放射線は身体にどのような影響を与えるか~福島第1原子力発電所事故を踏まえて~
2011年3月28日 第二東京弁護士会環境保全委員会 主催
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放射線は身体にどのような影響を与えるか
~福島第1原子力発電所事故を踏まえて~
講師 崎山比早子氏
(元放射線医学総合研究所主任研究官、医学博士、高木学校)
2011年3月28日
第二東京弁護士会環境保全委員会 主催
目次
挨拶
はじめに
1.放射線障害の標的、身体の設計図DNAとその合成 7
2.放射線によるDNA損傷、その修復とがんの発生 10
3.被ばく線量と発がんの関係 23
4.原発事故とヨウ素剤 27
環境保全委員会委員長:
福島第1原子力発電所で事故が起きて以来,放射能を放出して,野菜から
基準値以上の放射能が検出されていたり,それから,水から基準値以上の放
射能が検出されたりしていますが,テレビやマスコミでは,それを1年間食
べ続けても大丈夫であるとか,それから,水も乳児は飲まないほうがいいけ
れども,ほかに水がないときは飲んでも健康に直ちに被害はないというコメ
ントが多々なされています。そして,放射能の知識を持たない私たちとして
は,一体これが安全なのか危険なのか,頭が混乱してしまってよく分からな
いという状況もありますし,一体,放射能というのがどういうふうな機序で
体に害を及ぼすのか,そこが分かりません。また,放射能は無味無臭で,普
通に腐った食べ物を食べるのとは違って,食べたからすぐおなかが痛くなっ
て,これはいけないと分かって,みんなも食べなくなるというものではあり
ません。
そこで,この害から健康を守るためには,放射能の体に対する影響に関す
る正しい知識が必要であるということで,緊急に勉強会を開くことになりま
した。今日は,元放射線医学総合研究所主任研究官で医学博士の崎山比早子
先生においでいただいております。
今後の進行は,当委員会の委員である只野靖委員に任せたいと思います。
それでは早速始めたいと思います。
司会:第二東京弁護士会環境保全委員会の只野と申します。本日,緊急開催にもか
かわらず,予約が結構ありまして満員になると思いますので,できれば真ん
中のほうに詰めていただくか,荷物などを置いている方は膝の上にお願いし
ます。
この講演会の進め方について御説明します。崎山先生から講演を頂くわけ
ですが,テーマが,大きく分けて三つ,四つというふうに区切られます。何
分,専門的なことでもございますので,会場に質問用紙を用意しております。
質問用紙を回収する係の方が質問用紙も配っておりますので,今,受付で受
け取った方もいらっしゃるかと思いますけれども,随時質問を回収して私の
ところに持ってきてもらうことになっていますので,疑問点を残さないよう,
どんな小さな質問でも構いませんので,随時質問用紙に書いてください。質
問用紙が足りない方は,また挙手して質問用紙を追加でもらってください。
それから,この会は主として弁護士向けなんですが,一般の方も来られて
おります。撮影,それから中継も自由にやってもらうと。それからマスコミ
の取材も受けるということで自由にやってもらっておりますので,もし映り
たくないという方は,その旨ちょっとだけ,端っこに寄っていただくとか,
後ろのほうに寄っていただくとかということでお願いします。注意点として
はこんなところで,遅くとも8時までには終了する予定です。
では,崎山先生,よろしくお願いします。
はじめに
講師:皆さん,こんにちは。崎山です。よろしくお願いいたします。今日は,この
ようなところでお話しさせていただく機会を頂きまして,ありがとうござい
ます。私はこんなにたくさんの人の前でお話ししたことがありません。今ま
でこのような話題で集会を開いても,大体多くて100人ぐらい,大体40
人とか50人ぐらいですね。原子力発電所の事故が起こる前に,こういうこ
とをもっと積極的にやっていればなあと,すごく残念です。
今日は,もう放射能が出てしまっているので,これからお話しして,放射
線のリスクというものを皆さんに御理解いただいて,これ以上原子力発電の
事故が起こらないように,皆さんに是非協力していただきたいと思います.私は放射線医学総合研究所におりましたが,放射線はそれほど専門ではなくて,癌の研究をずっとやっていました。高木学校に入ってから必要に迫られて放射線の勉強を始めたというような具合で,御質問がたくさんあった場放射線は身体にどのような影響を与えるか
合に全部答えられるかどうか分からないですが,もし分からないところがあれば調べてからお答えしますので,どうぞ,分からないところはお聞きください。今の状況ですけれども,福島原子力発電所,ここからずっと放射線がいっぱい出ているわけですね。直接の放射線というのは,この近くに行かなければ浴びないわけです。距離の二乗に反比例して弱まります。ですから,ここの原発の近くで今たくさん放射能を出さないように働いていらっしゃる方は非常に危険を冒して働いていらっしゃるということです。それで,遠くにいる場合は,その直接の放射線ではなくて,原発から放出された放射性物質が風に乗ってずっと広がってくるわけです。それが風向きとか,そのときの天候によってどこに飛んでいくかわかりません。放射性物質は細かいチリになって雲のように飛んでいきますので,放射能雲と言われています。
放射線と放射性物質との違いが分からないという御質問があります。これ
はよく,電力会社や文部科学省の教材,子供たちに読ませる教材にこういう
説明があります。光と電球とにたとえています。放射性物質はその電球にあ
たり、放射線は光にあたると説明しています。これは怖がらせないというこ
とがその教育の目的だと思うんですけれども,放射線と光の違いを教えていません。放射線
は光とまるきり違う。光は体の中を通過しないですね。また幾ら浴びても光によって癌が
できることはないです。
これに対し,放射線の場合は体の中を透過し、がんに原因になります。
放射能と放射性物質という二つの言葉がよく使われますが, 放射能というのは放射線を
出す能力という意味で,一番初めにラジウムを分離したキュリー夫人がその放射線を出す能
放射性物質と言うことが多いです。つまり,放射能あるいは放射性物質は放
射線を出すものです。光と違うところは,放射線はDNAに傷を付ける点で
す。大量に浴びれば死亡する。少量の場合は将来発癌の可能性があるという
ことです。
これから,四つの項目に分けてお話ししようと思います。一つ目は,放射
線障害の標的になるもののなかで一番重要な体の設計図であるDNAがどう
いうふうに合成されているのかについて。二つめは,そういう大事なDNA
に放射線はどういうふうに損傷を与え,それが間違えて修復されたときにど
ういうふうに癌になるかということです。これらが基礎的なところです。そ
して,三つめが、実際的に放射線をどのぐらい被ばくするとどのぐらい癌が
できるか,線量とその影響の関係です。四つめとして,今非常に問題になっ
ている放射性ヨウ素による被ばくを防ぐためのヨウ素剤の話をしようと思い
ます。
1.基礎編~放射線障害の標的・身体の設計図DNAとその合成
皆さん御存じのように,私たちの体は,大人で大体60兆個ぐらいの細胞から
できています。しかし,最初は,1個の細胞からできるわけです。それは父親の
精子と母親の卵子が受精した一つの受精卵が分裂・分化していろいろな器官を作
って1個の体になるわけです。私たちの体はいろいろな器官があって,いろ
んな働きをする細胞がいます。その働きによって細胞の形も違います。そう
いうふうにいろいろ最終分化した細胞というのはそれぞれ違うんですけれど
も,それぞれの細胞が一番初めにできたその1個の受精卵と全く変わらない
分子を一つ持っています。それはお分かりになりますか?それがDNAなん
です。DNAは,こういう最初の受精卵にあったものと最終的に分化したいろいろな器官の
細胞と全く変わらない。
どうしてそういうことができるかについて説明します。
これは,細胞の模型です。細胞というのは,外界からこの細
胞膜で隔離されていて,その中にその細胞が分裂したり増殖
したりするために必要ないろいろな働きをする小器官があります。この中心
に核があって,その核の中にDNAが入っているわけです。この細胞の直径
というのは10から20ミクロンぐらいで,その核は6ミクロンから8ミクロンぐらいです。
そのDNAというのはどういう形をしているかといいますと,
二重らせん構造を取っています。二つのリボンのような背骨があり、糖とリン酸からできていま
す。それぞれの背骨から塩基が突き出していて,相手方の塩基と対になっています。これが二
重らせん構造です。この塩基はアデニンとチミン,グアニン,シトシンというこの四つの種類
しかありません。そして、アデニン(A)はチミン(T)と,グアニン(G)はシトシン(C)と対になりま
す。A-T,G-Cと,この塩基対というのはA-T,G-Cの2種類しかないんです。
人間のDNAというのは,大体32億塩基対があります。
その中にこのA-T,G-Cという塩基対がずっと並んでいるわけです。三つの塩
基で1つのアミノ酸を指定します。ですから,この塩基がどういうふうに並
ぶかによって,どういうアミノ酸がどういう配列で作られるか,どういうタ
ンパク質ができるかということの暗号がここに書かれています。細胞が分裂
するときにこれが正確に複製されて次の細胞に引き継がれていくわけです。
それがどういうふうになるかといいますと,これはタイムの表紙ですけど,ジッパーのように剥がれるわけです。一方が鋳型になって新しいDNA鎖が反対側にできるんですね。そのDNAができるときには,必ず一方が鋳型になっています。で,この塩基対というのは,Cは必ずGと対を作る。ですから,古いDNAの,鋳型になるDNAの配列に沿って新しいDNAができることで,間違いがない配列ができてくるわけです。Cの塩基に対しては,Gが入らなければいけないんですけれども,間違えてAが入ってしまうとします。すると、周りにはそういうDNA合成の間違いを見張って,間違いを見付けてすぐ直す,それを切り出して正しい塩基が入るまで切り出す酵素があって,常に正しいDNAが作られていくようになっています。
ですから,図の左が親のDNAだとしますと,これが上下二つに分かれる。
そして、一方では親のDNAの上の鎖を鋳型にして新しいDNAができる。
もう一方では親のDNAの下の鎖を鋳型にして新しいDNAができます。新
しく複製されたDNAは,必ず片方が古い鎖でもう一方が新しい鎖でDNA
の対ができます。新しいDNAの二重鎖は,元々のDNAの二重鎖と全く同
じなんです。こういう仕組みでDNAが複製されていきますから,最初にD
NAがあって,2代目,3代目,4代目というふうにずっと何回分裂しても,
この元々のDNAは,この親のDNAと同じになるわけです。このようにD
NAが変わらないということは,その体の恒常性を保つ上にすごく重要なことです。
2.放射線によるDNAの損傷,その修復とがんの発生
次ぎに、DNAに放射線がどういう影響を与えるかということについてお
話します。まず放射線の被ばくの仕方ですが,図の左側が外部被ばくです。
放射線の線源,すなわち放射線を出すものが体の外側にある場合を外部被ばくと言います。
今,原子力発電所からチリが出てきていますけれども,そういうところからはガンマ線が出て
きます。それからエックス線は大体医療放射線として使われているものです。
それから,中性子という粒が飛んでくるのが中性子線です。10年ぐらい前のJCO事故で
亡くなった方はこの中性子線をたくさん浴びて亡くなったわけです。
あと,ベータ線というのは電子の流れです。今,放射性ヨウ素というのが
問題になっていますけれども,これはベータ線を出します。
放射性ヨウ素は,甲状腺に蓄積されて中から甲状腺を被ばくさせて甲状腺癌
の原因になります。それから,アルファ線というのがあります。アルファ線
というのはヘリウムの原子核です。ヘリウムの原子核は大きくて2荷のプラ
スの電気を帯びていますので余り遠くへは飛びません。ですから,体の外にある場合は
ほとんど問題にならないですが,一旦これが体の中に入りますと,
細胞の破壊力は,ベータ線やガンマ線やエックス線の約20倍ぐらいあるんです。
ですから,アルファ線を出すプルトニウムなどを吸い込むと非常に危険だということです。
こういうふうに,体の中に一旦取り込まれて体の中から照射されるのを内部被ばくと言います。
外部被ばくの場合は,その線源から逃げることができます。遠くに離れるとか,
あるいは遮へいをするとか,そういうふうにして逃れることがでますが,
一旦体の中に取り込んでしまった内部被ばくというのは,もう逃れることはできない。
そこが外部被ばくと内部被ばくの大きな違いです。
今,マイクロシーベルトだの,ミリシーベルトだのと盛んにマスメディアでも話題に
なっています。では,1ミリシーベルトを体に浴びるということは,生物学的にどうい
う意味があるのかというと、これはマイクロドシメトリーという学問の分野で研究がされました。
先ほどお話ししたように,細胞の核の中には重要なDNAがありますが,
その細胞の核に平均して1本放射線が通る,そういう線量が1ミリシーベルトです。
これはすごく分かりやすいので,覚えておかれるといいと思います。
1マイクロシーベルトというのは、1000個に1個の細胞の核にこの放射線が通るということです。
逆に,1シーベルトを浴びたとすると,1000本,核に放射線が通るということです。
この間,被ばくされた労働者の方は2シーベルトとか6シーベルトを足に浴びたと
報道されていました。もし2シーベルトでしたら,足の細胞の核に2000本放射線が
