核爆発実験に伴う放射性降下物(以下「フォールアウト」という。)に起因する放射線


第1章 環境放射能とその監視対策の現状

第1節 環境放射線(環境放射能)(注)
我々の生活環境には至るところに放射線が存在するが,この環境放射線を放射線の発生源別にみると,(i)自然放射線,(ii)核爆発実験に伴う放射性降下物(以下「フォールアウト」という。)に起因する放射線,(iii)我が国の原子力開発利用に伴う放射線及び(iv)その他の放射線源からの放射線(例えば,原子力軍艦の寄港に起因する放射線)とに分類される。
原子力との安全規制の目的は,これらの環境放射線のうち,我が国の原子力開発利用に伴う放射線から国民の健康と安全を護ることである。
しかしながら,放射線の被ばくを受ける国民の立場にたつと,原子力開発利用に伴う放射線のみが被ばくの要因となっているのではなく,自然放射線やフォールアウトに起因する放射線など他のすべての環境放射線からも同時に被ばくしているので,国民全体の被ばく線量を推定し,評価するという観点からは,まず,環境放射線による被ばくを総合的に把握し,その後,我が国の原子力開発利用に伴う放射線の国民被ばくに与える寄与を明らかにすることが必要である。

ところで,環境放射線のうち,国民全体の被ばくに影響を与える因子は,自然放射線とフォールアウトに起因する放射線である。この二種類の環境放射線は,我が国では原子力開発利用が全く推進されない場合でも存在する放射線であるので,いわば,原子力開発利用推進にあたってのバックグラウンド放射線を構成するというべきものである。
このうち,日本全国を対象とした自然放射線に関する調査は,科学技術庁放射線医学総合研究所において,昭和42年度から52年度にかけて,日本全国にわたる第1次現地測定が行われた。この調査は,現在もさらに継続されており,内容の一層の充実が図られている。

一方,日本全国を対象としたフォールアウト調査は,我が国における環境放射能調査の基盤をなすものとして,昭和36年に内閣に設置された放射能対策本部(本部長 科学技術庁長官)を中心として,本格的調査が開始され,今日に至っている。
フォールアウト調査を主目的とする環境放射能調査は,フォールアウトに起因する放射線から国民の健康と安全を護るために必要不可欠なものであるのはもとより,その調査方法は原子力開発利用に起因する環境放射線による被ばくを把握するための手段と基本的には同じものである。
本章においては,自然放射線に関する調査,フォールアウトに起因する環境放射能の調査等の現状を明らかにすることとしたい。

(注)「放射線」と「放射能」との相違は,付録Iを参照のこと。この年報では、特にことわらない限り、「環境放射線」とは環境中に存在する放射線のことをいい,「環境放射能」とは環境中に存在する放射能又は放射性物質そのものを意味する用語として使用している。ただし,「環境放射能調査」又は「環境放射線モニタリング」という用語は,おのおの環境放射線及び環境放射能の調査,又は監視という広い意味で使用している。



第2節 自然放射線に関する調査
自然界にはあらゆるところに放射線源が存在し,人間はその誕生の時から絶えず自然放射線を受け続けて生活してきている。
すなわち,空からは宇宙線により,また,大地や建築材料の中に含まれる自然放射性物質から放出される放射線により外部被ばくを受けるとともに,飲食物等とともに身体の中に取り込まれる放射性物質からの放射線により内部被ばくを受けている。このほか,海水中にも放射性カリウムなどの放射性物質が存在している。
これらの自然放射線のレベルを把握するための調査研究が,広く内外で進められている。その調査結果によると,自然放射線による被ばく線量は,地域的にかなりの差異があり,また,同じ地点でも時間的に変動していることが判明している。
まず,自然放射線の地域差についてみると,例えば,科学技術庁放射線医学総合研究所において実施された調査の結果によれば,自然放射線による日本国民の平均被ばく線量は全身線量で年間約100ミリレム(0.1レム)〔より正確には年間93ミリレム(0.093レム)〕であるが,県別の地域差は年間で40ミリレム(0.04レム)程度であると報告されている(図1-1参照)。
図1-1 我が国の自然放射線による被ばく線量(ミリレム/年)
図1-1 我が国の自然放射線による被ばく線量(ミリレム/年)

