原発と関連施設の立地自治体には、さまざまな「原発マネー」が流れ込む。毎日新聞のまとめでは、過去の累計総額は電源3法交付金と固定資産税を中心に、判明分だけで2兆5000億円に達する。原発推進の「国策」を支えてきた交付金制度などの仕組みや歴史を紹介する。
◇計画段階から支払い
自治体が原発から得る財源の大半は、電源3法交付金と発電施設の固定資産税だ。運転開始前は交付金が大半を占め、資産価値が生じる運転開始後は固定資産税が柱となる。
交付金のほとんどを占めるのは「電源立地地域対策交付金」だ。一部は着工のめどが立たない計画段階でも支払われる。電力会社が現地の気象や地質などを予備的に調べる「立地可能性調査」が始まった翌年度から、立地都道府県と市町村に年間1億4000万円を上限に交付される。
福島県南相馬市は今月、この受け取りの辞退を決めた。東北電力が同市と浪江町に計画中の浪江・小高原発に伴う交付金。同市は86年度から昨年度までに計約5億円を受け取ったが、福島第1原発事故を受け「住民の安全を脅かす原発を認めないという姿勢を示す」として、今年度分の受け取り辞退を決めた。同原発は当初、79年に運転開始の予定だったが、着工できず、現計画では21年度運転開始予定となっている。
立地可能性調査から1段階進み、環境影響評価が始まると、交付金はその翌年度から増額(上限9億8000万円)される。
候補地の選定が難航している高レベル放射性廃棄物最終処分場の場合は破格だ。07年度に大幅に引き上げられ、資料で地層の状況などを調べる「文献調査」が始まっただけで、翌年度から最高で年10億円が交付される。「概要調査」に進むと20億円に倍増する。
原発の場合、交付額が一気に増えるのは着工の年から。経済産業省資源エネルギー庁が示す試算によると、出力135万キロワットの原発に対し、着工から運転開始までを7年間とすると、この間に計約465億円が支払われる。
運転開始後は建設中の4分の1程度に減るが、その分、固定資産税が入るようになる。しかし、年数がたって資産価値が下がるにつれて税収は減る。法定耐用年数の15年を過ぎた後は、毎年わずかな額しか入ってこなくなる。
一方、運転開始から30年が経過すると、新たに「原子力発電施設立地地域共生交付金」が交付され、電源立地地域対策交付金も少し増額される。名目は地域振興だが、古い施設に対する迷惑料と見ることができる。
◇電源3法交付金 「原発のため」創設
電源3法交付金は水力発電なども対象となるが、事実上は原発のために創設された制度だ。電源3法が成立した74年の国会審議で、当時の中曽根康弘通産相が明確に目的を説明している。
「原子力発電所をつくるとか、そういうところの住民の皆さんは、(中略)非常に迷惑もかけておるところであるので、そこで住民の皆さま方にある程度福祉を還元しなければバランスがとれない。(中略)かつまた積極的に協力してもらうという要望も込めてできておるものであります」(衆院商工委・5月15日)
詰まるところ交付金は「迷惑料」で、それによって原発受け入れを誘導する意図があったことも率直に語られている。
制度創設の引き金を引いたのは、日本を翻弄(ほんろう)した第1次石油ショックだった。
73年10月に勃発した第4次中東戦争を契機に、中東の産油国が原油を3倍以上に値上げした。危機感を強めた政府や電力各社による節電キャンペーンが行われ、東京・銀座でネオンを消灯し、オフィスでエレベーターを止めるなど、「節電の夏」の今年と似たような動きが広がっていた。
同年11月16日の毎日新聞夕刊は政府の「緊急石油対策本部」設置を報じる記事の中で「石油はもうやめて原子力にしなくちゃ」という男子大学生の声を伝えている。財界や国民の間に、石油に代わるエネルギーとして原子力への期待が高まっていた。一方で、各地で原発建設への反対運動が活発化し、新設がスムーズに進まないことに政府がいらだちを募らせていた時期でもあった。