通ったということです。平均してですから,核以外のところも通っています,
図には分かりやすいように核のところだけしか書いてありません。
もしそれがベータ線でしたら皮膚の表面の浅いところが傷付くだけかもしれないですが,
ガンマ線でしたら,深いところまでかなり傷付いているんじゃないかと心配です。
そこで,放射線が核を通ると,どういうことが起こるかということに入ります。
右の図は、DNAの分子構造です。先ほど言いましたように5炭糖とリン酸が連なって
背骨を作っています。その真ん中に塩基が突き出している。
対になっている相手方も同じです。一方がGなら相手側がC,AならTというふうになっています。
この結合のエネルギーというのは,化学結合のエネルギーでつながっているわけですこれは放射線のエネルギーに比べるともう格段に小さい,弱いエネルギーです。
この弱いエネルギーでつながっているDNAが例えば診断用のエックス線を浴びる。
診断用のエックス線というのは大体10万エレクトロンボルトぐらいで,
この化学結合のエネルギーの大体1万5000倍から2万倍ぐらいです。
そういう放射線がDNAをさっと通りますと,このDNAは簡単に切れてしまうわけです。
線量の違いというのは,この線が何本通ったかによるわけですから,
たくさん通れば細かく切れますし,少しだったら,それほど細かくないということです。
たくさん通ってDNAがずたずたに切れてしまうと,細胞はもう,それをつなぐのが
間に合わなくなってしまう。そのため細胞は死んでしまいます。
一番深刻な問題は、たくさん1度に細胞が放射線を浴びると,DNAがずたずたに
切れてしまうということなんです。こういうものを高線量被ばくと言います。
その場合は2本の鎖が同時に切れてしまうわけです。これを2本鎖切断と言います。
1本しか切れない場合は1本鎖切断と言います。この修復の違いというのは後でお話しします。
こういうふうにDNAがずたずたに切れてしまいますと,生物はそれを直
すことができませんから,同時に多くの切断がおこると死んでしまうわけで
す。どのぐらいから死ぬかといいますと,ほとんどもう助かる人がいないぐ
らいの線量というのは,6000から7000本の放射線が通る6シーベル
トから7シーベルトです。99.9パーセント以上が死亡します。10年ぐ
らい前に起きたJCO事故で2人亡くなりましたけれども,その方たちは1
7から20シーベルトぐらい浴びたと推定されています。50パーセントぐ
らいの方が亡くなるのは,3から4シーベルトぐらい。このように放射線を
たくさん浴びますと,浴びてからそれほど時間を置かないで症状が出てきます。
初めは気持ちが悪くなったり吐いたりという症状が出ます。ひどい場合は皮下出血とか
脱毛とか,それから便に血が混じるという症状です。これを急性障害と言います。
この急性障害というのは,どういう人が浴びても必ず起こることなので
確定的影響とも言っています。こういう確定的影響が起きる一番少ない線量,
これを急性障害のしきい値と言いますけれども,大体100から250ミリシーベルトと
言われています。確定的影響,急性障害の一番軽いのはリンパ球や白血球の減少です。
一時的に減少する。これはリンパ球や白血球を作る骨髄の細胞が一番放射線に
感受性が高いので,低い線量でもそういう症状が出ます。
それが急性障害のしきい値と言われています。
ところが,今朝の東京新聞では,いつの間にか上がってしまっていて,500ミリシーベルトが
リンパ球の一時的減少というふうに書いてありました。
こういう急性障害から回復されて健康を取り戻す方もおられるわけですけれども,
この放射線障害から回復するというのは普通の病気が治るということと全く違います。
それは、放射線を浴びる前の健康な状態をなかなか回復できないということなんです。
一見したところは正常に見えて,健康そうに見える。だけれども,いつも何かだるい,
仕事が続かないということで,一生そういう問題を抱えます。
急性障害に対し,晩発障害という後になって症状が出るものがあります。
低線量被ばくのときに問題になります。この
晩発障害は、被ばくした線量に応じて,
線量が多ければ多いほど発癌のリスクがある。ですから,
ずっと不安を抱えなければいけないということになります。
その疲れやすいとか仕事が続かないということは,よく原発ぶらぶら病とか
原爆ぶらぶら病というふうに言われています。そういう方々は,急性障害
から幸いにして回復しても,そういう後遺症をずっと持つということです。
JCO事故で亡くなられた方は、17シーベルトぐらい浴びた。被ばく後8日ぐらいですと,
皮膚はちょっと目には日焼けしたぐらいにしか見えません。
それが26日後は,まだ表皮が付いていますけれども,いずれは,
全部取れてしまって皮下がむき出しになって,じくじく出血したり,組織液がし
み出してきたりして,彼は毎日10リッターぐらい輸液と補液を繰り返しました。
83日間生きられましたが亡くなられました。 どうしてそういうことになるかということですが, 右の図は、皮膚を縦に切って横から見たものです。私たちの皮膚には,一番上にケラチン層があります。表皮の部分には血管もありませんから,皆さんも御経験があると思ますけれども,傷を付けても,この表皮のところだけを傷を付けては血が出ません。真皮まで傷を付けますと,そこには血管とかリンパ管とかがありますから,出血することになるわけです。表皮は,毎日垢としてケラチンが落ちています。このケラチンが毎日落ちていっても,私たちの皮膚が赤むけにならないのは,失われた細胞を補うものがあるからです。
皮膚の場合は,真皮との境に,表皮細胞の幹細胞というものがあります。
この幹細胞が分裂して上に上がり,ケラチンが落ちていくのと同じ速度で
補っていくわけです。ところが,放射線で幹細胞が死んでしまいますと表皮を
構成する細胞たちは,どんどんなくなっていくわけです。幹細胞から分裂して,
その失われた細胞を補う能力が全くなくなってしまうのです。
そのため全部皮下が出てきて,出血したり,組織液が漏出したりしていって,
JCOの方は,毎日毎日包帯を取り替えてもぐしょぐしょになるぐらいだったそうです。
これは皮膚だけの話ですけれども,骨髄も,それから腸管も,全部生体は
細胞が入れ替わっています。赤血球も白血球もそれなりに寿命があって死んでいくわけです。
それを補うために骨髄の幹細胞が分裂して,また,なくなった細胞の数だけ増やしていく。
それで,恒常的な細胞数が保たれているわけです。全身に被ばくしますと,
幹細胞も全部死んでしまいますから,失われた細胞を補うことができなくて死亡するわけです。
急性障害が起きないような線量, すなわち急性障害のしきい値と言われる1 0 0 から
20 0 ミリシーベルト以下の場合はどうでしょうか。そういう低線量を浴びた場合は,
数年から十数年後に癌になる確率が増える。癌は後から出てきますから,
急性障害の対として晩発障害と言います。
この晩発障害は,線量に比例して発生します。
また、必ず誰でも起きるというわけではなくて,起きる人も起きない人もいる。
放射線がどういうところを通ったかによっても,できる場合もできない場合もある。
そういうことで,発癌のリスクは確率的影響と言っています。
今,テレビでコメンテーターが、「直ちに影響が現れるような線量ではあ
りませんので安心してください」というふうに盛んにおっしゃっています。
それは,確定的影響,急性障害は起きませんよということだと思うんですね。
けれども,それで安心してくださいということは,何人かの発癌する人はま
るっきり無視していることだと思います。低線量では線量に応じて,後から
言いますように癌ができてきます。
この低線量の領域というのは,大体,皆さんのおなじみなのは医療被ばくです。
医療被ばくでは,例えば肺のCT検査を受けると大体10ミリシーベルト、
マンモグラフィだと0.4とかです。今出ている放射性物質で「10ミリシーベルトぐらい浴びたら,
CTを1回撮ったぐらいの線量よりは少ないから余り問題ありません」
というコメントをされる方がいらっしゃいます。
日本は世界で一番医療被ばくが多いんです。年間約1万人ぐらいが医療被ばくによって
癌になるんじゃないかという論文が出されたのがもう7年前です。
私たちは、医療被ばくが非常に問題だと言ってきているんですけれども,厚
生労働省は何の手も打っていません。それでも、医療被ばくの場合は
自分に選択権があるわけです。医療被ばくの正当化というのは,被ばくしてリスクはあるけれども,それによって病気を見付けたり治療方針を決められたりというメリットが患者さんにあるわけです。そういうメリットとデメリットを天秤に掛けて,メリットが多いなと,お医者さんが判断した場合に,
あなたは検査を受けなさいということを言ってオーダーするわけです。
ところが,
原発の放射性物質を私たちが毎日浴びさせられているのは,まるっきり選択権がない。
癌になるのは年輩の人です。子供は余り,もうほとんど,赤ちゃんとかが癌になるということは
ほとんどないわけです。そういう年齢の区別もなく, 一様に被ばくさせられているという状況と,
この医療被ばくと線量が同じですというふうに言って, 心配ありませんというコメントをする人の
神経がちょっと分からないという感じがします。
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低線量の場合は,先ほどの高線量のように,ばあっといっぱい放射線が通るわけではありません。右の図のように1本通る場合は2本鎖が同時に切断されて2本鎖切断ということがあります。
たまたま,通らない場合もあるし,片方しか傷付かない場合もあるわけです。そういう場合を
1本鎖切断と言います。この放射線が1本通った場合と1000本通った場合とで,
一つ一つの出来事の質は同じです。このところをよく理解していただくと,後からお話しする
放射線の被ばく線量と発癌のリスクの関係というのが御理解いただけると思います。
1本鎖切断は,先ほどDNAを複製するとき,相手方が鋳型になると言いました。
一本切断は、左の図のなかの左側です。この傷のときもですね,放射線で傷が付いて,
Cの塩基が取り除かれたとき,空いたところに何が入るかといいますと,
相手方はGですから必ずGと対になるCが入るわけです。
紫外線も時々DNAに傷を付けます。紫外線で傷付いた場合は,図面の右側の下から二つ目の
絵のように傷の前後を長く切り出してしまいます。こんなに長い隙間が空くんですけれども,
正常な人は、相手方にきちっとした鋳型がありますので,間違えることなく直すことができる。
欠損した長い傷を正しく直すことができるんです。
ですから,1本鎖切断の場合はほとんど発癌の心配はないと言っていいんです。
ところが、2本鎖同時に切れてしまいますと,相手方に鋳型になる塩基がないわけです。
DNAが切れっぱなしになっていると細胞は死んでしまいますので,
細胞はこういう切断ができると急いでこれを直そうとします。直すときにその鋳型がありませんから,
切れた端と端をつないでしまうわけです。
そうすると,切断部分にあった塩基が欠損します。
そのため,塩基配列が変わって,ここに変異が起こるわけです。
2本鎖切断のときに必ずこの間違いが起こるかというと,そうではなくて,
相同組換えという複雑な組換え方式で正しく直す機構もあります。
塩基配列が変わる場合と正しく直す場合とどっちが多いかというと,
塩基配列が変わる場合のほうが多い。細胞の時期がどういう状態にあるかにもよりますが,
2本切断はこの間違いを起こす危険性が多いのです。
それでは, その2 本鎖切断が癌になるんだった
ら, 放射線のどのぐらいの量でその2 本鎖切断が起こるのかなということが問題となります。これは長い間, 低線量の場合は2 本鎖切断は起きないと言われていたんですが,そうではないことを2003年に発表された論文で2人の研究者が,実験して証明しました。彼らが使った一番少ない線量は1.3ミリシーベルトです。図にはGy(グレイ)と書いてありますけれども,これは吸収線量で,実験で使用されたエックス線の場合はグレイ=シーベルトですから,シーベルトと考えて結構です。彼らは、1.3ミリシーベルトで,2本鎖切断が起こることを証明しました。それから,その線量をずっと上げていきますと,直線的にこの2本鎖切断の数が増えていきます。すごくきれいな実験結果です。誤差は直線上の小さな丸の中におさまっている。このように2本鎖切断が線量に比例して直線的に増えることが,
後でお話しする放射線の線量と,それから発癌の関係にしきい値がない。
放射線に安全量は存在しないということの証明だと私は思います。
まとめると,左図のように放射線が
DNAに傷を付ける。それで,突然変異を起こす。
それから,もう一つ大事なことは
一旦こういう傷を受けますと,
たくさんの遺伝子が変化して,それが積みかさなって癌になる。
これを発癌の多段階説と言っています。この説は癌の研究者には一般に認められていることで,
最近の論文では,1個の癌で200個ぐらい遺伝子が変わっているという報告もあります。
ですから,癌というのはいろいろな遺伝子の変化によって起こるわけです。
最初に,例えば放射線によってその変異が起きる。この突然変異と,その遺伝的不安定性があり,環境には自然放射線もありますし,いろいろな環境の発癌物質もあります。
そういうものの影響を受けて,一つ一つ遺伝子が変わっていって,
最終的に癌になる。こういう段階を上がるのにはかなり時間が掛かります。
それで長生きすればするほど,そういうことが多くなります
から,老人に癌が多いというのはこういうことだと思います。
Q&A
司会:
