尿中の放射能濃度と体内被曝量(セシウム137の場合)
福島県内の子どもの尿から放射性セシウムが検出されたという報道を見た。当然内部被曝を起こしているわけだが、それがどの程度の量か気になったので概算してみた。
結論を先に書くと、大きな問題になるような量ではないだろう、ということになる。
結論を先に書くと、大きな問題になるような量ではないだろう、ということになる。
もとの記事は下記(読売オンライン):
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110701-OYT1T00099.htm?from=tw
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110701-OYT1T00099.htm?from=tw
ここではセシウム137で計算する。
この場合、
壊変による物理的半減期と比べて
生物学的半減期(排泄による)が充分短いとし、
壊変による減少分を無視してよいだろう。
また、摂取状況についても仮定を置かなければならない。
また、摂取状況についても仮定を置かなければならない。
ここでは、
同レベルの継続的摂取により摂取と
排泄が平衡している(排泄量=摂取量)場合(1)と、
何日か前に一括摂取した場合(2)を計算してみよう。
さらに、排泄の経路は尿だけと仮定した。
実際には汗や、消化液から便を通じた排泄もあるのかもしれないが、
量的に尿が卓越していれば下記結果が大きく変化することはない。
(1)平衡している場合
尿中の放射能濃度(尿中濃度)、
1日の平均尿量(日尿量)、
体内のセシウム137存在量(存在量)、
生物学的時定数(時定数)の関係は、
(尿中濃度×日尿量)=1÷時定数×存在量
となる。
となる。
つまり、存在量=尿中濃度×日尿量×時定数だ。
以前セシウム137による被曝線量という記事に書いたように
セシウム137の時定数は144日(半減期100日)程度ということなので、
1日に排泄される量の144倍が体内に存在していることになる。
1ベクレル=1カウント/秒 のセシウム137による被曝エネルギーは、
上記記事の計算結果を使うと、
1count/s×0.551MeV/count×1.602e-13 J/MeV=8.827e-14 J/s
であり、
1時間(3,600秒)あたりの被曝エネルギー量は
3600s/h×8.827e-14 J/s=3.178e-10J/h≒0.318nJ/h
となる。
3600s/h×8.827e-14 J/s=3.178e-10J/h≒0.318nJ/h
となる。
報道された子どもの尿中放射能濃度(セシウム137)は
1リットルあたり約1ベクレルなので、
仮に子どもの日尿量を1リットルとすれば、
排泄量が1ベクレル、
したがって時定数を乗じた体内の存在量は144ベクレルということになる。
仮に体重を20キログラムとすると
0.318nJ/h/Bq×144Bq÷20kg≒2.29nJ/h/kg=2.29nSv/h
0.318nJ/h/Bq×144Bq÷20kg≒2.29nJ/h/kg=2.29nSv/h
つまり毎時2.29ナノシーベルト(0.00229マイクロシーベルト)の被曝量
ということになる
(ただし、セシウム137による被曝だけを計算していることに注意)。
平衡しているということは摂取し続けている
(汚染された水や食料を日常的に飲み食いしている)ということだから、
減らす努力をするに越したことはないが、
気に病むほどの汚染濃度ではない、と言っていいのではないか。
(2)一時期に集中的に摂取した場合
一時期にセシウム137をまとめて摂取し、
その後ほとんど摂取せずにある日数経過した状態で尿から検出された、
という状況を想定してみよう。
この場合、
この場合、
まとめて摂取した量(摂取量)と経過日数、
体内のセシウム137存在量(存在量)、
生物学的時定数(時定数)の関係は次のようになる。
存在量=摂取量×exp(-経過日数÷時定数)
この場合でも、尿を採取した時点での存在量は
(1)と同じ計算で得られるので144ベクレルである。
さて、経過日数が長いほど、
摂取してから日が経っているにもかかわらず
