「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」(以下「本マニュアル」という)は、平 成12年度厚生科学研究費補助金特別研究事業(H12-特別-047)「原子力施設の事故等緊急 時における食品中の放射能の測定と安全性評価に関する研究」(主任研究者:出雲義郎)報 告書に基づいて農畜水産食品の放射能汚染に関する食品衛生上の問題を検討するための環 境試料である葉菜、原乳及び農畜水産物における放射能の分析方法についてとりまとめたも のである。
原子力施設等に放射性物質や放射線の異常な放出がある場合又はそのおそれがある場合 には、「災害対策基本法」(昭和36年法律第223号)及び「原子力災害対策特別措置法」
(平成11年法律第156号。平成12年6月施行。以下「原災法」と略す。)に基づき、 国、地方公共団体及び原子力事業者は、それぞれの防災計画に従い所要の防護対策を講ずる ことになっている。
この防災対策の一環として、「原子力施設等の防災対策について」(原子力安全委員会、平 成12年5月一部改訂。以下「防災指針」と略す。)及び「防災指針」に基づく「緊急時環 境放射線モニタリング指針」(原子力安全委員会、平成12年8月一部改訂。以下「緊急時 モニタリング指針」と略す。)等により、周辺環境の放射性物質又は放射線に関するモニタ リングが実施される。この緊急時モニタリング指針は、緊急事態発生時に、迅速に行う第1 段階のモニタリングと周辺環境に対する全般的影響を評価する第2段階のモニタリングか ら成っている。各段階の測定項目には、いずれも空間放射線量率、大気中の放射性物質濃度 のほかに、環境試料として飲料水、葉菜、原乳、雨水、土壌、植物、農畜産物、源水及び魚 介類が対象になっている。
本マニュアルは、食品に対する原子力関連テロ時や原子力施設の事故等において、食品の 安全を確認する際に参考となるものであり、第1章 基本的な考え方、第2章 食品中の放 射能の各種分析法、参考として緊急時モニタリング計画における食品の放射能測定・分析、 被ばく線量等の推定と評価及び解説から構成されている。
第1章 基本的考え方
1-1 目的 本マニュアルは、原子力関連テロ時や原子力施設の事故等緊急時において食品の放射能汚染に関して防災指針や緊急時モニタリング指針に基づいて対処する際に、それらの放射 能測定を適切に行い評価することを通じて、食品衛生上の危害発生の防止、食品由来の放 射線被ばく線量評価手法及び食品の安全の確認に資するため、環境試料である農畜水産食 品における放射能の分析法に関するさらに詳細な実施方法を紹介することを目的とした。 緊急時モニタリング指針では、①空間中放射線量率、②大気中の放射性物質の濃度、③ 環境試料(飲料水、葉菜、原乳、雨水、土壌、植物、農畜産物、源水、魚介類等)中の放 射性物質の濃度に関するモニタリングの実施が述べられている。しかし、これらのモニタ リングでは試料によって採取や調整法、測定法及び線量の評価法が異なるので、多数の試 料について関係者がそれぞれ一斉にモニタリングに対応することは容易ではない。このた め、本マニュアルでは、農畜水産食品について、(1)緊急事態発生後の食品試料への対応 と開始時期、(2)摂取における安全性評価の基礎としての放射能に関する測定について明確に示した。
1-2 内容 本マニュアルは、上記目的を達成するため次の観点に基づいて食品中の放射能の各種分析法を紹介した。
(1) 緊急事態発生後の食品試料への対応と開始時期 緊急時モニタリング指針によると、緊急時モニタリングは以下のように、緊急事態発生時に迅速に行う第1段階モニタリグとその後に行う第2段階のモニタリン グに区分されており、事故等の状態に応じて適切に対応することが求められる。
①第1段階のモニタリング 測定の対象核種を迅速に定め、放射能を測定することにより、食品汚染の実態を迅速に把握し、飲食物摂取制限値の放射能濃度を確認する。 第1段階のモニタリングにおける食品試料への対応は、空間線量率や大気試料
への対応よりやや遅れるものの、開始時期は原災法や防災指針等との整合性を図 りながら対策本部等の判断に十分留意することが肝要である。
②第2段階のモニタリング 迅速性よりも正確性が必要となるため、「国民栄養の現状」にある食品群を可能な限り網羅する各種食品の測定を目標として、その結果を基にしてより正確性 の高い経口摂取による住民の被ばく線量評価を行う。
したがって、①において迅速に対応すべく、迅速かつ簡易な分析法が肝要であるこ とから、当該分析法について紹介した。
(2) 摂取における安全性評価の基礎としての放射能に関する測定 簡易測定としてサーベイメータを用いるが、検出器により線質、感度、測定範囲等に留意することが必要なためこれらの情報についても盛り込んだ。
また、参考として、緊急時モニタリング計画のほか、放射能汚染食品を摂取する場合の 体内被ばく線量の推定と評価に関する資料や関連事項の解説などを付した。
1-3 適用 原子力施設等において放射性物質又は放射線の異常な放出があり、原災法に基づき国が原子力緊急事態を宣言した場合(解説1参照)は、あらかじめ自治体等により作成された 原子力防災計画及び緊急時モニタリング計画に基づく災害対策が実施されることとなる。
本マニュアルはこうした原子力災害時に農畜水産食品の食品衛生上の危害が発生する おそれがある場合における食品中の放射能の各種分析法を網羅しているため、こうした事 態を想定した原子力防災計画及び緊急時モニタリング計画を作成又は改訂する際に、本マ ニュアルを適用することが望ましい。
なお、食品中の放射能濃度レベルにもよるが、食品衛生上の安全性を確認するためには、 原子力緊急事態解除宣言後も当面の間、測定及び線量の推定、評価が必要と考える。
また、テロ等による食品の放射能汚染事故は予測し難い面もあるが、放射性物質が食品 中に意図的に混入された場合には、その放射性物質の特定が必要となることや食品の流通、 販売により汚染地域が広範囲に及ぶ可能性があること等の理由から、原子力施設の事故の 場合とは異なる対応についても検討されるものとなる。
第2章 食品中の放射能の分析法
1 NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータによる放射性ヨウ素の測定法
2 ゲルマニウム半導体検出器を用いたガンマ線スペクトロメトリーによる核種 分析法
3 緊急時のためのウラン分析法及びプルトニウムの迅速分析法
3-1 ウラン分析法
3-2 迅速プルトニウム分析法
4 放射性ストロンチウム分析法
4-1 緊急時のための Sr-90 迅速分析法
4-2 発煙硝煙法による放射性ストロンチウムの分析法
1 NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータによる
放射性 ヨウ素の測定法
放射性 ヨウ素の測定法
第一段階モニタリングにおける測定法として、NaI(Tl)シンチレーションサーベイメー タを用いた放射性ヨウ素測定法*1 を以下に示す。
なお、NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータを用いた測定では、核種弁別が出来ない ことから放射性核種を全て I-131 として扱う。従って、Cs-137 などの放射性核種が混在す る場合には過大評価となることに留意する。
ここでは、牛乳と野菜(葉菜等)についての測定操作及び機器校正等を示す。
1 牛乳
原乳又は加工処理した市販乳を 2L のポリエチレン瓶又は 2L マリネリ容器に入れ、 NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータの検出器を、前者では牛乳中に挿入し、後者で は容器中央部の凹み部分に密着させて測定する。
(1)機器
NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータ:NaI(Tl)検出器の大きさが 25mmφ×