質問が幾つか来ておりますので,取りあえず,ここまでのお話で関係しそうな質問ということですね。まず,文部科学省などが発表している1時間当たりXミリシーベルトなどという外での放射線量の
計測値が人が外に立っていたらその人が受ける被ばく量にそのまま換算できる値なのかどうか。
それとも,その人の面積などで,面積というか体積というんでしょうかね,が影響する,
そういうその体積などによって変わってくることがあるかどうかといった質問が寄せられています。
先生のお話の中で,ミリシーベルトというものの総量と,
よくテレビで言っている時間当たり何ミリシーベルトというような御説明がちょっと今日,
冒頭のところでなかったかなと思いますので,その辺を踏まえてお願いできますでしょうか。
講師:要は時間当たりの線量ですね。時間当たり何マイクロシーベルト,
20マイクロシーベルトとか言っていますけれども。そうすると,1日いれば,それの24倍,
1年いればそれに更に365を掛けるということで,全部掛けた量が被ばく線量になります。
1グレイというのは,1キログラムの物体が1ジュールのエネルギーを吸収したときに
1グレイといいます。その線量は、太った人だから,大きい人か小さい人かというのは関係なくて,
目方当たりです。
それから,感受性ということになりますと,また話は別で,
胎児から子供,青年まで細胞分裂が非常に盛んな個体というのは,
頻繁に細胞分裂しています。DNA合成の頻度が高いわけです。そういうときに,
DNAに傷が付くと,細胞はその傷を見付けてDNA合成をストップさせるんです。
普通は傷を治してまた次に行くという形になるんです。だけれども,余りに細胞分裂が盛んだと,
そこが余りうまくいかないということがあるんだと思うんです。
そのために細胞分裂の盛んな人は同じ線量でも間違いが起きやすく感受性が
高いということになります。
司会:
続けまして,質問がたくさんあるんで,似たような質問についてはちょっと共通ということで
させていただきますけれども,国の現在の基準では一生食べ続けても影響ないという数値で,
まあ食物のことですね。定められているということなんですが,今の先生のお話では,
体内に取り込まれた物質が発する放射線の影響,内部被ばくが考慮されているかどうか不明,
分からないと。その点についてはどういうふうに考えればいいんでしょうかということですね。
講師:
その一生食べ続けても影響ないというのは,さっき言いました,これは一番最後のほうに
話そうかと思ったんですが,放射線のエネルギーというのは非常に大きいものであって,
化学結合のエネルギーとはもう比較にならないほど大きい。
幾ら少なくても,DNAを傷付ける可能性はあるわけです。
その確率は線量が少なければ少ないほど下がりますけれども,
DNAを傷付ける機会というのはあるわけです。ですから,DNAが傷付いたときに,
正しく治されればそれでいいんですけれども,治されないと変異が起こる。
で,変異が起こったときに,それが,変異は元に戻りませんから,その細胞が生きていれば,
ずっと体の中に残るということで,放射線のリスクというのは蓄積していくわけです。
そういう意味から言うと,自然放射線は私たちはもう避けることはできないんですけれども,
それ以外の放射線はできるだけ避けたほうがいい。それは当然なんですね。
だから安全ですという安全量は存在しないですから,
ここまでは大丈夫ですよというふうに言う基準というのは,社会的とか経済的な基準であって,
生物学的な基準ではない。
例えば1万人に1人とか10万人に1人癌になっても,それぐらいは我慢してもらって
食べてもらいましょうというような感じで基準値を設けるわけです。
司会:
もう1問だけ。放射性ヨウ素の半減期間が8日間であると言われているんですが,
これは内部被ばくとその半減期間というのはどういう関係になるんでしょうかという質問です。
講師:
それは,一番最後に,原発事故とヨウ素剤ということでお話しします。
司会:
そのときにお願いします。たくさん来ていて,多分全部さばききれないと思いますが,
よろしくお願いします。では,続きです。
3.被ばく線量と発がんの関係
講師:では,被ばく線量と発癌の関係ということでお話しします。
上図は, 世界中で認められている結果ですけれども, 広島・長崎の被ばく者を
8 万7 00 0 人ぐらい集めて, 戦後6 0 年以上にわたって追跡調査をしています。
その結果が今のところ世界で一番その線量と発癌の関係を見るために信頼されているデータです。
そのデータで,どのぐらいの
低線量まで発癌が見られているかということを見た論文から取ってきた図です。これは横軸が線量で縦軸がどのぐらい癌になるかということです。疫学調査で分かっている広島・長崎のデータでは, 大体2 0 から50 ミリシーベルトぐらいですと,確かに発癌があるということが分かります。何ミリシーベルト浴びたらどのぐらいの人が癌になるか。これは疫学調査で得られた結果です。それよりも低い場合は,母集団をすごく大きく取らないと出てこないんです。疫学調査で発がん率が上がっている最低の線量というのは明らかになっている。論文にもよりますけれども,10ミリシーベルトから50ミリシーベルトだとこの論文では言っています。それでは、疫学調査で分かった結果からゼロまでをどういうふうに線を引いていくか。どういう外挿をするかということですけれども,五つモデルがあります。
一つは,しきい値がない。これ以下だったら安全だという,
そういうしきい値のない直線モデルaです。ゼロから行く直線モデル。
これがしきい値なし直線モデル。
それから,低線量のほうが線量当たりのリスクが大きいんだという実験結果があります。
そういうものを採用すれば,上に凸の曲線bが引けるわけです。
それから,もう一つは,広島・長崎の白血病のデータですが,線量が低くなると,
線量当たりのリスクが少ないということで,下に凸の曲線cを引くというモデル。
それから,もう一つはd,この線量以下だったら,もうリスクはありません。
今盛んにテレビで言われているこの線量以下だったら大丈夫と。
そういうのをしきい値として,しきい値ありの直線モデル。
それから,もう一つはe,ホルミシスという言葉をお聞きになったことがある方もいらっしゃると
思うんですが,体にとって毒性のあるものでも非常に微量だったらかえって体にいいんだという考え方です。
それがホルミシスの考え方です。このホルミシスというのは,よくラドン温泉とか
何とか行って健康にいいとかいう。このホルミシスは一時盛んに言われました。
しかし,アメリカの科学アカデミーから低線量電離放射線の生物影響という報告書が出され,
それにはもう全く根拠がないと書かれています。このごろはホルミシスも余り言われなくなりましね。
この五つの考え方ですけれども,国際的な合意はaです。
しきい値なし直線モデルが国際的に合意されたモデルです。
ですから,国際的な合意が得られている外挿の線というのは,しきい値なし直線モデルです。
このモデルで線量当たりどのぐらいの癌になるかというと,1万人の人が1ミリシーベルトを
同様に浴びたとすると,その中の1人が癌になる。
10ミリシーベルトを浴びると10人,100ミリシーベルトを浴びると100人,
要するに100人に1人が癌になるというモデルですね。
国際放射線防護委員会というところが,こういうモデルに従って
放射線防護をやりなさいという勧告をしています。
国際放射線防護委員会は,どちらかというと,線量のリスクを低く見積もっている傾向があります。
個人の研究者で,この7.5倍ぐらいのリスクがあると言っている人もいます。
でも,一応,国際放射線防護委員会が出しているリスクなので,日本の政府が今,
事故があって公衆の健康を考えるならば,このモデルに従って,放射線を浴びないように
住民を避難させるようにしなければいけないんだと思います。
それで,前もって頂いた御質問で,線量率のことですが,例えば10ミリシーベルトを
一度に浴びた場合と20マイクロシーベルトずつずっと浴び続けて10ミリシーベルトになった場合と,
どっちがリスクが高いのかということです。
その単位時間当たりの線量を線量率と言います。
広島・長崎の被ばく者は,一遍にぱあんと,ガンマ線なり中性子線を浴びたわけです。
全量を一瞬に浴びたわけです。そういう場合は高線量率です。
低線量率というのは,例えば私たちが,日本でしたら1年間で大体1.2
ミリシーベルトぐらい自然放射線を浴びています。内部被ばくも加えてです
ね。そういうふうに長い時間を掛けて少しずつ浴びるのを低線量率といいます。
旧ソ連がアメリカと核開発競争をやっていたときに,原爆を作るためにいろいろな放射性物質を
テチャ川というところに住民に知らせないでこっそり流していた。住民はそれを知りませんから,
そこにいる魚を食べたり,牛なんかはそこの水を飲んだり,長い間,外部被ばくと内部被ばくをずっとさせられていた。こういう場合も,やっぱり低線量率です。広島・長崎の場合は高線量率。
低線量率の場合は,
一般に,高線量率よりも線量当たりのリスクが低いというふうに言われています。
それで,広島から得られたリスクに,低線量率だからということで2分の1を掛けたのが
ICRPのモデルなんです。しかし,2分の1を掛けるか,あるいは1なのか1.5なのかということは非常に議論があるところで,同じという人もいますし,1.5分の1だという人もいるんです。
でも,一応,国際放射線防護委員会ICRPは,その2分の1というファクター,
広島・長崎から得られたそのリスクに2分の1を掛けてモデルを作っています。
だけれども,テチャ川の流域の人,これが随分,もう時間がたって,癌がたくさん出ています。
この流域の人のデータは,広島・長崎の2倍です。
それから,国際的に15万人ぐらい原発労働者を追跡調査したその調査結果も,
線量当たりのリスクというのは,この広島・長崎の倍になっています。
ですからICRPのモデルは過小評価の可能性もあります。
4.原発事故とヨウ素剤
それで,今度は,その原発事故とヨウ素剤の話です。
放射性ヨウ素がたくさん飛んできていますね。それは甲状腺に溜まります。
どういう経路を通るかというと,その汚れた空気を吸った場合は,
気管,気管支,肺,こういう呼吸器系統から血液の中に入る場合と,それ
から,ほうれん草と牛乳とかが問題になっていますけれども,そういう放射性物質で汚れたものを食べることによって取り込む場合は,消化管から放射性ヨウ素が吸収されて血液の中に行きます。血液の中に入った放射性ヨウ素は甲状腺に行きます。なぜ甲状腺に行くかといいますと,甲状腺は体の成長とか代謝に必須の甲状腺ホルモンを作っています。この甲状腺ホルモンを作るためにはヨウ素が必須なんです。ヨウ素がないと甲状腺ホルモンができない。ですから,甲状腺はヨウ素があるとそれを取り込みます。放射性であるかないかという性質は区別できません。それで取り込まれてしまうわけですけれども,血液の中に吸収された量の大体10から30パーセントが甲状腺に行くわけです。甲状腺で取り込まれないものは,大部分が尿から排泄され,あ
とは便からも排泄されます。
この甲状腺に放射性ヨウ素が取り込まれないようにするためには,安定ヨ
ウ素というものを飲んでおけばいいわけです。それがヨウ素剤です。ヨウ素
剤を飲んでおいて,血液の中の安定ヨウ素の濃度を高めておくと,放射性ヨ
ウ素の濃度が希釈されますね。その希釈された分だけ,この甲状腺への取り
込みを抑えることができるわけです。それで,ヨウ素剤をいつ飲むと効果的
かといいますと,その放射性ヨウ素を取り込む24時間前から大体同時ぐら
いまでにヨウ素剤を飲んでおけば,その甲状腺への放射性ヨウ素の取り込み
を93パーセント抑えることができる。2時間後ですと80パーセントにな
ってしまいますし,8時間後ですと40パーセントに落ちてしまう。24時
間後ですと, もうほとんど
効果がない。そこで、放射性ヨウ素を取り込まないために, 安定ヨウ素剤を飲むのが大切なんですけれども,そのタイミングというのがものすごく重要です。後から飲んだんでは, 7 パーセントしか阻止しないということになってしまうんですね。このいつ飲ませるかということを決める基準が,空気の中の放射性ヨウ素の量です。1立方メートル当たり4200ベクレルの放射性ヨウ素があると,その空気を24時間吸っていると甲状腺の被ばく線量が100ミリシーベルトになると予測される。そこで,この100ミリシーベルトになると予測されたときに配布をしなければいけないんです。まあ,それはその原子力安全委員会が決めたことです。配布する場所は,その避難所です。この100ミリシーベルトというのは,日本,フランス,イギリスが採用している線量です。
WHOは10ミリシーベルト,子供が特に感受性が高いですから,
子供の甲状腺の被ばくが10ミリシーベルトぐらいになると予測されたときに飲ませるのが
望ましいとWHOは言っています。
先ほどありました半減期ですが,ヨウ素は物理学的な半減期,このヨウ素自体が放射性ですから崩壊していくわけです。その放射性ヨウ素が半分になるのが8日。で,体内の半減期が大体7.5日。ですから,ヨウ素が入ってから1週間ぐらいで半分になるぐらいの見当です。今,放射性ヨウ素とセシウムが言われていますけれども,セシウムというのは,物理学的には自分で崩壊して半分になるのが30年かかります。体内ではある程度代謝されて大体100日ぐらいで半分になる。プルトニウムという元素がありますけれども,この元素はアルファ線を出して非常に危険な元素です。この原子が半分になるのが2万4000年ぐらいかかる。これが吸い込まれると大体肺に溜まって肺癌の原因になるんですが,これを排出するというのがなかなか難しくてまあ一生出ない。ストロンチウムというのは骨に溜まるんです
