2012年4月4日水曜日


尿中の放射能濃度と体内被曝量(セシウム137の場合)

福島県内の子どもの尿から放射性セシウムが検出されたという報道を見た。当然内部被曝を起こしているわけだが、それがどの程度の量か気になったので概算してみた。
結論を先に書くと、大きな問題になるような量ではないだろう、ということになる。
もとの記事は下記(読売オンライン):
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110701-OYT1T00099.htm?from=tw

ここではセシウム137で計算する。
この場合、
壊変による物理的半減期と比べて
生物学的半減期(排泄による)が充分短いとし、
壊変による減少分を無視してよいだろう。
また、摂取状況についても仮定を置かなければならない。
ここでは、
同レベルの継続的摂取により摂取と
排泄が平衡している(排泄量=摂取量)場合(1)と、
何日か前に一括摂取した場合(2)を計算してみよう。

さらに、排泄の経路は尿だけと仮定した。
実際には汗や、消化液から便を通じた排泄もあるのかもしれないが、
量的に尿が卓越していれば下記結果が大きく変化することはない。

(1)平衡している場合

尿中の放射能濃度(尿中濃度)、
1日の平均尿量(日尿量)、
体内のセシウム137存在量(存在量)、
生物学的時定数(時定数)の関係は、
(尿中濃度×日尿量)=1÷時定数×存在量
となる。
つまり、存在量=尿中濃度×日尿量×時定数だ。

以前セシウム137による被曝線量という記事に書いたように
セシウム137の時定数は144日(半減期100日)程度ということなので、
1日に排泄される量の144倍が体内に存在していることになる。
1ベクレル=1カウント/秒 のセシウム137による被曝エネルギーは、
上記記事の計算結果を使うと、

1count/s×0.551MeV/count×1.602e-13 J/MeV=8.827e-14 J/s
であり、
1時間(3,600秒)あたりの被曝エネルギー量は
3600s/h×8.827e-14 J/s=3.178e-10J/h≒0.318nJ/h
となる。
報道された子どもの尿中放射能濃度(セシウム137)は
1リットルあたり約1ベクレルなので、
仮に子どもの日尿量を1リットルとすれば、
排泄量が1ベクレル、
したがって時定数を乗じた体内の存在量は144ベクレルということになる。
仮に体重を20キログラムとすると
0.318nJ/h/Bq×144Bq÷20kg≒2.29nJ/h/kg=2.29nSv/h

つまり毎時2.29ナノシーベルト(0.00229マイクロシーベルト)の被曝量
ということになる
(ただし、セシウム137による被曝だけを計算していることに注意)。

平衡しているということは摂取し続けている
(汚染された水や食料を日常的に飲み食いしている)ということだから、
減らす努力をするに越したことはないが、
気に病むほどの汚染濃度ではない、と言っていいのではないか。

(2)一時期に集中的に摂取した場合

一時期にセシウム137をまとめて摂取し、
その後ほとんど摂取せずにある日数経過した状態で尿から検出された、
という状況を想定してみよう。
この場合、
まとめて摂取した量(摂取量)と経過日数、
体内のセシウム137存在量(存在量)、
生物学的時定数(時定数)の関係は次のようになる。

存在量=摂取量×exp(-経過日数÷時定数)

この場合でも、尿を採取した時点での存在量は
(1)と同じ計算で得られるので144ベクレルである。
さて、経過日数が長いほど、
摂取してから日が経っているにもかかわらず
尿から検出されたということになるので、
ここでは最悪のケースとして、
被爆直後に摂取した場合を想定してみよう。
報道によれば尿の採取は5月下旬と言うことだから、
原発事故直後に摂取したとして、
経過日数は70~80日程度となる。
計算しやすいように72日(時定数144日の半分)としよう。

摂取量=存在量÷exp(-0.5)
exp(-0.5)≒0.607
存在量=144ベクレル
とすれば、
摂取量は237ベクレルと言うことになる。

上記記事で算出したように、
ベクレル単位の数値を体重で割ることで
マイクロシーベルト単位の累積被曝量を算出できるので、
子どもの体重を20キログラムと仮定すると、
累積被曝線量は約12マイクロシーベルトということになる
(これも、セシウム137による被曝だけを計算していることに注意)。

一括摂取しその後摂取していないという仮定の下で、
累積量でこの程度であれば、気にする必要はないだろうと思う。

ということで、報道された尿中放射能濃度に関して言えば、
まあ健康被害は無視できると言っていいと思う。

(3)考えてみれば
上記記事に書いたように、
チーム中川の記事によれば
セシウムは、飲食物を通じて体内に取り込まれると、
ほぼ100%が胃腸から吸収され、体全体に均一に分布します

ということであり、
排泄ルートが尿だけだと仮定すれば、
平衡状態において尿で毎日1ベクレル排出していれば
摂取量も毎日1ベクレルということになる。
食品や飲料水の規制値と比べてかなり少ない量だということがわかる。