しかし,これまでの調査結果では,自然放射線量の異なる地域に居住する集団を比較した場合,放射線が原因で比較集団の間に人体影響の差が認められるとの知見は得られていない。
一方,同一地点における自然放射線の時間的変動も観測されている。例えば,大地から大気中に放出される放射性物質(ラドン,トロン等)の大気中濃度は,地中の状態や大気中の湿度,降雨などの気象条件によって大きく変動することが知られている。
自然放射線による被ばくは,このように,地域的,時間的な変動はあるものの,他の人工放射線源と比較すると,長時間にわたって比較的一定の割合で全世界の人間集団が受けてきた被ばく形態である。

放射線の発生源が自然放射線源であるか人工放射線源であるかを問わず,それから放出される放射線の種類,そのエネルギー及び人体への吸収線量が同じであれば(すなわち,レム値で表わした放射線量が同じであれば),放射線が人体に及ぼす影響は同じである。
これらの事実を念頭に置きつつ,自然放射線源による被ばく線量は,人工放射線源による被ばく線量と比較するための,一つの基準レベルとして,しばしば使用されることがある。この観点からも,自然放射線のレベルを把握することは,国民線量を推定,評価する上で重要である。



第3節 フォールアウトに起因する環境放射能の調査
我が国において,フォールアウトに起因する全国的な環境放射能調査が本格的に開始されてから,既に,20余年が経過した。
ここでは,これまでに行われてきた環境放射能調査の実績を振り返りつつ,その実施の現状について述べることとする。
1 フォールアウトに起因する被ばくの特徴
放射線源としてのフォールアウトに起因する被ばくは,次の諸点において,他の人工放射線源からの被ばくと異なる。
第一点は,既に述べたように,フォールアウトに起因する被ばくは,日本国民全体ないし世界の大多数の人々が受ける被ばく形態であるということである。
第二点は,フォールアウトに起因する被ばくは,発生源において制御できない被ばく形態であるということである。
第三点は,フォールアウトの中には,半減期の長い放射性核種が比較的多く含まれているので,フォールアウトによる被ばくを評価する場合には,核爆発実験の直後のみでなく,かなり,長期間にわたって考えねばならないということである。
このように考えると,フォールアウトに起因する被ばくは,自然放射線からの被ばくと類似性を有しているともいえよう。
2 調査の目的と体制
フォールアウトによる放射線から国民の健康と安全を護るためには,フォールアウトに起因する国民の被ばくの特徴を踏まえて,全国的に環境放射能を適切に監視することが必要不可欠である。

(1) 調査の目的
フォールアウトに起因する環境放射能の調査は,フォールアウトから国民が受ける放射線量を推定,評価するのに必要な環境放射能データを科学的に把握することにより,フォールアウトによる障害防止対策に資することを目的として,実施されている。

(2) フォールアウト対策の体制整備
フォールアウトに対する我が国の環境放射能調査は,昭和29年のビキニ環礁における米国の核爆発実験を契機として,関係行政機関において開始された。
昭和31年に設立された原子力委員会は,核爆発実験による放射能汚染の調査研究は,原子力の平和利用における放射線障害の防止を図り,かつ,その健全な発展を期するうえに重大な関係があり,自然放射能と人工放射能の分布状況を把握する必要があるとの認識から,昭和32年以降,関係行政機関の協力を得て,放射能調査網の整備を推進した。

その後,昭和36年に再開された米ソの核爆発実験により,我が国にも相当量の放射性物質が降下したことから,これに適切に対処するため,同年10月,閣議決定により,内閣に放射能対策本部(本部長 科学技術庁長官)が設置され,同本部において,フォールアウト対策に関し,関係行政機関が講ずる具体的措置について連絡調整を行うこととなった。更に,昭和37年からは,当時の原子力委員会が,従来から進めてきた放射能水準の調査分析にとどまらず,フォールアウトによる障害の防止対策の基本に関することも併せて所掌することとなった。
こうして,フォールアウト対策を円滑に実施するための体制として,対策の基本に関する事項を企画,審議,決定する原子力委員会と,その基本方針に則り各行政機関が講ずる具体的措置に関し連絡調整を行う放射能対策本部とが緊密に連携をとることとなった。

