【臨時】植物のセシウム(Cs)とストロンチウム(Sr)集積に関する研究
 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震 により福島第一原子力発電所が大きな損傷を受け、大気中に放射性物質が放出されました。そのなかでもヨウ素131やセシウム137が広範囲に広がり、農地と農産物の汚染が報告されています。本ページではこれまでに当研究室で行った植物・土壌のイオノーム解析から明らかになっているセシウムとストロンチウムに関する情報をメモ書き程度に少しずつまとめておこうと思います。なお、測定しているセシウムとストロンチウムは自然界に存在しているものであり、飛散している放射性同位体のセシウム、ストロンチウムと同じ動態を示すことは必ずしも意味していないことをご承知ください。
 被害が報告されている土壌や作物からはヨウ素131とセシウム137の報告が多い一方で、ストロンチウム90はほとんど報告されていません(追記:2011年4月12日に報告がありましたが、セシウム137と比べれば微々たる量でした)。しかし、ストロンチウムは核分裂反応における収率も比較的高いため、ここで取り上げることにします。もし体内にストロンチウム90が取り込まれた場合はカルシウムと同じように動き、骨に蓄積し長期間影響を受けるため注意が必要な元素です。ヨウ素131に関しては半減期も短く、長期的な視点から農業や環境を考える上では影響が小さいと思いますので、ここではセシウムとストロンチウムに注目します。
長期的に見れば、農作物の放射性元素による汚染が万が一起こるとすれば、それは土壌に残存する放射性元素を根から吸収することによる汚染です(あくまでも可能性というだけです。もし汚染が確認されても初期に報告されているような飛来した放射性物質による直接的な汚染ほど放射能は高くならないはずです)。植物の必須元素は17元素が知られていますが、必須元素以外の元素も根は吸収してしまいます。例えばストロンチウムは私たちが行なってきた様々な研究(異なる植物種・品種、異なる環境)で同族元素であるカルシウムと含有率の相関をとってみると、どの条件でも非常に高い正の相関を示します(図1)。これは、ストロンチウムの土壌中における動態、植物根の吸収、植物体内での移動がほとんどカルシウムと同じメカニズムで行われていることを示唆しています。一方セシウムは同族元素であるカリウムやナトリウムとの正の相関はほとんどありません(どちらかといえば排他的関係)。繰り返しますが、これは天然の非放射性のセシウムやストロンチウムの話です。
図1. 植物園に生育する様々な植物種の葉におけるカルシウム含有率(横軸)とストロンチウム含有率(縦軸)の相関図(単位: mg g-1
●作物栽培に関する話
作物のセシウムやストロンチウムの吸収を低減する方法として考えられるのは、まずは施肥などの耕種的な手法によるコントロールです。私たちの研究室では90年以上同じ施肥処理(肥料の三要素のいずれかを欠乏させた処理)を継続した三要素試験圃場を持っています。そこで栽培した作物の分析結果について紹介します。ストロンチウムの場合、NPKの施肥はほとんど含有率に影響しませんでしたので割愛します。
90年以上異なる施肥を行っていると土壌に含まれる三要素以外の元素含量も多少変わってきます。それらの影響を考慮し各サンプル(種子および葉)のセシウムレベルを比較するため、各処理区で植物体のセシウム含有率を土壌のセシウム含有率に対する比で示してみました(図2)。いわゆる放射性元素でいう移行係数みたいなものですが、乾燥重ベースですので値自体は大きくなります。
セシウムの場合、葉と種子ともにカリウム無施肥の処理区で高い値を示します(図2)。つまり逆に言えば、カリウム施肥を十分に行うことでセシウムの蓄積は抑制できる可能性があります。一方、完全区(+NPK区)と-N区を比較すると、-N区、-P区で値が大きく低下しています。リン施肥が影響した理由についてはよくわかりません。窒素施肥に関しては、アンモニア態窒素がイネなどのセシウム吸収を高めることが報告されています。この圃場では窒素は硫安として与えていますので、その影響が窒素処理で出たと考えられます。