25mm(1 インチφ×1 インチ)程度で、計数率表示型の機器で 1cps まで読み 取れるもの
チェック用比較線源又は I-131 模擬線源:市販の Cs-137 密封線源又は Ba-133、 Cs-137 を適当な割合で混合した模擬線源(スクリーニングレベルの5倍 程度の 1000~3000Bq)
(2)器具
ポリエチレン瓶(2L)、マリネリ容器(2L)、0.5~1L 程度のタッパー容器、時計、記 録紙、ポリエチレン袋、ペーパータオル等
Cs-137 を適当な割合で混合した模擬線源(スクリーニングレベルの5倍程度の
1000~3000Bq)
(3)測定操作
① 採取又は購入地点名、採取時刻等を記録する。
② 測定試料 2L を 2L ポリエチレン瓶又は 2L マリネリ容器に入れ、蓋をする。外側の 汚れ等をペーパータオルでふき取る。容器に地点名、採取時刻等を記入する。
③ サーベイメータの検出部をポリエチレン袋で包む。
④ 時定数を 30 秒に設定し、検出器を試料に密着させる。90 秒後から読み取りを開始 する。時計を見ながら、30 秒間隔で指示値を 3 回読み取り、その値を記録し、平均 値を計算する。水の入った測定容器について試料と同じ条件で測定し、バックグラウ ンドの平均値を計算する。
⑤ 試料の測定値からバックグラウンドの平均値を差し引き、正味の値を計算し、記録 する。正味の値(cps)と換算係数(Bq/L/cps)から I-131 濃度を求める*2。
*1:科学技術庁放射能測定 15「緊急時における放射性ヨウ素測定法」昭和 52 年
*2:I-131 濃度を求めるための機器校正が行われていない NaI(Tl)シンチレーションサーベイメー タを用いた場合、試料の測定値がバックグラウンドより 20%程度高い値を示せば試料中に放射能 があると判定し、ゲルマニウム半導体検出器を用いたガンマ線スペクトロメトリーによる精密核 種分析を行う。
2 野菜類(葉菜等) 試料はあらかじめハサミ、カッター、包丁等で細切りし*3、機器校正で用いたものと同様の 0.5~1L 程度のタッパー容器又は 2L マリネリ容器に入れて検出器を容器に密着させ て測定する。
機器・器具は牛乳の測定と同一のものとする。
(1)測定操作
① 採取又は購入地点名、採取時刻等を記録する。
② 予め 0.5~1L 程度のタッパー容器又は 2L マリネリ容器の風袋重量を量る。
③ 採取または購入した葉菜等はその大きさに応じ、必要ならハサミ、カッター、包丁 等で細切りにする。
④ 容器にできるだけ空隙を作らないように詰め(1L の容器に約 0.5kg が入る)、 蓋をし、外側の汚れ等をペーパータオルでふき取る。
⑤ 容器重量を量り、先の風袋重量を差し引き、測定試料重量を求め、記録する。こ れらの情報を容器に記入する。
⑥ ビニールテープ等で蓋を固定し、ポリエチレン袋に入れて測定試料とする。
⑦ 時定数を 30 秒に設定し、検出器を試料に密着させる。90 秒後から読み取りを開始 する。時計を見ながら、30 秒間隔で指示値を 3 回読み取り、その値を記録し、平均 値を計算する。放射能汚染のない葉菜等を入れた試料容器を用い、試料と同じ条件で 測定したバックグラウンド値を差し引き、正味の値を計算し、記録する。正味の値
(cps)と換算係数(Bq/kg/cps)から I-131 濃度を求める*4。
(2)検出感度
牛乳で 100Bq/L、葉菜等で 1000Bq/kg の I-131 の測定が可能である。この値は飲食物摂 取制限の指標に相当する放射能濃度(牛乳では 300Bq/L、葉菜等では 2000Bq/kg)を下回る。
*3:野菜類の測定前の処理方法は測定結果の評価に非常に重要である。このため、前処理は主と して食品衛生法における『食品、添加物等の規格基準』(平成 11 年 11 月 26 日厚生省告示第239 号)の表 4 の第 1 欄の各食品についは、各々第 2 欄の試料の調製に従う。ただし、キャ ベツ(芽キャベツを除く)及び「はくさい」については、外側変質葉及びしんを除去したも のに、また、「ごぼう及びサルシフィー」については、葉部を除去し、泥を水で軽く洗い落と し細切りにする。
その他の食品については、科学技術庁測定法シリーズ 24「緊急時におけるガンマ線スペク トロメトリーのための試料前処理法」(平成 4 年制定)に準ずる。
*4:牛乳の測定と同様に、I-131 濃度を求めるための機器校正が行われていない NaI(Tl)シンチレー ションサーベイメータを用いた場合、試料の測定値がバックグラウンドより 20%程度高い値を 示せば試料中に放射能があると判定し、ゲルマニウム半導体検出器を用いたガンマ線スペクト ロメトリーによる精密核種分析を行う。
(3) 機器校正
① 校正用 I-131 標準溶液線源の調製
(ア) 担体溶液:水酸化リチウム 20mg、亜硫酸ナトリウム 20mg、ヨウ化ナトリウム 50mg を水 1L に溶解して作成する。なお、牛乳試料用にはさらに塩化カリウム 2.67g を加 える。
(イ) 牛乳、野菜類(葉菜等)校正用 I-131 標準溶液:
A 牛乳、葉菜等の食品の測定に用いる容器(例えば、牛乳の場合は 2L ポリエチ レン瓶又は 2L マリネリ容器、葉菜等の食品は 0.5~1L 程度のタッパー容器又は
2L マリネリ容器)に測定試料と同容積の担体溶液を入れる
B I-131 標準溶液(市販品)の一定量をピペットを用いて測定容器に加え撹拌す る。牛乳の放射能濃度は 1500Bq/L、葉菜等の食品は 5000Bq/L 程度にする。よく
攪拌後、蓋をし、ビニールテープ等で密封する。
C I-131 標準溶液の放射能濃度、採取量、担体溶液量から、時間による減衰を考 慮して、校正用 I-131 の放射能濃度あるいは総放射能を算出する。
② チェック用線源(I-131 模擬線源)による機器作動状態の確認 サーベイメーターの使用についてはメーカーの取扱説明書にしたがって操作する
こと。また、現場での測定では、牛乳等の液体試料中の放射性ヨウ素の検出感度を上 げるため検出器を試料溶液中に挿入することがある。このため、検出器をポリエチレ ン袋で二重に包み、汚染を防止する。以下に測定手順を示す。
(ア) サーベイメーターの電源スイッチを入れ、バッテリーの有無および高圧(H.V.) の指示値を確認する。
(イ) 単位表示を計数率(s-1)に切り替え、測定レンジを適切に選択し、時定数を 10 秒に設定する。
(ウ) チェック用線源又は I-131 模擬線源を検出器の先端に密着させ、時計を見ながら、
30 秒以上経過後 10 秒間隔で指示値を 3 回読み取り、その値を記録し、平均値を計 算する。
(エ) バックグラウンドの測定のため、地上1m の高さに固定し、時定数を 30 秒に設 定する。90 秒後に読み取りを開始する。時計を見ながら 30 秒間隔で指示値を 3 回 読み取り、その値を記録し、バックグラウンドの平均値を計算する。
(オ) チェック用線源又は I-131 模擬線源の測定値からバックグラウンド値を差し引 き、正味の値を計算し、記録する。
(カ) 機器作動及び感度確認測定を年 1 回以上定期的に行う。線源の減衰補正を行った 後、当初の測定値と比較して差が 10%以内であることを確認する。なお、10%以 上の違いがある場合には故障等の恐れがあるため、業者に修理・校正を依頼する。
③ 牛乳、野菜類(葉菜等)校正用 I-131 標準溶液による校正
(ア) ヨウ素-131 標準溶液の入ったタッパー容器では、検出器を容器上面の中央部に 密着させる。
(イ) マリネリ容器では容器中央部の凹んだ所に検出器を密着させる。 (ウ) ポリエチレン瓶では検出器を標準溶液中に 5cm 以上挿入する。
(エ) 時定数を 10 秒に設定し、検出器を試料に密着させる。30 秒後から読み取りを開 始する。時計を見ながら、10 秒間隔で指示値を 3 回読み取り、その値を記録し、 平均値を計算する。