一方,放射線障害の防止に関する技術的基準や,フォールアウトの中に含まれる放射性物質量及びフォールアウトによる放射線量等の測定方法に関することについては,昭和33年に総理府に設置された放射線審議会において,必要な調査審議が行われてきている。
その後,昭和53年10月に原子力安全委員会(以下「安全委員会」という。)が設置されたことに伴い,フォールアウト対策に関して当時の原子力委員会が所掌してきた事項は,安全委員会が所掌することとなった。
フォールアウトによる障害防止対策の最も重要な手段である環境放射能調査については,逐次,調査体制の着実な強化拡充が図られてきており,科学技術庁を中心とした関係省庁,国立試験研究機関,地方公共団体等により必要な調査が実施されてきている。

(3) 現行の調査体制
放射能対策本部は,これまで,核爆発実験に伴うフォールアウトによる人体に対する影響に関する調査研究及び放射能対策について勧告指導を行うことを目的として,フォールアウトによる環境放射能測定調査の総合推進,この調査結果の評価及び発表,この調査結果に基づいて関係行政機関が講ずべき措置の推進などの諸活動を行ってきている。
現在,放射能対策本部の方針に基づき,科学技術庁を中心とした関係省庁,国立試験研究機関,32都道府県等により,フォールアウトに起因する環境放射能の調査が実施されている。このうち,32都道府県で採取された環境試料については,一部を除き,(財)日本分析センターに送付され,同センターにおいて必要な分析が行われている。
ちなみに,フォールアウト関連の放射能調査研究費として,昭和58年度においては,約4億6千万円の予算が計上されている。
3 調査の概要
大気圏内核爆発実験に伴い放出された放射性物質は,大気中に拡散し,大別して,次の三つのフォールアウトとして,我々の生活環境に降下してくる。
第一は,「局地フォールアウト」と呼ばれているもので,核爆発実験の直後に,その実験地域周辺数百キロメートル以内に降下するものである。
第二は,「対流圏フォールアウト」と呼ばれているもので,対流圏の気流に乗って,核爆発地点と同一半球の地域の周囲に輸送され,核爆発地点から数百キロメートルから数千キロメートルの地点に降下するものである。
第三は,「成層圏フォールアウト」と呼ばれているもので,成層圏に達した放射性物質(その大部分は核爆発地点と同一半球に滞留するものの,広く全世界に分布する。)が,長期にわたって徐々に降下するものである。

これまでに行われた核爆発実験は,全て,我が国から数百キロメートル以上離れた地点で実施されたものであるので,日本国民に影響を与えるフォールアウトは,対流圏フォールアウトと成層圏フォールアウトである。
したがって,我が国において,フォールアウトに起因する環境放射能調査を行うに当たっては,これら二種類のフォールアウトに対応した調査を企画,実施し,評価することが必要である。

(1) 核爆発実験直後の環境放射能調査
核爆発実験に伴って対流圏に放出された放射性物質は,ジェット気流に乗り,我が国上空に早期に輸送され,対流圏フォールアウトとして地表に降下する。

対流圏フォールアウトは,核爆発後,比較的短期間内に地上に降下するものであるため,その中には,半減期の短い放射性核種が含まれている。これらの放射性核種の多くはガンマ線を放出するので,外部被ばくが重要な被ばく形態となる。(このうち,特に重要なものは,ジルコニウム-95とその崩壊生成物であるニオブ-95による被ばくである。)。また,これら短半減期の放射性核種のうち,よう素-131(半減期8日)は,牧草→乳牛→牛乳の経路で体内にとりこまれると,甲状腺に選択的に集まるという性質を有し,このため甲状腺に集中的に内部被ばくを与えるので,特に重要な放射性核種として着目する必要がある。
核爆発実験直後の環境放射能調査は,以上の点を念頭に置きつつ,個々の核爆発実験があるごとに放射能対策本部により決定される綿密な計画の下に慎重に実施されてきているが,現在の主な調査内容は,表1-1に示すとおりである。
表1-1 フォールアウトに関連する環境放射能調査の概要
表1-1 フォールアウトに関連する環境放射能調査の概要

