活動報告:原発裁判(六ヶ所)◆
本件再処理工場が破壊される航空機衝突条件について
本件再処理工場が破壊される航空機衝突条件について
六ヶ所再処理工場を含む核燃料サイクル施設は、三沢対地訓練区域(天ヶ森射爆撃場)から10kmの場所に立地され、航空機に対する防護設計がなされていますが、それは戦闘機が通常の訓練コースから「エンジン停止」で「グライダー状に滑空した場合」を想定した速度150m毎秒で衝突した場合の解析に基づいています。再処理工場に航空機が落下する場合、戦闘機とは限りません(例えば羽田-新千歳間の定期航空路は下北半島上を通ります)し、エンジン停止状態で衝突してくれる保証はありません。
ここでは、安全審査で行われた解析方法を用いた上で、衝突する航空機の重量や速度を変化させた場合、どの程度で再処理工場が破壊されるかを明らかにし、それがむしろ現実的な衝突条件であることを論じます。
なお、航空機の全体荷重による再処理工場の壁・天井の破壊についての解析は、東芝で格納容器設計グループ長を務めた後藤政志さんにお願いしました。
提出した準備書面の内容を基本的にそのまま掲載します。
全体破壊については、後藤政志さんの鑑定意見書(準備書面で引用する甲D第174号証)を見ないとわかりにくいところがありますが、現時点では後藤政志さんの鑑定意見書のそのままの掲載は見合わせます。
☆原告準備書面(114) 本件再処理工場が破壊される航空機衝突条件について
第1 はじめに
本件再処理工場の安全審査と設計及び工事方法認可では、航空機に対する防護設計として、①総重量20tの航空機(戦闘機)が150m毎秒(以下、m毎秒をm/sと表記する)で衝突した場合の壁・天井等の鉄筋コンクリート版の全体破壊の有無、②戦闘機F16が150m/sで衝突した場合のエンジン1基及びF4EJ改が155m/sで衝突した場合のエンジン2基相当によるエンジンの貫通・裏面剥離限界厚さのみを評価し、これを設計基準としている。
しかしながら、本件再処理工場に墜落・衝突する可能性がある航空機は戦闘機に限られないし、また衝突速度は三沢対地訓練区域(天ヶ森射爆撃場)の訓練機の通常飛行コース・高度から「エンジン停止」で「グライダー状に滑空」した場合を想定した150m/sにとどまる保証は全くない。
本準備書面においては、本件安全審査や設計及び工事方法認可で採用されている解析条件、計算方法に基づいて衝突する航空機の速度や重量を変化させた場合にどの程度の速度ないし重量で衝突すれば本件再処理工場の壁・天井が破壊されるかを明らかにし、それが現実にあり得る条件であることを示して、本件安全審査の誤りを指摘する。
第2 全体破壊の検討
1 はじめに
航空機が衝突した場合に、その航空機全体の荷重により壁・天井が大きく変形して、それが限界に達すると壁・天井が破壊されることになる。これを全体破壊と呼んでいる。
全体破壊の解析は、解析コードにより行われ、その解析コードは公開されていないか一般人に使用が許されていないものであるために、これまでその検証が困難であった。
しかし、コンピュータの能力の著しい向上と有限要素法解析ソフトの開発の進展により、市販の有限要素法解析ソフトによってもある程度その解析を追うことができるようになってきている。
原告らは、東芝で原子炉格納容器の設計に携わり格納容器設計グループ長を務めた後藤政志氏に、本件再処理工場の設計及び工事方法認可の解析条件に基づき、衝突する航空機の速度及び重量を変化させた場合の天井スラブの歪み(ひずみ)及び変位の解析を依頼し、このほどその結果が得られた(甲D第174号証)。
2 甲D第174号証の解析方法について
甲D第174号証の解析は、市販の有限要素法解析ソフトANSYS-EDver.10を用いて行われた。
全体破壊の解析は、衝突を想定する壁・天井の設計(版の寸法、天井で言えば壁・柱等の支持条件等)によって条件も結果も異なることになり、1つ1つの解析に相当な労力を要することから多数のか所について行うことができないため、本件再処理工場の高レベル廃液ガラス固化建屋の天井スラブのうち第6回設計及び工事方法認可申請書中の航空機に対する防護設計計算書で解析の概要が示されている1か所について行われた。
天井スラブの版の寸法、支持・拘束条件、材料物性値等はすべて設計及び工事方法認可申請書中の航空機に対する防護設計計算書記載の通りの条件で解析した。有限要素法においてその精度上重要なメッシュの切り方については甲D第174号証の図1(設工認申請書のメッシュ)と図2(甲D第174号証の解析のメッシュ)を比較すればわかるように設工認よりも細かく切っているくらいである。