(オ) 標準試料の平均値からバックグラウンド値を差し引き、スクリーニングレベルに 相当する放射能濃度(飲食物摂取制限に関する指標;牛乳では 300Bq/L、葉菜等で は 2000Bq/kg)における正味の読取り値又は換算係数(Bq/L、kg/cps)を計算し、 記録する。
(4) 検出感度
この方法による I-131 の検出限界濃度は牛乳で 100Bq/L、葉菜等で 1000Bq/kg である。
(5) サーベイメータによる測定におけるデータの評価・注意点
① バックグラウンドの違い バックグラウンドの線量率は測定する場所によりそれぞれ違うので、対象を測定する場とバックグラウンドを測定する場が同じになるよう注意する。 屋内外による差、裸土の上とコンクリート路面の上の差、木製と石製の台上の差等
により違った線量率を示すことがある。特に、バックグラウンド測定時と食品試料測 定時の地表からの高さが異なる場合は注意が必要である。
② 測定方法による測定精度 サーベイメータの指示は、検出器に入射するγ線光子数のランダムな変動等で常時変化しており、任意の時刻における 1 回の読取り値の相対標準偏差σ(⊿n/n)は、n を計数率(s-1)、τは時定数(s)とするとσ=(2πτ) -1/2 で表される。このような誤差 を減らすためには、時定数を大きくすることが良く、また、多数回測定を繰り返し、 その結果を平均する。多数回測定における標準偏差は、読取りの回数と間隔に依存す る。時定数に等しい間隔で 10 回読み取った結果の平均値の標準偏差は、1 回読取り のおよそ 1/2 となる。
③ スクリーニングレベル(飲食物の摂取制限に関わる指標)の測定
エネルギー補償型 NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータでは、飲食物摂取制限 に関する指標に示された濃度(牛乳:300Bq/L、葉菜等:2000Bq/kg)を超えるおそれ のある試料のスクリーニングが困難な場合が予想される。この解決法の一つは、測定 試料を厚さ 3mm 程度の鉛の遮蔽体中で時定数 30 秒で 3 回以上(1試料当たり 6 分間以 上を要して)測定することである。
一方、従来からの計数率表示型サーベイメータを用いると、鉛の遮蔽体なしに時定 数 10 秒で3回測定(1 試料当たり 1.5 分間)することにより、飲食物摂取制限の指標 の 1/2~1/3 の濃度まで判別できる。エネルギー補償型ではない従来タイプのサーベ イメータでは牛乳、葉菜等について正味線量率がおおよそ 0.025~0.05μSv/h であり 指標値の測定が可能である。
④ 測定器等の汚染 測定器本体の汚染防止のため、測定者の被ばく防護とは別に、測定者の手指や測定器の汚染防護措置(手袋,ポリエチレン袋の使用)をとること。 また、例えば原子力施設より放出された放射性物質が到達した地点では、周辺環境
の放射線量の高まりが測定対象物の放射能測定値に影響を及ぼすので、真の測定結果 を得ることが困難である。したがって、汚染されていない場所に搬出して測定するこ とが適切である。
試料の採取・運搬にあたっては、測定器、運搬する車内、採取運搬者、搬入場所等 が汚染されないよう、その都度機材の汚染の有無を確認し、汚染されたものは取り替 え、決まった場所に保管するよう定めておく。
2 ゲルマニウム半導体検出器を用いたガンマ線スペクト ロメトリーによる核種分析法
第1段階モニタリング及び第2段階モニタリングにおいて、放射性ヨウ素や放射性セシウ ム等のガンマ線放出核種の測定には、通常ガンマ線のエネルギー分解能の優れたゲルマニウ ム半導体検出器を用いたガンマ線スペクトロメトリーが有効である。
ここでは、試料調製、測定方法、定量可能レベル及び機器校正等について示す。
1 機器・器具:
○ ゲルマニウム半導体検出器を用いたガンマ線スペクトロメータ一:検出器の相対効 率は 15%以上とし、検出器周辺を厚さ 10~15cm の鉛遮蔽体等で囲む。
○ I-131、Cs-137 容積線源:ピペットを用いて一定量の市販 I-131、Cs-137 標準溶液 を測定容器に加え、それぞれ 200Bq/L、500Bq/L 程度の放射能濃度とする*5。
○ 小型容器(50mmφ×50 mm。一例として U-8 容器)、2L マリネリ容器、0.5~1L 程度
のタッパー容器等
○ 時計、記録用紙、ポリエチレン袋、ペーパータオル等
*5:容積線源の作製方法の詳細は放射能測定法シリーズ7「ゲルマニウム半導体検出器による ガンマ線スペクガンマ線スペクトロメトリー」(平成4年)
2 機器校正法 食品試料中の(極)低濃度のγ線放出核種を定量する場合には、遮蔽体を除く、各スペクトロメーターのコンポーネントの電気的な安定性が重要となる。また、最適条件で測定す るためには、検出器の計数効率の決定、測定機器の調整、取扱いも重要であり、高度な測 定技術が要求される。
(1) エネルギー校正
γ線のエネルギー(E)とピーク中心チャネル(p)の関係、E=f(p)、を求めることであ る。あらかじめ測定するエネルギー範囲を決めておき、それに応じてγ線のエネルギ
ーが正確に知られている数種類の核種(K-40、Co-60、Cs-137、Ba-133、等)を測定し て E=f(p)を求める。
(2) ピーク効率の校正(I-131、Cs-137 標準線源による比較法)
① ピーク効率(ε)は、γ線スペクトル中の I-131 や Cs-137 等の着目するピーク計 数率から測定試料のγ線強度(放射能×γ線放出比:1 壊変当たり放出されるγ線 の割合)を決定するために用いられ、次のように定義される。
ε(E,X,,,,)=ピークの計数率/γ線強度
② ピーク効率の校正には、先の機器校正で示した牛乳用 I-131 標準溶液線源又は Ba-133、Cs-137 を適当な割合で混合した模擬線源を使用する。
③ 測定容器は、2L ポリエチレン瓶、2L マリネリ容器、0.5~1L 程度のタッパー容 器又は容積 100 mL(50 mmφ×50 mm)小型容器を使用する。
③ 放射能標準溶液の入った上記測定容器をゲルマニウム半導体検出器のエンドキ ャップに載せ、I-131、Cs-137 のピーク面積(計数値)が 10,000 カウント以上にな るまで測定する。ピーク計数率と I-131、Cs-137 の放射能からピーク効率(ε)を求 める。
3 測定試料の調製
(1) 食品中の I-131、Cs-137 放射能測定のための試料前処理法は、放射能測定法シリー ズ 24「緊急時におけるガンマ線スペクトロメトリーのための試料前処理法」(平成 4 年)*6 に準じる。
(2)食品衛生法の食品、添加物等の規格基準(平成 11 年 11 月 26 日厚生省告示第 239 号) の表 4 の第 1 欄の各食品については、それぞれ各第 2 欄の試料の調製に従う。ただし、 キャベツ(芽キャベツを除く)及びはくさいについては、外側変質葉及び芯を除去した ものに、また、ごぼう及びサルシフィーについては、葉部を除去し、泥を水で軽く洗い 落とし細切する。
(3)試料は、あらかじめハサミ、カッター、包丁等で細切りし、機器校正に用いたものと 同じ 2L ポリエチレン瓶、2L マリネリ容器、0.5~1L 程度のタッパー容器又は容積 100 mL
(50 mmφ×50 mm)小型容器に入れて測定試料とする。
*6:試料搬入時の注意点、試料の前処理法(葉菜等については試料相互間の汚染を防止するため 水洗いはしない)、試料の保存方法等が記載されている。
4 ゲルマニウム半導体検出器による測定*7
Cs-137 の分析目標レベルを牛乳・乳製品、野菜類、穀類及び肉・卵・魚・その他 の4食品群についてそれぞれ 20,50,50,50(Bq/kg,L)とし、測定には相対効率 15%程度の ゲルマニウム半導体検出器を、測定容器に 2L マリネリ容器を使用した場合の概略は以 下のとおり。
あらかじめ 2L マリネリ容器の風袋重量を量り、これに食品試料をマリネリ容器内に 空隙が生じないよう均等に充填する。再度、重量を量り、風袋重量を差し引いて測定供 試料量とる。
