2012年7月31日火曜日

セシウム 137  セシウム 134


放射線と原子力発電所事故についてのできるだけ短くてわかりやすくて正確な解説

セシウム 137 とセシウム 134

「大放出」から半年近くが経った今、多くの地域での地面の汚染の主役は半減期 30 年の 137Cs と半減期 2 年の 134Cs になった。 セシウムだけとはいえ、これらは異なった核種なので、両者が混ざっていることで話が少しややこしくなる。以下では、2 種類のセシウムから出るガンマ線に関して簡単にまとめておく(すべて初等計算だが、ある程度の理科系の知識が必要)。 特に、除染をせず、また、セシウムがいっさい流れていかないとしても、放射線量は 2 年で当初の約 6割、3 年で約 5 割まで減ることがわかる(だから、除染の目標として「2年で半減」などというのは、ほとんど何もしないのと同じ)

由来と存在比

137Cs と 134Cs は原発から放出され、あたりにまき散らされ、未だに地面にしっかりと付着している。 同じところから来た同じセシウムなのだが、その由来は随分とちがう。137Cs はウランの核分裂で生まれる。つまり核分裂生成物だ。 一方、134Cs はウランの核分裂では出てこない。 だから、たとえば原爆から出てきた放射性物質には137Cs は含まれているが 134Cs は含まれていない。
134Cs が出てくる理由は以下のとおり。 ウランが核分裂すると133Xe が生まれる。 133Xe はベータ崩壊して安定な 133Cs になる。 この 133Cs が原子炉の燃料の中に置かれていると、核分裂の際に出てくる中性子を捕獲して 134Cs になるのだ。 だから、134Cs の量は、原子炉がどれくらいの期間運転していたか、あるいは、使用済み核燃料がどれくらいの期間使用されていたかを反映する。
一般に、原子炉からでてくる 134Cs と 137Cs の放射能強度比、つまり
 r =(ベクレルで測った 134Cs の量)÷(ベクレルで測った 137Cs の量)
は、0.4 から 1.5 の範囲に入る。 チェルノブイリの場合、この比は 0.55 程度だった(以上は、原子力資料情報室のページによる)。

今回の福島原発の事故で放出されたセシウムの場合、上の比 r は、(放出直後には)ほぼ 1 に等しい。 土壌の調査でも、海水の調査でも、ほぼ 1 という結果が出ている。 137Cs と 134Cs はいったん放出されればまったく同じように拡散していくはずだから、これは、もともとの汚染源(燃料、あるいは、使用済み燃料)での存在比をそのまま反映していると考えられる。 それが 1 に近いことに特別の理由があるのかどうか、私は知らない。なお、両者の量がベクレルで測ってほぼ等しいからといって、普通の意味で両者が「同じだけある」というわけではない。 崩壊率は 15 倍違うから、 通常の物質量(モル数や質量)で測れば 137Cs が134Cs の約 15 倍あるということになる。

もちろん、134Cs と 137Cs の量の比は、これから時間が経てば変わってくる。 134Cs が先になくなっていくから、2 年後には、上の比 r は約 0.5 になる。

放射線の強さ(吸収線量率)

1 ベクレルの放射性物質があると、平均で 1 秒間に 1 回の割合で原子核が崩壊する。 ベクレルで測った 137Cs と 134Cs の量がほぼ等しいということは、それぞれの核種で同じ頻度で崩壊がおきることを意味する。 ただし、だからといって 137 と 134 から出てくる放射線の強さ(Sv/h で測る吸収線量率)が等しいということにはならない。 137Cs と 134Cs は異なった崩壊をするからだ。「アイソトープ手帳」によると、これらの核種の 1 回の崩壊で発生する光子(←こうやって出てきた光子の流れがガンマ線)のエネルギーと頻度は以下のとおり。

137Cs(半減期 30.1671 年)からの主な光子
エネルギー [MeV]0.6620.03210.0365
頻度85.1%5.8%1.3%


134Cs(半減期 2.0648 年)からの主な光子
エネルギー [MeV]0.5630.5690.6050.7960.8021.365
頻度8.4%15.4%97.6%85.5%8.7%3.0%

大ざっぱに言えば、 137Cs の 1 回の崩壊では 0.66 MeV の光子が 1 個飛び出し、 134Cs の 1 回の崩壊では 0.6 MeV と 0.8 MeV の光子が 1 個ずつ飛び出すということだ(上の表で 134Cs からの光子の「頻度」を合計するとほぼ 200 % になるのは、光子が二つでているから)。 それだけでも(ベクレルで測った量が等しければ)134Cs から倍くらいの放射線が出てくることは納得できるだろう。