他方、解析ソフトの仕様・限界により版内部のコンクリートと鉄筋を別々に扱うことができないため、天井スラブ内が均一の性質を持つものとして解析せざるを得ない。そのため、甲D第174号証の解析では、解析で求めるべき衝撃荷重による歪み・変位との関係で重要な曲げ剛性が、設計及び工事方法認可申請書中の航空機に対する防護設計計算書記載の厚さと鉄筋の径・配置を持つ鉄筋コンクリート版と等価になるような均一版の物性値(ここではヤング率)を理論的に求め、これを用いて解析を行っている(甲D第174号証14~17ページに、その理論的計算の過程が示されている)。
甲D第174号証の解析では、この理論的に求めた等価ヤング率を用いて、設計及び工事方法認可申請書中の航空機に対する防護設計計算書と同じ条件の解析を行い、その結果、最大変位量、歪みとも航空機に対する防護設計計算書の解析結果に対し2割増し程度に収まることを確認し、理論的に求めた等価ヤング率が航空機に対する防護設計計算書の計算の再現に十分使用できることを確認している(甲D第174号証14ページ、19~20ページ)。
なお、甲D第174号証の解析は、基本的には設計及び工事方法認可の際に行われた航空機に対する防護設計計算書の解析の再現であり、その再現に当たり解析条件の1つである衝突速度や航空機重量を変化させた場合に、解析結果である最大変位量や歪みがどの程度変化するかを確認するものである。つまり、甲D第174号証の解析は、航空機に対する防護設計計算書の解析を前提としそれが正しければその条件を変化させるとこうなるはずだということであり、独自に直接に解析結果を保証するという性質のものではない。後藤政志氏が甲D第174号証の中で「本解析がパラメータスタディであることから、ある程度変形が表現できれば、解析モデルの厳密性はそれほど重要ではない」(甲D第174号証10ページ)としているのはそういうことである。
その上で、速度、重量を変化させる際には、航空機による荷重曲線(荷重の時刻歴)を、理論的な帰結に従い、重量が変化するときは荷重側に重量変化を乗じ、速度が変化するときは時刻側を速度変化で除すとともに荷重側に速度変化を乗じ、旅客機については機体長さが異なることから時刻側に機体長さ比を乗じるとともに荷重側を機体長さ比で除して求めている(甲D第174号証21~23ページ)。
これらの条件に基づいて有限要素法を用いて本件再処理工場の設工認で行われている全体破壊の解析で衝突速度や重量を変化させた場合の最大変位量と歪みの変化を求めたのが甲D第174号証の解析である。
3 解析結果
機体重量20tの戦闘機について、衝突速度を変化させた場合の解析結果は次の通りである(甲D第174号証26ページ)
ここでは、速度187.5m/s(150m/sの1.25倍)で最大圧縮歪みが(-)1%すなわち10000×10-6を超えていることが注目される。安全審査における全体破壊の判定基準は6500×10-6(いいかえれば0.65%)であり、甲D第174号証の解析がパラメータスタディの基本としている設計及び工事方法認可申請書中の航空機に対する防護設計計算書の解析について2割増しの数値となったことから解析結果は2割減で見るべきということを考慮しても、十分に安全審査基準を超えることになる。
戦闘機について、衝突速度を150m/sで重量を変化させた場合の解析結果は次の通りである(甲D第174号証27ページ)。
ここでも、機体重量30t(20tの1.5倍)で最大圧縮歪みが(-)1%に達していることが注目される。
次に旅客機について、総重量325tの旅客機(ジャンボ機の標準的な重量)について速度を変化させた場合の解析結果は次の通りである(甲D第174号証28ページ)。
ここでは、最大圧縮歪みが、速度150m/sでも(-)1%に達していることが注目される。
旅客機について、衝突速度を222m/sとして総重量を変化させた場合の解析結果は次の通りである。
ここではいずれの解析結果も、最大圧縮歪みが(-)1%を遥かに超えている。
4 本件再処理工場の全体破壊条件
甲D第174号証の解析結果を見ると、総重量20tの戦闘機においても衝突速度が187.5m/sに至れば、全体破壊の判定基準を十分に超え、また戦闘機において衝突速度が150m/sであっても総重量が30tに至れば全体破壊の判定基準を超えること、旅客機の場合は標準的なジャンボ機の重量では衝突速度が150m/sであっても全体破壊の判定基準を十分に超えることがわかる。
