2011年12月12日月曜日

原発の寿命

‹いのひろみつ:東京大学名誉教授›

(1)原発の誕生と年齢
 日本最初の原発(軽水炉)は敦賀1号炉(BWR)で、
大阪万博に間に合わせるよう1970年3月14日運転開始、
「原子の火が灯った」と宣伝された。
続いて同年11月28日、美浜原発(PWR)が運開になり、
以後、55基の原発(BWR32基、PWR23基)が建設され、
2008年になってやっと2基(浜岡1号、2号炉)が廃炉になった。

 世界で運転されている原発は432基である
(『はんげんぱつ新聞』386号、2010年5月)。
脱原発を明確にしてきた
ドイツでは
33基が建設され16基が廃炉になった。
アメリカでは
127基が建設され23基が廃炉になった。
1996年以降は1基も建設されていない。
1968年までに建設されたアメリカの原発は、
現在、すべて廃炉になっているので、
日本は「老朽化」原発の「先進国」になりつつある。
どう対処するのか、お手本の国はないのだ。 

最近、
「原発ルネッサンス」が喧伝されているがその中心はアジアである。
ヨーロッパでも脱原発からの方向転換が伝えられているが、
例えば、
スウェーデンでは、
再生可能エネルギーの導入が遅れたための
原発リプレイスが認められたに過ぎず、
原発への縛りはそのままである
(佐藤吉宗、『エントロピー学会誌』66号、原発特集、pp52-62)。
問題は、
中国で26基、
ロシアで10基、
インドで6基の原発建設が進められるなど、
アジアを中心とした動向である。
同地域でのエネルギー消費の急増とともに、
平和で持続可能な未来を脅かす要因になっている。


(2)原発の寿命と『闘論』の争点

 原発の寿命は、建設当時、40年と想定されていた。
国や事業者はそんなことは決めてないと今になって言う。

『闘論』(毎日新聞、2010年3月27日朝刊)で、
関村直人東大原子力教授は、
「「大事に使う」は時代の要請だ」
として原発の延命を主張している。
(安全が時代の要請ではないのか?)個々の部品は必ず劣化するが、
劣化を正確に把握して交換などの適切な
「高経年化対策」をすれば
30年、40年を超えて60年までの運転が可能であるという。
日本原子力学会は、
2004年の美浜原発配管破断事故を機に
100以上の課題を洗い出して
高経年化対応技術戦略マップ」を作ったという。
http://www.jnes.go.jp/content/000012924.pdf


私は、老朽化(高経年化)原発の問題点として、

1.原子炉圧力容器やその付属機器は交換できない。

2.敦賀1号などの圧力容器の劣化は予測以上に進んでいて危険だ。

3.それにもかかわらず、国の高経年化対策検討委員会(関村主査)は、   その事実を無視してOKの判断をした。

4.そのような「原発推進」を前提とした委員会を廃し、
  市民の安心を重視する広い視点で評価する場を作るべきだ。

という主張をした。

(3)圧力容器の照射脆化

 老朽化問題のうち、圧力容器鋼の照射脆化に絞って話しをする。

 圧力容器材である低合金鋼は、ある温度以下で脆くなる。
その温度を脆性遷移温度という。
原子炉炉心からの中性子を浴びると、
鋼の内部に原子レベルの微小な欠陥が生じ、
その脆性遷移温度は原発運転中に不可避的に上昇する。
炉内に入れた監視試験片でその脆化を調べるが、
敦賀1号機では脆化が予測以上に進んでいた。
脆化予測式が間違っていたからだ。

 使われてきた脆化予測式は、
中性子を浴びるスピードに関係なく、
その浴びた量だけで決まると仮定されている。
だが、銅などの不純物が多い鋼では、中性子をゆっくり浴びるほど、
同じ量の照射を受けた後の脆化が大きくなる。
したがって、加速照射試験で得られたデータは、
実機の脆化の進み具合を過小評価してしまう。
私はこのことを10年以上前からコンピュータシミュレーションや
実験で示し(『日本金属学会誌』64巻2号、pp115-124、2000年)、
BWR圧力容器の照射脆化の進行について警告を発してきた
(京都大学原子炉実験所研究会報告集、
KURRI-KR-62、2001年3月、など)。

 その後報告された敦賀1号炉や
福島第一1号炉での監視試験片データは、
まさにその事実を示していた。
しかし、事業者や推進派の学者たちは、
その事実を無視し、
高経年化対策検討委員会(2005年6月)では
データのばらつきに過ぎないとした。

 敦賀1号炉圧力容器の脆性遷移温度は、
もともとマイナス20℃だったが現在、
50℃を超えている。その変化を外挿すると、
60年使い続けた後には、80℃を超えてしまう
(『日本金属学会誌』72巻4号、pp261-267、2008年)。
脆性遷移温度というのは、
その温度以下で衝撃的な力を受けると、
金属の特長である塑性変形をできずに
セラミックのように割れてしまう温度である。
緊急炉心冷却の際の熱衝撃が心配な領域に入りつつある。
しかし、事業者の予測では30℃程度だというのだ。

(4)むすび

 齢40年に達した敦賀1号炉を皮切りに次つぎと
日本の原発は当初予期しなかった
高経年化(老朽化)の時期を迎える。
敦賀1号炉は40年で廃炉にすることを事業者も予定していた。
しかし、新規原発が建設できないので寿命延長を図るという。

しかも、政府は、
二酸化炭素排出削減のために原発の増設とともに、
既存原発のフル運転(設備稼働率80%以上)を求めている。
定期検査の間隔も現在の13ヶ月から
場合によっては2年まで延ばすことも法的に可能にした。
しかし、
老朽化した原発はよりていねいなメンテナンスが必要なことは
誰にでも分かることである。
ここ10年の原発稼働率は、
シュラウドや再循環配管のひび割れ隠しや中越沖地震被災、
そのほかのトラブルに見舞われ、
60%前後に落ち込んでいる。
無理やり働かされた原発が過労死、
いや、大事故を引き起こさねばよいがと不安である。

たんぽぽ舎囲炉裏端会議20100523

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