けれども,これは今のところ,建屋の中では出ているみたいですけれども,
こちらのほうに飛んできたという報告はありませんね。
これはやっぱり骨に溜まって骨癌の原因になるわけです。これが半分になるのが18年ぐらいです。
ヨウ素剤をどのぐらい
飲ませるかということで
すが, 新生児と3 歳までの子供は丸薬を飲ませるのが大変難しいので, ヨウ化カリウムの水溶液を作って飲ませる。体重に応じて少なくなっています。3 歳から1 3 歳までは38mg,13歳から40歳は100mgとなっている。3歳から13歳までは,ヨウ素剤が1錠です。13歳以上の大人,40歳未満は2錠。40歳以上の人には配布しないと決められています。なぜ配布しないかといいますと,40歳以上は余り甲状腺癌にならないという報告がなされています。国によっては45歳までは投与すると決めているところもあります。日本でも甲状腺の線量が5シーベルトに達すると予測されたときは40歳以上でも投与することになっています。その5シーベルトといったらものすごい量なんですけれども,そういう量の放射線が甲状腺に溜まると,その放射線によってベータ線を出しますから,それによって甲状腺細胞が殺されてしまうわけです。
そうすると,甲状腺機能がなくなると困るというので,それを防ぐために,大人の場合は
5シーベルト以上になると予測された場合は40歳以上でも与えると決められています。
何シーベルト以上にな
ったら与えるかというのは,国によって随分違うわけです。フランスは日本と同じです。それから,イギリスも全年齢100ミリシーベルト。アメリカは州によってかなり違う。ドイツは50ミリシーベルト。ベルギーは19歳,妊婦は50ミリシーベルト,20歳以上は100と決まっています。特徴的なのはフランスです。フランスは5キロ以内の圏内にいる家庭には,全部,家庭配布をしているんです。事故がなくても家庭に配布して,いざというときに自分で飲める。5キロ圏内は学校にも配布しています。5キロから10キロ圏内は,学校、保育所に配布していて,希望すれば自分で薬局からもらえることになっています。
日本は,こういう家庭配布は全然やっていないんです。
避難所で与えるということになっています。
そのヨウ素剤の副作用についてです。ヨウ素剤には副作用があるから副作用のリスクと,それからヨウ素剤を飲んで癌を逃れるというメリットと天秤に掛けて,それでメリットの多いときに与えるべきだというようなことを言っている先生方もたくさんいらっしゃるんですが,ヨウ素剤ぐらい副作用のない薬はないんです。私は余り知らなかったんですが,なぜこういう情報を得たかといいますと,原子力安全委員会,のヨウ素剤検討委員会が6年くらい前にありました。そのときにずっと傍聴していて,委員の先生方がどういう発言をされたかということを覚えています。その検討会には,甲状腺疾患の専門医がたくさんいらしていました。その先生方の御意見ですと,自分がヨウ素剤を患者さんに処方するときに,「副作用を心配して注意を与えたことはない」という発言をしていらっしゃいました。本当に,まあヨウ素とい
うのは甲状腺ホルモンに必須のものですから,これにアレルギーがあったり
したらすごく大変なわけです。ヨウ素にアレルギーというのは,大体がヨウ
現にチェルノブイリ原子力発電所に事故があったときに,ベラルーシは全然ヨウ素剤を
配布しなかった。あそこはすごく子供にも甲状腺癌がたくさん出ました。
ポーランドではすぐ配布しました。1050万人に配布して副作用の報告はありません。
ですから,ヨウ素剤というものの副作用というのはほとんど考えなくてもいいんです。
ただ,甲状腺機能の正常ではない方とかは悪化する可能性もあるかもしれない。
でも,そません。そのような場合も,ヨウ素剤をやめれば元に戻ります。
ただし、幼児や子供が連用すると甲状腺機能低下をおこす可能性がありますから、
連用は避けて3日から4日の間隔を開けた方が良いです。
例えば,風邪薬とかワクチンとか1000万人に与えて全然副作用がなかったというようなものは
余りないです。そういうものに対して副作用を言っていらっしゃるというのはすごく,
まあ政治的な意味があるんじゃないかなという感じはありますね。
Q&A
司会:
では,ここで一旦切って,質問をと思います。
ただ,大体お答えいただいているんではないかと思います。
今回の事故の副次的影響で,低線量によって発生リスクが高まる癌の種類は何か特別なものがあるでしょうか、それとも,ある特定の種類の癌が特に発生するんでしょうか、という質問です。
講師:
それは放射性ヨウ素の場合は甲状腺癌ですね。まだ見付かっていないから,
心配する必要は今のところないと思うんですけれども,
ストロンチウムが出てくると骨癌。
それからプルトニウムは,まあ,こんなところまでは飛んでこないと思うんですが,
プルトニウムですと肺癌になるということはあります。
司会:
もう1点だけ,関連しますが,ヨウ素剤を飲むと,そのヨウ素が甲状腺に溜まる,
癌はまあ抑えられるかもしれない。ただ,それ以外の放射性物質はたくさんありますね。
特に今セシウムが見付かっていますが,こういうものを予防するような手だてはあるんでしょうか。
講師:
放射性物質で唯一防げるのはヨウ素だけです。
ヨウ素剤を幾ら飲んでも,セシウムとかストロンチウムとか,ほかの放射性物質に対しては
全く効きません。ヨウ素剤だけなんです。ですから,これを適当な時期に配布して甲状腺癌を
防ぐということは,もう本当に唯一できることです。
それから,まあ,その放射性物質があるところから逃げる,これしかありません。
司会:
ちょっと前のお話に戻るんですが,2本鎖切断というのが1.3ミリシーベ
ルトだということなんですけれども,これは蓄積された線量なのか,それと
も1時間当たりの線量でそうなるのかという質問です。
講師:いや,それは1.3ミリシーベルトが通ったときに,そのときに切れる量です。蓄積ではありません。
司会:総量で1.3ミリシーベルトが通ると切れるということでよろしいんでしょうか。
講師:
ええ。その実験はエックス線を使っています。細胞を培養しておいて,
そこにエックス線をぱっと掛けるわけです。そのときに1.3ミリシーベルトですと,
大体24個に1個ぐらいの細胞に1個2本鎖切断が起こるということです。
司会:
何か微妙に被る質問が多いんですが,CT検査で10ミリシーベルトという場合には,
特定の部位に対して被ばくということと思われるんですが,空気中で10ミリシーベルトと
されている場合と,その両者の危険度の違いというのはあるんでしょうか。
講師:
10ミリシーベルトを浴びるということはですね,CT検査の場合は身体の一部,胸のCT検査ですね。
その部分のリスクがあるわけで,今,外側,環境が汚れて全身に浴びるという場合は,
全身にその10ミリシーベルトなら10ミリシーベルトをあびるということです。
司会:同じということですか。
講師:
それはですね,実効線量というのがあって,計算がちょっと違うんです。全身一遍に浴びる場合と,
その部分的に浴びる場合とはちょっと違います。
司会:
これで最後にしますが,内部被ばくに関して,食品や水などで言われている単位のベクレルを
シーベルトに換算する式があったと思います。
内部に放射性物質を取り込んだ場合,物質が体内にとどまる限りずっと放射線を
出し続けるということですが,長期換算式で算出した被ばく量は,食物などにより体内に入った
放射性物質が放出し続けるすべての放射量をカバーする値となるのでしょうか。
講師:ええ,それはそうだと思います。
右図はその式ですけれども,食
品汚染,キログラム当たり何ベ
クレルというふうに出ていますね。それにその摂取した量を掛けると体内の取込み量になります。その取込み量に0.01を掛けて,線質係数というものを掛けます。この線質係数というのは放射性物質によって違います。ヨウ素131の場合は1.4,セシウム137の場合は1.4,それからセシウム134の場合は2.0。ヨウ素の場合,131でも気道から入った場合と食事から入った場合で,この線質係数が変わります。代謝,その元素の半減期,体の中でどういう挙動をするかということを考えてきめたのがこの線質係数です。その線質係数を掛けたものが被ばく線量,マイクロシーベルトということになります。
司会:
ちょっと多いので,今のうち紹介しておきたいんですが,環境中の放射線の
数値が原発事故前のレベルになかなか下がりません。
これは既に土地が汚染されているということなんでしょうか。
放射性ヨウ素,セシウムなどが浄水場で検出されてから活性炭を投入しているということですが,
数値は下がっているのですが,活性炭が放射性物質を吸着するものでしょうか。
講師:これは,テレビを見た知識ですけれども,活性炭は余り効果がないということです。
よく実験に使う逆浸透膜というものがあります。水道水をそのまま実験に使えませんから,
イオンや何かを除去するために逆浸透膜というのを使います。
それから海水を真水に変えるときにも使います。そういうものを通せばヨウ素も取り除かれる。
ですけれども,これを家庭で使うということはとても無理です。
ものすごく圧を掛けなければ出ませんし,ポンプが大変です。ですから実用的ではない。
司会:
最後に,海などに放射性物質が随分高い値が出ているということですけれども,
今後近海で採取された海産物について摂取しても問題ないだろうかという質問です。
期間や年齢など様々な要素もあって簡単に説明できないと思いますけれども,
もし大まかな説明ができればお願いしたい。
講師:それは汚染の程度によると思います。ほうれん草とか牛乳とかの規定値以上ですと,
もう食べさせない。それから飯舘村でしたか,もう収穫もやめさせたというニュースが
入っていましたね。もうすごく土地が汚染されていると思うんです。
放射性ヨウ素の場合でしたら8日たてば半分になるし,16日たてば4分の1になって,
どんどん減っていくと思います。セシウムで土地が汚染された場合,チェルノブイリの原発事故で
広範にまかれたのがセシウムで,今も問題になっています。
ウクライナの穀倉地帯はそういうセシウムで汚染されて,もう農業ができなくなっています。
ですから,そういう程度に,もしセシウムで日本の土地が汚染されるようになったら
農業ができなくなるという,そういうこともあると思う。
今は非常に高いレベルの放射性物質が海に垂れ流されている。
海水の放射性ヨウ素とかセシウムの濃度がどんどん高くなっていますね。
今のところお魚が汚染されたという報告はないんですけれども,将来的には,
もちろんそこで生きているものですから,全然汚染がないということはないと思います。
それは,いつそういうのが出てくるのか,どの程度その魚が汚染されるかというのは,やっぱり海水がどの程度汚染されるかによると思うんです。
左図は、もう皆さん
御存じだと思うんです
けれども,S P E E D I とい
う原子力安全委員会が管理しているシステムがあります。これは風向きとか, ここから放出される放射性物質の量がどの程度, どのぐらい早く広がるかということシミュレートすることができます。こういうことができるシステムを原子力安全委員会は持っていて,年間7億円ぐらいずつずっと使っているんです。これが公表されたのは,福島さんでしたか,国会で質問された後なんです。こういうのは,最初に言いました放射性ヨウ素が甲状腺に取り込まれるのを防ぐためのヨウ素剤をいつ配布するかということに対しても非常にクリティカルな問題です。これによると,30キロ圏内以外でも,100ミリシーベルトに達しているんですよ。これは12日間の総計,蓄積です。ここにいた人たちが,SPEEDIの結果が公表されていません
でしたから,もしこのSPEEDIの計算というかシミュレーションで,こういう
ところが汚染されるということが分かったら,その前にヨウ素剤を飲ませて
おくべきだったんです。だけれども,これが発表されたのが,もうこれは汚
染された後ですから,ヨウ素剤を備蓄していたとしても,もうそれは何もな
らなかったということです。本当に何ていうか,国民の健康というものをち
ゃんと考えたら,こういう情報をいち早く知らせて避難させるなり何なり,
手を打ってもらいたいと本当に思います。
司会:
確認ですけれども,これは,緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステムで
SPEEDIなんですが,まさにその緊急事態が発生したときにある気象条件とか降雨,雨とか,
それから放出されている放射性物質の種類とか放出量などをある程度決めて,
その上でどの範囲まで広がるだろうかという予測ということですね。
今現時点で,こういうふうに汚染されているというそういう結果を示すものではない。
講師:そうです。本当は,
シミュレートして予
防するためにやるも
の。それが全く機能しなかった。そのために, どのぐらいの人が癌になるかということなんですけれども。癌になる確率ですね。これはI CRPの勧告ですと,1シーベルト当たり,1万人の人がそれを浴びると7.5人が甲状腺癌になる。この場合,子供の場合はこれの倍から2倍ぐらい。甲状腺癌の致死率はその10分の1であるにしろですよ。ヨウ素剤を与えておけば防げたものをみすみすこういう人たちが癌になってしまう可能性があるということは非常に残念なことだと思います。これで終わります。
司会:
質問がまだありまして,ちょっとお待ちください。
残された質問は,今日の講演の中身を若干というか大分超えたものもありまして,
恐らくちょっとお答えが難しいものもあると思うんですが,一応,時間はもう少しありますので
お付き合いいただければと思います。
まずですね,他の発癌要因との比較で,今回のその放射性物質の総体的な