こうした状況の中、当時の田中角栄首相が突然「発電税」創設を打ち出した。
田中首相は同年12月の参院予算委で「原子力発電に対しては抜本的な対策を政府が責任をもって行う」と述べ、特別税を創設して立地自治体に配分する方針を表明した。資源エネルギー庁の外郭団体「電源地域振興センター」が02年に出した報告書には、「事務方の答弁書になかった発言で大いに驚いた」という当時のエネ庁職員の証言が記録されている。
翌74年2月には、電源開発促進税法案▽発電用施設周辺地域整備法案▽電源開発促進対策特別会計法案--の3法案を閣議決定。同年6月に成立した。
しかし、高度経済成長は75年には失速。79年の米スリーマイル島原発事故も逆風となって原発新設にブレーキがかかり、交付金支出も頭打ちとなる。交付金を支出する特別会計には、一時期を除き、毎年余剰金が発生している。09年度決算は歳入3912億円に対して歳出が3435億円。477億円が余り、翌年度予算に繰り入れられた。
電源3法交付金は当初、ほとんどが公共施設や道路など、「ハコモノ」やインフラに使途が限定されていた。しかし、有り余る予算を背景に、80年代から90年代にかけ、高速増殖炉の研究など立地促進とは直接関係のない分野や、産業振興や人材育成など「ハコモノ」以外のさまざまな名目の交付金や補助金が次々に作られ、使途は拡大した。
拡大の背景には自治体側からの要望もあった。
電源地域振興センターの02年報告書には「自治体からはハコモノは維持管理費が大変で『何とかならないか』という声がかなりあった」「施設整備だけでは地域の活性化に結びつかないという指摘があった」など、エネ庁の歴代交付金担当者の証言が記されている。「それまでは『釣った魚にえさはやらない』考え方だった」との露骨な表現もある。
現在は地球温暖化対策などを理由に、火力発電は沖縄県を除いて対象外となり、核燃料サイクル関連施設が新たに対象となるなど、原発関連への傾斜がさらに強まっている。
03年に電源3法交付金の大部分を占める電源立地地域対策交付金の使途が大幅に自由化された。ただ、電源開発のための目的税を一般財源に近い形で使うことへの異論もある。
また、国の特別会計改革の一環として、電源開発促進対策特別会計法は廃止され、07年度から同会計は「特別会計に関する法律」に基づく「エネルギー対策特別会計」に再編された。電促税もいったん一般会計に入ってから配分される形となった。
◇原発マネー公開、対応分かれる
電力会社からの固定資産税や寄付の額を公開するかどうかについて、自治体の対応は分かれた。非公開の代表的な理由は「法人情報のため回答できない」(松江市政策企画部)というものだ。
しかし、情報公開制度に詳しいNPO「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は「電力会社は公共性が高く、一般企業と一緒にはできない。課税が公平かどうか、寄付が自治体の政策決定に影響を与えないかなど、社会的なチェックのために公開されていい。企業の政治献金が公開されているのも同じ理由から」と指摘する。
電力会社の対応もばらついた。原発の建設費用について、東北電力は「競争力にかかわる」として回答しなかったが、九州電力は自社のホームページに載せている。東京電力柏崎刈羽原発の場合は、会社は公表しないが、県が公表している。
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◇原発と電源3法の歴史
1955年12月19日 原子力基本法公布
66年 7月25日 日本原子力発電東海発電所が運転開始
70年 3月14日 日本原電敦賀原発1号機運転開始。大阪で万国博覧会開幕
71年 3月26日 福島原発(現・福島第1原発)1号機運転開始
72年 7月 7日 田中角栄政権発足
73年10月 第1次石油ショック
12月13日 田中首相が「発電税」創設発言
74年 6月 3日 電源開発促進税法、発電用施設周辺地域整備法、電源開発促進対策特別会計法(電源3法)が成立