(2) 定常的な環境放射能調査
大型の核爆発実験に伴って放射性物質が成層圏に注入されると,これは,数ヶ月から数年の滞留期間をもって,成層圏フォールアウトとして,地球全体にわたり,徐々に地表に降下する。
このため,成層圏フォールアウトには,核爆発の結果生成される短半減期放射性核種はほとんど含まれず,比較的長い半減期の放射性核種のみが含まれる。これら長半減期の放射性核種は,地表に降下した後も,さまざまな形で生活環境に滞留し,その寿命期間中を通じ,人体や環境に影響を与えうるものである。

これらのうち,人体の外部被ばくに寄与するものとして,セシウム-137(半減期30年)が重要である。セシウム-137を含むフォールアウトは,地表に蓄積し,そこから,放出されるガンマ線により,人体の諸器官に被ばくを与える。一方,成層圏フォールアウトに含まれる放射性核種のうち,人体の内部被ばくに寄与するのは,セシウム-137のほか,ストロンチウム-90,炭素-14などであり,これらの放射性核種の性質,それが人体に与える被ばく経路などは,表1-2に示すとおりである。
表1-2 成層圏フォールアウトに含まれる主要な放射性核種の例とこれによる人体の内部被ばくの形態
表1-2 成層圏フォールアウトに含まれる主要な放射性核種の例とこれによる人体の内部被ばくの形態

なお,ストロンチウム-90や炭素-14は,ガンマ線を放出しない放射性核種であるので,これによる外部被ばくは,身体表面や衣服に付着して長期間汚染除去を行わなかった場合を除き,無視しうるものである。
成層圏フォールアウトに関連する定常的な環境放射能調査は,以上の点を念頭に置きつつ,昭和39年に当時の原子力委員会が定めた基本方針に基づき,放射能対策本部の下で,関係機関により実施されてきているが,現在の主な調査内容は,表1-1に示すとおりである。
なお,表1-1から明らかなように,この定常的な環境放射能調査の調査項目の中には,例えば,空間線量に関する調査のように,核爆発直後のフォールアウトの調査にも資するものが含まれている。
4 フォールアウトによる環境放射能とこれによる国民の被ばく
フォールアウトに関連する環境放射能の調査は,上記3で述べたところにしたがって進められてきているが,ここでは,これまで進められてきた調査の結果と現在の環境放射能の水準を明らかにするとともに,これによる国民の被ばくの実態を評価することとしたい。

(1) 核爆発実験により大気圏内に放出された放射能
核爆発実験は,1945年(昭和20年)以来,いわゆる核兵器保有国において行われてきており,特に1954~1958年と1961~1962年の期間には,米国及びソ連により,大気圏内での大規模な核爆発実験が頻ぱんに行われた。1982年末現在で最も最近の大気圏内核爆発実験は,1980年10月に中国により行われたものである。

これらの核爆発実験は,大別すると,大気圏内核爆発実験と地下核爆発実験とに分かれるが,これらの両者を合わせると,1980年末までに総計1,133回の実験が行われている。
このうち,環境に対する影響評価の観点から重要な大気圏内核爆発実験の回数は合計423回であって,その年次別,国別の内訳は表1-3に示すとおりである。
表1-3 大気圏内核爆発実験の実績とその爆発力の推定値
表1-3 大気圏内核爆発実験の実績とその爆発力の推定値

これらの核爆発実験により大気圏内に放出された放射能の総量は,短半減期の放射性核種の総量が確認できないため,明らかにされていない。
しかしながら,フォールアウトの蓄積の観点から特に重要な長半減期の放射性核種の放射能については,「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(「UNSCEAR」と略称されることがある。以下単に「国連科学委員会」という。)のとりまとめた調査結果により,その一部が明らかにされている。
例えば,1977年の国連科学委員会の報告によると,ストロンチウム-90の成層圏内存在量の変化は図1-2に示すとおりである。
図1-2 1963年から1975年までの期間にわたる90Srの成層圏存在量の変化
図1-2 1963年から1975年までの期間にわたる<sup>90</sup>Srの成層圏存在量の変化