尿から検出されたということになるので、
ここでは最悪のケースとして、
被爆直後に摂取した場合を想定してみよう。
報道によれば尿の採取は5月下旬と言うことだから、
原発事故直後に摂取したとして、
経過日数は70~80日程度となる。
計算しやすいように72日(時定数144日の半分)としよう。
摂取量=存在量÷exp(-0.5)
exp(-0.5)≒0.607
存在量=144ベクレル
とすれば、
摂取量は237ベクレルと言うことになる。
上記記事で算出したように、
ベクレル単位の数値を体重で割ることで
マイクロシーベルト単位の累積被曝量を算出できるので、
子どもの体重を20キログラムと仮定すると、
累積被曝線量は約12マイクロシーベルトということになる
(これも、セシウム137による被曝だけを計算していることに注意)。
一括摂取しその後摂取していないという仮定の下で、
累積量でこの程度であれば、気にする必要はないだろうと思う。
ということで、報道された尿中放射能濃度に関して言えば、
まあ健康被害は無視できると言っていいと思う。
(3)考えてみれば
上記記事に書いたように、
上記記事に書いたように、
チーム中川の記事によれば
「セシウムは、飲食物を通じて体内に取り込まれると、
ほぼ100%が胃腸から吸収され、体全体に均一に分布します」
ということであり、
排泄ルートが尿だけだと仮定すれば、
平衡状態において尿で毎日1ベクレル排出していれば
摂取量も毎日1ベクレルということになる。
食品や飲料水の規制値と比べてかなり少ない量だということがわかる。
私自身は個人的目安として
飲食による1日の摂取量を50ベクレル以下に抑えるべきだと考えている。
ただし、多くてもこの量を超えない、という趣旨であり、
また汗などによる排出も多少はあるだろうから、
尿からの排泄量は1日20ベクレル程度以下を目安とし、
それを越えたら量に応じて対策を取る、
といったあたりが判断基準になりそうだ。
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コメント
お子様の尿検査を考えておられるということ。ご心配に心が痛みます。
一方、一時に大量の放射能を摂取した可能性がある場合には、専門家を捕まえてその個別事情を説明し、助言をもらう必要があるでしょう。摂取した状況によって計算方法が変わりますから、残念ながらここでは何とも申し上げられません。
一時に大量摂取の可能性は低いため、上記(1)の計算方法で計算してみます。
読売は奇想天外というかトンデモというか、無意味な計算をしているようですね。
(2)1時的に摂取した場合の計算で、
子どもの実効半減期は30日ですか。
確かに、子どもは放射線の影響を受けやすいという話もありますが、
今はあまりこの問題に関わっていませんが、
今なお、作業員の累積被ばく線量が確定していないことは大変憂慮すべき状況であり、政府は東京電力に対し、期限を決めて、全ての作業員について累積外部被ばく線量と内部被ばく線量の確定を行い、即時、政府に報告する必要があると考えます。なお、ホールボディーカウンター(WBC)を使った内部被ばく線量チェックについては、検査基準を引き上げ、①雇い入れ時、②勤務が1ヶ月を越えた時(以降、1ヶ月毎)、③累積外部被ばく線量が50ミリシーベルトを越えた時(以降、50ミリシーベルト毎)、④福島原発での作業から解除された時に必ず実施するように政府から東京電力に対し要求するべきであると思います。
内部被ばく線量評価のための手法としての尿検査について
尿中排泄について
汚染された食品等による1回だけの取り込みの場合、物理学及び生物学的半減期(実効半減期)から比較的容易に計算することができますが、例えば、3日間連続的に同じ量を摂取した場合は、図2に示すように体内残留量が重ね合わせになり、尿中排泄量も重ね合わせになります。
図1 経口摂取時の尿中排泄率変化(成人、Cs-137の場合)
図2 連続摂取時の体内残留量変化
尿中の放射性物質の定量法について
預託実効線量の算出について
試料容器をセットしたゲルマニウム(Ge)半導体検出器
*預託実効線量(内部被ばく)と外部被ばくについて