2012年5月15日火曜日

セシウム放射線内部被曝とカリウム

セシウム放射線内部被曝とカリウム (少し詳しい解説、その1)

はじめに 福島原発爆発によって莫大な放射能が環境に撒き散らされました。 原発事故後、健康にとって、特に重要な放射能は、放射性ヨウ素、ストロンチウム、セシウムです。放射性ヨウ素の半減期は8日なので、4月初めに存在した放射性ヨウ素は、9ヶ月たった2022年1月では、1/2の33乗、100億分の1と、ほとんどなくなっています。

ストロンチウムとセシウムの半減期は約30年と長いので、福島原発から放出されたストロンチウムとセシウムの地球にある放射能量はほとんど減っていません。現在、食物や環境で測定されている放射能はほとんどがセシウムで、食物や環境のセシウム放射能が減っているのは、地上から減っているのではなくて、別の場所に移動したからです。ストロンチウムはガンマ線を出さないので測るのが面倒なこともあり、あまり測定、公表していませんが、ストロンチウム汚染がないことや、心配しないでよいことを意味しません。原発で作られた放射性ストロンチウムの量はセシウムと同程度存在すると考えられますが、大気などへの拡散の仕方が違うので、セシウムが検出されたところには同程度のストロンチウムがあるということでもありません。

放射性ヨウ素、ストロンチウム、セシウムの生体に対する傷害作用が違うのは、放射能・放射線の種類が違うからというよりは、主に放射性物質が生体のどこにどれくらいの期間存在するかということによるものです。

ヨウ素は甲状腺に集まるので、甲状腺傷害や、甲状腺癌の発生頻度を上げます。ストロンチウムは摂取すると、骨に集まって骨の成分として骨に固まってしまうので、排泄は難しく、同じ場所で放射線を出し続けるので、近くにある骨髄細胞が持続的に被曝し続け、白血病など、骨髄で作られる白血球などの血液細胞に傷害が出やすくなります。セシウムは体中の水に溶けて広く分布します。同じベクレル数の放射能を摂取しても、ヨウ素やストロンチウムのように特定の場所に集中的に被曝させるのではなく、全身の細胞が低いレベルで被曝します。

放射線の作用は、様々な物質(分子)の構造を少しこわすことで、紫外線の働きと似ています。紫外線を強くあてると、塗装の色が変わったり、紙やプラスチックががさがさになったりします。生体内でも蛋白や様々な生体構成物質、遺伝子の本体であるDNAが変異を生じて、体内で様々なことが起きます。DNAが変異を起こした場合は、その細胞から新しい細胞が作られるとき、新しい細胞にDNAは変異したまま複製されて引きつがれます。

本論ではストロンチウムの話は省略して、
セシウムの放射能とカリウムについて述べます。
原子炉や核爆発で30種類以上の放射性セシウムが作られますが、
その多くは半減期が数日から1秒以下と短く、
被曝を避けるうえで重要なのはセシウム134とセシウム137の2つです。
前者の半減期は約2年、
後者は約30年で、放射線を出すこと以外の元素としての性質は、
非放射性のセシウムと同じです。

セシウムの体内分布 


ヨウ素は甲状腺細胞のヨウ素を取り込むポンプの働きによって
甲状腺に取り込まれます。


ストロンチウムはカルシウムと似ていて、
骨の成分として骨の中に固まります。


セシウムは、水に溶けて体中に分布しますが、
カリウムと似た分布、挙動をすると考えられています。

セシウムはカリウムと似ていてもまったく同じではないので
カリウムの動態からセシウムを機械的に同じと考えるのは正しくありません。


カリウムについては非常に詳しくわかっており、一方セシウムについては、
厳密な測定は十分されていないので、
測定されてわかっていることとカリウムの動態からの推測をして考えます。

「セシウムは筋肉に多く含まれる」と解説されることがあります。
大まかには正しいのですが、かなりあいまいな言いかたです。
例えば、屍体から摘出した臓器のセシウム放射能を測定して
他の臓器や組織よりも、
筋肉組織(骨格筋)のセシウム放射能が高いという研究結果があります。
発表された測定値はおそらく事実と思います
(中には嘘を発表する人がいることはご存知の通り)。