Sv/h で測る放射線の強さ(吸収線量率)は、崩壊で出てくる光子の平均エネルギーに比例する(より正確には光子のエネルギーに依存するエネルギー吸収係数をかける必要があるが、ここではそこまでこだわらなくて十分)セシウム 137 の一回の崩壊で出てくる光子のエネルギーを平均すると、
ϵ137/MeV0.662×0.8510.56
である(低エネルギーの光子の寄与を考えても結果は変わらない)。 セシウム 134 については、
ϵ134/MeV0.563×0.084+0.569×0.154+0.605×0.976+0.796×0.855+0.802×0.087+1.365×0.031.5
ということになる。両者の比をとると、
ϵ134ϵ1372.7
だから、(ベクレルで測ったときに)同じ量の 137Cs と 134Cs があれば、それぞれからの放射線の強さの比は 1 : 2.7 程度になるということがわかる。 つまり放射線の 7 割程度が 134Cs から出ていて、残りの 3 割程度が 137Cs から出ているのだ。
(細かい注:IAEA-TECDOC-1162, Generic procedures for assessment and response during a radiological emergencyの p99 の表の換算係数を使うと、ϵ134/ϵ137 は 5.4/2.12.6 となり微妙に一致しないが、気にするほどの違いではない。)

放射線の強さの減衰

一般に、半減期 τ の放射性物質から時刻 0 に強さ(吸収線量率)p(0) の放射線が出ているとする(これが、Sv/h で測る量)。 除染もおこなわず、また、セシウムが流さたり飛ばされたりしないと仮定すると、時刻 t での放射線の強さは p(t)=p(0)2t/τ になる。
[punch]時刻 0 (原発からの放射性物質で地面が汚染された時)では(ベクレルで測って)同量の137Cs と 134Cs があり、両者からの放射線の強さ(Sv/h で測る量)の合計が p(0) だったとしよう。 すると、上の結果から、これのうち (1/3.7)×p(0) が137Cs から出ており、 (2.7/3.7)×p(0)が 134Cs から出ていることになる。各々の核種からの放射線の強さはすぐ上でみたように減衰していく。 よって、(やはりセシウムが飛んでいったり流れていったりしないとすると)セシウム全体からの放射線の強さは、両方の寄与を足しあわせた
p(t)=13.7p(0)2t/30+2.73.7p(0)2t/2
という減衰を示すことになる(ここで、時間 t は「年」の単位で測っている。2011 年 4 月 1 日あたりを起点にした経過時間と考えればいい)。
右の二つのグラフは p(t)/p(0) をプロットしたもの。 上のグラフをみると、始めの 10 年くらいで放射線の強さが急激に減衰し、そのあとはゆっくりと何十年かかけて減っていく様子がわかる。これは、半減期の短い 134Cs からの放射線がまず減衰してしまい、半減期の長い 137Cs からの放射線があとあとまで残ることを意味している。 下のグラフは始めの 10 年の様子。年の単位で順調に減衰していくものの、 137Cs からの放射線が消えずに残っている。
2011 年 4 月から何年かが経過したときの放射線の強さを表にしておこう。

経過年数123510203050
p(t)/p(0)0.780.620.510.370.230.170.140.09

つまり、いっさい除染をしなくても、放射性セシウムの減衰だけで、おおよそ 3 年で線量率は半分程度に下がることがわかる。

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2012年7月29日日曜日

粒子線とは



粒子線とは

放射線とは一般に電離能力を持った高エネルギー粒子の流れ(線束)のことです。光は最もよく知られた放射線の1つであり、特に波長の短い(エネルギーの高い)光をX線・γ線と呼びます。これらは、電離作用を起こすことから放射線治療に用いられます。

粒子線は高エネルギー粒子の流れで、やはり放射線の1つです。ここで言う粒子とは原子を構成している電子や原子核のことを言います。高エネルギー電子の流れは他の粒子線と区別され、電子線と呼ばれます。高エネルギー原子核の流れは単に粒子線と呼ばれています。粒子線には原子の種類分だけの種類があります(図参照)。原子核のうちで最も軽いものは水素であり、次に、ヘリウム、リチウム、…、と続きます。現在、治療に用いられている原子核は、水素原子核と炭素原子核です。かつて、ヘリウムやネオン原子核が治療に使われたこともありました。水素原子核は原子核の構成要素である陽子単体で出来ているので、水素原子核の流れを特に陽子線と呼んでいます。また、炭素原子核の流れを炭素イオン線といいます。