なお,表1-3に示したように1976年以降も核爆発実験は行われており1982年の国連科学委員会の報告によれば,近年のフォールアウトに最も大きく寄与しているのは,1976年11月に行われた4メガトン級の核爆発実験に起因するものである。

(注) 核爆発においては,全放出エネルギーはTNT(トリニトロトルエン)が爆発したときの放出エネルギーと比較される。1メガトンの核爆発とは,TNT火薬1メガトン(100万トン)の爆発,すなわち約1015カロリーに等しいエネルギーを放出するものである。

(備考) この表は,1982年の国連科学委員会報告書「ANNEXE核爆発の結果生ずる被ばく」から引用したものである。ただし脚注は,原文には付されていないが,読者の理解を助けるため,それ以前の国連科学委員会報告書(例えば,1962年版)を参考として,付したものである。

(2) これまでの核爆発実験に伴うフォールアウトとして地表に降下した放射性核種
これまでの核爆発実験に伴うフォールアウトとして地表又は地表付近に降下した放射性物質のうち,環境への蓄積の観点から重要なものは,核爆発実験後からかなり長期にわたり徐々に降下する長半減期の放射性核種である。このうち,特に重要な放射性核種は,ストロンチウム-90とセシウム-137である。

ストロンチウム-90の年間降下量と累積降下量は,表1-4に示すとおりである。また,セシウム-137はその半減期がストロンチウム-90の半減期とほぼ同じ30年であり,多くの場所で長時間にわたり実測した結果では,セシウム-137とストロンチウム-90の降下放射能量の比は約1.6で,かなり一定していることから,セシウム-137の降下量については,ストロンチウム-90の降下量から推定することが可能である。
なお,これまでに明らかにされた調査結果では,表1-5に示すように,フォールアウトに伴う放射性核種の降下量は,各半球の中緯度地域において最大であることが示されている。
表1-4 ストロンチウム-90の年間降下量と累積降下量
表1-4 ストロンチウム-90の年間降下量と累積降下量

表1-5 ストロンチウム-90の降下量の緯度分布(注1)
表1-5 ストロンチウム-90の降下量の緯度分布(注1)

(3) 我が国に降下したフォールアウトの降下傾向と降下量
我が国に降下したフォールアウトの中に含まれる放射性核種については,前述したように,放射能対策本部の方針等に基づき,関係機関により必要な調査が進められてきた。
ここでは,環境への蓄積の観点から問題となる長半減期の放射性核種(ストロンチウム-90及びセシウム-137)に着目して,これまでの環境放射能調査結果に基づき我が国におけるフォールアウトによる放射性核種の降下傾向と降下量を経年的に追ってみることとしたい。

これらを把握するために,雨水,ちりの中に含まれる放射性核種の調査が行われてきている。その調査結果によれば,ストロンチウム-90とセシウム-137の年間降下量の経年変化は,図1-3に示すとおりである。この図から,1964年以降,フォールアウトによる放射性核種の降下量は減少傾向にあることがわかる。これは,1963年8月から,大気圏内の大規模核爆発実験が停止されているためである。
また,科学技術庁の委託により(財)日本分析センターが実施した調査の結果によれば,近年の全国月間降下量の平均値は,図1-4及び図1-5に示すとおりであり,都道府県別降下量と降水量については表1-6に示すとおりである。図1-4と図1-5によれば,いずれの年も降下量のレベルに差はあるものの,全国平均でみれば降下量のピークは,春の季節に出ることがわかる。これを「スプリングピーク」ということがある。

図1-3 降下物(雨水・ちり)中の90Sr及び137Cs年度別月間平均値
図1-3 降下物(雨水・ちり)中の<sup>90</sup>Sr及び<sup>137</sup>Cs年度別月間平均値

図1-4 降下物(雨水・ちり)中の90Sr及び137Csの全国月間平均値
図1-4 降下物(雨水・ちり)中の<sup>90</sup>Sr及び<sup>137</sup>Csの全国月間平均値

図1-5 降下物(雨水・ちり)中の90Sr及び137Csの全国月間平均値
図1-5 降下物(雨水・ちり)中の<sup>90</sup>Sr及び<sup>137</sup>Csの全国月間平均値