後藤政志氏は、この解析結果について、設計者としての立場から、判定基準超えが直ちに現実の破壊を意味しないことを考慮して控えめに、戦闘機については20tで衝突速度200m/sでは限界歪みを遥かに超え、速度150m/sで30t以上では破壊してしまう可能性が極めて高くなる、標準的な重量の旅客機で衝突速度200m/s以上でほぼ確実に破壊すると考えられるとしている(甲D第174号証30ページ)。
なお、甲D第174号証の解析が対象とした天井スラブは、直接には高レベル廃液ガラス固化建屋の天井スラブのうち第6回設計及び工事方法認可申請書中航空機に対する防護設計計算書で解析の概要が記載されている特定の1か所であるが、この版厚が120cmであり、本件再処理工場の主要建屋の天井スラブの版厚や航空機に対する防護設計計算書で解析されているか所の版厚が多くの場所で120cmないし125cmであることを考慮すれば、典型的なものに属すると考えられる。従って、本件再処理工場の別の建屋の天井スラブ等についても、同様の解析を行えば、これと大差ない結果となることが推測できる。
第3 局部破壊の検討
1 はじめに
航空機が建屋の壁・天井に衝突した場合、航空機全体の荷重による破壊の他に、比較的断面積が小さく硬い物体(航空機の場合はエンジン)が壁・天井を貫通して破壊し内部に到達する危険がある。これを局部破壊と呼んでいる。
局部破壊については、貫通限界厚さ(エンジンが完全に貫通してしまう版厚)と裏面剥離限界厚さ(エンジンが貫通には至らないがエンジンの貫入の影響が壁・天井の反対側の面まで及び裏面が剥離する版厚)を特定の計算式により算出している。これらの計算式は、式中に含まれるデータさえそろえば1回の計算により求められる形になっているから、その気になれば関数電卓で計算することもできるし、エクセルで容易に算出することができる。
これについては、専門家の手を煩わせるほどのことでもないので、原告ら訴訟代理人において、本件再処理工場の安全審査と設計及び工事方法認可で採用されている計算方法により、設計及び工事方法認可申請書の計算を再現するとともに、衝突速度のみを変化させた場合の計算を行った(甲D第175号証:私が作成した計算結果報告書)。
2 貫通限界厚さについて
本件再処理工場の設計及び工事方法認可申請書の「航空機に対する防護設計に関する説明書」では、エンジンの衝突による貫通限界厚さの計算方法を次のように説明している。
本件再処理工場の設工認の計算では、Degen式の飛来物形状係数を無前提に0.72としている。0.72は飛来物の衝突面が「平坦」である場合の係数であり、エンジンが完全に水平か完全に垂直に衝突する場合であれば平坦と評価できるかもしれないが、ほとんどの衝突では斜めに衝突するはずであるからこれは明らかに過小評価につながる計算方法である。しかし、甲D第175号証の計算結果報告書では、そういった過小評価も含めて本件安全審査で用いられた計算方法を用いて計算した。
もっとも、ここでDegen式で求められた貫通限界厚さに対して最終的に乗じられている0.65の柔飛来物低減係数は、Degen式自体に含まれるものではなく、本件再処理工場等(ウラン濃縮工場でも同様)の設計に用いられた独自の係数である。そして、この係数について、ウラン濃縮工場の安全審査の際の資料(被告は「メモ」と称してウラン濃縮工場の裁判で長きにわたりその存在を隠し続け開示を拒み続けていた)では、以下のように説明されていた。
ここでは、柔飛来物低減係数は「速度が小さくなると低減効果が大きくなる傾向がある」とされ、衝突速度が150m/sのときの実験値の中央値が0.65、215m/sのときの実験値の中央値は0.75とされ、かつその中央値はグラフ上直線で表現されている。
そうすると、本件安全審査や設工認では衝突速度がF16につき150m/s、F4EJ改につき155m/sとされたが故に、柔飛来物低減係数が0.65とされたに過ぎず、衝突速度がそれより大きくなれば上記ウラン濃縮工場の安全審査資料の図にそった柔飛来物低減係数が採用されるべきと考えられる。
そこで、甲D第175号証の計算結果報告書では、Degen式による貫通限界厚さの計算後の柔飛来物低減係数については、安全審査の立場として、0.65に固定したものと、衝突速度が上がるにつれて漸増する(150m/sで0.65、215m/sで0.75の2点を結んだ直線上の数値を採用する)ものの2つの計算を示した(ウラン濃縮工場の安全審査資料を前提とすれば、安全審査の考え方としても、後者の方がより正しいはずである)。
上記の計算方法により、柔飛来物低減係数を0.65に固定した場合とウラン濃縮工場の安全審査資料に従い漸増させた場合について、それぞれF16のエンジン1基の評価とF4EJ改のエンジン2基の評価を計算し、合計4パターンの計算結果を得た。