75年 6月10日 国民総生産(GNP)が前年度比実質0.6%減と経済企画庁発表。戦後初のマイナス成長
79年 3月28日 米スリーマイル島原発事故
85年 4月18日 青森県六ケ所村への核燃料サイクル施設設置決定
86年 4月26日 旧ソ連チェルノブイリ原発事故
96年 8月 4日 東北電力巻原発を巡る住民投票で反対派が勝利
99年 9月30日 茨城県の核燃料加工会社「JCO」東海事業所で臨界事故
2001年11月18日 三重県海山町の原発誘致を巡る住民投票で反対派勝利
02年 8月29日 東電トラブル隠し問題が発覚
03年10月 1日 電源3法交付金の使途をソフト事業にも拡大
07年 4月 1日 電源開発促進対策特別会計と石油特別会計が「エネルギー対策特別会計」として統合される
10年 4月 1日 交付金の使途をさらに拡大。人件費などにも使えるようになる
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■電源3法交付金の対象となる事業
□地域振興計画作成など
地域振興に関する計画の作成や先進地の見学会、研修会、講演会、検討会、ポスター・チラシ・パンフレットの製作など発電用施設などの理解促進事業
□温排水関連
種苗生産、飼料供給、漁業研修、試験研究、先進地調査、指導・研修・広報、漁場環境調査、漁場資源調査、漁業振興計画作成調査、温排水有効利用事業導入基礎調査などの広域的な水産振興のための事業
□公共用施設整備
道路、水道、スポーツ、教育文化、医療、社会福祉施設などの公共用施設や産業振興施設の整備、維持補修、維持運営のための事業
□企業導入・産業活性化
商工業、農林水産業、観光業などの企業導入の促進事業や地域の産業近代化、地域の産業関連技術の振興などに寄与する施設の整備事業や施設の維持運営などのための事業
□福祉対策
医療、社会福祉施設などの整備・運営、ホームヘルパー事業など地域住民の福祉の向上を図るための事業や福祉対策事業に関わる補助金交付事業や出資金出資事業
□地域活性化
地場産業支援事業、地域の特性を活用した地域資源利用魅力向上事業など、福祉サービス促進事業、地域の人材育成事業などの地域活性化事業
□給付金交付助成
一般家庭や工場などに対する電気料金の割引措置を行うための給付金交付助成事業を行う者への補助事業
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■電源3法交付金
電力会社から徴収する電源開発促進税(電促税)を財源に、立地道県や市町村、周辺自治体に交付される。電促税の概要を定めた「電源開発促進税法」▽交付金について定めた「発電用施設周辺地域整備法」▽交付金を支出する特別会計について定めた「特別会計に関する法律」--に基づく制度。道県にも交付されるため、原発から離れた市町村や住民も一定の恩恵を受けている。
財源の電促税は、一般家庭からも電気料金に上乗せして徴収されている。税率は何度か変更され、現在は1000キロワット時あたり375円。1世帯あたりの月平均消費電力300キロワット時で計算すると、1世帯あたり月113円の負担となる。
交付金のほとんどは「電源立地地域対策交付金」。当初は使途が公共施設やインフラ整備に限定されていた。立地市町村の庁舎が立派な造りで、スポーツや文化施設も充実しているのはこのためだ。維持管理に使えず、市町村の財政を圧迫したため、03年に使途の制限が大幅に緩和された。現在は「公共用施設整備」と「地域活性化」に大別され、福祉などの「ソフト事業」にも使われている。
例えば、福島第1原発5、6号機のある福島県双葉町は09年度、ごみ処理や消防など広域事務組合の負担金1億1910万円のうち1億1830万円▽食事の宅配や介護用品給付など高齢者福祉サービス5176万円のうち3520万円--などに交付金を充てた。住民生活に密着した分野にまで原発マネーが入り込んでいる形で、原発への依存が深く進んでいることの裏返しでもある。