私自身は個人的目安として
飲食による1日の摂取量を50ベクレル以下に抑えるべきだと考えている。
ただし、多くてもこの量を超えない、という趣旨であり、
また汗などによる排出も多少はあるだろうから、
尿からの排泄量は1日20ベクレル程度以下を目安とし、
それを越えたら量に応じて対策を取る、
といったあたりが判断基準になりそうだ。
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コメント


これから一歳半の子どもの尿検査をするかどうか迷っている者です。仮に検査で検出下限値の0.39bq/kgが検出された場合、爆発直後から250日以上経過している現在でも上記(2)の場合の計算方法で計算できるのでしょうか。
投稿: オリーブ | 2011.11.28 17:15

オリーブ様
お子様の尿検査を考えておられるということ。ご心配に心が痛みます。
さて、現在の状況下で尿中の放射能濃度(セシウムについて)の測定結果を評価する場合、一般的には上記(1)の計算方法が適切だろうと思います。おおざっぱに言えば日々の飲食物から摂取する放射能量が安定的に(数十日オーダーでの摂取量のばらつきがあまり大きくなく)推移していることが多いと考えられるので。
一方、一時に大量の放射能を摂取した可能性がある場合には、専門家を捕まえてその個別事情を説明し、助言をもらう必要があるでしょう。摂取した状況によって計算方法が変わりますから、残念ながらここでは何とも申し上げられません。
以上のコメント、多分お役には立たないだろうと思います。所詮素人が紙の上で計算しているだけだとご理解いただければ幸いです。
投稿: dai(本人) | 2011.11.28 17:56

返信いただきどうも有難うございます。
一時に大量摂取の可能性は低いため、上記(1)の計算方法で計算してみます。
投稿: オリーブ | 2011.11.29 16:51

はじめまして、ni0615と申します。
読売は奇想天外というかトンデモというか、無意味な計算をしているようですね。
ICRPが定義しているのは、生涯にわたる累積、
つまり「預託線量」です。
時間当たりの線量率など問題ではありません。
セシウム137の実効半減期は大人で100日、
こどもで30日だそうですから、
3年分を積算すればほぼ生涯の預託線量と等しくなるでしょう。
(2)1時的に摂取した場合の計算で、
子どもなのに実効半減期を100日としていることは、
計算結果に大きな違いをもたらすでしょう。
投稿: ni0615 | 2011.12.03 02:20

ni0615様
子どもの実効半減期は30日ですか。
存じませんでした。ご指摘ありがとうございます。
確かに、子どもは放射線の影響を受けやすいという話もありますが、
一方で代謝が速いため影響が小さくなる側面もあると聞きました。
今はあまりこの問題に関わっていませんが、
次に計算する機会があれば、あらためて情報を集めたいと思います。




今回の福島第一原発事故は、人類史上最大且つ最悪の原子力災害であり、既に緊急時の年間被ばく線量限度の上限値も、法令で定めていた100mSvから250mSvへと引き上げられています。これにより作業員の慢性期(晩発性)の健康リスクが2.5倍に増加したことに加え、危険度の高い現場での長時間作業が可能になり、予期せぬ大量の被ばくによる急性期の健康被害の可能性も高まりました。
事故収束のために現場で作業にあたる全ての作業員の安全と健康を守るための安全・衛生対策も、法令等で要請されている通常の基準以上の厳格な対応が要求されるべきです。事態の一日も早い収束のためにも、全ての作業員の命の安全と心身の健康を確保し、安心して作業に従事できる環境を確保しなければなりません。
これまで緊急作業に従事した、また、これから作業に従事する全ての作業員について、東京電力との全面的な協力・連携の下、政府の責任として、作業員の安全・安心、健康・衛生確保施策を迅速に実施すべきであると思っています。
その中で、被ばく線量測定および管理の徹底が肝要となります。
今なお、作業員の累積被ばく線量が確定していないことは大変憂慮すべき状況であり、政府は東京電力に対し、期限を決めて、全ての作業員について累積外部被ばく線量と内部被ばく線量の確定を行い、即時、政府に報告する必要があると考えます。なお、ホールボディーカウンター(WBC)を使った内部被ばく線量チェックについては、検査基準を引き上げ、①雇い入れ時、②勤務が1ヶ月を越えた時(以降、1ヶ月毎)、③累積外部被ばく線量が50ミリシーベルトを越えた時(以降、50ミリシーベルト毎)、④福島原発での作業から解除された時に必ず実施するように政府から東京電力に対し要求するべきであると思います。
以前の線量計不保持者の被ばく線量計算の徹底も重要で、特に3月中に線量計を保持せずに作業に従事した全ての作業員について、作業時間と場所を特定し、可能な限り正確な被ばく線量計算および積算が行われていることを政府の責任で確認すべきです。なお、作業に従事した現場の状況や線量計保持者との位置関係から、推定計算値に幅が生じる場合は想定しうる最大の被ばく線量を記録することが重要です。
健康管理データベースの構築についても、政府は作業員の健康管理を確保するため、全ての作業員の作業・健康情報管理を目的としたデータベースを早急に構築する必要があります。そのため、政府は3月11日以降、福島第一原発および第二原発で緊急作業に従事した全ての作業員および関係者について、万事遺漏なく、個人連絡先データおよび作業・被ばく・健康診断記録を東京電力から確保し、登録・管理していくのは当然です。なお、すでに雇用を解除された者を含む全ての作業員について、研修・教育の受講歴、作業記録、累積被ばく線量、健康診断の結果等を証明出来る「被ばく線量管理手帳」が交付されることを確保するのも当然です。
こういった取り組みを進める中で、内部被ばくの線量の測定・把握が一つの律速段階になるのは間違いありません。私が憂慮するのはホールボディーカウンター(WBC)絶対数の圧倒的な不足です。現在日本中に20台しか存在しないと聞いております。であれば、今現在出来る他の手段を考え実行すべきであるのは当然です。その中で、比較的簡便に内部被ばく線量を測定する方法があります。それは尿検査です。
私は厚生労働省・文部科学省・保安院・東京電力などに対し、本技術を紹介し、WBCでの測定値との相関を早急に調査・確認した上で有用であると判断されれば、速やかに様々な局面での内部被ばく線量測定に使用していただきよう提言しております。
以下に同技術の詳細をご紹介いたします。