(1)測定試料を検出器エンドキャップに載せ、約 2000 秒間*8 測定する。 また、原則として 1 週間毎に検出器に何も載せず、2 日以上測定し、バックグラウンドとする。
(2)測定スペクトル中から適当なピーク 3 本以上を選択し、これらを用いてγ線エネル ギーとピーク位置の関係を表すエネルギー校正曲線(2 次式)を作成し、計算で I-131、 Cs-137 のピーク領域を求める。
(3)I-131、Cs-137 のピーク領域内の計数値を積算してピーク面積(カウント数)とその計 数誤差、N±σを計算する。
(4)バックグラウンドの測定結果において、ピーク探査によって I-131、Cs-137 のピーク が認められ、ピーク面積が計数誤差の 2 倍を超えた場合は、試料のピーク面積から差し 引く。計算には、試料の前後に測定したバックグラウンドの平均値を用いる。
(5)測定試料当りの放射能(A)は(4)の処理を施したピーク面積(N)を測定時間(t)で除し、 これを更に、「2 機器校正法」(2)ピーク効率の校正で求めたピーク効率(ε)と I-131、 Cs-137 のγ線放出比(a)で除して求める。食品中の放射能濃度(C)およびその誤差(δC) は測定試料当りの放射能(A)を測定供試量(kg、L)で除して求める。ただし、測定から試 料採取又は購入時への放射能減衰補正項を fd とする。
すなわち、
A=(N/t)/(ε・a)・fd
δA=(σ/N)・A
C= A±δA/(kg,L)
*7:放射能の測定およびピーク面積の計算方法は、放射能測定法7「ゲルマニウム半導体検出器 によるガンマ線スペクトロメトリー」(科学技術庁、平成 4 年改訂)を用いている。
*8:測定時間は、ゲルマニウム半導体検出器の相対効率、使用する測定容器(試料量、幾何学的形 状)、検出目標値及び I-131、Cs-137 以外の高エネルギーγ線放出核種の存在(コンプトンバ ックグラウンドレベルに影響)等に依存する。
5 測定時間と定量可能レベル 緊急時における牛乳、野菜(葉菜)、海草、魚、穀類、肉類、卵など7食品群の I-131、
Cs-137 の定量可能レベルの一例を表 1、2 に示す。
(1) 緊急時(多核種検出時)においてマリネリ容器(2L)を用い、10 分間~1時間測定 した場合の定量可能レベル(表 1)*9、*10 は、I-131、Cs-137 ともに飲食物摂取制限に関 する指標を下回るため、その判断に用いることが可能である。
(2) 混在する放射性核種が少ない場合には、I-131、Cs-137 ともに 1 時間の測定で概ね
1Bq/kg 又は 1Bq/L 以下の低い放射能レベルの定量が可能である*11。
*9:表1は、「緊急時におけるガンマ線スペクトロメトリーのための試料前処理法」を参考にした。 なおここで緊急時とは 1986 年4月 26 日の旧ソ連チェルノブイリ原子力発電所爆発事故時に基 づくものであり、値はその際に汚染した環境試料の測定に基づくものである。
表1:緊急時(多核種検出時)においてマリネリ容器(2L)を用いた時の測定時間と定量可 能能レベルの関係
試料名 | 供試料 | 131I定量可能レベル (計測時間) | 137Cs定量可能レベル (計測時間) | 単 位 |
10 分 間 30 分間 1 時間 | 10 分間 30 分間 1 時間 | |||
牛 乳 野 菜 (葉菜) 海 草 魚 穀 類 肉 類 卵 | 2L 1kg 2kg 2kg | 18 10 8 36 20 16 18 10 8 18 10 8 | 40 24 16 80 48 32 40 24 16 40 24 16 | Bq/L Bq/kg 生 Bq/kg 生 Bq/kg 生 |
ゲルマニウム半導体検出器の相対効率:15%
*10:ゲルマニウム半導体検出器を用いて I-131、Cs-137 を定量する場合の定量可能レベルは、検 出器の相対効率、測定容器(試料量、幾何学的形状)、検出目標値、高エネルギーγ線放出核 種の存在等に依存する。
特に、緊急時においては I-131、Cs-137 のピークと同一か近接するエネルギーを有する放 射性核種やコンプトンバックグラウンドレベルを高める高エネルギーγ線放出核種等多く の放射性核種の存在が予想される。したがって、事故の種類又は食品の汚染状況により定量 可能レベルは変動する。
*11:分析目標レベルは、第2段階モニタリングにおいて事故後 1 ヶ月以降 1 年間での食物摂取に よる被ばくを実効線量で1mSv/年とする。これを放射性セシウムについて、牛乳・乳製品、 野菜類、穀類及び肉・卵・魚・その他の 4 食品群にそれぞれ 0.1 mSv/年を割り当てると、各 食品群の Cs-137 濃度はそれぞれ 20、50、50、50(Bq/kg,L)以上となる。
表2に、2L のマリネリ容器を用いた場合の測定時間と定量可能レベルを示す。
表2 平常においてマリネリ容器(2L)を用いた時の測定時間と定量可能レベルの関係
試料名 | 供試料 | 131I定量可能レベル (計測時間) | 137Cs定量可能レベル (計測時間) | 単 位 |
1 時間 10 時間 | 1 時間 10 時間 | |||
牛 乳 野 菜 (葉菜) 海 草 魚 穀 類 肉 類 卵 | 2L 1kg 2kg 2kg | 0.4 0.2 0.8 0.4 0.4 0.2 0.4 0.2 | 0.8 0.3 1.6 0.5 0.8 0.3 0.8 0.3 | Bq/L Bq/kg 生 Bq/kg 生 Bq/kg 生 |
ゲルマニウム半導体検出器の相対効率:15%
3 緊急時のためのウラン分析法及びプルトニウムの迅速 分析法
防災指針の「飲食物摂取制限に関する指標」には、放射性ヨウ素、放射性セシウム、ウ ラン、プルトニウムの4核種群が対象核種として示されている。また、緊急時モニタリング 指針による第 1 段階モニタリングにおいては、農畜産物、魚介類中の放射性ヨウ素、放射性 セシウムに加え、放射性ストロンチウム、ウラン、プルトニウム等の濃度測定が求められて いる。
平常時の環境放射線モニタリングにおいては、放射性ストロンチウム、ウラン、プルト ニウムの分析は科学技術庁の放射能測定法シリーズ(例えば、「放射性ストロンチウム分析 法」(昭和 58 年)、「ウラン分析法」(平成 8 年)、「プルトニウム分析法」(平成 2 年))等に 準じて行われる。しかし、これらの方法は試料の前処理、分解・抽出、分離・精製及び測定 の各工程に長時間(1 週間~1 か月程度)を要する。
このため、本マニュアルでは、緊急時における分析法として、ウラン分析及びプルトニ ウム分析は誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)を用いた方法の適用を図る。
3-1 ウラン分析法
ウランの分析法には、吸光光度法、蛍光光度法、α線スペクトロメトリー、誘導結合プラ ズマ質量分析法(ICP-MS 法)等がある。これらの中でも、ICP-MS 法は感度が良く、迅速性に 優れた方法である。以下に ICP-MS を使用する迅速分析法を示す*12。この方法は、農作物及 び海産物に適用される。
その他の分析法としては、科学技術庁放射能測定法シリーズ 14「ウラン分析法」(平成 8 年)が用いられる。また、ウランを同位体別に定量する場合は、α線スペクトロメトリ又は ICP-MS 法を適用するが、前者の方法は、試料の前処理、分離・精製、測定に長時間を要す る。
*12:平成7年度科学技術庁委託研究成果「放射性核種分析法の基準化に関する対策研究成果報告 書(ウラン分析法)」
1 試薬 内標準溶液(ビスマス又はタリウム溶液(1μg/mL):ビスマスを多く含む試料ではタリウ
ムを用いる。 ウラン標準溶液(0.1μg/mL):他の金属との混合液として市販(和光純薬、関東科学、SPEX
社)されている。
2 装置
電気炉、ICP 質量分析装置、Ar ガス(純度 99.999%以上) ほか
3 前処理
生試料約 500g*13 を 105℃で乾燥後、電気炉*14 中(500℃)24 時間程度で灰化する。 放冷後、灰重量を測定して灰分(灰分(%)=灰化試料重量(g)/生試料重量(g)×100)を求