陽子より重い原子核を使った粒子線を重粒子線とか重イオン線とか呼ぶことがあります。陽子線を他の粒子線と区別する理由は、生物学的効果の違いに由来しています。生物学的効果とは同じ線量における細胞殺傷率の違いを表しています。陽子線の生物学的効果はX線や電子線とほぼ同じですが、炭素イオン線はX線・電子線の2~3倍の生物学的効果を持っていることから、重粒子線に分類されています。しかし、物理的観点からすれば、陽子線も炭素イオン線も同じ粒子線の仲間です。

放射線とは?

放射線とは?
放射線には、エックス線やガンマ線などの電磁波と、ベータ線やアルファ線などの粒子線があります。
放射線は物質と相互作用して、物質から電子を引き離す働き(電離作用)があります。
放射線はこの電離作用によって、生体に様々な影響を及ぼします。








2012年7月27日金曜日

ベクレルとシーベルトの関係


  • ベクレルとシーベルトの関係
    http://mizu-umi.world.coocan.jp/newpage11.html
    現実はまだ、厳しい状況ですが、
    http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2011/siryo34/siryo1.pdf 
    来年の高校の理科で放射線の授業が何十年振りに再開されます。
    どうも、地震前から決まっていたようです。
    そこで、シーベルトとベクレルの関係は、大学に入られる方なら、常識になるはずです?
    まず、ベクレルを測っているゲルマニウム半導体測定器は下記になります。
    http://jemima.or.jp/tech/5020305.html
    何百万から数千万し、とても、個人でも、小規模の団体でも購入できる代物ではありません。
    高校生向きに書かれた教科書的な資料は下記です。これぐらいは大人は理解すべきかと。
    http://radonet.servebbs.net/report/lect02.pdf
    この資料の問題点は、放射線源から、距離の2乗でμSV/hが小さくなることを測ると書いていますが、実際の数値関係が分からない点にあります。
    しかしながら、セシウム、コバルトがどのように放射線を出し、γ線としてはどの大きさの電子ボルトのエネルギー(1電子ボルト=1.6×10の-19乗ジュール、ジュール=ワット×秒)かが、分かります。両者でγ線の大きさは違うことが分かります。
    このエネルギーはプランク定数hという名の定数で持って、
    エネルギー=hν(νは振動数)なる粒子となって飛んで行きます。
    この式を考えた、プランクさんは偉人ですね。
    そのため、ガイガーカウンターでは、この粒子の数を数えます。上記、半導体(ゲルマニウム半導体)測定器でもこの数を数えます。
    エネルギーと振動数の大きさを比較した例が添付の理科年表に書いてあります。
    ゲルマニウム半導体測定器の場合、振動数毎に数を数えるので、どの成分の放射性物質がどれくらい含まれているかが分かります。その例が上記のゲルマニウム半導体測定器例のURLにも掲載されています。
    www.kankyo-hoshano.go.jp/series/main_pdf_series_7.html
     上記は、分厚い資料ですが、良く読むと後ろの方にチェルノブイリ原発や核実験での測定例があります。
    ここまでは、ベクレルを測れる測定器でどういうことをしているかある程度、分かると思います。

    そこで、ここからが、問題のベクレルとシーベルトの関係ですが、
    放射線遮蔽の教科書を見ると放射線源がコバルトの場合の例が示されています。
    何ベクレルのコバルトの放射線源が球の中心にあり、半径6mの場所で、何μSV/hになるかという例題が載っています。
    ベクレルは1秒間に何個の放射線を出すかになり、単位は数と秒です。
    シーベルトはジュール/kgで単位は、エネルギーを質量で割ったものになります。
    放射線源により、1個の放射線のエネルギーが異なることは、上記の通りで、ここに書いてある例題ではセシウムの場合の計算が単純にはできません。しかしながら、放射線のエネルギーの違いから換算することできますが、てっとり速くは、0.305という係数を0.0779に変えればいいことになります。

    そうすると100Bqのセシウム137が中心にあり、2cmの所でのγ線によるμSV/hは
    100/1,000,000×0.0779/0.02/0.02=0.019μSV/h