表1-6 昭和49年4月より昭和56年12月までの都道府県別降水量及び90Sr,137Csの降下量
表1-6 昭和49年4月より昭和56年12月までの都道府県別降水量及び<sup>90</sup>Sr,<sup>137</sup>Csの降下量

一方,県別の降下量についてみると,表1-6によれば,ストロンチウム-90とセシウム-137の降下量の多いのは,石川,福井の北陸地方,鳥取,島根の山陰地方及び日本海側の秋田と太平洋側の高知の各県である。しかし,同表において降水中のストロンチウム-90とセシウム-137の濃度を比較すると,最大は鳥取,島根で,次に秋田,青森,宮城,福島,山形の東北地方の各県と北海道,更に石川,福井,新潟の北陸地方の各県の順になる。また,逆に濃度の低いのは,鹿児島をはじめ,沖縄,佐賀,長崎,福岡の九州各県である。更に,秋田,石川,福井,島根,高知,鹿児島の各県について,降水中のストロンチウム-90の濃度の3ヶ月平均値をみると,図1-6に示すように,各県とも第4四半期又は第1四半期にピークが見られ,第2四半期に谷が見られる。

これらのことから,降水中のストロンチウム-90及びセシウム-137の濃度は,夏期,秋期の南西風や台風時の降水中には低く,冬季北西風のもたらす降雪雨中に高い傾向があることがわかる。
なお,図1-3から図1-5及び表1-6には,セシウム-137のストロンチウム-90に対する比を示してあるが,その値は前記(2)に示した値の約1.6と近似している。
図1-6 降水中90Sr濃度の都道府県別四半期平均の例
図1-6 降水中<sup>90</sup>Sr濃度の都道府県別四半期平均の例

(4) フォールアウトに起因する被ばく
これらフォールアウトの中に含まれる放射性核種による主要な被ばく経路及び被ばく形態は,図1-7に示すとおりである。

図1-7 フォールアウトに起因する主要な被ばく経路及び被ばく形態
図1-7 フォールアウトに起因する主要な被ばく経路及び被ばく形態

ここでは,フォールアウトに起因する国民の被ばくを,長半減期の放射性核種によるものと,短半減期の放射性核種によるものとに分けて,現状分析を行うこととしたい。

① 長半減期の放射性核種による被ばく
長半減期の放射性核種は,対流圏フォールアウトと成層圏フォールアウトの両方に含まれている。
このうち,国民の年間被ばくの観点から,特に重要なものは,ストロチウム-90とセシウム-137による被ばくである。ストロンチウム-90とセシウム-137の物理的特徴とこれによる主要な被ばく経路及び被ばく形態は,前記表1-2に示したとおりである。
これを踏まえつつ,我が国の環境放射能調査データに基づき,これら二種類の放射性核種による国民の被ばく線量を安全委員会の指針(第2章参照)等を使用して推定すると,年間全身線量で,数ミリレム程度のオーダーと評価される。また,放射線医学総合研究所が昭和55年に行った人骨中のストロンチウム-90の分析測定結果によれば,我が国における成人の人骨中のストロンチウム-90の濃度は,カルシウム1グラムあたり1ピコキュリー程度以下であり,これによる成人の骨髄及び骨内膜細胞に対する年間線量当量は,数ミリレム程度と評価されている。

② 短半減期の放射性核種による被ばく
短半減期の放射性核種は,対流圏フォールアウトには含まれるが,成層圏フォールアウトにはほとんど含まれていない。
このうち,国民の被ばくの観点から特に重要なものは,前述したようにジルコニウム-95とその崩壊生成物であるニオブ-95等の放射性核種から放出されるガンマ線による外部被ばくと,よう素-131による甲状腺の内部被ばくである。

まず,短半減期の放射性核種から放出されるガンマ線による国民の被ばくについては,表1-1に示したとおり,空間線量(率)の調査により,必要な情報の把握が行われている。これまでの調査結果によると,1961~1962年の米ソによる大規模核爆発実験の影響で,1962年(昭和37年)ごろに地上1mの高さの空間線量率の実測値として年間数十ミリレントゲンほどの高いレベルが観測されている。その後は,1963年8月に協定された「大気圏内,宇宙空間及び水中における核兵器実験を禁止する条約」の規定に基づき米ソによる大気圏内での大規模核爆発実験が行われておらず,また,一時的な空間線量率の増大に大きく寄与した短半減期の放射性核種が減衰したため,フォールアウトに起因する外部被ばく線量は,長半減期の放射性核種による被ばくのみを考慮すればよいものと考える。