家庭や企業に直接支給する交付金もある。「原子力立地給付金」と呼ばれ、立地市町村と周辺地域が対象。原発の出力が大きいほど多額になる。福島第1原発では1世帯あたり年8400円が振り込まれ、「電気料金の実質的な割引」(経済産業省資源エネルギー庁)が目的だ。
自治体への交付金にはさまざまな加算もある。プルサーマル受け入れ▽定期検査間隔の拡大▽運転開始後30年以上経過している--などで、一言で言えば、住民が不安になる条件を引き受けるほど高額になる。
■固定資産税
原発運転開始後は、発電設備の固定資産税が立地市町村の大きな収入源となる。使途に制限はなく、自治体にとっては使い勝手がいい。ただ、発電設備は時間の経過によって価値が下がる「減価償却資産」のため、税収は年々減り、5年後にはほぼ半減する。原発は耐用年数が15年間と財務省令で定められ、16年後以降は最低限度額(最初の評価額の5%)に対してしか課税されない。
原発立地自治体でつくる「全国原子力発電所所在市町村協議会」(全原協、事務局・福井県敦賀市)のモデルによると、立地市町村には建設費4000億円の原子炉1基で、初年度は35億円余りの税収があるが、耐用年数経過後は1億円余りになってしまう。実際には30年を超えて運転している原子炉もあり、全原協は毎年、法定耐用年数の延長を国に要請している。
■寄付
電力会社から直接自治体にもたらされる原発マネーもある。
新潟県柏崎市の「柏崎・夢の森公園」は、里山を復元し、研修施設などを備えた約30ヘクタールの公園。「『持続可能な暮らし方』を実践するためのモデル作りと情報発信」(同公園ホームページ)を目指しているという。この公園は東京電力が97年、柏崎刈羽原発の全号機完成を記念して造成を始め、07年に市に寄付した。総事業費60億円。うち18億2000万円は維持管理費として現金で寄付された。ハコモノと維持費をそっくり東電がプレゼントした形だ。
四国電力は伊方原発建設の際、交付金制度ができる直前の3年間、愛媛県伊方町に計57億円寄付した。寄付が交付金と同じような役割を果たしていた形だ。
現在でも、交付金代わりになっているケースがある。電力10社で構成する電気事業連合会(電事連)は今年3月、海外から返還される低レベル放射性廃棄物の受け入れに伴い、青森県が出資する財団に2年間で総額10億円を寄付することを決めた。最終的には交付金対象外の県内25自治体に配分される。
億単位の寄付が匿名で行われることも多い。交付金制度には本来、こうした不透明さを払拭(ふっしょく)する狙いもあった。電源3法が審議された74年5月の衆院商工委員会で中曽根康弘通産相(当時)はこう述べている。
「寄付金というような場合はややもするとルーズで恣意(しい)的な性格があります。そういう面から見まして、私は交付金というような折り目筋目を正したやり方でやるほうが筋としてはいいんじゃないか」
その後30年以上、脈々と寄付は続いている。
■核燃料税
原発を抱える自治体が、運転中の原子炉内の核燃料を対象に電力会社に課す地方税。福井県が76年、安全対策や地域振興などを目的に初めて創設し、現在は原発のある全13道県が導入している。核燃料の価格に対して12~14・5%の税率を課している。これまでに6700億円余りが13道県にもたらされた。福井県では今年7月、停止中の原発にも課税することで、実質税率が全国最高の17%となる新条例が成立した。
使い終わった核燃料にも重量単位で課税する「使用済み核燃料税」もある。市の独自課税で、新潟県柏崎市と鹿児島県薩摩川内市が03年から導入。燃料の使用中は県が、原子炉から出されたら市が取る形となる。
http://mainichi.jp/mai/ssi/images/01/08947.jpg
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■自治体に流れた「原発マネー」総額(判明分)