    多分、この計算であっていると思います。
    市販のガイガーカウンターの最小分解能は0.001~0.01のものがあるので、この計算に基づいて考えるとある程度、自分でも推測できるということになります。
    次に地上の多くの面積において、一様に放射能物質が分布していると仮定すると
    地上から、平行に放射線が飛んでいることになります。
    500kベクレル/m2=0.5Mベクレル/m2 あるとすると、
    セシウム137の場合、線量率定数は0.0779です(1Mベクレルあたり)。
    そうすると、500kベクレル/m2の場合、0.5*0.0779*4*π/2=0.25μSV/h
    になります。(4πは表面積の効果の分、/2は上下の分)
    コバルトの場合は、0.304なので、0.95μSV/hです。 1μSV/h =500kベクレルという下記ホームページの記載とほぼ合致します。http://takedanet.com/2011/06/post_bbeb.html
    市販のガイガーカウンタは放射線の数を数えて、セシウムの放射線のエネルギーの粒を捕えたと仮定し、シーベルトに換算しています。放射線のエネルギーの違いを区別しておらず、ここが、アバウトな所です。
    シーベルトとベクレル、両者は頻繁に使われるようになりましたが、その関係は、おぼろげにも、理解できますでしょうか? 上記計算式の0.079は、1秒辺り100個の661.7KeVのエネルギーのγ線を球面方向に発射し、半径1m上での球面上でのγ線のエネルギーの量を計算して(半径の2乗で減る)いくと求まりますが、それは次回の課題ということでしたが、 上記を計算していくと/kgという項が足りなくなります。 このためには空気の質量エネルギー係数(空気1kgあたり、どれだけのγ線のエネルギーを吸収するか)が必要になり、エネルギーによって異なる(放射性物質によっても異なることになる)とのことで、これ以上の検証は辞めておきます。

    (注)ネットにある情報は削除されることがあります。
  • 遺伝子組み換えと放射線
    また、福島県も外向きには安全をアピールしながら、実際の所、放射性物質が大量に降っていることから、安全とは言えません。米にしても、セシウムの暫定基準を下回ったとアピールして、安全を述べていますが、何かこれもおかしいと思い、遺伝子組み換えで調べて行くと下記のようにそもそも、食物に放射線を当ててはならない法律になっているはずです。これは、どう解釈したらいいのでしょう。

    ーーー下記から抜粋
    日本は、世界でも最も核による放射線被害を受けた国です。世界的に核拡散の防止、
    核兵器の廃棄が唱えられ、原子力発電の安全性が危惧されている一方で、原子力の平
    和利用の名のもとに、食品や虫、有用微生物への放射線照射が行われており、それを
    さらに拡大しようという動きが活発になっています。私たちは、こうした放射線照射
    が食の安全や環境保全、生態系に及ぼす悪影響についても考えてみる必要がありま
    す。

    参考文献
    http://axis-organic.com/essei/post-51.php
  • 放射線の法律
    文部科学省のホームページに掲載されています、
    「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」
    第31条に
    「何人も、次の各号のいずれかに該当するものに放射性同位元素又は
    放射性同位元素によって汚染された物の取扱いをさせてはならない。
    一、 十八歳未満の者」
    とあります。放射性同位元素とは、放射線を発する物質でセシウム等の
    放射線物質のことです。
    また、第52条に
    「第31条に違反したものは、一年以下の懲役、若しくは50万円以下の罰金に処し、
    又はこれを併科する」となっています。 これは、どう解釈したらいいのでしょう。

2012年7月25日水曜日

何故、ベータ線が内部被曝に有害? 放射線の飛程と放射能汚染の測定について


何故、ベータ線が内部被曝に有害? 放射線の飛程と放射能汚染の測定について

がんばる主婦てんままの日常日記より

福島原発事故から数日後、水道水から放射性ヨウ素131が検出されて、世の中が放射能汚染パニックに陥ってしまったのはみなさん良く覚えておられるかと思います。ヨウ素131は寿命(半減期)8日なので、さすがにもう消滅して放射能汚染の問題も落ち着いたと思ったら、今度はセシウム137が現れました。



どうしてこの時間差が生ずるのだろう?
セシウム137は寿命(半減期)が約30年と長いから、その放射能はヨウ素131のそれより約1400倍弱いはず。(原発から放出された放射性物質の数は同じだとした場合。)ヨウ素131さえ消えてくれれば、セシウム137による汚染はさほど問題にはならないだろうと、楽観視していました。そもそも原発から放出された量が違うのか、ヨウ素131は寿命が短いから地表にフォールアウトする前にほとんど消えてくれただけのことなのか?