柔飛来物低減係数を0.65に固定し衝突速度に安全審査の際に採用された速度(F16につき150m/s、F4EJ改につき155m/s)を入れたものでは設工認の計算結果と完全に一致した。その上で、衝突速度を変化させると、F16のエンジン1基の評価では、260m/sで115cmを超え、275m/sで120cmを超え、290m/sで125cmを超え、305m/sで130cmを超え、335m/sで140cmを超える。F4EJ改のエンジン2基の評価では、205m/sで115cmを超え、220m/sで120cmを超え、230m/sで125cmを超え、240m/sで130cmを超え、265m/sで140cmを超え、285m/sで150cmを超え、310m/sで160cmを超え、335m/sで170cmを超える(別紙1-1、別紙1-2↓)。
柔飛来物低減係数をウラン濃縮工場安全審査資料に従い漸増させた場合は、F16のエンジン1基の評価では、215m/sで115cmを超え、225m/sで120cmを超え、230m/sで125cmを超え、240m/sで130cmを超え、255m/sで140cmを超え、270m/sで150cmを超え、280m/sで160cmを超え、295m/sで170cmを超え、310m/sで180cmを超え、335m/sでは200cmをも超える。F4EJ改のエンジン2基の評価では、190m/sで115cmを超え、195m/sで120cmを超え、200m/sで125cmを超え、205m/sで130cmを超え、220m/sで140cmを超え、230m/sで150cmを超え、245m/sで160cmを超え、255m/sで170cmを超え、265m/sで180cmを超え、290m/sでは200cmをも超える(別紙2-1、別紙2-2↓)。
3 裏面剥離限界厚さについて
本件再処理工場の設計及び工事方法認可申請書の「航空機に対する防護設計に関する説明書」では、エンジンの衝突による裏面剥離限界厚さの計算方法を次のように説明している。
甲D第175号証では、この計算方法に基づき、入力式としては高レベル廃棄物貯蔵施設の安全審査資料に記載されているメートル法換算した式を用いて計算をした。
本件再処理工場の設工認においてChang式に独自に付け加えられている「飛来物係数」については十分な説明がなく、とりわけ、F4EJ改についてはなぜ0.55を採用するのかについては何ら説明がなく、結果を操作する(F4EJ改のエンジン2基の評価でも基準をクリアする結果を出す)目的と疑われるが、甲D第175号証の計算結果報告書では、それでもなお、本件安全審査・設工認で行われたように、Chang式による裏面剥離限界厚さにあえてF16のエンジン1基では0.6、F4EJ改のエンジン2基の評価では0.55を乗じた数値を算出した。
安全審査の際に採用された速度(F16につき150m/s、F4EJ改につき155m/s)を入れたものでは設工認の計算結果と一致した(F16について小数点以下で若干の差があったが端数処理レベルの問題と考えられる)。その上で、衝突速度を変化させると、F16のエンジン1基の評価では、155m/sで115cmを超え、165m/sで120cmを超え、175m/sで125cmを超え、185m/sで130cmを超え、205m/sで140cmを超え、225m/sで150cmを超え、250m/sで160cmを超え、275m/sで170cmを超え、295m/sで180cmを超え、345m/sでは200cmをも超える。F4EJ改のエンジン2基の評価では、150m/sですでに120cmを超え、155m/sで125cmを超え、160m/sで130cmを超え、180m/sで140cmを超え、200m/sで150cmを超え、220m/sで160cmを超え、240m/sで170cmを超え、260m/sで180cmを超え、305m/sでは200cmをも超える(別紙3-1、別紙3-2↓)。
4 本件再処理工場の局部破壊条件
本件再処理工場の事故想定において重要な意味を持つ主要建屋(建屋が破壊されたときに大量の放射性物質が漏洩しやすい高レベル廃液貯蔵建屋、精製建屋、分離建屋、前処理建屋等)の多くにおいては、航空機防護にあたって検討すべき壁・天井厚は125cmまでである。この版厚125cmの壁・天井は、柔飛来物低減係数をウラン濃縮工場の安全審査参考資料のデータによって漸増させた場合のF4EJ改エンジン2基の評価では200m/sで、同様の場合のF16のエンジン1基の評価及び柔飛来物低減係数を0.65に固定した場合のF4EJ改エンジン2基の評価ではいずれも230m/sで、最も評価が小さくなる柔飛来物低減係数を0.65に固定した場合のF16のエンジン1基の評価では290m/sでエンジンが貫通するに至る。(裏面剥離については、F4EJ改エンジン2基の評価では155m/sで、F16のエンジン1基の評価では175m/sで裏面剥離に至る)