電源3法交付金総額 9152億8300万円
道県の核燃料税 6749億6820万円
原発に伴う市町村税 8920億1299万円
電力会社からの寄付 530億3814万円
合計 2兆5353億 233万円
※電源3法交付金総額は経済産業省資源エネルギー庁編「電源開発の概要 2010」より集計。電力会社からの寄付には都道府県への寄付も含む
■核燃料税を導入している道県の累計税収額
導入年度
北海道 139億 900万円 89
青森 1362億 円 93
宮城 158億5115万円 83
福島 1238億3581万円 78
新潟 522億7900万円 85
茨城 258億7000万円 78
静岡 370億2500万円 80
石川 93億2900万円 93
福井 1568億 円 76
島根 166億3324万円 80
愛媛 264億9400万円 79
佐賀 350億6000万円 79
鹿児島 256億8200万円 83
合計 6749億6820万円
※2010年度までの累計額
毎日新聞 2011年8月19日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20110819ddm010040004000c.html
この国と原発:第1部・翻弄される自治体 清水修二・福島大副学長の話
◇交付金制度、廃止すべきだ
原発が立地するのは、いずれも過疎地域だ。高度経済成長期に電力需要の増大を見込んだ国と、高度成長に取り残されたくない弱小自治体の切迫した思いが一致した形で、原発の建設は進んだ。
自治体側は産業の集積や都市化が進むことを期待した。しかし、建設業を中心に一定の経済効果はあったものの、一過性のものでしかなかった。電力は送電線で遠くに運べるため、一般企業が原発近くに工場を設置するメリットは少ない。原発関連産業の多くは特殊な分野で、地元の中小企業が担うのは難しい。一方で、原発労働者の給料は地元企業の水準より高いため、労働力の多くは原発に吸収される。その結果、地域の産業構造は原発だけに依存したいびつなものとなってしまう。
一方、電源3法交付金と固定資産税によって急に裕福になった自治体は、財政規律がどうしても緩みがちになる。当初、交付金の使途が「ハコモノ」やインフラに限定されていたのは、効果を目に見えるようにしたいと国が考えたからだろう。市町村の首長にとっても、実績を形に残せるから好都合だった。創意工夫が必要なソフト事業よりハード事業のほうが楽なのだ。そうして道路など公共施設に多額の支出がなされた。
しかし、交付金や固定資産税収が減っていく一方で、公共施設の維持管理コストは増大する。原発に新たな設備投資がなければ、収入を維持することができない構造だ。原発の増設を望む自治体があるのは、こうした理由からだ。
原発の誘致による「発展」は、あたかもコマが外から力を加えられて回っているようなもので、コマは自力で回転しているわけではない。
それでも中都市並みの所得と豊かな財政を得られる原発は、過疎地域の自治体には魅力的に映る。福島の事故後の統一地方選でも、原発立地自治体で推進派が多く当選する大勢に変化はなかった。
電源3法交付金は都市に造れないものを過疎地に造るための「迷惑料」にほかならない。国の原子力委員会が定めた「原子炉立地審査指針」は、事故に備えて原子炉は人口希薄な地域に設置するよう義務づけている。仮に自治体が望むように、原発のおかげで周辺人口が増えて地域が都市化したとしたら、原子炉立地審査指針に反する事態になってしまうという決定的な矛盾がある。
原発の存在には地域格差が前提なのだ。まるで貧しい人の前にごちそうを並べて手を出すのを待つような交付金の仕組みは、倫理的にも許されない。交付金制度は段階的に廃止すべきだと考える。
地域とは「人らしく生きられる場所」でなければならない。今回の惨事を目の当たりにしてもなお、原発に地域の未来を託せるのか。原発を地方自治の問題として考え直す必要があると思う。