いずれにしても、私たちは、寿命の長いセシウム137と末長く付き合っていかなければいけません。

つい最近では、規制値を超えるセシウム137を含んだ牛肉が流通してしまいました。近所の、小田急町田店でも扱っていたらしいのです。私は、ここで、てんちゃんの大好物の牛肉コロッケを買って食べさせたような気がします。問い合わせようかと思ったけど、何も張り紙もなかった。対応がおかしくないだろうか。もしかしたら、てんちゃんのお腹の中でベータ線がはじけているかもしれません。

ちなみに、75000Bqのセシウム137を摂取した場合、その後50年間に受ける内部被曝の量(預託線量当量といいます )1mSvになります。この値には、人体がセシウム137を生理的に排出することを考慮していないので、実際はこの値より小さくなります。たしか、汚染牛肉は1kg当たり多くて数1000Bqだったと思うけど、コロッケに入っている牛肉は100gということにすると、てんちゃんの預託線量当量は数μSvになります。
小さいからとりあえず安心!!
でも、これ、まったく意図しない被曝だから、安全であっても気分悪いです。ちゃんと検査してくださいよね。 でないと、〇〇産というだけで買うの控えます。

ところでですね、「牛肉1kg当たり数1000Bqのセシウム137を検出した」という感じで報道されますが、食品の放射能汚染は、つまりこの食品内のセシウム137はどうやって検出しているのでしょう?
知ってる方おられたらぜひ教えて頂けないでしょうか?
以前から疑問に思っていることがあるのです。


セシウム137(ヨウ素131もそうですが)はベータ線を放出します。
そのうちの約95%のベータ線のエネルギーは最大512keV、
残り5%のエネルギーは最大1.17MeVです(参考) 。

ヨウ素131の場合は、
約90%が最大600keV、残りが最大300keVです(参考)。
いずれも、最大数100keVと考えることにします。

ちなみに、「最大」というのは、原子核のベータ崩壊では
ベータ線といっしょにニュートリノを放出するので 
(2つの粒子を放出するので)、
ベータ線がニュートリノと数100keVのエネルギーを分け持つので、
最大で数100kevの エネルギーを持つことになります。
実際は、どういう分布で分け持つのでしょう?
古典粒子であれば質量で決まりますが、
ベータ崩壊(弱い力)はとっても難しくて わかりません。
とりあえず、
原子核のベータ崩壊により放出されるベータ線のエネルギーは
一意ではない、
スペクトルを見ると単色(モノクロ)でなく連続スペクトルになります。
この特徴は覚えておいてください。あとで、また触れます。

原子核から放出されたベータ線は、
物質中でそれを構成する原子や分子と衝突し、
それらの電離、励起、、、といった反応を繰り返し起こして 、
エネルギーを浪費し、完全に失うことで止まります。

放射線が止まるまでの移動距離を、「飛程」といいます。

ベータ線の飛程は、
水の中で数mm(空気中で数m)だったと記憶しています。
ただし、
セシウム137やヨウ素131のベータ線は
数100keVと若干典型的な放射線のエネルギーより低いのと、
上述の通り 、これはあくまで最大なので平均はより短いことになります。
ここでは、最大を考えた方がいいので、ベータ粒子の飛程は数mmとします。

ついでに、
放射線の単位飛程当たりに失う(物質に付与する)エネルギーを
「阻止能」と言います。
ベータ線(それ以上にアルファ線、さらにそれ以上に重粒子線)は、
阻止能が大きいのです。
つまり、
ベータ線は短い距離移動する間に多くのエネルギーを失うのです。
従って、ベータ線の飛程は短いのです。
上記のとおり、水中で数mm(空気中で数m)。
ちなみに、
アルファ線の飛程は、
水中で数0.1mm(空気中で数cm)といったところだと思います。
空気中での飛程を考えると、
ベータ線、アルファ線の外部被曝は
(ガンマ線ほど)気にする必要はないと言えます。
線源から数m、数cmも距離を置けば、届きませんから。

一方、
ガンマ線の阻止能は小さく、飛程は長いです。
(典型的にどのくらいとは聞かないですね。)
外部被曝ではガンマ線を特に重視しなければなりません。

ちなみに、飛程が短い場合、簡単に遮蔽できます。
アルファ線なら紙1枚、
ベータ線なら数ミリ程度のアクリル板だったかアルミ板で遮蔽できます。
飛程の長いガンマ線は厄介。
一般に、約50cmのコンクリート或いは約10cmの鉛で遮蔽します。
飛程が短いから遮蔽ができて、
私たちは、放射線に曝されることなく安心して暮らせるわけです。