める。灰は乳鉢中ですりつぶし、よく混合する。
4 測定試料の調製
(1) 灰化試料 5g 程度をビーカー(200mL)に移し入れ、硝酸 30mL、過酸化水素水 1mL を 加える。時計皿でおおい、ホットプレート上で加熱乾固する。灰の色が白くなるまで、 この操作を繰り返す。
(2) 乾固物に硝酸(8+11)30mL を加え、ホットプレート上で加熱、溶解する。
(3) 放冷後 、メンブラ ンフィルタ ーなどで吸 引ろ過、ろ 紙上の残留 物を温硝酸 (3+11)30mL で洗浄する。
(4) ろ液と洗液をホットプレート上で濃縮し、50mL メスフラスコに移し、標線まで水 を加え、よく振り混ぜ測定用原液とする。
5 ICP-MS 測定 測定機器に関する注意、測定操作(装置の起動、測定条件の最適化等)はメーカーの取
扱説明書に従って行うこと。
(1) 測定溶液をプラズマ中に噴霧し、ウランの m/z238 と同時にビスマスの m/z209(ビ スマスを内標準元素として用いた場合)又はタリウム(タリウムを内標準元素として 用いた場合)のイオン強度を測定し、ウランとビスマス又はタリウムのイオン強度の 比を求める。
再現性を確保するため、データの取り込み時間(積分時間=滞在時間×掃引回数) は最低 1 秒以上とする。測定は 5 回行い、5回の繰り返し平均値を求める。
(2) 別に、検量線用標準溶液として、ウラン標準溶液(0.1μg/mL)の 0、0.1、1、10mL をそれぞれ 100mL メスフラスコに取り、内部標準としてビスマス又はタリウムを(1 μg/mL)1mL を加え、硝酸(1+13)を標線まで加え、よく振り混ぜ検量線用標準溶液 とする。
(3) 検量線用標準溶液を内部標準測定モードで測定し、検量線を作成する。ただし、デ
ータの取り込み時間(積分時間=滞在時間×掃引回数)は試料溶液と同一とする。 (4) 検量線を用い、試料のイオン強度比に相当するウラン量を求め、測定試料中のウラ
ン濃度(μg/mL)を求める。
(5) 試料中のウラン濃度は次式から求める。 A(μg/g)=n×F/w
ただし、n は測定試料中のウラン濃度(μg/mL)、F は希釈容量(mL)、w は供試料(g) 放射能(Bq)単位に換算する場合は、この値に換算係数 0.0124 を乗ずる。 ほぼ同様な試験操作により、牛乳中のウランの分析が可能である。
6 検出感度
ICP-MS 法はウランを高感度で測定できるが、分析供試料が少ない場合には、試料の不 均一性によるデータのばらつきが生じる恐れがあるため、500℃で灰化した灰 5g を分析す ることとする。
本法による食品の検出感度は 5g 灰(灰化率 1%とした場合、約 500g 生)を用い、測定 時間を 10 秒、バックグラウンド計数率を 5cps とした場合のバックグラウンド計数率の標 準偏差の 3 倍とした場合、0.008μg ウラン/kg 生である。
*13:ICP-MS 法はウランに対して非常に高感度であることから、極少量の試料で分析が可能である が、分析供試量が少ないためモニタリング用試料としての代表性等の問題が生じる。このため、 本法では、500g 生相当の食品試料を使用した。
*14:前処理用装置として高周波加熱分解装置を用いることにより数百 mg の試料の全溶解ウラン量 を求めることが出来る。以下に、この装置を用いた食品の全溶解操作を示す。なお、この操作 に続く ICP-MS 法は前述した方法に準ずる。
(1)灰試料約 0.5g を高周波加熱分解装置の分解容器にはかり取る。
(2)硝酸 6mL、過酸化水素水 1mL を加え、高周波加熱分解装置により分解する。分解に要 する時間はほぼ 1 時間である。
(3)ホットプレート上で蒸発乾固する。
(4)乾固物を硝酸(3+11)に溶解し、吸引ろ過する。
(5)ろ液を 50mL メスフラスコに移し、標線まで水を加え、よく振り混ぜ測定用原液とす る。
3-2 迅速プルトニウム分析法
核燃料再処理施設の事故等においては、環境中に飛散する放射性核種の種類が原子力発 電所の場合と異なることが多く、特に、プルトニウム等のα線放出核種に着目することが 必要となる。
従来の食品中のプルトニウム分析法(例えば、科学技術庁放射能測定法シリーズ 12「プル トニウム分析法」(平成 2 年))であるシリコン半導体検出器によるα線スペクトロメトリ は、試料の前処理、分解・抽出、分離・精製及び測定の各工程に長時間(1 週間程度)を要す るため、緊急時における測定法としては時間的な課題が残る。
このため、試料の分解にマイクロウェーブ分解装置を用い、24 時間程度で分析結果が得 られる ICP-MS(四重極型)を用いた迅速分析法を示す*15。
この方法は、牛乳及び葉菜に適用される。
*15:平成 11 年度科学技術庁委託研究「環境試料中プルトニウム迅速分析法」
1 試薬
陰イオン交換樹脂:Dowex1-X8 (100~200 メッシュ) Pu-242 標準溶液(0.03Bq/mL)
2 装置 電気炉又はマイクロウエーブ高温灰化装置、マイクロウエーブ分解装置、超純水製造
装置、アスピレータ、ICP 質量分析装置、Ar ガス(純度 99.999%以上)、超音波ネブライ ザー
3 前処理
(1) 牛乳
① 1L を磁性皿に入れ、ガスコンロ上で撹拌加熱し、蒸発乾燥―炭化する。
② 炭化物をマイクロウェーブ高温灰化装置(250℃~600℃まで順次上昇させる)で完 全に灰化する。
③ 灰化物をテフロン製高圧分解容器(容量 100mL)に移し、硝酸 20mL を加える。ここ で、化学回収率を正確に決定するため、又は Pu をα線スペクトロメトリで測定する ため、Pu‐242 標準溶液(0.03Bq/mL)1mL を加える。
④ 分解容器をマイクロウエーブ分解装置にセットし、所定の条件で分解する。
⑤ 分解終了後、分解容器を水浴中で 30 分間冷却し、硝酸(3+2)で内容物をテフロン ビーカー(200mL)に移す。
⑥ 亜硝酸ナトリウム溶液(20W/V%)5mL を加え、ホットプレート上で加熱(約 30 分間 する。この操作を3回繰り返し、プルトニウムを Pu4+の化学形にする。
⑦ メンブランフィルターを用いて吸引ろ過し、ろ紙上の不溶物は硝酸(3+2)で洗浄す る。
⑧ ろ液と洗液はビーカー(200mL)に受けて、プルトニウム分析用試料溶液とする。
(2)葉菜
① 試料 100g を磁性皿にはかり取り、電子レンジに入れ、25 分間乾燥する。
② 乾燥物をマイクロウエーブ高温灰化装置(250℃~600℃まで順次上昇させる)で 完全に灰化する。
③ 以下、牛乳の前処理③~⑥と同じ操作を行う。
④ 硝酸(3+2)を加え液量を 30~40mL とし、ホウ酸 0.3g を加え、加熱溶解後、放冷 する。
⑤ メンブランフィルターを用いて吸引ろ過し、ろ紙上の不溶物は硝酸(3+2)で洗浄 する。
⑥ ろ液と洗液はビーカー(200mL)に受けて、プルトニウム分析用試料溶液とする。
4 ウラン分離除去*16
(1) プルトニウム分析用試料溶液を予め硝酸(3+2)でコンディショニングしておいた硝 酸系陰イオン交換樹脂に流し、その後、硝酸(3+2)でウランを洗浄除去する。
(2) 塩酸(5+1)でカラムを洗浄し、トリウムを除去する。
(3) ヨウ化アンモニウム(5W/V%)-塩酸混合溶液(容積比 3:7)を流し、樹脂に吸着したプ ルトニウムを溶離する。
(4) 溶離液に硝酸を加え、蒸発乾固する。乾固物を硝酸(1+11)で溶解して ICP-MS 測定 試料溶液とする。
5 ICP-MS 測定
(1) ICP-MS によるプルトニウムの測定は基本的にウラン分析法と同様である。 測定機器に関する注意、測定操作*17(装置の起動、測定条件の最適化等)はメーカ
ーの取扱説明書に従って行うこと。
(2) Pu-239、Pu-240 の定量は、m/z239 および 240 の強度と Pu‐242 の強度比から行う。 試料中のプルトニウム放射能濃度は次式から求める。 A=[(Ns・D・R)/(Nadd・W)]・[239(又は 240)/242]