葉と種子を比較してみるとわかりますが、一般にセシウムは葉と比べて種子における蓄積量は低いです。しかしカリウム無施肥のダイズでは種子の方が非常に多くのセシウムを集積しています。これは学術的に興味深い現象であるとともに、栽培時には注意すべき点でもあります。
図2. 各種作物の種子(上)および葉(下)のセシウム含有率と土壌中セシウム含有率(硝酸分解性)の比。土壌のセシウム含有率は硝酸分解性の値を使用

●土壌に関する話
元素種による土壌と元素の吸着力の違いが気になったので、上記圃場の土壌(+NPK区)を水抽出することで溶出される元素濃度と、硝酸分解で測定される元素濃度の比および酢酸アンモニウム抽出で溶出される元素濃度の比をそれぞれとってみました(図3)。硝酸分解では強く結合した元素も溶出し、酢酸アンモニウム抽出では交換態陽イオンが抽出されます。その結果をみると、やはりセシウムはいずれの場合も水抽出で溶出する元素の割合が低く、土壌と非常に強く吸着する性質が有るようです(私は土壌の専門家ではないのでこういう評価のしかたは正しくないのかもしれませんが。。。)。これだけ吸着力が強ければ、土壌肥料学会のHPでも述べられているように、原発からの放出さえ抑制できれば根菜類以外の作物におけるセシウム137のレベルは低下していくでしょう。
図3. 各元素における硝酸分解性(上)および酢安抽出性(下)含有率に対する水抽出性含有率の比
●ファイトレメディエーションに関する話
放射性元素で汚染された農地土壌を浄化することにより、作物の放射性元素汚染を低減する手段も考えられます。それには、他でも述べてますが、ファイトレメディエーションが有効です。現在、北大植物園の代表的植物種を網羅的にイオノーム解析する研究を行っています。それらの中から、セシウムやストロンチウムの地上部集積能の高い種を選定し、ファイトレメディエーションに用いることを検討する予定です。ちまたではヒマワリがファイトレメディエーションに適しているという情報も流れていますので、ヒマワリと比較したデータを少し示したいと思います。まずセシウムですが、北大植物園に生育する植物種には、同レベルのCsを含む圃場で栽培したヒマワリの30倍近く高い含有率を示す種も見つかっています(図4、注)再解析によりヒマワリの含有率データを以前よりも少し高いところに変更しました)。また、この結果からヒマワリの葉における集積量は決して高くないこともわかると思います(トウモロコシなどと比較しても低い)。一方、ストロンチウムではヒマワリは比較的高い含有率を示しおり、ファイトレメディエーションに利用できるかもしれません。この植物園での研究結果と以前に行った研究結果を合わせて解析すると、Equisetaceae(トクサ科)、Adiantaceae(ウラボシ科)、Polygonaceae(タデ科)、Convolvulaceae(ヒルガオ科)、Iridaceae(アヤメ科)に属する植物の葉でセシウム含有率が高い傾向が確認されています。(お茶の放射性セシウムについて
ただし、セシウムやストロンチウムの集積能が高い植物種を見つけても、バイオマスが小さかったり、栽培が難しかったり、逆に繁殖力が強すぎて環境に悪影響を与えたりするかもしれません(私たちの植物園での研究でもそのような例が多いです)。それらを総合的に判断してファイトレメディエーションは行うべきだと思います。また、セシウムは土壌との結合力が強いため、耕起していない土壌では土壌表層に放射性セシウムは集積しています。この集積領域と根の分布ができるだけ一致するような植物を選ぶこともまた必要です(深根性、浅根性など)。そしてもう一つ重要な問題は、放射性元素を吸わせて刈り取った後の多量の植物体をどうするか・・・です。これは非常に大きな問題で、本気でファイトレメディエーションをやるならば、国が主導して処理設備を早急に作るべきでしょう。ついでにもう一つ問題がありました。セシウムの場合は上記で述べたように土壌との吸着力が非常に強いようです。それはつまり、セシウムの高集積種であってもそのままの土壌では効率的に吸収させることができないことを意味します。この問題も解決しなければなりません。上で示した施肥によるセシウム吸収のコントロールもファイトレメディエーションでは有効でしょう。
