資源エネルギー庁の「不正確情報対応」事業の適正化を求める会長声明
2011年07月26日
東京弁護士会 会長 竹之内 明
「放射性廃棄物『スソ切り』の本質と問題点」
■02年3月16日に東京の早稲田奉仕園にて「放射性廃棄物スソ切り問題連絡会」の設立シンポジウムを開催しました。その中で、市川定夫さん(埼玉大学名誉教授)に「スソ切り」の問題点について分かりやすく講演をしていただきました。そのテープおこしを以下に全文紹介させていただきます。
■もくじ
●1章「廃炉の解体が招く『スソ切り』」
●2章「放射性被曝は微量でも危険」
●3章「放射性廃棄物『スソ切り』は許さない」
***●1章「廃炉の解体が招く『スソ切り』」■放射性廃棄物「スソ切り」の本質と問題点
今日、お話したいのは、「スソ切り」がもっている背景とその本質です。
1966年に日本で最初に稼動した東海村の小さな原発、東海第一原発のガス冷却炉(16万6,000キロワット)は、1998年3月31日に廃炉となり、廃炉届が提出されたあと、2001年12月から解体工事が開始されています。
それ以前にも、東海村の原研の実験用小型原子炉JPDRが解体され,その小型の原子炉ですら、総量24,440トンもの廃棄物が出ました。そのうち放射性廃棄物が15%、その他は非放射性廃棄物とされて、非常にたくさんの廃棄物が出るということがわかりました。また、通常の原発運転によって生じる放射性廃棄物とは大きく違って、その大部分が鉄材とコンクリート材ということが実証されました。しかし、それは自明の理でして、当初から廃炉解体の問題点として指摘されていたことでした。今後もどんどん加圧水型と沸騰水型の軽水炉の解体が始まりますが、JPDRの解体を参考に、政府は原発の解体を進めていこうとしているのです。
原発の新規立地が困難ななか、既存の場所を使って、新しい原発に変えていこうという政府の方針があって解体が進められようとしています。
実際にやってみたら非常にたくさんの廃材が出ました。しかも、それが鉄とコンクリートという非常に重く、しかもかさ張るものなのです。解体をすれば大変なことになるとは最初からわかっていました。原発の使用済み核燃料は、六ヶ所村に持ち込もうとしているわけですが、それをいつまで置いておくか、また、その後どこに持っていくかは決まっておりません。すべて未定なのです。まして解体に伴うものすごい量の廃棄物をどうするのかは決まっていません。
解体によって出てくる膨大な廃棄物の量を減らすためには、できるだけ多くの量を放射性廃棄物として取り扱わないという方策
を取るしかない。そこで、自然の放射線の平均量の100分の1くらいなら大丈夫だろうということで、0.01 mSv以下なら放射性廃棄物として取り扱わないでいいようにしようというのが、政府や電力会社の方針なのです。それを可能とするために、今後検討し、法制化していこうとしているわけです。解体に伴って出てくる、かさ張って、しかも重くやっかいなものを、法令の緩和によって、処分可能にしようとしているわけです。
原発を進めてきた側は、何か不都合に出会うと、不都合を解消するために法令を緩和してきました。私は、一貫して原子力に「安全性」はありえないと言ってきました。
原子力には「危険性の低減」しかないと言ってきたのです。
しかし、政府や電力会社は原子力の危険性を最小限にする方向は選ばずに、むしろ法令を緩和することによって、「スソ切り」を可能にしようとしており、それは次の問題、「スソ切り」をされた廃棄物が再利用されて放射線被曝を伴う問題をひき起こします。
当面の問題を解決するために次の問題をつくっていくという、今までの原子力開発で起きたのと同じことが行われることになるのです。
解体に伴ってたくさん出る鉄材やコンクリート材を、通常の産業廃棄物としてよいということになったら、どうなるのでしょうか。鉄材はリサイクルされると何にでも変化します。原子力研究所のJPDR炉解体工事では、くず鉄が約1,500トン出ましたが、それは民間業者に払い下げられ、一回目ということで他の鉄材とは別にされました。しかし、かつてブラジルやメキシコで、アメリカから産業廃棄物として払い下げられた鉄材のなかにコバルト60が含まれていました。そのような例がたくさんあります。それと同じことで、一定レベル以下の放射能汚染された大量の鉄材が通常の産業廃棄物として出されると、それがリサイクルされて建築物の鉄骨や鉄材になったりして、みなさんの身のまわりに入ってきます。スチール缶やナイフやフォーク、流し台や蛇口、自動車、自転車、三輪車、乳母車、さらに釘、ねじ、クリップ、画鋲など小さいものも含めて、一般市民の日常生活の場に放射性を浴びたものがわずかだと言いながら入ってくるのです。しかも、問題なのは、放射線量0.01 mSvを基準とするといいますが、実際の被曝はどうしてわかるのでしょうか。