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20110819ddm010040005000c.html
玄海町、依存体質のツケ◇エネ政策転換、描けぬ未来
地震大国・日本で、原発とどう向き合っていくのか。東京電力福島第1原発事故は、我々に難しい課題を突きつけた。今後の道を探る連載の第1部は「国策」に翻弄(ほんろう)されてきた自治体の現状を追う。
「何ば言いよるんだ、この人は!」。7月6日、佐賀県玄海町の町長室に岸本英雄町長の怒声が響いた。矛先はテレビに映る菅直人首相。全原発の安全評価(ストレステスト)実施を表明したことを報じていた。
町長は2日前、全国に先駆け玄海原発2、3号機再稼働への同意を九州電力に伝えたばかり。首相のひと言で海江田万里経済産業相の「安全宣言」は宙に浮き、町長は「ばかにされた」と同意を撤回。再稼働は見通せなくなった。
県の北西端にある玄海町はかつて、貧しい寒村だった。県から原発計画の話を持ちかけられたのは1965年。農漁業以外に目立った産業はなく、町民約8000人の1割近くが関東や関西に出稼ぎに行った。町区長会の渡辺正一会長(57)は「どの企業も来てくれず、誘致したのが原発だった」と話す。
誘致が決まると国や電力会社から「原発マネー」が流れ込んだ。町が受け取った電源3法交付金は総額265億円。町民会館に26億円、温泉施設に17億円、老人ホームに23億円と豪華な公共施設を並べても、お釣りが来た。「ようやく人並みの生活ができるようになった」。山崎隆男元町議(85)は振り返る。「豊か」になるに連れ、反原発の声もなりを潜めた。
だが、原発マネーは依存構造を生んだ。歳入の6割以上を原発関連が占め、「町民の5割が原発を生活の糧にしている」(岸本町長)。半面、人口は減り続け、他産業は育たず農漁業の担い手も半減した。
一方、原発の固定資産税は減価償却が進むにつれ年々減る。2号機稼働から10年過ぎた90年代初め、町財政は縮小傾向にあった。息を吹き返させたのは3号機(94年)、4号機(97年)の相次ぐ稼働。06年には3号機で国内初のプルサーマル発電に同意し、核燃料サイクル交付金30億円も入ることになった。
財政が先細ると原発特需がカンフル剤のように効く図式。4号機稼働から14年がたち、岸本町長は「老朽化した1、2号機に代え、5号機が必要」と唱えるようになっていた。3月11日までは--。
町の将来には、菅首相の「脱原発」宣言が影を落とす。2、3号機は再稼働の見通しが立たず、1、4号機も年内に定期検査に入る。今年度1億5000万円を見込んだ核燃料税は途切れ、作業員が消えた旅館や飲食店は閑古鳥が鳴く。町民からは「原発がなくなれば真っ先に隣の唐津市に吸収される」との声も漏れる。
「薄っぺらいベニヤ板に乗せられていたようなものだ」。国策頼みの町が国策によって行き詰まり、町長の苦悩は深まる。財政的な自立の道も模索し始めたが、「原発依存をどう是正していくか思い当たらない。廃炉までの期間、貢献度などに応じた交付金で埋めてほしい」と本音を漏らした。
<心夢見るアトムの町>。町の入り口の県道沿いに看板が立つ。通り過ぎる車はめっきり減った。町財政を分析した伊藤久雄・東京自治研究センター研究員は指摘する。「依存体質を変えないと町は倒れる。だが、その体質は国と電力会社が押しつけて生まれたもので、貧しい町が狙われた」【蒔田備憲、阿部周一】
http://mainichi.jp/seibu/seikei/news/20110819ddp001040004000c.html
国策推進「しゃーない」
◇美浜町「万博支えた」誇り
◇敦賀市「脱」意見書に抗議
地震大国・日本で、原発とどう向き合っていくのか。東京電力福島第1原発事故は、我々に難しい課題を突きつけた。今後の道を探る連載の第1部は「国策」に翻弄(ほんろう)されてきた自治体の現状を追う。