おおまかには正しく、重要な知見ですが、
これだけで単純に、


「骨格筋細胞内のセシウム濃度は他の細胞よりも高い」
と結論できません。


評価、結論するには以下の考慮すべきことがあります。


骨格筋組織重量の大部分は細胞(骨格筋細胞)である


一方、腱組織などは、細胞が作った、


コラーゲンなどの細胞外成分が大部分を占め、


細胞が占める割合は少ない。多くの組織はこの間にある。


だから、重量あたりの腱組織のセシウム濃度が筋肉より低くても、


腱を構成している細胞内のセシウム濃度が低いとはいえない。


また、消化腺など、分泌機能を持つ細胞では、


細胞内に分泌顆粒という袋があり、


その中には、細胞内液とは組成が異なる成分がある。


だから


臓器や組織の重さとセシウム放射線を測って計算した


重量あたりの放射線量の結果は、


正確には細胞内のセシウム量や濃度を意味しない。



カリウムの生体内分布


一部は蛋白などと結合して水に溶けない状態で存在するが、


カリウムの大部分はイオンとして水に溶けて体中に分布し、


細胞内液には細胞外液よりはるかに高い濃度で分布する(約20倍)

この細胞内外の不均等分布は、主に、




①ナトリウムを細胞外に、カリウムを


細胞内にエネルギーを使って輸送する細胞膜にあるポンプ蛋白の働きと、


②細胞膜がナトリウムを通しにくいために


細胞外のナトリウムイオンが高いまま保たれる結果、


細胞外の陽イオンが高く、細胞内陽イオンが細胞外液と均等になるように、


細胞膜を通過しやすいカリウム(陽イオン)が


細胞内に多く移動して分布することなどによる。




・ 細胞膜は脂でできているので、


ナトリウムやカリウム、カルシウム、ブドウ糖など、


水溶性の物質は細胞膜を透過しない。


細胞膜に浮かんで存在しているそれぞれの機能を持つ蛋白と結合したり、


それぞれのイオンを通す穴の役割をするイオンチャンネル蛋白を介して、


細胞膜を通過する。


ナトリウムチャンネル、


カルシウムチャンネル、


カリウムチャンネルなどはそれぞれ複数の種類があり、


細胞の種類による分布や働きが異なる。



・ セシウム放射能が筋肉組織に多く含まれることのメカニズムは、


セシウムが細胞内の水に多く溶けて分布していることと、


骨格筋組織は細胞成分の割合が多いことによる。


これに加えて、筋細胞は他の細胞よりもセシウム濃度が高い可能性があるが、


発表された文献をよく吟味しないと、


骨格筋細胞が、他の細胞よりも高濃度にセシウムを含有しているかについて、


今、私は断言できない。



・ 細胞内外のセシウムの不均等分布のメカニズムの中心は、


セシウムを運ぶポンプの働きよりは、


おそらく、セシウムが細胞膜のカリウムチャンネルを通過することだろう


と私は推測しているが推測である。


推測の理由は省略する。


どの程度までわかっているのか文献を調べればわかるが、


今のところ文献を調べるだけの余裕がないから調べていない。



・ セシウムがナトリウムチャンネルは通過せず、


カリウムチャンネルを通過することが、


セシウムが細胞内に多く分布するメカニズムと考えた場合、


複数あるカリウムチャンネルのどれもセシウムの通過させやすさは一様か、


異なる種類のチャンネルにおいてカリウムの通過しやすさと


セシウムの通過しやすさは同程度かなどの問題がある。



・ 酸素や血流がなくなると、


細胞膜にあるナトリウムポンプはエネルギー供給が途絶えて働かなくなり、


その結果細胞内から細胞外へのナトリウムくみ出しが減って、


細胞内のナトリウム濃度が高まる。


細胞内ナトリウムが増えた結果、


細胞内外でのナトリウムイオンの濃度差減少によって


細胞内外の陽イオン濃度の不均衡が減少し、


その結果、カリウムは細胞内から細胞外へ拡散移動して


細胞内濃度は低下する。


おそらくセシウムもカリウムに似た挙動をするだろうがその速さ、


程度はカリウムとは異なるだろう。