この放射線の飛程は、
放射線の基本的な性質なので覚えてくださいね。
そして、飛程は阻止能の裏返しであることも覚えておくと、
内部被曝でなぜ
ベータ線(それ以上にアルファ線、重粒子線)が有害なのかわかります。

余談ですが、ふと疑問に思ったことですが、
セシウム137やヨウ素131が放出するベータ線は、
β^-線(電子)であってβ^+線(陽電子)ではありませんよね。
ずっと、気にしていませんでしたが。
β^+線(陽電子)だと、
物質中の電子と対消滅して約500keVのガンマ線を2本放出します。
さらに被曝しますが、この2本のガンマ線はとっても特徴的なので、
内部被曝の検査、つまり体内の放射性物質を検出するのに使えます。
PETと同じことができるので、精密な検査ができる、と思ったのですが、
β^-線(電子)ではできません。

話を戻しますが、
以前からの放射能汚染の検出方法の疑問ですが、
セシウム137(ヨウ素131も同様)もベータ線しか放出しません。
ということは、食品等の被検物内のセシウム137を測るのに、
それが放出するベータ線を測る必要があります。
でも、ベータ線の飛程は数mmと短いから、
被検物の表面から出てくるベータ線しか測れず、
内部からでてくるベータ線は
検出器まで届かなくて測れないということになるのです。
( ここでは、人体、食品はほとんど水が占めているとして考えています。)

だから、
厚労省はどうやって放射能汚染の測定をしているのか
疑問だったのですが、
先日の記事で紹介したように、
厚労省の「緊急時におけ る放射性ヨウ素測定法」というマニュアルがあって、
これに従うと、
ゲルマニウム半導体検出器を使って測定しているのだそうです。
ちなみに、
民間業者でもゲルマニウム半導体検出器、
或いはNaIシンチを使っているようです。
これらの検出器は、ガンマ線検出器 です。
なお、ただガンマ線を測定するのはなく、
ガンマ線のエネルギースペクトルを測定します。

ここで、不思議なのは、
セシウム137(ヨウ素131も同様)もベータ線しか放出しないのに、
厚労省はガンマ線を測定しているのです。
どうして?何を測っているの?
これは核データ(上の参考をご参照ください)を見ると、

セシウム137はベータ線のみ放出しますが、
それがベータ崩壊してできる
娘核バリウム137が662keVのガンマ線を放出します。

ヨウ素131の場合、
その娘核ゼノン131が361keVと637keVのガンマ線を放出します。

ガンマ線は飛程が長いので被検物の中から外に出てきます。
そのガンマ線を測定すれば、
被検物中のセシウム137やヨウ素131を検出できるということです。

ついでに、
原子核が放出するガンマ線のエネルギーはモノクロ(単色)なので、
検出したガンマ線のエネルギーを特定 できれば、
それを放出した核種を容易に同定することができます。
例えば、
662keVのガンマ線を検出したら、バリウム137を同定できます。
これは、セシウム137がベータ崩壊してできる 原子核なので、
セシウム137を検出できたことになります。
放射線のエネルギースペクトルを測定すること、
そのスペクトルから線源を同定することを、スペクトル分析と言ったりします。

これは食品等の汚染検査ではなく
環境放射能の測定としてのガンマ線スペクトルの測定結果です
(産総研のホームページに飛びます)。
2つ目の図、
「図 ビニールシート上に降下してきたほこりなどを、、、」がそうです。
細かいピークが、特定の核種から放出されたガンマ線であって、
同定された核種が図中に示されていますね。
662keVのところに
セシウムCs137(バリウム137)のピーク、
361keVのところに
ヨウ素I131(ゼノン131)のピークが確認できるでしょ。
また、ガンマ線の測定数(単位時間当たりのカウント数)を、
分岐比とか、、、を使って換算すると、
被検物に含まれる放射能の強度(単位時間あたりの崩壊数、
すなわちベクレル)が求められます。

放射線計測というのは、よく考えられているものです。
おもしろいと思いません?