「町長は私で5代目。歴代、国策に沿って原子力に協力しているんです。今後も進めたいし、国もそうしてほしいのです」。5月4日。福井県美浜町の関西電力美浜原発の応接室で、山口治太郎町長(68)は海江田万里経済産業相に詰め寄った。
同町と敦賀市からなる敦賀半島には、美浜原発(3基)だけでなく、日本原子力発電敦賀原発(2基)、高速増殖原型炉「もんじゅ」、新型転換炉「ふげん」(廃炉作業中)の計7基が集中する。敦賀原発は70年3月の大阪万博開会式当日から、美浜も同8月から会場に送電。「万博が“原子の灯”で輝いた」ことは、町の誇りだ。同町は歳入の約2割を原発関連に依存するが、山口町長は「万博の時から国の発展を支えてきたんや」と自負する。
作業員5人が死亡した04年の3号機配管破断事故など、トラブルも多かった美浜原発。福島の事故を受け毎日新聞が4月に実施したアンケートに、山口町長は「安全性が揺らいだ」と答えた。それでも原発を推進する背景には「町民に理解を得る苦労をしてきたのに、今さらはしごを外されては報われない」との思いがある。
立地自治体では今、「国策」頼みが強まっているように見える。
6月の敦賀市議会。国にエネルギー政策見直しを求める意見書を原子力発電所特別委員会が全会一致で可決後、取り下げた。将来的に再生エネルギーへの転換を求める内容も含み、地元紙が「脱原発」と報じ、状況が一変した。委員の一人は「脱原発と思って通したわけじゃない。『将来的に』と入れれば丸く収まると思ったのだが」と話す。だが自宅に市民から10件以上、「わしらの仕事なくすんか」と電話があったという。
意見書を提案した今大地(こんだいじ)晴美市議(60)は4月の市議選で初めて「脱原発」を訴えた。演説で原発に触れると聴衆が減り、「敦賀で事故は起きない」と反論された。4選を果たしたが、票は前回より1割以上少ない1334票。「『しゃーない』が市民の口癖。お上のお墨付きがあると、街づくりが原発任せになった」と嘆く。
7月4日に敦賀市が開いた安全対策の説明会。町内会組織のトップ、市区長連合会長の奥村務さん(74)は、原発推進を訴えた。奥村さんは「(原発は)ないに越したことはないし、好きな者はおらんよ」と明かす。福島の現状に「原発事故は怖い」と感じる。原発関連の仕事もしていない。それでも旧満州(現中国東北部)からの引き揚げ経験を基に言う。
「原子力も戦争も国策。日本はエネルギーがないため戦争に追い込まれ、みな国のために戦争をした。代わりのエネルギーはあるのか。どこかが原発を引き受けるしかない」
落ちるカネ、依存体質に
◇巨大施設乱立、土建業が肥大 偏った産業構造脱却は困難--福井・敦賀市
「原発銀座」と呼ばれる福井県の若狭湾岸にある敦賀市内を歩くと、電源3法交付金や原発事業者からの寄付で建設された体育館やホール、商店街のアーケード、短大や温泉施設まで、人口約6万9000人の地方都市には不釣り合いと思える巨大施設が建ち並ぶ。
北陸自動車道敦賀インターチェンジ近くの山腹にある市立温泉施設「リラ・ポート」。約9ヘクタールの広大な敷地に、豪華客船をイメージした総ガラス張りの建物と、約300台が駐車可能な立体駐車場を併設する。大浴場や露天風呂のほか、水中歩行で健康増進を図る「バーデプール」と設備も豪華だ。
02年に完成し、総事業費は約35億円。うち約25億円は高速増殖原型炉「もんじゅ」のナトリウム漏れ火災事故(95年12月)後、文部科学省が創設した交付金だった。
市や地元経済界は当初、「敦賀の観光客は夏場の海水浴ばかり。温泉は観光の起爆剤になる」と期待していた。
しかし、総ガラス張りで細長い建物のため、光熱費や人件費がかさむ。山腹にあって交通の便が悪く、初年度から年間約1億円の赤字を計上した。現在も市財政からの補填(ほてん)を続ける。市民は「交付金や寄付に翻弄(ほんろう)されるいつものパターン」と冷ややかに見つめる。