ただし、A は定量核種の放射能濃度(Bq/kg、Bq/L など)、Ns は定量核種の正味の計 数率(cps)、Nadd は計測試料中の添加核種の正味の計数率(cps)、D は添加核種 (Pu-242)の添加量(g)、R は定量核種の重量(g)から放射能(Bq)への換算係数、W は供 試量(kg 又は L)
6 検出感度
牛乳 0.1L、葉菜 100g 生試料を用いた場合の Pu-239、Pu-240 の検出感度は、それぞ れ 50、200mBq/L、kg である。ただし、放射化学分析操作でのプルトニウムの回収率を
70%、ICP-MS で 1 分間 3 回繰り返し測定した時のバックグラウンド計数値の変動(標準 偏差)の 3 倍とした。
*16:ウランにおける ICP-MS 測定では妨害元素の除去を行わないが、プルトニウムの場合には、 溶液中に 100pg/mL 程度ウランが存在してもウランの水素化物(238 UH+ )が m/z239
(Pu-239)に影響を及ぼす。このため、硝酸系陰イオン交換樹脂を用いたウランの分離操 作を行う。ただし、試料中にウランが 10μg 以上含まれる場合は、酢酸系陰イオン交換樹 脂を用いたウランの分離操作を行う。
*17:ICP-MS への試料溶液の導入方法はいくつか報告されており、分析感度、試料溶液導入効 率に影響を及ぼす。一般的には、同軸型ネブライザーが用いられているが、より検出感度 を高めるために 50 倍感度の良い超音波ネブライザーが推奨できる。
4 放射性ストロンチウム分析法
放射性ストロンチウムは、「飲食物摂取制限に関する指標」として提案されている4核種 には含まれないが、特に Sr-90 は物理的半減期が 28.8 年と長く、しかもβ線を放出する核 種であるため食品摂取に伴う内部被ばく線量に影響を与える。
ここでは、放射性ストロンチウムの分析法として、以下の2種類の方法を示す。
① 緊急時のための迅速分析法として、液体シンチレーションカウンタによるチェレン コフ光測定による分析法(科学技術庁放射能測定法シリーズ 23「液体シンチレーショ ンカウンタによる放射性核種分析法」(平成 8 年改訂))
② 原子力施設事故等モニタリングの、特に第2段階において、食品中に存在する放射 性核種の濃度を正確に求めるための分析法として、主として、平常時のモニタリング に用いられている発煙硝酸法(科学技術庁放射能測定法シリーズ 2「放射性ストロン チウム分析法」(昭和 58 年))
4-1 緊急時のための Sr-90 迅速分析法
ストロンチウムの分離、測定試料の調製が容易な液体シンチレーションカウンタによ る迅速分析法(チェレンコフ光測定)を以下に示す。
この方法は牛乳、海産生物、穀類、野菜などに適用される。
1 分析操作
(1) 食品の灰試料 1g をビーカーにとり、イットリウム担体 10mg、ストロンチウム担体
10mg を加え、王水で分解する。蒸発乾固後、塩酸を加え残留物を溶解する。
(2) ろ紙(5B)を用いてろ過し、ろ液を分液漏斗に移し、ビス-(2-エチルヘキシル)リン 酸(HDEHP)‐トルエン溶液(2:1 容積比)と塩酸(1+11)を加え、1 分間振とうする。
10 分間静置した後、水層を除く(ミルキング時刻記入)*18。
(3) 新たに塩酸(1+11)を加え、1 分間振とうする。10 分間静置した後、水層を除く。 (4) 塩酸(2+1)を加え、1 分間振とうする。10 分間静置し、水層を別の分液漏斗に移す。 (5) 残った有機層に対し、残った有機層に対し、操作(4)を繰り返す。
(6) 水層を操作(5)の水層に合わせ、トルエンを加えて 1 分間振とう後、静置する。 (7) 水層をビーカーに移し、アンモニア水(1+1)を加え、水酸化イットリウムを沈殿さ
せ、これをろ別する。
(8) 塩酸に溶解し、これにシュウ酸 2g を加え、アンモニア水でpH1.0~1.5 に調整し、 シュウ酸イットリウムを沈殿させ、これをろ別する。
(9) 沈殿を塩酸(1+1)に溶解し、100mL ポリエチレン(又はテフロン)瓶に移し、100mL になるまで水を加え測定試料とする。
2 Y-90 標準線源の作製
(1) ストロンチウム担体(50mg)、イットリウム担体(10mg)及び塩化アンモニウム 10g を加えた 100mL 遠沈管に、Y-90 と Sr-90 が放射平衡にある Sr-90 標準溶液の約 100Bq を正確に分取して加える。
(2) 塩化アンモニウム 10g、アンモニア水でpH8 にし、水酸化イットリウムの沈殿を生 成させる。
(3) 5 分間遠心分離する。
(4) 沈殿を塩酸(1+1)に溶解し、100mL ポリエチレン(又はテフロン)瓶に移し、100mL になるまで水を加え測定試料とする。
上記の手順でバックグラウンド用測定試料を作製する。
3 検出感度
ドライミルク等の灰試料 1g を処理した時、100 分間測定でおよそ 40mBq/g の Sr-90 が 測定できる。
*18:原子力発電所等の事故により Sr-90(半減期:28.8 年)が放出された場合には、Sr-90 よ りむしろ Sr-89(半減期:50.5 日)の放射能が強い。このため、ストロンチウムをクラウン エーテル系の試薬(例:固相抽出ディスク)により他の妨害核種、元素から抽出分離し、水 溶液の状態で Sr-89、Sr-90、Y-90 の3核種をチェレンコフ光測定により 2 回測定し、Sr-89、 Sr-90 の放射能を決定することができる。ただし、牛乳や葉菜類等ジュース状・液状の試料か らストロンチウムを固相抽出ディスクに抽出する方法については、今後の検討課題の一つで ある。
4-2 発煙硝酸法による放射性ストロンチウムの分析法
本分析法は、放射性ストロンチウムの分析法の一つであり、Sr-90(半減期:28.8 年)か ら生成する Y-90(半減期:64.0 時間)のβ線を測定するものであるが、Y-90 の成長時間(放 射平衡の成立)を入れ、分離・精製時間に長時間(約 1 ヶ月)が必要となる。
1 試料調製
(1) 放射性ストロンチウムの分析用試料は食品を 105℃で乾燥後、電気炉等により
450℃で 24 時間灰化したものを分析に供する。
(2) 食品衛生法の『食品、添加物等の規格基準』(平成 11 年 11 月 26 日厚生省告示第
239 号)の表 4 の第 1 欄の各食品については、それぞれ各第 2 欄の試料の調製に従う。 ただし、キャベツ(芽キャベツを除く)及びはくさいについては、外側変質葉及びし んを除去したものに、また、ごぼう及びサルシフィーについては、葉部を除去し、泥 を水で軽く洗い落とし細切りする。
2 試薬・装置 発煙硝酸法に用いられる主な試薬と装置を以下に示す。
(1) 試薬 担体:塩化ストロンチウム溶液、塩化カルシウム溶液、塩化バリウム溶液、塩化
鉄(III)溶液等 薬品:塩酸、硝酸、発煙硝酸、シュウ酸、アンモニア水、水酸化ナトリウム溶液、
炭酸ナトリウム、塩化アンモニウム、コロジオン、エチルアルコール等 装置:低バックグラウンド 2πガスフロー型 GM 計数装置
(2) 発煙硝酸法による分析
① 灰試料、10g(野菜類 1kg 相当)にストロンチウム担体 50mg を加える。
② 王水及び硝酸各 50mL を加え、加熱し、乾固させる。灰を分解するため硝酸を 50mL 加え、加熱し、蒸発乾固させる。この操作を 3~5 回繰り返す。
③ 残留物に塩酸(1+1)100mL を加え加熱、溶解し、これをろ別(5C)する。
④ ろ液に Ca 担体 250mg を加え、水酸化ナトリウム溶液にて液性を>pH10 とし、こ れに炭酸ナトリウムを加え、加熱し、炭酸塩を生成させる。
⑤ 炭酸塩を遠心分離後、沈殿に塩酸を加え、溶解する。
⑥ シュウ酸とアンモニア水で pH4.2 にし、シュウ酸塩沈殿を生成させる。
⑦ デカンテーションにより沈殿を分離後、これに発煙硝酸(比重:1.52)を加え、 硝酸塩を生成させる。水冷ししばらく放置後、沈殿をガラスろ過棒(1G4)でろ別 する。