危険度を測れるかどうかということで,例えば喫煙ですとか,ものすごい日焼けをするとか飲酒,
あるいは食品添加物など,こういったものとの相対的な比較,危険度の比較が
できるかどうかという質問が来ております。
講師:
そうですね・・・例えば癌の原因というのは,肺癌でしたら,まあ,たばこというのが
ありますけれども,直接比較というのはできないと思いますね。
それで,比較することにどういう意味があるかということですよ。
例えば喫煙なんかは自分で決められるわけです。たばこをやめようと思えばやめられる。
お酒だって,まあ,飲むのをやめようと思えばやめられる。
しかし、幾らリスクがあっても好きな人は飲む。
余りリスクはなくても自分は嫌だという人はやめられる。そういうものと,こういう強制的に誰かれを選ばす,もう赤ん坊から年寄りまで一様に強制的に被ばくさせられるというものと比較はできないんじゃないかなという気がするんです。
司会:
次の質問ですが,福島原発の現状を踏まえて,自己防衛策としてはどのようなことが
あるんでしょうか。よく,昆布とかワカメなどが一時期言われました。
政府見解では1歳未満の乳児のみに水の制限がありますが,2歳児や3歳児や
それ以上の幼児,大人はどのように考えたらいいんでしょうか。これは二つ質問ですね。
講師:
これから事故がどういうふうに発展するか,ひとえにそれ一つだと思うんです。
何か非常に大変な事態になって大量の放射性物質がばらまかれるような事態になれば,
それはもう逃げる以外にないわけです。逃げる以外にない。
今の状態でずっと落ち着けば,例えば昆布を食べておくというようなこと,それから余り外に出ない。
子供がいるばあいはすごく困るんですけれども,子供は外で遊ばせたいが,
どうしたらいいでしょうという相談が結構いろんなところから寄せられるんです。
けれども,これといって名案はないと思うんですよ。
外と家の中とどのぐらい放射線量が違うかということで,原子力資料情報室は毎日測定しています。
家の中は道路のところよりは大体半分ぐらいです。
公園の土なんかは,雨が降った後でしたけれども,その道路の倍ぐらい。
倍といっても,家の中は0.09マイクロシーベルトぐらいです。
ですから,わずかではありますけれども,家の中のほうが少し少ない。
それと,子供が外で遊ぶメリットですね。そういうのをどういうふうに考えるかというのは,
やっぱり人によると思うんです。正解はないと思います。
ヨウ素だけに関しては,昆布なんかを,海草類を食べておくというのは血中のヨウ素量というのを
上げますから,日本人だと大体平均して5ミリグラムぐらいは海藻から毎日摂っているようです。
欧米人はその5分の1ぐらいだそうです。
司会:
お水の話が少し出てきましたけれども,1歳未満の乳児に水の制限が二,三日前にありました。
講師:
それは,ペットボトルの汚れていない水を飲ませるのに越したことはないと思いますけれども,
それを永遠に続けるというわけにもいかないと思うんです。
今,そのペットボトルを行政から配布しています。いつまで続くんですかということなんです。
そうすると,それができなくなると規制値を上げるということになります。
これ,もう言っていますね。規制値を上げる。だから,それ以外に手はないんです。
日本で,今,野菜は300ベクレルで規制していますけれども,
これで,もう本当にいろんなところが汚れてきて,これではもうやっていけないということになったら,
政治判断で上がってくると思いますね。それはもう確実だと思いますよ。
司会:
質問しているほうがこれに答えちゃまずいという面もあるんですが,今の点は,水の点は,
利根川の水系と多摩川の水系と,それから東京都はたくさん井戸も持っているわけです。
その辺りの有効活用をしたらいいのではないかというふうに思っておるんですけれども。
例えば乳児を抱えていらっしゃる方がどこへ行けば安全な水が定期的に
手に入るかというようなことをやったらどうかと思ってはいるんですけれども。
講師:
いや,それは今の汚染状況においてですよね。その汚染状況がずっと続くとは限らない。
ほかのところがまた汚染されるかもわからないわけですよね。
司会:
はい。これも今の話と絡むんですが,大変難しい質問ですけれども,避難区域が今は
20キロまでとされていて,それから20キロから30キロはいろんな言われ方を
しているという状況にあります。これをどのくらいの広さまで何を基準に設定するのがいいのか。
どういうふうに考えるべきなんでしょうかという質問ですね。
講師:
ですから,もう自然放射線以外は絶対に被ばくさせないということになれば,
逃げる以外にないですね。米軍はもう直ちに80キロに決めましたね。
やっぱり自国民を被ばくさせたくないというアメリカの意思でそうしたんでしょうし,
フランスなんかはすぐ飛行機を出して,フランス人は全部帰らせました。
そういうことを考えると,逃げることが一番安全なんですけれども,逃げるに逃げられない場合は
どうするかということですね。それって科学の問題じゃない。
科学というのはやっぱり,これをどうしてどうしてって,こういうふうになるんですけど,
どこで線を引いて。例えば1万人に1人癌になるんだったら,それは我慢しろというのは,
科学のレベルじゃなくて政治のレベルじゃないですか。
司会:よく分かりました。はい。これは今日の話に出てきていません。崎山先生が
考える今判明している事実を前提とした今後の最悪なシナリオというものは
どういうものか。これは原子力の炉の話だと思いますんで。
講師:そうですね。
司会:それから,原発が爆発して東京に被害が及ぶ可能性がどのぐらいあるかとい
う,こういうストレートな質問も来ているんですが,どのくらいの線量にな
ったら東京からも待避すべきかというようなストレートな質問が来ています
が。これは答えにくければ,それはそれで。
講師:いや,私は分からないですね。原子炉のことは,原子力資料情報室のユース
放射線は身体にどのような影響を与えるか~福島第1原子力発電所事故を踏まえて~
2011年3月28日 第二東京弁護士会環境保全委員会 主催
- 42 -
トリームで,ほとんど毎日,原子炉の設計をなさった後藤さんとか,それか
ら田中さんという方がいろいろ今の状況に応じてどういうふうに考えるべき
かということを毎日お話しされています。ですから,それはそういう専門家
にお任せして,私はどうということは全然分かりません。
ただ,あの炉の中にはものすごい量の放射能があるということです。だか
ら,それがもし環境にばらまかれたら,これはものすごい大変なことになる。
原爆に使ったウランというのは800グラムなんですよ。それに対し,一つ
の原子炉の中には大体94トンぐらいですね。原子炉の1号,2号,3号,
4号。1号機はちょっと少ないですね。2号,3号,4号はそういうトンの
単位です。ですから,それが全部環境に出るということはまずないだろうと
は思うんですけれども,必死になって,今,それが起こらないようにしてい
ると思うんですけれども,もしそれに失敗したら,それはもう大変なことに
なるという可能性は十分ある。
司会:最後です。今日の総まとめみたいな質問なんですけれども,発癌性のリスク
についてしきい値がないということを今日お話しいただいて,私たちは安全
というものについてどういうふうに考えたらいいんでしょうか。自然放射線
による被ばく量は安全性について考える上でどういう意味を持つんでしょう
かという質問です。
講師:自然放射線は誰もこれを防ぐことはできないですし,宇宙線もありますし,
食べ物の中にはカリウムがありますし,放射性のカリウムがあります。この
自然放射線が全く癌の原因にならないという保証もないわけです。だから,
発癌のメカニズムをその2本鎖切断ということで考えていきますと,その自
然放射線も2本鎖切断を起こしますから,程度にはよりますけれども,線量,
それなりに原因になっている可能性はあると思うんです。
ですから,自然放射線が安全ということではないけれど,それはもう避け
ることのできないものとしてある以上,仕方がないわけです。それ以上のも
放射線は身体にどのような影響を与えるか~福島第1原子力発電所事故を踏まえて~
2011年3月28日 第二東京弁護士会環境保全委員会 主催
- 43 -
のをなるたけ浴びないようにするということなんじゃないかと思います。
司会:もう1問だけ,すみません。同じことの繰り返しになってしまいますが,ち
ょっとストレートに聞かれている方がおりますので。まず,妊娠されている
女性は東京を離れたほうがいいですか。今すぐにでしょうか。もし,そうで
なければ何がメルクマールになるでしょうか。これから妊娠を考える女性,
あるいは子供を持つことを考えている男性はどうでしょうかと,こういう質
問です。切実な質問かと思います。
講師:やっぱり難しいですよね。今このままの状態でずっと続けば,今の東京の汚
染だったら,その耐えられないことはないかもしれないんですが,これから
どうなるかが分からないので,そういうことは私は全く分からないですね。
どうしても安全を考えたら,やっぱり日本を離れるというのは最善の策です。
それはしようがない。こんな事態になったということが・・・そういうこと
でしょう。
司会:落とした質問があるかもしれませんが,申し訳ありません。今日は,生物学
的な基礎の基礎から放射線の危険性について非常に分かりやすい御講演を頂
いたんではないかと思います。崎山先生,どうもありがとうございました。
(拍手)
以上,ありがとうございました。
菅谷昭(すげのやあきら)さんは、元医師であり、現長野県松本市長です。チェルノブイリ原発事故の放射能汚染により小児甲状腺ガンが増えていた東欧ベラルーシ共和国の国立甲状腺ガンセンターで医療支援活動をおこなってきたという経験をお持ちの方です。
医師として放射能汚染と対峙してきた菅原さんが、市長会見にて記者の質問に答えるという形で今回の福島原発事故について述べておられますので、その部分を抜粋して転載させていただきました。内部被曝(ないぶひばく)について、そして、5年10年先を見通した対策を訴えかけておられます。内部被曝に関する議論の際参照しやすいよう、現在話題となっている上記部分についてのみ抜粋して記事化させていただきました。コメントなどは記事下のコメント欄へお願いします。
===(ここから 転載)===
【記者】
東京電力福島第1原子力発電所の事故に起因する、放射能汚染というのが、ほうれん草であるとかクキナであるとかそういったものを出荷停止というような確か報道だったと思いますけれども、そういったようなことも現実的におきてきて、市長が以前お話になっていた土壌汚染というのが現実的なものとなってきたのですが、実際にですね、果たして内部被曝というようなことも市長おっしゃってたのですけれども。
そういったものをですね、はたして食べても安全なのかどうなのかというところが少し心配になってくるのですけれども、市長のチェルノブイリで医療支援活動された経験から、その辺のご見解をもう一度伺えればいいなと思ったのですが。
【市長】
はい、それでは今の記者のご質問ですけれど、私ずっと常々というか最初からこの件に関しては、報道の皆さんにも場合によっては社が違う場合かもしれませんけれども、私の言葉として表現されているのは、とにかく核の事故という、放射線の事故というのは最初からある意味では最悪の事態を想定したかたちで先手、先手として手を打っていく事が大事じゃないかといことは、私が5年半の経験をもとに日本に帰ってきてからそう思っておりました。
しかしそういう中でまさかこういう状況になると思っておりませんでした。
それは私、皆様のご質問に対しては、一つは20キロの避難ですけれど、できれば30キロまで広げたほうがいいのではないのかなということを申し上げ、あわせて予防的に無機のいわゆるヨード剤を投与しておいたほうがいいんではないのかなということも申し上げましたし、場合によっては避難ではないのですけれど、やはり50キロ位、チェルノブイリの場合だと30キロゾーンは人が住めないわけですけれど、チェルノブイリと同じにしてはいけないのですけれど、そしてできれば50キロ位までの範囲っていうのは注意したほうがいいのではないかなと。それくらいやはりいわゆる大気汚染が広がるよということを申し上げたとこでございます。
それからまた特に乳幼児とか妊産婦に対してはヨード剤の予防投与ということは、これはまさに内部被曝の問題なんですよということを申し上げきたんですね。
どうしても政府を含めて皆さん方は外部被曝のことだけを取り上げているので、そうではなくて皆さん3つの点に注意してください。
一つはマスクをしてください。なぜマスクをするかというと、汚染されていて、これに浮遊している放
射性の降下物が鼻から気道ですね、気管をとおして肺に入ってそれが吸収されて血液の中入って体に蓄積されるということですね。
それから二つ目は肌は露出してはいけないということ。これは皮膚からですよね。いわゆる吸収されて体の中に入ちゃいけない。
もう一つは口から入るっていうこと、この三つなんですね。
ですから経気道的、経皮、皮膚ですね、それからもう一つは経口的なんですよ。この三つが経路になっているんです。
ですからできるだけここに取り込まないようにってことを言っているのです。
取り込まれたらどうなるかっていうと、その放射性物質が放射性ヨードであり、セシウムであり、ストロンチウムであり、プルトニウムであって、それらが入ると大変なことになりますよ。
