2012年6月25日月曜日

預託線量







   体内に摂取された放射性核種の壊変によって体内の組織や臓器が照射される
内部被ばくの場合、それら組織や臓器への線量の与えられ方は、
時間の経過とともに変化することになります。
線量率のこの時間的変化は、
放射性核種の種類、
物理的・化学的形態、
摂取の仕方、及び
核種が取り込まれる組織や臓器に依存します。

   内部被ばくの場合は、
放射性核種の代謝や排泄の速度をコントロールできないのが普通であり、
したがって、
摂取したときに
その後の線量率分布及びその時間積分値である線量は決まってしまうと考えられます。
組織や臓器Tの受ける預託等価線量H(τ,T)は、次の数式で表すことができます。

H(τ,T)=∫h(t)dt

   ただし、時間についての積分は、t0からt0+τまでとします。

   上式において、
h(t)は組織や臓器Tの摂取後の時間tにおける線量率であり、
τの値は、職業被ばく及び公衆の成人に対しては50年、
子供や乳幼児に対しては摂取から70歳までの期間をとります。

   放射性物質の組織や臓器中の実効半減期
(放射性核種の体内からの排出とその核種自体の減衰の両方を考慮した半減期)
の長いものと短いものについて、上式のh(t)を例示したものが図1です。


    預託実効線量E(τ)は、
放射性物質の体内摂取から受ける組織や臓器Tの等価線量
その組織や臓器の組織荷重係数W(T)を乗じて加え合わせたもので、
次の数式で示すことができます。

E(τ)=ΣW(T)・H(τ,T)

    ただし、合計は全身の組織や臓器Tについて行なうものとします。

    しかしながら、放射性物質が体内に摂取され、
体内の組織や臓器に沈着した場合、
組織や臓器の受ける線量を算出することは容易ではありません。
それは、この内部被ばく線量を算出するために、
体内の組織や臓器に沈着している放射性物質の量を測定する必要があり、
しかもその量の時間的変化を追跡しなければならないからです。

    このため、内部被ばくの場合は、
人が摂取した放射性物質の量と、
人体の組織や臓器が受ける線量の大きさとの関係を算出しておくことにより、
摂取した放射性物質の量を基準にして人の被ばく量を算出する方法がとられています。

    放射性核種1Bqとそれを急性摂取
(1回摂取ともいう)したときの預託実効線量(mSv)との比を
実効線量係数(単位mSv/Bq)といい(表1)、預託実効線量の計算に用います。

    預託実効線量は、この実効線量係数を用いて以下の式にて算出します。

預託実効線量(mSv) = 実効線量係数(mSv/Bq) × 年間の核種摂取量(Bq)
× 市場希釈係数 × 調理等による減少補正
年間の核種摂取量(Bq) = 環境試料中の年間平均核種濃度 × その飲食物等の年間摂取量

※市場希釈係数と調理等による減少補正は必要があれば行います。

    預託実効線量は、摂取した年の1年間に受けたものと見なして、
その年の外部被ばく実効線量と合計し、
その合計値が線量限度を超えないように
核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律等において、
個人の被ばくを管理することになっています。



参考:
  (1)日本アイソトープ協会(編):ICRP Publ.42、ICRPが使用しているおもな概念と量の用語解説、丸善(1986年6月)
  (2)日本アイソトープ協会(翻訳):ICRP Publ.60、国際放射線防護委員会1990年勧告、 丸善(1991年7月)
  (3)環境放射線モニタリングに関する指針(原子力安全委員会、平成13年3月一部改訂)
  (4)原子力防災基礎用語集 http://www.bousai.ne.jp/visual/bousai_kensyu/glossary/
  (5)原子力百科事典 ATOMICA http://www.atomin.go.jp/atomica/index.html


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