⑧ 沈殿を水で溶解し、再び発煙硝酸を加え、硝酸塩を生成させる。カルシウムがな
くなるまでこの操作を数回繰り返す*18。
⑨ 硝酸塩を水で溶解し、これに酢酸、酢酸アンモニウム溶液を加え、Ba 担体 10mg を加え、加熱する。更に、クロム酸カリウム溶液を加え、クロム酸バリウム沈殿を 生成させる。これをろ紙(5C)を用いてろ別する。この操作により Ra-226 等を共沈 除去する*19。
⑩ ろ液にアンモニア水と炭酸アンモニウム溶液を加え、加熱し、炭酸ストロンチウ ム沈殿を生成させる。これをガラスフィルター(1G4)でろ別する。
⑪ 沈殿を塩酸に溶解し、Fe(III)担体 5mg、塩化アンモニウム 1g を加え、加熱、沸 騰させる。これに、炭酸イオンを含まないアンモニア水を加え、水酸化鉄沈殿を生 成させる。沈殿に Y-90 も共沈する。
⑫ 沈殿をろ紙(5A)を用いてろ別する。ろ液に炭酸アンモニウム溶液を加え、加熱し、 炭酸ストロンチウム沈殿を生成させる。これを予め秤量済みのガラスろ過棒(1G4) でろ別する。
⑬ ガラスろ過棒(1G4)を 105℃で乾燥し、デシケータ中で放冷後、秤量し、ストロ ンチウムの化学回収率を求める。沈殿を塩酸で溶解し、これに Fe(III)担体 5mg を 加え、2 週間放置し、Y-90 を十分に成長させる。
⑭ Y-90 が含まれる塩酸溶液に塩化アンモニウム 1g を加え、加熱、沸騰させる。こ れに、炭酸イオンを含まないアンモニア水を加え、水酸化鉄沈殿を生成させ、Y-90 を共沈させる(ミルキング時刻の記入)。
⑮ 水酸化鉄沈殿をろ紙(5A)を用いてろ別する。ろ液は、再ミルキング用に保存する。
⑯ 水酸化鉄沈殿を塩酸に溶解し、これに塩化アンモニウム 1g を加え、沸騰させる。 これに炭酸イオンを含まないアンモニア水を加え、水酸化鉄沈殿を生成させる。ス トロンチウムを除去する。
⑰ 水酸化鉄沈殿をろ紙(5A)を用いてろ別する。この操作で Y-90 からストロンチウム が除去できる。
⑱ 水酸化鉄沈殿を塩酸に溶解し、これに塩化アンモニウム 1g を加え、沸騰させる。 これに炭酸イオンを含まないアンモニア水を加え、水酸化鉄沈殿を生成させる。
⑲ 水酸化鉄沈殿を予め、ろ紙(5C、24mmφ)を載せた分離型フィルターでろ過する。 ガラス管の内壁をアンモニア水(1+100)、エチルアルコールで逐次洗浄する。
⑳ ろ紙を取り外し、測定用試料皿に糊付けし、赤外線ランプで乾燥する。沈殿にコ ロジオンを滴下し、再び赤外線ランプで乾燥し、沈殿を固定する。
*19:原子力施設から環境へ放出され、食品の放射能汚染を引き起こす恐れのある放射性ストロ ンチウムは Sr-89(半減期:50.5 日)、Sr-90(半減期:28.8 年)である。これらはベータ線 放出核種のため、ベータ線測定用試料の調製にあたっては放射能測定の妨害となるラジウム 等の放射性核種や自己吸収に強く影響を及ぼすカルシウムの除去のための化学的分離や精 製を行う必要がある。
(3) β線測定
測定は原則として、低バックグラウンド 2πガスフロー型 GM 計数装置を使用する。 なお、印加電圧、Q ガス流速調整等の装置の取り扱いはメーカーの取扱説明書に従って 行うこと。
以下に操作手順を示す。
① U3O8 チェック用線源を用い、装置の動作が正常であることを確認する。
② バックグラウンドを 60 分間測定する。
③ 測定用試料を 60 分間測定する。
④ 再び、バックグラウンドを 60 分間測定し、最初のバックグラウンド計数率との平 均値を計算する。
⑤ 測 定試 料の全 計数 率から バッ クグラ ウン ド計数 率を 差し引 き、 正味の 計数率
n(cpm)および計数誤差δn を求める。
n±δn=(Ns/Ts – Nb/Tb)±(Ns/Ts2 + Nb/Tb2)1/2
ここで、Ns は測定試料の全計数値、Ts は測定試料の測定時間(分)、Nb はバックグ ラウンドの計数値、Tb はバックグラウンドの測定時間(分)である。
(4) Y-90 の計数効率の決定
Sr-90 標準溶液の一定量をビーカーにとり、先の発煙硝酸法にある Y-90 のミルキ ング操作に準じて測定用試料を調製し、測定する。Y-90 の計数率を Sr-90 の放射能 (dps)で除して計数効率 E を求める。
(5) 食品試料中の Sr-90 濃度
試料中の Sr-90 濃度の計算は次式により求める。 A±δA=(n0±δn0)・100/E・Y
ただし、n0±δn0 はミルキング時における Y-90 の計数率、E は計数効率、Y はスト
ロンチウムの化学回収率(%)である。
(6) 検出感度 本法による測定可能な放射能レベルは、測定装置の計数効率(後方散乱、自己吸収
を含む)を 30%、バックグラウンド計数率を 1cpm、測定時間を 60 分とし、有意な放射 能検出レベルを計数誤差の 3 倍とした場合、0.037Bq である。
5 放射線測定機器を備えた主な試験研究機関*一覧(平成14年3月現在)
*以下は主な施設のみであるので、各地域ごとの測定可能な施設については、 緊急時モニタリング計画作成の際に備えている機器等も含め確認されたい。
(参考)
1 緊急時モニタリング計画における食品の放射能測定・分析
防災指針に基づき地方自治体は、原子力緊急事態が発生した場合、直ちに体制が組織されるよ う、
①原子力防災計画及び緊急時モニタリング計画の作成、
②平常時の情報等の整備
③緊急時 モニタリング用資機の整備、
④緊急時モニタリングの実施方法等について定めた緊急時モニタ リングマニュアルを作成する必要がある。
1-1 原子力防災計画等の作成の留意点
① 原子力防災計画 防災指針に基づく、原子力防災計画の作成(又は改正)に当たっては、原子力施設等の周辺状況により、農畜水産食品に食品衛生上の危害が生じるおそれがある場合には、これらの 食品に関する安全性の評価を盛り込む必要がある。
この場合、食品の販売自粛の行政指導又は食品衛生法第4条の適用等の可否については、 都道府県及び厚生労働省(以下「関連機関」という)の連絡及び判断が必要となる場合があ ることに留意する必要がある。
このため、防災指針のオフサイトセンターに情報提供を行うほか、必要に応じて関連機関 に対して情報を提供し指示を仰ぐ必要がでてくる。
また、農畜水産食品は特定の放射性物質が濃縮される性質をもつため、安全性が確認され るまで長期間のモニタリングが必要となる可能性があることに留意する。
② モニタリングセンター 各自治体が防災計画及び緊急時モニタリング計画に基づき設置するモニタリングセンターにおいて作成されるモニタリング計画には、本マニュアルを参考にして、各種の環境試料に 加えて、食品の安全性評価及び食品摂取の場合における体内被ばく線量評価等を実施するた めに必要な試料をサンプリングする計画を盛り込む。
③ モニタリングチーム モニタリングセンターの作成したサンプリング計画に基づき、平常時から、食品のサンプリングするためのモニタリングチームの編成や当該試料の分析及び精密測定を行う施設を特 定するとともに、測定機器や設備の整備を行い、緊急時に適切に実施できるよう整備する。
1-2 平常時の情報等の整備 上記の緊急時モニタリング計画を作成するに当たって、必要に応じて以下の項目について平
常時から整備を図る。
① 試料採取地点を示した地図
② 飲料水、食品等に関する情報
③ 平常時のモニタリング測定結果
④ 人口分布図及び人口表
⑤ 交通、通信連絡系統図
⑥ 研修及び訓練
-適切な機関における担当者の研修及び自己研鑽
-定期的な訓練の実施
⑦ 関連資料の収集及び調査研究の実施
-国際機関として、ICRP,IAEA,WHO,FAO 等、国内機関として厚生労働省、原子力安全 委員会、文部科学省、農林水産省、環境省等の関連部局、専門分析機関、関連学会等の 放射線防護に係る最新情報の収集に努める。
-測定に係る調査研究を進めて、課題の解決や改善に努める。
1-3 緊急時モニタリング用資機材の整備
(1)測定体制の整備に関する事項
① 原子力施設周辺地域を中心とする農畜水産食品の生産、流通、保管、消費及び特産品等 の把握