これは今じゃなくって5年、10年、30年セシュウムとかストロンチウムの半減期が30年ですから、放射性ヨードの半減期は1週間ですけれども、そういうようにですね、取り込まないようにって言っているにもかかわらず(編註:単位の話につきカット)、今回のほうれん草の場合でも日本の基準で2000ベクレル/キロですよね。/リッタ―という事でいうと倍になっていて、そういうなかでもってそれを要するに食べてもいいかって言われたら、語弊がありますが、できるだけ口にしないほうがいいだろうっていうのは、これは現地行った者としては、本当に言いたいのは子ども達やあるいは妊産婦、胎児の命を守るという意味でいったら5年とか10年、チェルノブイリでもって甲状腺がんの子どもが増えたのが5年後なんですよね。
5年後から出てきているんですよね急激に。そしてその事故前の時の子どもの発症率というのは100万人に1人か2人でこれはチェルノブイリのとこも同じなんですよ。
それが汚染地になるとそれが100倍になったり、ひどい時には130倍ですね、ゴメリ市なんか。
だから将来のことを考えれば、これは本当に申し訳ないけれど、作っている方々に。しかしこれはそんな事を言っても色々ありますけれど、風評ではなくて事実として、これはやはり押さえておかなければいけないと私は思って、パニックでなくて国民も冷静に聞いてくれて、そして今の時期は食も少しひかえてもらうということ、そのためにも早くに放射性ヨードをやらないと、もう入ってしまったら終わりなのです。
私はですから前から予防適応しておいた方がいいですよって、みんな今政府においては後手後手ですよね。
避難している人たちも放射性ヨードっていうけれど、もう避難しているわけですから、避難中に被曝して入ってしまえばいくら後でやっても遅いのです。
そういう事がちっともわかっていないってことが、きわめて残念だってことを申し上げたいですね。
ですから原発のあそこの今の状況は、是非ともこれは国をあげ、それから海外の力を借りてあそこをとにかく消火する。
外に放射性物質を出さないってことは最大限やってほしいのだけれど、私はもう一つもう一番最悪であった土壌汚染ということは、これまさに環境汚染。水も汚染ですしそれから食物も汚染、これ出てしまったんですね。
ですから次は経路汚染、経口的になるからだから取り込まないようにするってことは当たり前のことなんですけれど、それが抜けちゃっていることで「安心、安心」って放射線1回浴びることは、そんな問題ではないですよね。
あれは外部被曝なんですよね。皆さんだって検査された時にエックス線浴びるわけですよね。それは1回だけですよね。そうじゃないんです。入ったものは沈着して抜けない、そして今やこれからのことは、いわゆる放射能沈着という表現しますけれども、放射線降下物、フォールアウトですから、今舞っているのが下に降りますから、落ちると土壌が汚染されます。
当然土壌とそれから水だって汚染されます。一方で葉物ですよね。葉っぱの上にやはり降下するわけじゃないですか放射性物質が。で、それを牛や羊が食べるわけじゃないですか。そうするとそれが放射性物質が今度はお乳の中にでるわけですよね。
そのお乳を人間が飲むわけですよ。これがいわゆる食物連鎖というわけですよね。
またその土壌の中に落ちたというようになると、そういう食べた牛やヤギが糞とかおしっこを出します。ここに放射性物質が溜まりますから、それがまた地面、土壌を汚染するこれ悪循環、これ食物連鎖やってるわけです。
また汚染された土壌からは今度はセシウムのような物がですね。今度は葉物じゃなくてようするに根菜類ですかね。根からまた吸収されますから、特にセシウムなどは消化管からほとんどが吸収されるってこともわかっているわけですから、それから放射線なら甲状腺に集まってしまうわけですから、ですからそういうことが事実としてとらえてですね、やはり報道していくのは国からもいかないと、単に「冷静に行動してください」とか、なんと言いますかね数的なもので被曝がこうでじゃなくて5年、10年日本でやはり、だからもし将来ですね、わかりませんけれど悪性の新生物が日本で増えてきたような状況の時にはいったい誰が責任とるんでしょうかね。
だからそういう意味で今言ったように、できるだけ放射性物質を体に取り込まないような注意をお互いにしていったほうがいいのではないかな、というようなことであります。
そういう意味でも今後全国でも食品に対しては多分汚染の状況をチェックしてくださいという言葉がいろいろ出てくる思います。
心配ないものは本当に食べていいです。私自身は汚染地でジャガイモを食べたり人参食べたり玉ねぎ食べたりやってきていますけれども、できれば大人はまだいいですけれども、これから生まれてくる子どもや、あるいは小さい子供というのはそういうことの無いようなことをしてあげなければいけない。
そこで放射能の許容レベルは、先ほど記者が言われたように、これは許容レベルというのはあるんですけれども。
例えば事故の時にポーランドでは、事故から4日目なんですけれども、国の命令ですよね。
それで乳牛に新鮮な牧草を与えることを全国的に禁止しているんですよね。
それから100ベクレル/リッターということは100ベクレル/キログラム以上の汚染ミルクを子どもやあるいはまた妊娠、授乳中の子どもが飲むことを禁止しているとか、4歳以下の子供は原則として粉ミルクを飲ませる。
この時は急きょ粉ミルク不足の分はオランダから緊急輸入をしている。
それから子どもや妊娠、授乳中の女性はできるだけ新鮮な葉菜類、葉物は摂取を控えるように指示している。こういうふうに対策をとったんですね。
ですから今回の場合に、これが1000ベクレルですから、ほうれん草なんか4000ベクレルですから、そういう意味では、やはり残念だけれども、特に生産者は本当に気の毒ですけれども、子どもたちの命、将来のことを考えれば、この場は政府が最大限に保証してあげるということで、しばらく汚染の状況が安全のところまで行くまでは、それはミルクもそうですね。
これは1987年ということで、1986年が原発の年ですけれど(編註:チェルノブイリ原子力発電所事故が発生したのは1986年4月)、1987年ヨーロッパの食品の放射能の限度というか安全許容量を出しているのが、有名なネイチャーという雑誌に出ているんですけれども、これは乳製品だと、これはバターとかミルクとかチーズとかアイスクリームとかはセシウムは1000なんですね。ヨウ素が500なんです。ストロンチウムが500、プルトニュウムが20ベクレル/キロです。
乳製品以外の食品というものがありまして、これはそれ以外のものですね。これがセシウムが1250、ヨウ素が3000、ストロンチウムが3000、プルトニウムが80。
それから飲料水がセシウムが800、ヨウ素が400、ストロンチウムが400、プルトニウムが10ということで。
また家畜の飼料は、セシウムが2500と、このように一応基準は設けてあります。
多分これに準じて日本の場合もこうやってあるんだろうと思いますが、きちっとしたものは無いんですけれどね。
各国違います。しかし大体この一つの基準というのはあるわけで、どれがいい、どれが悪いんじゃなくて、ご承知の通りチェルノブイリだってあそこの30キロゾーンでなくて100キロ以上離れたところで、ホットスポットって言いまして、ある場合には雨の状況で、日本は雪ですけれど、それによってはフォールアウトが、ある所に集中的にポンポンと点状に落ちる。だからそういう所で生産されたものというのは当然汚染されるわけです。
そういう意味で今回私も意外だったのは、茨城の方で高濃度って何故かって、これは当然大気汚染であちこちに汚染された大気があるわけですから、その中に雨が降って雨の粒の中に、私が前に言ったように「雨とか雪は注意した方がいいですよ」と言ったら、雪が降ってしまいましたけれど、そういうのはやはり放射性降下物も含まれて落ちるわけですから。
そういう所、残念ですけれど、そういう所の場合は可能性はあるということを、一応私は、皆さんをパニックではなくて「こういう事実がありますよ」ということを知っておいてもらった上でもって冷静に対応してもらうって、こういう表現をしていかないと、ただ単にエックス線で当てて1回でこうだとか、そういう外部被曝のことを言われるので、これは私は、もしかしたら菅総理大臣が自ら国民に向かって「こうなんだ」って、とにかく子ども達や、あるいは妊産婦を含め胎児たちの命を守るんだと、将来のことを考えて、ということを言わないと、私はいけないと思っております。
これは誤解なきように、皆さん方ある言葉だけを出されますから誤解されて、私いつも言われてしまうんですけれど、そうではなくて、もし心配だったら全部出してください。
そうでなかったら出さないでください。それくらいの私は皆さんに今、私自身がチェルノブイリで経験したことをお話ししているわけですから、決して政府を批判ではないんですけれど、事実としてとらえてほしい、しかも国民の皆さんは落ち着いてくださいと、こういう事があるけれども、安心なものは食べていいですからということで私は申し上げております。
私自身も5年も汚染地で向こうの人と同じものを食べてきたわけです。
だから、実際に言えるのは甲状腺のがんに関して放射性ヨウ素がこんなに高いのに、昨日の長野県の、今日の報道を見ていますと、その4000ベクレルじゃないですけれども「ほうれん草を洗わないで500グラム食べても安全だ」というそういう県からもしメッセージを出しているようでしたら、報道を見た限りですけれど、これが事実であれば大変な事を言っているなということで、やはり相談にのる人も慎重な答をしていかないと、安心安全と言っても新聞の社説によっては、安心安全冷静ということは、もっと具体的に出してもらわないと私わかりませんよというのは、私はあの通りだと思うんです。
内部被曝の問題は一切出してないし、食物連鎖の話も一切出してないです。
しかも5年10年先のこと出してないですね。
私はそういうことも出していかないと、国民がうんと不安に思うから、敢えて今日は申しあげたところでございます。
是非とも報道の皆さんも、ある意味では刺激的なタイトルで出す。それはやめてください。私は事実を申し上げただけでございます。
皆さん、全部出してください。出さないから、そこだけ取っちゃうから読んだ市民が非常に不安になるから、今日お願いしたいのは書けないんだったら出さないでほしいということ、皆さんの中でご理解いただきたいとこのように思っております。以上です。
【広報国際課長】
他にあるでしょうか。よろしいですか。以上で記者会見を終了させていただきます。
【市長】
ありがとうございました。
===(ここまで 転載)===
※この記事は、松本市の市長会見議事録を抜粋転載させていただいたものです。詳しくは元の議事録をご覧ください。
※明らかな誤字は修正しました。また、適宜改行や太字などを入れました。太字箇所は、記者が重要だと感じた部分であり、転載元には太字での表現はありません。
※上記以外は手を加えておりません。
——
参考)
YouTube - プロジェクトX 挑戦者たち チェルノブイリの傷 奇跡のメス
NHKのプロジェクトX。菅谷さんが登場します。
市長記者会見(2011年3月22日)
記者会見ページにはビデオもあります。
テレビが嘘つきなので、内部被曝のリスクを無理やり計算してみた20
本エントリよりも、より確からしい情報を元に、より無用に危機感を煽らない文書に改稿しましたので、できれば、改稿版をご参照下さい
あと、子供の内部被曝のリスクが思っていたよりずいぶん高かったので、そこらへんを補足するエントリーも書きましたので、良かったらご参照下さい
今回の震災で被災でされた方、ご家族の皆様には、心からお見舞い申し上げるとともに、寄付や支援など、できることは進めていきたいと思う。
地震や津波での被害が甚大で、心が痛む一方で、連日報道されている福島第1原発も気になる。この中で、まだ崩壊熱を出している炉心の冷却や、使用済み燃料の保管プールの保全に関しては、命がけで対応にあたっている方々の成功を祈るばかりだが、どうしても気になって仕方がないことがある。
それは、TVでよく出てくる、こちらの図*1のような資料を提示しての「xxミリシーベルト(以下mSV)でもCTスキャン1回分」、「xxマイクロシーベルト(以下μSv)でもレントゲン1回分」というような表現。ネットやTVでの指摘も少々出てはいるものの、誤解や間違った表現も実に多いと思う。
この間違いは、より正確に表現すると検出された「時間あたりの空間放射線量*2」の放射線レベルから「安心です」という説明なのだが、端的に言えば大気中の放射線の話ばかりをしていて、放射性物質(放射能)による汚染の重要性を、ほぼ無視してしまっている。
よくある解説パターンとしては、この放射線量ならば「安心です」と言ったあとに、でも吸い込んだり付着すると危険なので、マスクや肌の露出を避けて下さいと「おまけ」のように言うだけだ。
ところが、誰でもすぐにイメージが沸くと思うが、実際に怖いのは「おまけ」的に表現されている放射性物質の吸入や摂取の方だ。体内に取り込まれた放射性物質からは、3次元で全方向への放射が被曝対象となり、至近距離からの防護なしでの被曝であり、何よりも体外へ排出されるまでの長時間の被曝を受けることになる。
こういう放射性物質を体内に取り込んだ際の放射線の影響は、内部被曝といって、こちらの緊急被ばく医療ポケットブックでも結構なボリュームが割かれて、いろいろな情報が書かれている。
逆にいうと、空間放射線量のみを気にすれば良いケースは、放射能防護服と防護マスクなどで完全装備した場合や、密閉された線源から放射線のみを浴びる場合の話であって、外気中に放射性物質(放射能)が存在している環境下にいる場合は、内部被曝の影響こそ「最重要」に考える必要がある。
それでは、1時間外にいてもCT1回分で「安心です」と誤報されるような6.9mSv/hの空間放射線量がある環境で、普通に呼吸をして内部被曝してしまった場合の影響は、いかほどだろう?