原発と共存してきた40年余りで、最も拡大したのは土建業だ。05年国勢調査によると、その雇用人口は約5000人。人口が敦賀とほぼ同じ同県鯖江市では約2700人で、敦賀の偏りは際立つ。
偏った産業構造を改めようと、敦賀市は01年度から、約20ヘクタールの広大な土地に13区画の産業団地を造成し、工場誘致を進めている。費用計約82億円のうち約50億円は交付金だ。敦賀インターに直結する国道バイパス沿いにあり、京阪神からの交通アクセスも良いが、誘致は難航している。5区画の分譲先が決まらず、職員の全国行脚が続く。「事故が誘致に影響するかも。どうしたら良いか……」と浮かない表情だ。【日野行介、柳楽未来】
◇町長「薄いベニヤ板に乗せられていたようだ」 町民の5割、生活の糧--佐賀・玄海町
「何ば言いよるんだ、この人は!」。7月6日、佐賀県玄海町の町長室に岸本英雄町長の怒声が響いた。矛先はテレビに映る菅直人首相。全原発の安全評価(ストレステスト)実施を表明したことを報じていた。
町長は2日前、全国に先駆け玄海原発2、3号機再稼働への同意を九州電力に伝えたばかり。首相のひと言で海江田万里経済産業相の「安全宣言」は宙に浮き、町長は「ばかにされた」と同意を撤回。再稼働は見通せなくなった。
県の北西端にある玄海町はかつて、貧しい寒村だった。県から原発計画の話を持ちかけられたのは1965年。農漁業以外に目立った産業はなく、町民約8000人の1割近くが関東や関西に出稼ぎに行った。町区長会の渡辺正一会長(57)は「どの企業も来てくれず、誘致したのが原発だった」と話す。
誘致が決まると、原発マネーが流れ込んだ。町が受け取った電源3法交付金は総額265億円。町民会館に26億円、温泉施設に17億円、老人ホームに23億円と豪華な公共施設を並べても、お釣りが来た。「ようやく人並みの生活ができるようになった」。山崎隆男元町議(85)は振り返る。「豊か」になるに連れ、反原発の声もなりを潜めた。
だが、原発マネーは依存構造を生んだ。歳入の6割以上を原発関連が占め、「町民の5割が原発を生活の糧にしている」(岸本町長)。半面、人口は減り続け、他産業は育たず農漁業の担い手も半減した。
一方、原発の固定資産税は減価償却が進むにつれ年々減る。2号機稼働から10年過ぎた90年代初め、町財政は縮小傾向にあった。息を吹き返させたのは3号機(94年)、4号機(97年)の相次ぐ稼働。06年には3号機で国内初のプルサーマル発電に同意し、核燃料サイクル交付金30億円も入ることになった。
財政が先細ると原発特需がカンフル剤のように効く図式。4号機稼働から14年がたち、岸本町長は「老朽化した1、2号機に代え、5号機が必要」と唱えるようになっていた。3月11日までは--。
町の将来には今、菅首相の「脱原発」宣言が影を落とす。2、3号機は再稼働の見通しが立たず、1、4号機も年内に定期検査に入る。今年度1億5000万円を見込んだ核燃料税は途切れ、作業員が消えた旅館や飲食店は閑古鳥が鳴く。町民からは「原発がなくなれば真っ先に隣の唐津市に吸収される」との声も漏れる。
「薄っぺらいベニヤ板に乗せられていたようなものだ」。国策頼みの町が国策によって行き詰まり、町長の苦悩は深まる。財政的な自立の道も模索し始めたが、「原発依存をどう是正していくか思い当たらない。廃炉までの期間、貢献度などに応じた交付金で埋めてほしい」と本音を漏らした。
<心夢見るアトムの町>。町の入り口の県道沿いに看板が立つ。通り過ぎる車はめっきり減った。町財政を分析した伊藤久雄・東京自治研究センター研究員は指摘する。「依存体質を変えないと町は倒れる。だが、その体質は国と電力会社が押しつけて生まれたもので、貧しい町が狙われた」【蒔田備憲、阿部周一】
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20110819ddm003040050000c.html
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