一方,よう素-131による甲状腺の被ばくについては,表1-1に示したとおり,牛乳の中に含まれるよう素-131の調査により,必要な情報の把握が行われている。
これまでの調査結果によると,上述した外部被ばくの場合と同様に,1961~1962年の米ソによる大規模核爆発実験の影響で牛乳中のよう素-131濃度は高まり,例えば,1962年(昭和37年)の9月における東京市販の牛乳中のよう素-131濃度は,月平均で93pCi/lにも達している。(注1)(この事態に適切に対処するため,放射能対策本部は,同年10月,「食品中に含まれる放射性よう素に関する知識の普及について」を発表し,その中で,よう素-131による牛乳等の汚染の状況,よう素-131の性質,放射能調査の状況と今後の推移等について検討した結果,「現在程度の状態においては,乳幼児,妊産婦が食品,とくに牛乳を常時摂取することは心配ないものといえる。したがってよう素-131を含んでいる食品に対する不安により,発育盛りの乳幼児や妊産婦の牛乳摂取量が減少し,栄養が不充分にならないようにすることが肝要である」旨の見解を示している。)

なお,同年10月以降牛乳中のよう素-131濃度は減少の一途をたどったため,特に対策を講ずべき事態に至らなかった。
その後に行われた核爆発実験の直後の調査においては,牛乳中に含まれるよう素-131の濃度で,上記値を上回る値は検出されていない。

(注1) 当時は,牛乳中のよう素-131濃度から甲状腺被ばく線量を算出することはしていないが,現在の知見で,よう素-131濃度93pCi/lの牛乳を仮に毎日600ccずつ摂取した場合の月間甲状腺被ばく線量は,乳児の場合で20ミリレム程度となる。

③ 総合評価と線量預託
以上,フォールアウトに起因する国民の被ばくを,長半減期の放射性核種によるものと短半減期の放射性核種によるものとに分けて,その経緯と現状を,主として年間の被ばく線量という形で述べてきた。
しかしながら,フォールアウトに起因する被ばくのように,時間的,空間的に常に環境中(自然環境のみならず,食品や人体といった生活環境をも含む。)で変化するような放射線源からの被ばくを考える場合には,単にその時点の年間線量だけでは,その影響の全体を捉えることはできない。
このため,過去に行われた全ての核爆発実験からのフォールアウトに起因する過去,現在及び将来にわたって被ばくする線量の総計を推定することが必要とされる。

このように,ある特定の放射線源又は行為に着目して,それから受ける被ばく線量の総計を推定した値は,その放射線源又は行為に対する線量預託と呼ばれている。(注1)
国連科学委員会の1982年報告書によれば,1980年末までに行われた全ての核爆発実験による種々の放射性核種の線量預託は,表1-7のとおりである。
表1-7 1980年末までに行われた大気圏内核爆発実験によって生成された放射性核種からの線量預託
表1-7 1980年末までに行われた大気圏内核爆発実験によって生成された放射性核種からの線量預託

この表1-7に示されている放射性核種のうち,137Cs(セシウム-137),3H(トリチウム),14C(炭素-14),90Sr(ストロンチウム-90),239Pu(プルトニウム-239),241Pu(プルトニウム-241)及び241Am(アメリシウム-241)を除いた全ての放射性核種は,いずれも短半減期のものであり,この線量預託に相当する被ばくは既に過去に受けてしまっており,現在及び将来に受けることはない。
したがって,現在及び将来の人々が既に行われた核爆発実験に起因するフォールアウトから受ける被ばくを考える場合には,残りの7種類の長半減期の放射性核種に着目すればよいことになる。