一番の問題は、原子炉の構造物は、表面汚染と言って、表面に付着する放射能よりも、なかで生じる放射能のほうがずっと多いことです。
原子炉のなかでは、臨界事故で飛び出したのと同じ中性子が飛び交っています。
電荷をもつ陽子と違って、電荷をもたないため透過力がきわめて強い中性子がいろんな元素の核にぶつかって、原子核を放射化する。そうしてできたものを誘導放射能と呼びます。ウランの分裂の結果として出るものを核分裂生成物と呼びますが、その核分裂生成物による表面汚染よりも、鉄材やコンクリート材のなかに生じる誘導放射能のほうが多いのです。
そういう重くてぶあついものを表面から測定して、表面線量がこれだけだからあるレベル以下だと判定したとしても、その内部にはもっと多くの誘導放射能があり、鉄材やコンクリート材を貫いて出てこられない放射線がたくさんあります。たとえばβ線を出す核種でしたら鉄材やコンクリート材のなかではせいぜい数mmぐらいしか飛びません。それからα線を出すものだったら放射線はまったく飛びません。
人間の体のような軟らかい組織でβ線が1cm、α線なら40 μmがせいぜい飛ぶ距離です。そんなものが鉄材やコンクリート材のなかでできたとしても、一切表面には放射線は出てきません。だから放射能はないものと扱われ、「スソ切り」されて一般廃棄物のなかに入ってくるわけです。ところが、実は鉄材のなかには放射能がある可能性がある。
そのことが一番の問題なのに、
表面線量を測って自然放射線の100分の1だから大丈夫だと言う。
そういう基準というのは、自然科学の立場から考えると何の根拠もないということになります。
誘導放射能が厚い鉄骨のなかに入っていても、表面線量が少ないということで通常の廃棄物とされるのですが、われわれの日常生活のなかには、薄っぺらいか、細い、小さいか、そういったものに化けて入ってくるわけです。そうすると放射線がどんどん出てくるわけです。薄いがために、細いために、あるいは小さいために放射線が出てきます。表面線量が少なかったから、これはだいじょうぶという形で廃棄されたものが、薄い、細い、小さいものに化けたときには、放射線被曝が多くなることも考えられないわけではないため、私たちの日常生活が見えない不安に脅かされることになりうるのです。
それからもう一つ、「スソ切り」が廃炉の解体に必要だという、放射性廃棄物がどんどん出るという不都合をなんとか回避するために法制化して「スソ切り」をしようとしているのですが、それが適用されますと、他のあらゆる放射性廃棄物にも同じ基準が適用されることになります。そして、原発の運転により生じる「低レベル」放射性廃棄物や、医療・研究機関からの放射性廃棄物も、その基準以下であれば、通常の産業廃棄物、医療廃棄物などとして扱われることになってしまうのです。そうしますと、たとえば、医療で使われている放射能はわれわれの体のなかの特定の部分に入りやすいものばかりです。だからこそアイソトープとして検査用に使われるのです。生物学の実験に使われるものも、かならず生物の体にどんどん入っていきます。体のどこに入ったかわかりやすくするための指標として放射能が使われています。こういうものは非常に生物の体に入りやすい放射能ですから、「スソ切り」のおかげで、普通の廃棄物と一緒にされると、医療機関や大学などの研究機関からの放射性廃棄物は、もっとわれわれに直接の被曝を与える可能性があります。このことも非常にだいじなことです。
●2章「放射性被曝は微量でも危険」
それから二番目に、「スソ切り」の考えのもとには、あるレベル以下ならだいじょうぶだという考え方、さっきお話したように、自然放射線の平均の値の100分の1なら大丈夫だという考え方が基本にあるわけですが、これはまちがいだということをお話したいと思います。
