺を除き、がれきの撤去が進んでいます。
さらに、生活を取り戻すための除染作業も本格的に始まります。
これまで、学校を中心に除染作業が行われてきました。
これからは、福島県内のより広い範囲で作業を進める必要があります。
その際、問題となるのが削り取った土を最終的にどこに処分するのかです。
現在は空いている土地に穴を掘って一時的に保管しています。
しかし、このままにしておくわけにはいきません。
樹木や草、建材など、焼却処分の必要なものも大量に発生します。
最終的な出口が決まらないまま、震災で生まれたがれきの処理に加えて、除染で生まれる廃棄物の処理を進めなくてはならないのです。
福島県以外のがれきの処理でも、放射性物質による汚染の影響を考えなくてはなりません。
被災地に大量に残るがれき
環境省がまとめたがれきの全体状況です。
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推定される量を県別にみますと、岩手県が凡そ500万トン。宮城県が凡そ1600万トン。福島県が凡そ200万トンです。
宮城県や岩手県の被災地でも原発事故の影響で、がれきが汚染されている場合があります。
居住地域周辺にあるがれきの撤去は進んでいますが、倒壊家屋などを解体し生まれるがれきの回収が遅れ、3県全体でみますと、仮置き場に搬入されたがれきは、ようやく推定量の50%を越えました。
3県の市町村の中で一番がれきが多いのは宮城県石巻市です。
620万トンという量は、岩手県や福島県全体の量を上回っています。
石巻の現状を見てみます。
石巻市の現状
石巻市では、町の中心部からはほとんどのがれきが取り除かれました。
がれきの仮置き場は郊外の24か所に設置されています。
すでに収容能力の6割を越える量が運び込まれています。
620万トンというがれきの量は、石巻市が処理できるゴミの100年分に相当します。
がれきの山は衛生面でも問題があります。
仮置き場の近くにある学校では教室の中にまで大量のハエが飛んでくるようになりました。
現在、市ではがれきを巨大なシートで覆うなどの対策を行っています。
しかし、新たながれきの搬入が続いているため、限界があります。
これから倒壊家屋の解体が進めば更にがれきが増えます。
がれきの撤去と並行してがれきを分別し、焼却処分などを進めていかなくてはなりません。
がれき処理の国の方針
石巻市に限らず、被災地の自治体では、ごみ焼却場などの能力をはるかに越える量のがれきを抱えています。
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国は原発事故の影響の大きい福島県のがれきは当面、県内で処理する方針です。
そして、岩手県と宮城県のがれきについては他の地域で処理を引き受けてもらう「広域処理」も取り入れるという方針を打ち出しました。
全国に呼び掛け、ごみ処理を扱う自治体、団体の4分の1にあたる572の自治体、団体から協力の申し出がありました。
がれき処理の際に問題になるのが放射性物質の汚染です。
問題はがれきの汚染
放射性物質で汚染されたがれきの安全性はどうなのか。
国は広域でがれき処理を行う条件として、放射性物質に汚染されているおそれのある場合でも、安全に焼却処理を行うことが可能な指針を示しました。
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十分な能力を持つ排ガス処理装置が設置されている施設で焼却処理が行われること。
焼却で残った灰に含まれる放射性物質の量、つまり放射性セシウムの量がキログラムあたり8000ベクレル以下であること。
これらの条件を満たせば、一般廃棄物の管理された最終処理場での埋め立て処分が可能であるとしています。
一般ごみと同じ扱いができることで、受け入れやすくなるという考えです。
8千ベクレルの意味
それでは8千ベクレルという数値にはどんな意味があるのでしょうか。
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原子力安全委員会は作業員の被ばく量の目安を年間1ミリシーベルトとしています。
8千ベクレルという基準は埋め立ての作業をする人の被ばく量を年間1ミリシーベルト以下に抑えることのできる数値です。
1日4時間、キログラムあたり8000ベクレルの放射性セシウムを含む廃棄物のそばで作業することを前提とします。
年間250日働いたとして計算すると、年間の被ばく量は0.78ミリシーベルトとなります。
充分に1ミリシーベルトを下回り、さらに、作業時間を減らすことなどによって、被ばくを抑えることができるとしています。
広域処理の条件
広域処理を実施するための条件として国は次のような点を上げています。
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受け入れ先で焼却した場合、灰に含まれる放射線の量がキログラムあたり8000ベクレル以下になるのが確実であること。
そのためには処理を依頼する搬出側で放射性物質の濃度を十分に確認すること。
汚染の状況は地域によってばらつきが大きく、がれきの種類によっても違います。
きめ細かな測定をすることを指示しています。
受け入れ側でも測定は必要です。
広域処理をするには放射性物質の量がキチンと監視できなくはなりません。
汚染がれきを処理する課題は大きく3つあります。
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第一は広域処理を進めることができるかどうかです。
国は広域処理を進めることで、がれきの処理は2年から3年で終了できるという見通しを立てています。
広域処理が進まなければ、現地に焼却施設を新設し、処理能力を向上させなくてはなりません。
お金もかかりますし、時間もかかります。
しかし、広域処理を進める場合、放射性物質が含まれたがれきの受け入れに、その地域の住民の納得が得られるかどうかは大きな問題です。
第二は8000ベクレルという数字の意味を理解してもらえるのかどうかです。
がれき処理の受け入れを表明した自治体のなかには、放射性物質の含まれたがれきを受け入れることには絶対に反対だという住民の声に、受け入れが難しくなったとするところも出ています。
がれきの処理はなるべく早く済ませなくてはなりません。
国が説明する安全性について住民の納得が得られるのか。
新たに発足する政府の力量がすぐに発揮されなくては、なりません。
第三は福島県での問題に速やかに方向性を示すことです。
被災地を支援したいという気持ちが強くても、放射性物質が含まれたがれきの受け入れとなると、難しい。
受け入れ先をどうするのか。
簡単には解決できない問題ですが、差し迫った問題でもあります。
まとめ
東京電力福島第一原子力発電所が起こした事故は大量の放射性物質をまき散らしました。
その量はチェルノブイリ原発事故の10分の1とされています。
しかし、広範囲にまき散らされた放射性物質の影響が広がっています。
目に見えない放射性物質は健康や安全は勿論、復興支援などの仕組みにも大きな影響を与えているのです。
(谷田部雅嗣 解説委員)

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