これら7種類の放射性核種のうち,現在の人々の被ばくに対し,重要な寄与を与えるものは,ストロンチウム-90による内部被ばくと,セシウム-137による外部被ばく及び内部被ばくである。(注2)
ストロンチウム-90とセシウム-137により全世界の人々が現在受けている年間線量の現状を簡単な記述で要約することは困難であるが,1977年国連科学委員会の報告書においては,例示として,1975年におけるセシウム-137による全身被ばく線量は,内部被ばくで0.1~0.5ミリラド/年,外部被ばくで0.2ミリラド/年以下であるとの試算値が示されている。

なお,1982年国連科学委員会報告書においては,フォールアウトからの線量預託については,表1-7に示したような主要の組織・器官ごとの吸収線量による評価に加え,実効線量当量預託により推定,評価した値も示されている。
これによると,1980年までに行われた核爆発実験によるフォールアウトに含まれる放射性物質からの全世界集団の実効線量当量預託は,2.86ミリシーベルト(286ミリレム)と評価されている。

各放射性物質の実効線量当量預託への寄与率をみると,フォールアウトの中に含まれるものは,自然界に存在するものに比べ極めて少ないが,最も大きいのが炭素-14であり,続いてセシウム-137,ジルコニウム-95,ストロンチウム-90の順になっている。しかし,非常に長い年月を経た後は,炭素-14のほかに,プルトニウム-239,プルトニウム-240,アメリシウム-241のみが実効線量当量預託に寄与する。
また,被ばくの経路は,外部被ばくや呼吸による内部被ばくよりも,食物摂取による内部被ばくの寄与が増大していくことが示されている。

(注1) この線量預託が有意な意味を持つのは,線量とその効果とがしきい値のない直線関係にあると仮定された場合である。

(注2) なぜならば,残りの5種類の放射性核種のうち,トリチウム(半減期12年)やプルトニウム-241(半減期14年)による被ばくについては,ストロンチウム-90,セシウム-137による被ばくに比して線量預託の絶対値が十分小さく,また,プルトニウム-239,炭素-14及びアメリシウム-241については,一部の器官の線量預託に有意な寄与を与えるが,これはその半減期(プルトニウム-239:24,000年,炭素-14:5,730年,アメリシウム-241:240年)にわたっての寄与であるため,1年間あたりの平均線量としては,ストロンチウム-90やセシウム-137による被ばくに比して無視しうるほど小さいと考えられるからである。しかし,プルトニウム-239や炭素-14は,非常に長い年月を経た後は,重要な放射性核種となる。

5 まとめ
我が国においては,フォールアウトに起因する環境放射能から,国民の健康と安全を護るため,これまで述べてきた環境放射能の調査を基本として,必要な諸施策が進められてきている。
これらの諸施策を進めるに当たっては,「フォールアウトに起因する環境放射能による被ばくはもともと好ましいものではないが,フォールアウトによって国民が直接的又は間接的に受ける被害はできる限りこれを少なくすべきである」との基本的考え方がとられてきた。

具体的には,現在まで,核爆発実験直後に設置される放射能対策本部を中心とした諸活動と,定常的な環境放射能監視体制とにより所要の措置が講じられてきている。
フォールアウトによる国民の被ばくは,本節で述べたとおり,現状では,自然放射線に比べ,十分小さい寄与しかしておらず,今後,新たに大気圏内での核爆発実験が行われない限り,将来にわたり大きな寄与を与えることはないものと思われるが,フォールアウトに起因する放射線から国民の健康と安全を護るため,今後とも国の責任においてこれを適切に監視していく必要があるものと考える。

なお,核爆発実験によるものではないが,昭和58年1月及び2月のソ連の原子炉衛星の大気圏再突入に伴う放射性降下物から国民の健康と安全を護るため,我が国では,フォールアウトによる環境放射能の監視体制が重要な役割を果たしたことは記憶に新しいところである。すなわち,ソ連の原子炉衛星コスモス1402号の落下に備え,政府においては関係省庁連絡会議の場で,総合的な体制整備を図ることが合意された。この体制の一環として,環境放射能調査については,放射能対策本部における核爆発実験直後の環境放射能調査体制を準用し,落下が予想される日の前日から緊急時放射能調査体制に入り,万全の対策が講じられた。幸いにして,原子炉衛星コスモス1402号は,我が国及びその近傍に落下せず,また,我が国における上記調査においても異常は認められなかった。
































































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