このように、ガンマ線のエネルギーと数とから、
汚染物(核種)を同定し、
その量(ベクレルで表現)を求めることが できます。

ベータ線を測る必要はありません。
測ろうにも、
飛程が短いから被検物の表面から出てくるベータ線しか測れません。
それに、
(原子核のベータ崩壊に由来する)ベータ線のエネルギースペクトルは
連続だから、そのエネルギーが特定できず、
そのベータ線を放出した核種を同定することは難しいのです。
上のようなスペクトル分析ができません。

なお、
私は放射能汚染の測定の実際についてはまったく知りません。
上のことは、厚労省のマニュアルと、
物理学の基礎知識から予測しただけのことです。
でも、結構いい線いっていると思うのですが、どうでしょうか?
産総研のホームページで紹介されているガンマ線スペクトルより、
私の予想はずばり正解だと思うのですが。

そんな疑問を以前の記事に書きました。
そしたら、「とおりすがり」さんと言う方が、
こんなコメントを残して行きました。
(ついでに、ちゃんとハンドルネームを書くのが礼儀ではありませんか?
一定の者であることを表す必要があるでしょ。)
そのまま、書き写します。

『γ線測定しても意味無いですよ人体の内部被曝で有害なのはβ線です。
β線を測定出来る機械じゃなきゃ無意味ですし、
ヨウ素やセシウムみたいな核種の測定は
格納容器みたいな特殊な容器 に入れてで測定します。
簡易測定なんてありえないですよ』

私は、これを見て、拍子抜けしてしまいました。

『内部被曝で有害なのはβ線』、これはそのとおりです。
理由は、上で説明したように、ベータ線の飛程が短いから。
つまり、阻止能が高いからです。
短い飛程の中で高いエネルギーを
人体を構成する臓器・組織に直に付与するからです。
臓器・組織が局所にダメージを受けるわけですから。
アルファ線、重粒子線の場合、
ベータ線よりさらに阻止能が大きいから、
さらに狭い範囲に大きなダメージを与えます。
特に、止まる瞬間にそのほとんどのエネルギーを物質に付与します。
これにより、狙った標的、
例えば人体内のがん細胞をピンポイントで撃ち殺すことができます。
だから、放医研のHIMACのように、
放射線(重粒子線)を用いたがん治療に利用されています。

逆に、外部被曝の場合は、
体表面がベータ線を遮蔽してくれるので、
臓器・組織にまで届くことはほとんどないのです。
そんなに神経質にならなくてもよいかと思います
皮膚がんになるかもしれませんが。

ついでに、被曝について楽観的な私であっても、
ベータ線(さらにアルファ線)の内部被曝はぞっとするものを感じます。
(もっと怖いのは中性子。これは恐怖です。)
その発癌リスクがうんぬん以前に、
被曝していること、放射性物質を体内に摂取したこと気がつかないからです。

外部被曝であれば、線量計でモニタできるし、
衣服や皮膚に付着した放射性物質が
放出する放射線を検出したりすることで、被曝の事実を知ることができます。
気がついたら、線源から距離を置くことで被曝を回避できます。
でも、
内部被曝の場合、放射性物質を体内にいれたらもう終わり。
それが物理的・生理的に消滅するまで被曝し続けます。
ベータ線、アルファー線は飛程が短くて、体外に出てこないから、
内部被曝していることにすら気がつかずに。
セシウム137やヨウ素131なら娘核がガンマ線を放出してくれるので
まだ検出できますが、
ストロンチウム90はガンマ線を放出しないので検出できません。

放射性物質を体内にいれてしまったこと自体に
気がつかないことがほとんでではないでしょうか?
内部被曝は、
ホールボディカウンタを使う、
喉の粘膜や排泄物を検査することで、
体内にある放射性物質を検出して、
今後の被曝量を推定しますが、
いつどれだけの量の放射性物質を摂取したかわからなければ、
検出するまでの被曝量ははっきりわかりません。
また、
ヨウ素131については、もうほとんど消滅しているので、
それによる内部被曝はもう測定しようがありません。
ヨウ素131の崩壊により生じる寿命の長い娘核が検出できれば
可能性がありますが、核データを見る限り、そんな娘核はない。
国がなかなかふくしまの方々の検査をしないのは、
時間を稼いで、被曝量をごまかす狙いがあるのかもしれません。
私だったらそう疑います。

しかし、だから、
『β線を測定出来る機械じゃなきゃ無意味』。
どういうベータ線検出器を使うのか是非教えて頂きたいものです。
ベータ線検出器ってあまり聞いた記憶がないんです。
そして、飛程の短いベータ線をどうやって測定するのか?
ベータ線の飛程は数mm、
セシウム137やヨウ素131のベータ線の飛程はもっと短いと予想されます。従って、これらのベータ線は、ほとんど、被検物から出てきません。
どんな容器に入れようとも、ベータ線の測定は困難です。

それに、ベータ線のエネルギースペクトルは連続です。
ガンマ線のように単色にはなり得ません。
従って、ベータ線測定ではスペクトル分析ができません。
どうやって、核種を同定するのでしょうか?