第4 破壊条件の現実性:安全審査条件の非現実性
1 高レベル安全審査資料の2段階想定
本件再処理工場と並行して安全審査が行われていた高レベル放射性廃棄物貯蔵施設の第1次審査の資料に含まれていた「衝突速度条件の二段階設定にかかる問題点について」という文書(甲D第53号証)には、「安全上重要な施設のうち特に重要と判断される施設」については衝突速度を「三沢対地訓練区域で訓練飛行中の航空機に係る事故で発生すると考えられる最大速度とする」その最大速度の例としては、「1800m(国会答弁による高度)から滑空飛行するとして飛行特性に基づき求められた衝突速度(215m/s程度)」「23000ft(訓練区域の上限高度)から滑空飛行するとして飛行特性に基づき求められた衝突速度と音速(訓練区域では音速では飛行していない)のうち大きい方の速度(~340m/s)」とされていた。
この第二段階衝突速度が、結局採用されなかった理由は、大幅な設計変更を要し工期が大幅に遅れることに加えて、ウラン濃縮工場で採用された衝突速度条件150m/sとの整合性、これまで衝突速度150m/sと説明してきたことを他の数値に変更するとPA(Public Acceptance)上大きな社会問題となり立地点としての適合性の問題がクローズアップされる、設計及びコスト面への影響が過大である、他の原子力施設での安全評価に影響を与える恐れがあるということにあった。
すなわち、三沢対地訓練区域を間近に控える本件再処理工場においては、戦闘機が墜落衝突する場合の衝突速度として、その可能性自体からは215m/sないしはそれ以上が十分に考えられ、安全審査において検討すべきと、日本原燃自身あるいは行政庁も考えていたものである。
2 F16の現実の墜落事例
2009年10月15日午後8時24分、訓練中のF16同士が大西洋上で空中衝突し、1機が海上に墜落する事故が発生した。その事故機から完全な形で回収されたフライトレコーダーの記録では、海面衝突の瞬間(At impact)の対気速度は770ノット、機首の俯角は60°であった。1ノットは1852m/3600s≒0.514444m/sであり、770ノットは396.1222m/sにあたる。俯角が60°であるから、墜落時の速度の垂直成分は sin60°=0.866025を乗じて343.052m/sとなる。
すなわち、2009年10月15日にアメリカで現実に発生したF16の空中衝突による墜落事故では地上面(この事故では海面)に達したときの衝突速度の垂直成分だけを見ても343m/sに達していたのである。このことからすると、同様の事故が発生して本件再処理工場の主要建屋の天井スラブ上にF16が墜落した場合、天井スラブへの衝突速度は343m/sとなるのである。
第5 まとめ
第4に述べたところから明らかなように、本件再処理工場の主要建屋への航空機の墜落を想定する場合には、三沢対地訓練区域で訓練中の戦闘機がエンジン停止して滑空するという想定ですら215m/sが十分にあり得、F16の現実の事故例から見ても343m/sということが十分にありうるのである。
そして第2及び第3で述べたところから、本件再処理工場の主要建屋は、総重量20tの戦闘機(F16を想定)が187.5m/sで衝突すれば全体破壊の判定基準を十分に超え、200m/s程度で全体破壊の危険があるとともに局部破壊の危険もあるのであるから、三沢対地訓練区域で訓練中の戦闘機がエンジン停止して滑空するケースでも局部破壊及び全体破壊の可能性があり、2009年10月15日に発生したF16の墜落事故と同様の事故が発生した場合には確実に全体破壊及び局部破壊が発生することになる。
本件安全審査は、このような可能性をあえて無視し、日本原燃のコスト増や他の原子力施設を含めたPA上の問題に配慮して、純粋な安全性検討上は想定すべきであった衝突速度を想定しないこととしたものであり、いってみれば貞観津波の研究が進み10m超えの津波の可能性を指摘されてもさまざまな言い訳をして津波対策を進めなかった東京電力福島第一原子力発電所とそれを許容した原子力安全・保安院と同じ道を歩んでいるもので、不合理であり違法である。
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