このページでは種名はあえて出していません。植物園で栽培している植物であるため、ほとんどが栽培に適していないからです(シダなどの栽培が困難な種や、外来植物や繁殖力の強い多年草が多いです)。下手に種名を出してしまうと、名前ばかりが一人歩きしてしまうことを危惧 しています。ただ、もし実際に植物を使った浄化を実施しようとしていて、意見を必要とされている方がおられましたら、ご連絡ください
図4. 北大植物園の各種植物の葉におけるセシウム(上)およびストロンチウム(下)含有率.それぞれ含有率が高い順に並べてある。ヒマワリのデータは北大植物園とほぼ土壌中のセシウム含量が同じ圃場(植物園に近いところに位置)で栽培した植物体から得たものである。


(おまけ)(110915追記・修正)5/16の毎日新聞朝刊に私のコメント記事が出ていましたが(魚拓)、こちらの確認なしで作成された記事で誤解を与えるような文章がありました。牧草がよくセシウムを吸収するようなことを書いています。イネ科牧草は根張りという点から有効である可能性は高い(土壌表層のセシウムを吸収し、表土が風や雨などで移動することも防いでくれそう)ですが、吸収能力は高くありませんでした(*)。Whiteらの報告ではイネ目の植物は特にCs吸収能が高いとはされていませんし、私たちの研究でも特にイネ目、イネ科の植物が集積傾向が高いという結果は得られていません。
ただ、刈り取った植物や削り取った土の処分法を政府が早く示さないと、農家は処分先の確保に困る、というのは本当にそう思っています。
*:暫定的な調査として北大キャンパス内にある牧場に生育している牧草の分析をしてみたところ(5月中旬採取)、イネ科およびマメ科牧草のセシウム含有率は比較的低いという結果でした(何度も書きますが、非放射性の天然に存在するセシウムの話です)。他の地域の牧草からも高いセシウム集積能を示す結果は得られていません。土壌のセシウム分析はしていないので単純比較はできませんが。
上記のセシウムとストロンチウムの研究に関する詳細は8月8日~の日本土壌肥料学会本大会(つくば)で発表しました。

【110915追加】
農水が行っていた除染試験の結果が発表されました(こちら)。ヒマワリを一回栽培した程度であまり除染効果がないことは予想してはいましたが、その予想以上に低い効果しか認められませんでした。この農水の試験は上で述べている硫安を与えてカリウムは与えないという施肥下での栽培から得られたものですので、施肥としては適切です。試験から得られたヒマワリの地上部への放射性セシウムの移行係数は0.00674であり、農水が先にまとめた野菜類の移行係数データ(レタス0.0067、ハクサイ0.0027など)とほぼ同レベルでした。この程度の吸収力しかない場合、セシウム137の半減期である約30年たってもファイトレメディエーションによる低減効果は全体のわずか数%程度でしょう。
ファイトレメディエーションを除染に利用するのはやはり難しいのでしょうか?もっと吸収能の高い植物を使い、仮にヒマワリぐらいのバイオマスを確保できる植物種で地上部への移行係数0.1を達成できれば5年で(半減期も含めて)20~30%程度減少させることができると計算されます(セシウム137の場合)。しかし、これでも効果は高いとはとてもいえません。さらなる効率化はできないものでしょうか?
実は植物は水耕栽培ではセシウムを非常によく吸収します。図5はマメ科のミヤコグサという植物を使って培養液から茎葉部への各元素の移行しやすさを調べたグラフです。培養液中の各元素の濃度は違うため、茎葉部の含有率を培養液中の濃度で割った比で示しています。これをみると、セシウムの茎葉部への移行率はナトリウム(Na)、ヒ素(As)、カドミウム(Cd)といった他の非必須元素と比べて遥かに大きいことがわかります。つまり、植物はセシウムを大量に地上部に輸送することはできるけれど、土壌鉱物とセシウムが極めて強く結合しているため根が吸収できないことが問題であると言えます。この問題の解決がファイトレメディエーションの除染への適用には必要です。
・・・ということも当研究室でやってます。    Return to TOP page

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