なお内部被曝の検査に用いられるホールボディカウンタも
ガンマ線を測定します。事情は、上述と同じです。

『内部被曝で有害なのはベータ線、
だからベータ線を放出する核種を検出しなければ意味がない』
と言うのならよくわかります。
しかし、その検出方法はベータ線測定である必要はないのです。
むしろ、ベータ線測定は不可能です。
「内部被曝で有害なのはベータ線」
であることの上述した理由を理解していれば、
ベータ線の測定は困難だと言うこともすぐわかります。

『格納容器みたいな特殊な容器』、どんな容器でしょう?
格納容器と言えば、「原子炉の格納容器」です。
辞書、学術用語集を調べても、やはりwell definedです。
そんな特殊な容器にいれて測定する必要があるのですか?想像を絶します。

もしかしてこの緑色の容器(?)のこと?
産総研の装置(一番下の写真)にも薄緑の容器(?)があります。
他にそれらしい特殊なものはなさそうです。
ただ、これを
「容器(物を入れるうつわ。いれもの。)」とは言わないと思いますが。
なお、私なら、この大きさ、壁の厚さから、「金庫」とでも呼びます。
被検物が大事そうに中に入れられています。
これはバックグラウンド(自然放射能等)を遮蔽するためのもので、
数cm厚の鉛の壁で被検物を囲むのでしょうね。
規制値超えるかどうかの微量の汚染物が
放出する微量の放射線を検出しなければならないのだから、
ガンマ線スペクトル分析をするのなら特に高いS/N比を要するのだから、
厳重な遮蔽が必要です。
個人で測定する場合だって、
鉛のブロックで小さい空間を作って、
そこに被検物と検出器をおいて(のぞき窓も作って)測定すれば、
同じことができます。
全然、特殊ではありません。
(私も現役で放射線の研究をしていた時は、鉛のブロックで遮蔽しました。)
個人でスペクトル分析をするのは難しいけど、そんなことしなくても、
今私たちの環境に存在する放射性物質は
セシウム137のみと思っていい状況ですから、
ガンマ線を検出=セシウム137を検出とみなしてよいでしょ。

『簡易測定なんてありえないですよ』、
この方の言う簡易測定とは何でしょう?
数万円程度で簡易検出器、簡易線量計が販売されていますね。
実際、個人で購入して、食品等の汚染の有無を確認するかたもいますね。
検出精度が足りるか、
バックグラウンドに埋もれて役に立たないのではないか、
気になるところですが、
セシウム137やヨウ素131(の娘核)のガンマ線を測定できるので、
適切な行為です。
外部被曝のスクリーニング検査も
あなたの言う簡易検査に該当すると思いますが、
これも意味がないと言うのでしょうか?
よくGM管を使うのを見かけますが、
これ一応ベータ線も測れますが、
2.5MeV以上のエネルギーの高いベータ線が対象のようですよ。
セシウム131 やヨウ素131のベータ線はエネルギーが低いので、
もっぱらガンマ線を測定していると思われますが。

なお、これでも
「γ線を測定しても意味無い、β線を測定出来る機械じゃなきゃ無意味」
というのなら、実際にどういう検出器を使ってβ線を測定するのか、
どうやって核種を同定するのか説明してください、
とお願いしていることろです。

以上のことは先の記事でも、記載しています。
併せてご参照ください。 関連することあれこれ書いています。

最後に、高田先生の著書を紹介します。
以前の記事(「世界の放射線被曝地調査(高田純著)」を読みました: 被曝の危険と身の周りの危険、内部被曝の評価ナド)で紹介しましたが、世界の放射線被曝地調査 (ブルーバックス)が大変面白く、放射線防護の勉強になりました。
その一方で、今私たちが知りたいこと、知るべきことが端的にまとめられた放射線防護の著書はないものだろうかと思っていたら、 下の著書が出版されていました。
皆さん、放射線被曝について相当勉強されたかと思いますが、理解が断片的でいまいち理解した気がしないということはないでしょうか?この著書で理解を整理するとよいと思います。

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