内部被ばく線量評価のための手法としての尿検査について

放射性物質を体内に摂取した場合の内部被ばくに線量を評価する方法の1つとして、尿中に排泄される放射性物質の分析・定量結果から推定する方法があります。

尿中排泄について

体内に取り込んでしまった放射性物質が尿中にどのように排泄されてくるのか、放射性セシウムCs-137の経口摂取の例を図1に示します。成人の場合、摂取の翌日よりも1日遅い2日目に排泄率が最大となり、摂取量の約2%が尿中に出て来ます。その後、排泄率は下がっていきますが、元の摂取量が多ければ長期間に渡って尿中に検出することが出来ます。摂取日と採尿日との時間経過の情報があれば、摂取量に戻す換算係数が決まります。
汚染された食品等による1回だけの取り込みの場合、物理学及び生物学的半減期(実効半減期)から比較的容易に計算することができますが、例えば、3日間連続的に同じ量を摂取した場合は、図2に示すように体内残留量が重ね合わせになり、尿中排泄量も重ね合わせになります。
図1 経口摂取時の尿中排泄率変化(成人、Cs-137の場合)
図2 連続摂取時の体内残留量変化

尿中の放射性物質の定量法について

放射性セシウムCs-137や放射性ヨウ素I-131のようにガンマ線放出核種の場合には、採取した尿を規定の容器に入れ、ゲルマニウム半導体検出器を用いた定量分析を行います。測定条件を一定にするため、被験者の尿量としては約100mLが必要です()。この測定(測定時間5分、線量評価までを含めると1検体あたり20分程度必要。)で、尿中に含まれる核種毎の放射能濃度(Bq/mL)が決定され、1日尿量に換算した尿中排泄量(Bq/日)が算出されます。
(※)より正確な線量の評価を行うためには、1回の採尿ではなく、数日から1週間に渡って採尿し、測定する必要があります。

預託実効線量の算出について

内部被ばくの線量は、預託実効線量で表わします。ゲルマニウム半導体検出器を用いた放射能測定値から得られた尿中排泄量(Bq/日)に摂取状況を考慮した換算係数を用いて、元の摂取量を算出します。手計算では複雑であるため、放医研が開発したMONDALと呼ばれる専用のソフトウェアを用いて、摂取量の評価および預託実効線量の評価を行うことができます。
試料容器をセットしたゲルマニウム(Ge)半導体検出器

*預託実効線量(内部被ばく)と外部被ばくについて

預託実効線量とは、体内に残留する放射性物質から今後も受け続ける被ばくも含んだ実効線量のことです。従って、預託実効線量が1mSvと評価された場合、成人は50年間、17歳までの子供は70歳まで生存した場合、その合計した期間の間に被ばくする線量の総量のことです。言い換えれば、成人の場合は50年で1mSvの被ばくであるとも言えます。
他方で、外部被ばくの場合は、実際に一定の期間の内に被ばくした線量を示します。例えば、ポケット線量計等により計測し、線量が1mSvであった場合には、当該線量を既に受けたということになります。
このように、同じ1mSvでも、内部被ばくと外部被ばくでは、その意味合いが異なるので、注意が必要です。
(参考文献:民主党厚生労働部門・雇用対策ワーキングチーム『福島原発作業員の安全・健康管理問題に関する作業班』 福島原発事故収束に向けた緊急作業に従事する全ての作業員の安全・安心、健康・衛生、雇用と生活の確保に関する申し入れ 2011年6月6日)
(参考文献:放射線医学総合研究所 緊急被ばく医療研究センター 資料を引用)
吉田統彦拝

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