さて、ここまで偉そうに書いてきたが、ここでディスクライマー。私は医師でも薬剤師でもないので、以下は、あくまで素人の机上計算だ。まあ、できの悪い学部生が書いた答案程度に考えて、そのまま参考にはしないように。また、できれば他の皆様も、検算やコメントを頂けると助かります。
で、この内部被曝の影響度は、「簡単には分からない」のだ。
大気中の放射線量測定は、おそらく単に測定しやすい単位ということから、グレイという放射線量の単位で測定される。そして、同等の放射線を浴びた際の影響度(外部被曝)を元に、Sv/hという時間あたり被曝強度に換算されている。
この大気中の放射線量から、内部被曝の影響を計算するにあたって、不足している情報がいくつかある。羅列してみると、大きくは以下のような感じだと思う。
- 大気中へ放射線を出している核種(放射性元素の種類)は何か。複数ある場合は、その比率
- 大気中に放射性物質がどれぐらい存在していれば、どれぐらいの空間放射線量の測定値になるか
- 大気中に存在する放射性物質を、平均的にはどれぐらい人体へ取り込んでしまうか
ここで、1.と2.は最初は良く分からなかったのだが、今探してみると産総研つくばセンター災害対策中央本部が、とてもいいデータを公開してくれている。
まず、1.の成分比だが、産総研の測定結果の「表」によると、6つの核種がある。一番多いのは原発災害で問題になると言われているヨウ素131。あと、他のヨウ素の放射性同位体が2つ、テルル132、2種のセシウムが検出されている。
2.の放射性物質の量が「平地に 1 m×1.5 m のビニールシートを敷き、1時間に付着したほこりを拭き取った試料」の核種別の放射能があり、また「空間放射線量」の測定値もある。
あと、3.は、人間の呼吸量は「立った姿勢での軽い活動で0.9m3/h」というヒント*3があるぐらいで、「平地に 1 m×1.5 m のビニールシートを敷き、1時間に付着したほこりを拭き取った試料」から、大気中に存在する放射性物質を吸いむ量を、思いっきり乱暴に想定をしてみて、、、
- 外にいるときは、立った姿勢での軽い活動をしてるだろうから 0.9m3/h の呼吸量
- 200kmぐらい飛んできた放射性物質の粒子が、どれぐらい大気中からシートに降下するか→1時間に高さ1m分
- 一度降下した粒子が、風で再度浮遊した結果残る率 → 20% (80%は再度浮遊してどっか行く想定)
- どれぐらいの率で拭き取れるか → 40%程度
という前提とする。これを計算すると以下の通り。
- 0.9m3 / ( 1m * 1.5m * 1m ) / 20% / 40% = 7.5
つまり1時間あたり、この乱暴な計算からは、シートから検出された放射能7.5枚分を吸い込む見積もりになる*4。
あとは、冒頭で紹介した緊急被ばく医療ポケットブックの第4章に「内部被ばくに関する線量換算係数」という表があり、放射性物質の放射能あたりの被曝量を計算すれば良い。今回は食べることは考えず、大気からの吸入だけを考えるので、それを参考に表を作ると、こんな感じになる。
空間放射線量と内部被曝の倍率は平均すると16倍。空間放射線量のだいたい16倍ぐらいの内部被曝に注意した方がいいかも、という計算結果になった。
この乱暴な計算に従って、冒頭の質問『CT1回分で「安心です」と誤報されるような6.9mSV/hの空間放射線量がある環境』について、普通に1時間の呼吸をして内部被曝してしまった場合の影響を考えると、長期分も含めて蓄積される被曝量としては外部被曝6.9mSvに加えて、内部被曝量が110mSvで、117mSvになる。
この117mSvは、僅からながら発ガンのリスクを引き上げるとも言われるレベル*5になる。放射線も一度にまとめてあびるのと、時間をかけてゆっくり浴びるのでは生体側のダメージや修復対応も異なってくるので、あくまで参考的な値として考えた方がいい面もあるが、ともかくCTと同じだからといっても、安全ですとは言えないレンジになってしまう。
こうして考えると、TVでしきり言っている「ただちに健康に害を与える被爆数値ではない」という官僚っぽい言葉は、裏を返すと「ただち」でなければ「内部被曝も考慮した際の長期的な発がん性」の可能性も(ところによっては)ある、ということを考慮している発言だなと思える。
例えば、福島第一原発から北西に約30キロ離れた浪江町とかで連続して計測されている100μSv/h 以上というレベルで16倍の内部被曝を考えると、1時間で1.7mSV以上、1日8時間外で被曝し続けると1週間ちょっとで100mSvのラインを超える。
ただ、福島市内で普通に観測されていたり、一時北茨城市で観測された10μSv/hレベルで、1日2時間外出として 16倍の内部被曝を20日続けても 6.8mSV、これを100日続けても34mSVなので、外出を控えてマスクなどで対策し、いずれ値が低下すると想定すれば、まあギリギリ普通の生活をしても許せる範囲かなと個人的には思う。*6
この計算はもともとが乱暴なところから出発しているけど、他にも無視しているファクターを考えておくと、以下のような感じ。(+は考慮すると被曝量が増えるファクター。-は考慮すると被曝量が下がるファクター)
- + 食物、飲料の放射能汚染からの内部被曝は無視している*7
- + 住居内の放射能汚染は無視している
- + 体表面汚染(被曝)を無視している
- + ベータ線の被曝を一部無視している*8
- + 地面のシートに付着しない気体の放射性物質があれば、それの内部被曝は考慮できていない
- ± 立った姿勢での軽い活動を想定しているので、個人差もある呼吸量次第では大きく増減する。
- ± 15,16,17日に200kmほど遠方まで飛んで、地面のシートに付着した核種の比率に基づいて算出している。原発の状況を踏まえた時間経過や、原発からの距離によって核種が違う可能性は高い。
- - 放射能が高い(=半減期が短い)核種は、再臨界しなければ次第に減少するはず。*9
- - 大気中の放射性物質を全て体内に吸収するわけではないだろうし、マスクとかで防護すれば、固体の放射性物質の吸入はかなり防御できる。
- - 空間放射線量の測定値は、大気中の汚染だけではなく、測定器本体や周辺の放射能汚染も含めて測定している可能性がある。*10
というわけで、受ける被曝量も、その結果もよく分からないことは多いけど、ぼやっと目安ができたことで、自分なりには納得できた。ただ、本当に適当な計算なので、良い子は参考にしないように。(間違いはぜひ、ご指摘を)
こういう乱暴な計算結果を公表することは、責任ある発言が求められる専門家にはできないと思う。ただ、空間線量の測定ばかりではなく、誰かが実際に大気を採取して、大気中の放射性物質の測定値をしっかり取って、発表したり考察してもらえると助かるなとも思う。
とりあえず今は原発の冷却の成功を祈りつつ、こちらの簡単な気象シミュレーションを見る限りは、これまでのところ風向きでずいぶんと救われている面があると思うので、風向きには注意して暮らしていこう。
首都圏の人は、茨城県が大変ありがたい空間放射線量のデータを出してくれているので、気象予報が北風と言ったら、ちょくちょく参照すると安心だろう。*11
そして、こういった大気中の測定値がちょっと高くなっても20μSv/hぐらいまでなら、換気を控えて、外出時にマスクをして、家に戻ったらすぐに手洗いしたり、早めに風呂に入れば、多分、無視できるリスクで終わるだろう。
2011.4.7 追記: 子供についてはもっとリスクが高いことが分かったので追加エントリーを書きました。→新聞も間違う内部被ばくのリスク。子供だけは気をつけよう。
食べ物も多少は心配だけど、こちらは放射能の量そのものをカウントしているので、大気中の放射線量測定値をそのまま被曝量にするようなダマシはない。とりあえず、発表されるBq/kgなどの値を、緊急被ばく医療ポケットブックとかの数字を使って、すでに慣れ親しんだ感のある被曝量(Sv)に換算して、参考にするといいだろう。
あと、広範囲に拡散して影響度が大きそうなヨウ素131の半減期は8.04日と短いということもあるので、慌てず、パニックになって買占めなどせずに、食べるなと言われたものを食べなければ、大丈夫だと思う。
分からないものは怖いけど、できるだけ理解して、防衛できるところは防衛して、ほんの僅かのリスクであれば、気にせず前向きに行動しよう。そうでないと、救助や支援にあたってる方、原発で命がけで戦ってる方、被災された方に申し訳ないと思う。
暴露係数とは,暴露量を評価する際に用いられる様々な係数や原単位のことで,それらをまとめたものが暴露係数ハンドブックである. | |
■ 暴露係数ってどんなもの? | |
暴露量の評価は,多くの場合,大気や水といった媒体中の化学物質濃度とその媒体の摂取量に基づいて行います.媒体中の濃度と媒体摂取量を掛け合わせると,その媒体からの暴露量が得られ,それを様々な媒体で足し合わせることによってトータルの暴露量を得ることができます. | |
この式で,Eは暴露量(mg/日など),iは媒体の種類,Ciは媒体i中の化学物質濃度(mg/kgなど),Iiは媒体iの摂取量(g/日など)です.最も典型的な暴露係数は,Iiの部分,すなわち大気,水,魚といった媒体の摂取量です. 暴露係数ハンドブックでは,そういった媒体の摂取量に加えて,暴露量評価で用いられる様々な項目を暴露係数として取り上げています.たとえば,生活時間や自給率などといった項目です.こういった項目も,直接・間接にIiを算出するのに必要なものです. この種のデータ集は,米国環境保護庁(USEPA)におけるExposure Factors Handbookを始めとして,ヨーロッパにおいても整備が進んでいます(リンク,暴露係数ハンドブックとの比較表).その目的は,暴露評価を行う際になるべく妥当な値を選択すること,暴露係数の値を取得する労力を低減し効率化をはかること,共通の値を用いることで暴露評価結果の比較可能性を向上させることにあります. 日本版の暴露係数ハンドブックを作成しようと考えた理由は,一つには,従来,用いられてきた様々な暴露係数(大気の吸入量として20m3や15m3,水の摂取量として2Lなど)の値は,しばしば根拠が明確でなかったことです.暴露評価では,根拠の明確な値を使うべきだと考えました.もう一つの理由は,そもそも化学物質への暴露は,評価対象とする集団の特徴を強く反映したものですから,日本人における暴露状況を適切に評価するためには,日本独自の値を用いる必要があることです.例えば,日本人は欧米に比べて魚を多く食べるので,欧米で一般的な魚摂取量の値は,日本人の暴露量評価には全く不適切だと考えられます. 暴露係数ハンドブックでは,さらに,暴露の個人差に関する情報も整理しました.暴露量評価においては,暴露の個人差に関心がある場合が少なくないですが,暴露量の個人差を検討するのに十分なデータがあるケースは多くありません.そこで,暴露の個人差に関する情報が得られない物質の評価において,類似した物性や暴露経路の物質での暴露の個人差の大きさをデフォルト値として援用することも有益だと考えました. | |
■ 暴露係数ハンドブックの作成方法 | |
暴露係数ハンドブックにとりあげている項目は,一般にどのような項目が暴露量評価に必要だろうかという考察に加えて,CRMが開発したソフトウェア「Risk Learning」に含まれている項目,また,さまざまな詳細リスク評価書の暴露量評価で言及された項目をもとにして選びました. 資料の検索や収集は,インターネットでの検索,各種の論文検索によって行いました.当然のことながら,日本における調査結果の示されている資料を収集しました.極力,最新のデータを集めるよう心がけました. 各項目について,暴露量評価で用いるのにもっとも適していると考えられる値を「代表値」として示しました.代表値の決定の仕方としては,まず,得られた資料の中で最も信頼性が高いと思われるものを選び,その資料から得られる値を「代表値」として選定するアプローチをとりました.ちなみに,別のアプローチとしては,関連するデータを全て考慮した上で,何らかの集計や計算を行うことで値を算定する方法もあります. 代表値の信頼性は,もとにした資料のサンプル数および調査の方法に基づいて評価しました.すなわち,「全国調査に基づいている」「無作為抽出や集団代表性を担保する抽出方法を採用している」「サンプル数が数千以上である」「最近のデータである」といった基準(これらをまとめて「一般的な判断基準」と称している)を満たすものは信頼性が高いと判断しました. | |
■ 暴露係数ハンドブックの構成 | |
「暴露係数」「暴露の個人差」ページには,様々な暴露係数について代表値の一覧が示されている.また,各項目の名称をクリックすることで,下記のような内容のドキュメントを得ることができます. | |