② 食品の入手経路、入手方法、地図、試料の採取記録(試料名、指採取日時、採取者、採 取地、採取方法、入手先、保管、数量等)及びその記録用紙の準備
③ 採取機材の点検、整備
④ 放射線・放射能の平常レベルの事前把握等
⑤ 指示、連絡、通報体制(系統)の確認、整備
(2)測定に必要な資機材の整備
① 機器の維持、管理(点検、修理、校正、更新等)
② 分析、測定に係る資機材の事前の整備等
1-4 緊急時モニタリングの実施方法
(1)原子力関連施設等の周辺の農畜水産業の状況を踏まえ、①被ばくの経路等を考慮し、②各 モニタリング段階毎に測定項目、③測定地点、④測定方法、についてあらかじめ可能な限り 具体的に定めておく。
(2)第1段階モニタリング 予測線量の推定に用いるため、原子力緊急事態の発生直後から、別表1の食品について速
やかに測定する。
(3)第2段階モニタリング 迅速性よりも正確さが必要となる。第1段階モニタリングよりさらに広い地域につき、放
射性物質及び放射線に対する全般的影響を評価し、確認するために別表2の食品について測 定する。積算線量及び人体への被ばく評価に必要な放射性物質を対象とする。
1-5 緊急時モニタリングの実施計画
1-5-1 試料採取の実施 原子力緊急事態が発生した場合、原災法に基づき原子力緊急事態宣言が出され、原子力災
害対策本部が設置される。また、現地の緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)に は、国の原子力災害現地対策本部と関係自治体の災害対策本部から成る原子力災害合同対策 協議会が設けられ種々の応急対策が実施される。この応急対策事項の一つとして、放射線量 の測定が行われる。
このような緊急事態下においてはオフサイトセンターを中核として、その指示に基づき関 係自治体の職員等はその対策に従事することとなる。
食品分野の事項では、緊急時モニタリングにおいて、「1-3 緊急時モニタリング用資機 材の整備」の項にあるように農畜水産物の生産状況及びその流通についての資料を整えてお くこととされている。
このことを踏まえ、緊急時の食品試料の円滑な採取を行うためには、次の事項について、 平常時から検討しておくことが望ましい。
① 試料の採取は、上記の応急対策事項の一つとして位置づけしておく。
② 測定対象とする食品をあらかじめ決めておき、可能な限り採取場所及び試料提供者を事 前に確保しておく。
③ 採取を担当する機関(例えば、所管の保健所又は近隣の保健所等)は、あらかじめ決めて おき、採取担当者を機関内で調整しておく。
④ 必要な場合に放射線量を測定することも想定して、採取担当機関にサーベイメータを保 有しておき、採取担当者はその取扱い方法を習得しておく。
⑤ 採取者担当者は、採取時における被ばく防護対策としてポケット線量計等を携行する。
⑥ 採取担当機関が保健所の場合は、放射線に関する知識、技術を有する機関内の診療放射 線技師等の地域内での情報交換を進める。
⑦ 試料採取にあたり、採取担当者、日時、天候、採取場所、試料提供者、試料名、採取方 法、採取量、サーベイメータによる線量率、個人被ばく線量等、可能な限り詳細な情報を 記録する。
⑧ 測定・分析を担当する機関を事前に確保し、事前に、分析可能な核種及び試料数等につ いて調整しておき、試料採取に活用する。
⑨ 測定・分析を担当する機関に試料を運搬又は送付する場合は、⑦で記録した内容を報告 する。
⑩ 試料の採取及び搬送、保管の全般において、サーベイメータの汚染や試料相互間の汚染 を避けることに十分留意する。
⑪ その他、原子力災害対策合同協議会の対応指示に留意するとともに、国からの緊要な要 請についても可能な限り柔軟に対応する。
1-5-2 試料測定・分析の実施 試料測定の方法には、①食品の放射能汚染の程度を迅速に把握することを目的とした簡易測
定、②食品中の放射性核種の濃度を迅速・正確に定量することを目的とする核種分析(以下、精 密分析とする)があり、必要に応じて、この2つの測定方法を使い分ける必要がある。
第 1 段階モニタリングは迅速な汚染状況の把握が目的であることから簡易測定が主な測定方 法となる。また、第2段階モニタリングは、簡易測定と精密分析を組み合わせて実施すること が効率的である。
1-5-3 簡易測定 NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータなどを用いて採取担当者が採取地又は測定・分析機
関で試料を測定する方法である。 試料採取担当者が野外等で測定する場合もあるので、平常時から測定器の機器を校正してお
くとともに測定操作を習得しておく必要がある。 なお、事故等発生の第1段階には環境の放射線レベルや食品の放射能レベルがきわめて高く
なるため、検出器部分や試料相互間の汚染に十分留意が必要である。 NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータについては、第2章の1に具体的方法を示した。
1-5-4 精密分析 放射性ヨウ素や放射性セシウム等のγ線放出核種分析を行うゲルマニウム半導体検出器を用
いたガンマ線スペクトロメトリ、また、ウラン、プルトニウムや放射性ストロンチウム等の放 射化学分析は分析・測定に必要な装置、器具等の施設設備及び習熟した分析・測定技術が必要 となる(解説2に食品の放射能測定・分析が可能である主な試験研究機関を示した)。
これらの分析に精通した分析・測定機関において信頼性の高いデータを得ることがより精度 の高い防護措置を可能とする。したがって、平常時より、これらの分析・測定機関を確保して おき緊急時における放射性核種の精密分析の実施を担保しておくことが望まれる。
1-5-5 第 1 段階モニタリングにおける測定・分析
(1)測定・分析対象核種 放射性ヨウ素、放射性セシウム、ウラン、プルトニウム及び超ウラン元素のα核種の4核
種群が主な測定対象となる。防災指針では、これらの核種による周辺住民の被ばくを低減す るとの観点から実測の放射性物質濃度として別表3に示す指標が提案されている。
(2)測定・分析対象食品 第1段階モニタリングにおいては、放射性物質の影響範囲の特定が目的であることから、
直接的影響を受けると思われる食品種を測定の対象とする。 精密測定分析機関等の分析可能状況にもよるが、分析が可能で有ればその後の放射性物質
の影響を評価するためにも、できるだけ多くの食品について測定する。
このことから、状況が許す範囲で、以下の7食品群を現地の農畜水産物の生産状況に応じ て測定対象とする*1ことが望ましい。(別表1参照)
①穀類(玄米などの米類、その他穀類)、②果実類(柑橘類、りんご、その他果実類)、③野菜 (ほうれん草、キャベツ、はくさい、葉菜つけもの等の葉菜、きゅうり、トマト、ピーマンな どの果花菜、その他の野菜)、④海草類、⑤魚介類(生鮮品、生干し及び乾物品、その他の加工 品)、⑥乳類(牛乳、その他の乳製品)、⑦その他(肉類、卵類、いも類、豆類、きのこ類等 11 分類)。ただし、原子力施設等周辺にかかわる場合には地元特産品を考慮して選定する。
なお、これらの食品の中では、放射性核種の直接的沈着の可能性がある葉菜類(野菜類)、及 び乳幼児等への影響を判断する上から乳類については前述のとおり、放射性ヨウ素、この2 食品群に穀類および肉類・卵類・魚介類・その他を加えた食品群は放射性セシウム、ウラン、 プルトニウム及び超ウラン元素のα核種について飲食物摂取制限に関する指標が提案されて いる(別表3参照)。
*1 本マニュアルは、食品に特化することから飲料水は除いた。また、測定対象食品は、「国民栄養 の現状(平成 10 年度国民栄養調査結果健康・栄養情報研究会編:以下「国民栄養調査結果」とい う)」に基づき汚染の可能性のある各種食品を網羅することとし、被ばく線量評価を目的として 品目を再分類した。
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