臓器や細胞によって異なるが、


心臓が止まって人が死亡しても、


細胞は数時間から数十時間は生きている。


その間、細胞の様々な機能は低下し、やがて死ぬ。


死後摘出した臓器はこのような条件で得られたものなので、


セシウムがカリウムと似た動きをするのであれば、


死後、細胞内のセシウムは細胞外に移動するはずだから、


そのとき測定した細胞内のセシウム濃度は


正常に細胞が生きている状態から変化している。


細胞外に移動しても、血流が途絶えているので、


細胞付近にかなり留まっていると考えれば、


臓器の組織重量あたりのセシウム意量はあまり変化しない


と考えてもよいかも知れないが断定はできない。





体内カリウムの放射線 




カリウムは動植物の体内に多く存在し、


細胞機能にとっ基本的で重要な物質です。


大部分は水に溶けて存在し、


動物では 細胞内液には


細胞外液のセシウム濃度の20倍以上の濃度で保たれています。


人間の体重の約60%は水で、


細胞内に40%、


細胞外に20%存在します。


細胞内外の水の量と、


細胞内外のカリウム濃度はそれぞれほぼ一定に保たれているので、


体全体のカリウム量も一定に保たれていることになります。




地球上のカリウムには1万分の1の放射性カリウムが均等に混じっています。


生体内には一定量のカリウムが存在しますから、


人は必ずカリウムによる放射線の内部被曝を受け続けています。


生体内の放射能のほとんどはカリウム由来で、


60kgの成人では総量3000~4000ベクレルで、


無視できるほどは少なくはありません。





生体内でカリウム濃度


通常は15% 程度の変動範囲内に調節されています


食物に含まれるカリウム摂取が余分なときは尿として排泄され、


摂取量が少ないときは、


尿中カリウム排泄を減らして、体内のカリウム濃度を保ちます。


腎不全でカリウムを十分排泄できず体内にカリウムが増えすぎたり、


食事をとれないなどによって長期にカリウム摂取が減ると、


心臓が止まるなど重大な障害を生じます。

「カリウムには放射能があるから、


どんな食物にどれくらいのカリウムがあるかを知り、摂取量を下げよう」


と考える人がいますが正しくありません。


カリウムは生体にとって絶対に必要な物質で、


体内の量は一定に保たれていますから、


普通に生活している範囲では食物摂取によるカリウムは沢山摂っても、


減らしても、体内のカリウムとカリウムによる放射線被曝は変わりません。


放射能セシウム汚染食物などを介して、


体内に少量の放射線セシウムがあった場合、


カリウムはセシウム放射線より高レベルであっても、


カリウムを飲食すると、余分のカリウムは尿に排泄され、


この時セシウムも一緒に排泄される傾向があり、


カリウムは一定に保たれ体内セシウムを尿に排泄する効果があります。

カリウムは放射能があるからと考えて、


カリウム摂取を減らしてしまうと、尿中排泄カリウムが減り、


体内のカリウム量は下げずに、セシウムの排泄を遅らせて、


生物学的半減期を延長させ、


その結果、セシウムをより長期に体内にとどめることになります。

「①ヒトはカリウムの放射線には適応して進化してきたから、


②カリウムは自然放射能だから、生体に有害ではない」


と言う人がいますが正しくありません。


ガンマ線やベータ線で内部被曝すれば、


カリウムによる自然放射能も、セシウムの人工放射能も、作用は同じです。

放射能を持たないカリウムだけの食事をして、


カリウムによる内部被曝をなくすことができれば、


おそらく、癌や、老化をはじめ多くの健康を害するものが軽減するはずです。


しかし放射能を持たないカリウムを入手できないので、


1万分の1の放射性カリウムを含むカリウムを食べて生きています。









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