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■ 暴露係数ハンドブックへの期待 | |
この暴露係数ハンドブックに触発されて,従来の暴露レベル≒媒体中濃度という近似的な暴露の捉え方ではなく,なるべく現実的な暴露シナリオに基づいた暴露量評価が普及することを願っています.暴露シナリオとは,人が化学物質に曝されるかの状況を記述したものです.現実的な暴露シナリオの整備と利用が進めば,暴露量評価の質の向上が期待できます. 暴露シナリオに関心が高まることで,今回公開した暴露係数の項目以外にもたくさんの項目についてデータが必要だということに皆が気付くと思います.我々自身,今後も項目や情報の追加を行なっていく予定ですが,ユーザからのフィードバックによって,暴露係数ハンドブックはさらに充実したものになるでしょう.内容についてのコメント(クレームでも),追加項目の要望,項目に関連する資料の情報などは,いつでも歓迎します. 連絡先は「連絡先」のページに示しました. また,この暴露係数ハンドブックを通じて,ニーズはあるにもかかわらず,データがない項目が明らかになり,それが行政や研究機関への動機付けとなって,関連するデータの収集が促進されることも期待しています. | |
※ 暴露係数ハンドブックは,(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による プログラム「化学物質のリスク評価及びリスク評価手法の開発」の成果です. |
年間限度線量の被ばくでも発がん |
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米国科学アカデミーからの発表 |
国際がん研究機関からの発表 |
X線やガンマ線などによる低線量放射線被ばくでもがんなど健康障害を起こす可能性があることを認める調査結果が、米国科学アカデミー及び国際がん研究機関から報告されましたのでその内容を紹介します。
米国科学アカデミーは2005年6月29日に「電離放射線による生物学的影響」調査委員会がとりまとめ、9月に出版するBEIR-VIIの内容を発表しました。その概要は以下のようです。
○ある線量以下であれば安全というしきい値はない
調査委員会は低線量をゼロから約100ミリシーベルト(mSv)程度までと定義しています。この低線量域での被ばくでがんなどを起こす危険性があるかどうか長い間議論されてきました。広島・長崎の被爆者生涯追跡調査では以前から「ある線量以下であれば安全というしきい値は見つからず、発がんのリスクは線量に比例して直線的に増加する」(これを「しきい値なしの直線モデル」という)と報告されていました。しかし、これまでこのモデルに関して、一方では放射線の影響を過大評価するとされ、他方では過小評価であると批判されてきました。調査委員会は、低線量放射線でもDNA等に損傷を与え、最終的にはがんを引き起こす原因になりうるという基礎的データの積み重ねなどを考慮し、「しきい値なしの直線モデル」が最も妥当としています。(公衆の年間被ばく線量限度は 1mSv、胸のX線撮影は0.1mSv、アメリカの自然放射線レベルは3mSv)
○発がんのリスク推定
「しきい値なしの直線モデル」によって放射線被ばくのリスクを推定し、もし、100人の人がそれぞれ100mSv被ばくするとその中の1人が被ばくによる白血病ないし固形がんになる可能性があるとしています。42人は他の原因で白血病ないし固形がんになる可能性があります。(これらのがんの内、50%が致死性)(100mSv:放射線作業従事者の5年間の被ばく限度)
○遺伝的障害
被ばく二世に、放射線影響はこれまで見つかっていません。しかし、ネズミその他の動物を使った実験では、放射線によって起きた精子や卵子の突然変異が子孫に伝わるという膨大な量のデータが蓄積されています。広島・長崎でそれが見つからなかったのは、単に調査対象数が少なすぎただけで、これが人間には起きないと信じる理由はないとレポートは言っています。
○医療被ばく
CT検査を受けた人、特に子供、診断のための心臓カテーテル検査を受けた小児、及び肺の発達をみるために頻回X線検査を受けた小児の追跡調査がなされるべきとも言っています。CT検査は往々にして全身を検査されるため、通常のX線検査よりも高線量の被ばく(約10mSv)を被ることになり、もし1000 人がCT検査を受けるとその中の1人ががんになる計算になります。
○放射線源
人は宇宙線、地面、食物、飲料水、呼吸などから自然放射線を受けていて、これによる被ばくは全被ばく線量の82%になります。アメリカでは人工放射線被ばくは残りの18%を占めており、この内、診断用X線、核医学など医療被ばくが79%、タバコ、水道水、建築物などからの被ばくが16%、職業被ばく、放射性降下物、核燃料の使用によるものが5%であるといっています。被ばくを増やす要因は医療被ばくの増加、放射性物質の使用、喫煙などです。
この要約を読む限りにおいて調査報告は特に真新しいものではなく、国際放射線防護委員会(ICRP)が現在採用しているリスク推定(10,000人が公衆の年間被ばく線量限度である1mSv被ばくするとその中の0.5人ががん死する)と本質的な違いはありません。(このレポートでは1mSvの被ばくで 10,000人中1人ががんになり、そのがんの半分が致死的)しかし、米国科学アカデミーの「電離放射線による生物学的影響」調査委員会が「しきい値なしの直線モデル」をリスク推定に採用したということに意義があり、影響力が期待されます。
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低線量電離放射線による発がんリスク:15カ国の原子力施設労働者の調査
(British Medical Journal 2005年6月29日号)
調査対象:15カ国(オーストラリア、ベルギー、カナダ、フィンランド、フランス、ハンガリー、日本、韓国、リトアニア、スロバキア、スペイン、スエーデン、スイス、イギリス、アメリカ)の598,068人に及ぶ原子力施設労働者のうち少なくとも1年以上原子力施設で働いており、外部被ばく記録がハッキリしている407,391人(内日本の労働者は83,740人)(調査集団の90%は男性)。
- 調査期間:全調査人・年は、5,200,000人・年(内日本の労働者は385,521人・年)。これまでの原子力施設労働者の調査では最大規模。
- 被ばく線量:集団の90%は50mSv以下の被ばく、
500mSv以上被ばくした人は0.1%以下、
個人被ばく蓄積線量の平均は19.4mSv。 - 調査期間中の死亡数:全死亡数は、24,158例
白血病を除く全がん死は、6,519例、
慢性リンパ性白血病を除く白血病は、196例。 - Sv当たりの過剰相対リスク:白血病を除く全がん死数は、0.97
(1Sv被ばくすると、白血病を除く全がん死のリスクが被ばくしてい ない人の約2倍になるということ)
慢性リンパ性白血病を除く白血病は1.93
(1Sv被ばくすると、白血病のリスクが被ばくしていない人の約3倍 になるということ)
注1: ICRPは原爆被爆者の調査結果から得られた直線モデルを使ってリスクを推定してきました。原爆被爆の場合は急性被ばくです。職業被ばくの場合は同じ線量を被ばくするにしても少しづつ長い時間をかけて被ばくします。これを遷延被ばくといいますが、その場合は傷害が修復されると考えられるので、ICRPのリスク推定は急性被ばくのリスクの
1/2にして計算してきました。この論文の調査は原子力施設の労働者が対象であり遷延被ばくです。しかもこれまでにない大がかりな調査によって得られた結果なので、信頼性は高いと思われます。従って、ICRPのリスク推定は考え直す必要がありそうです。
ベクレル(Bq)、シーベルト(Sv)の換算
報道などでベクレル(Bq)をシーベルト(Sv)に置き換えた場合の数値が紹介されている。定義・性質の異なる単位を正確には換算できないと思われるが、以下のように換算が行われている。
例えばホウレンソウ1kgにヨウ素131が2000ベクレル(Bq)あるとする。
これを 2000 Bq/kg と表す。
これに放射性核種に対する実効線量係数(下表参照)というものを用いてベクレルをシーベルトに換算する。
ベクレルの値にヨウ素131の実効線量係数(経口摂取の場合) 2.2×10-8をかける。
2000 Bq/kg × 2.2×10-8 Sv/Bq = 0.000044 Sv/kg
となる。
Sv/kg は 1kg当たりのシーベルト。
mSv や μSv で表すと以下のようになる。
0.000044 Sv/kg = 0.044 mSv/kg = 44 μSv/kg
ベクレルは1秒当たりで定義されている単位ですが、換算されたシーベルト値は体内に取り込んだ放射性物質が体内に存在している間に人体に影響を及ぼすと思われる線量。
線量の積分期間は、作業者および成人の一般公衆で50年、子どもでは摂取した年齢から70歳まで。
摂取した放射性物質は時間とともに減少し、減少する早さは放射性物質の種類により異なります(半減期を参照)。
単位:
(レントゲン)
= 8.7 mGy 1マイクロレントゲン = 0.01マイクロシーベルト1レントゲン = 0.01シーベルト = 10ミリシーベルト(mSv)=10,000マイクロシーベルト(μSv)
空気 1 cm3 あたりに1 esu のイオン電荷が発生するときの照射線量.1マイクロシーベルト=100マイクロレントゲン1シーベルト(Sv)=1000ミリシーベルト(mSv)
=100万マイクロシーベルト(μSv)
- G(ギガ) = 109 = 10億・・・メガの1000倍
- M(メガ) = 106 = 100万・・・キロの1000倍
- k(キロ) = 103 = 1000
- m(ミリ) = 10-3 = 1/1000・・・マイクロの1000倍
- μ(マイクロ) = 10-6 = 1/100万・・・ナノの1000倍
- n(ナノ) = 10-9 = 1/10億
単位:Bq(ベクレル)
定義:1秒間に1個の原子核が壊変している放射性物質
従来の単位:Ci(キュリー)
換算方法:1Ci=3.7×1010Bq
なお、ベクレル(Bq)が単独で使われることは少なく、単位体積当たり又は単位重量当たりの放射能の強さを表すBq/リットル、Bq/kgなどがよく使われます。
定義:1秒間に1個の原子核が壊変している放射性物質
従来の単位:Ci(キュリー)
換算方法:1Ci=3.7×1010Bq
なお、ベクレル(Bq)が単独で使われることは少なく、単位体積当たり又は単位重量当たりの放射能の強さを表すBq/リットル、Bq/kgなどがよく使われます。
このページはベクレル(Bq)をシーベルト(Sv)に換算するためのツールです。
結果は Sv、mSv、μSv の3種類で表示し、すべて同じ値を意味します。
算出された値は預託実効線量で、50年間(成人の場合)の被ばく量を積算した値。
線量の積分期間は、作業者および成人の一般公衆で50年、子どもでは摂取した年齢から70歳まで。
摂取した放射性物質は時間とともに減少し、減少する早さは放射性物質の種類により異なります。
計算式
預託実効線量 = 放射能濃度(Bq/kg) × 実効線量係数(Sv/Bq) × 摂取量(kg/日) × 摂取日数(日) × 市場希釈係数 × 調理等による減少補正
実効線量係数(Sv/Bq)(経口摂取の場合)は以下の値を使用しています。
ヨウ素131 は 2.2×10^-8
ヨウ素133 は 4.3×10^-9
セシウム134 は 1.9×10^-8
セシウム136 は 3.0×10^-9
セシウム137 は 1.3×10^-8
プルトニウム238 は 2.3×10^-7
プルトニウム239 は 2.5×10^-7
プルトニウム240 は 2.5×10^-7
ストロンチウム89 は 2.6×10^-9
ストロンチウム90 は 2.8×10^-8
実効線量係数は年齢などにより異なる。
市場希釈係数 = 1 とする。
調理等による減少補正 = 1 とする。
各核種の半減期
ヨウ素131 は 8.04日
ヨウ素133 は 20.8時間
セシウム134 は 2.06年
セシウム136 は 13.1日
セシウム137 は 30.0年
プルトニウム238 は 87.7年
プルトニウム239 は 2.41万年
プルトニウム240 は 6564年
ストロンチウム89 は 50.5日
ストロンチウム90 は 29.1年
いくつかの物質において、吸入摂取時の適当な実効線量係数が見つからないため、吸入摂取の計算機能は外しました。
計算結果の桁数が多い場合は値が正しく表示されない可能性があります。
計算処理の過程で、例えば 2 という数字が 1.99 などの数値になる可能性があります。