ここで改めて強調したいのは、法制化しようとしている「スソ切り」が、1970年代初期に、私やアメリカのブルックヘブン国立研究所のスパローグループが、ムラサキツユクサの雄しべの毛を用いて実験的に証明した、
「放射線量がどんなに微量でも、それに比例して突然変異が起こる」
という事実と、それによるそれまでの「しきい値」説の否定を意図的に無視しようとしていることです。
当時の放射線の許容線量といわれたものの25分の1にしても、50分の1にしても、突然変異が起こります。
それは自然で起こっているものに比べて、統計学的にきわめて有意に増加することを証明しました。それまでずっと使われてきた、いわゆる放射線の「しきい値」説(しきい値というのは、これ以上では影響が現れる、これ以下ではなんの影響もないと言われていた値)、ある量以下ではだいじょうぶだという説を覆したわけです。当時の許容線量は、「しきい値」よりも低くしておけばだいじょうぶだという説を基本において設定されていました。
私が学生の頃、放射線についての講義で習ったのは「しきい値」説でした。英語で書かれたのもドイツ語で書かれた教科書にも、みんな「しきい値」説が書かれていました。私たちは、それで学んできました。私は、東海村のJRR-1という研究用原子炉を生物学の分野では最初に利用したのですが、それを使っていたときも、原子炉の中に手を突っ込んで実験をしました。また、京大の共同利用実験用原子炉ができたときもそういうことをやっていました。その頃、そういう所で実験をしていた人たちには、非常に勇敢な人が多くて、ある研究者の失敗で一斉に被曝したことがあります。ある国立大学の化学の先生が、怯えて放射能を扱っていた学生に、「ぐずぐず怯えて扱っているから、被曝時間が長くなるんだ。思い切って扱え!」と怒鳴りつけました。その学生は、ビーカーをみんなが通る廊下に落として割ってしまい、床ごと放射能汚染させたのです。その方は有名な先生で、後に原子力にもかかわりました。そういうふうに、放射線を怖がることはいけないみたいな風潮がありました。その根本にあったのが「しきい値」説で、「ある量以下だったらだいじょうぶだ」という考えでした。そういう考えに基づいて「スソ切り」を、今でもやっていこうとしているのです。私たちは、「放射線量がどんなに微量でも、それに比例して突然変異が起こる」ということを証明しました
後にこれは発ガンについても当てはまるということがわかりました。
そういうことがあるのに、政府や電力会社は、「しきい値」説に依拠して「スソ切り」を進めていこうとしているのです。
政府や電力会社の主張には、もともと自然災害の確率がある程度あり、どんな労働作業や日常生活でも事故が起こりうるから、原子力のような「社会的貢献をしている事業」では、一般に起こる事故程度の「社会的に容認できる危険度以下なら認められる」という考えがずっとありました。
伊方や東海、女川、柏崎、泊などのいろんな原発の訴訟での私の証言に対して、国や電力会社が反論してきたのは、常に「しきい値」説に基づいていました。彼らは「社会的に重要なエネルギーを供給する産業では、ある程度の危険性が認められるべきで、そういう日常的な生活で遭遇する程度の危険性ならだいじょうだ」と主張しました。同じことを、私が1977年にイギリスでのウインズケール公開聴聞会で、日本の使用済み核燃料用の新しい再処理施設THORPを建設するかどうかをめぐっての証言台に立ったときにも、イギリスの核燃料公社の側の科学者が主張をしました。
「こういう重要な事業については、ある量までの危険が認められなければ、こういう事業がもともとできない。それが、あたりまえだ」とまで言ったのです。「再処理することや電力を供給することによって、危険性以上のベネフィットを市民にもたらしているのだから、ある程度までのリスクはあたりまえだ」という考えです。いつも同じことを聞いてきました。
「スソ切り」はまさに、その論法を使っています。「その土地を再利用し、もっと発電できる新しい原発を建設するためには解体しなければいけない。解体するためには廃棄物がたくさん出る。それを全部放射性廃棄物として扱うことは到底できない。だから可能な限り多くの廃棄物を放射性廃棄物でないものとして捨てよう」という逆転した考えなのです。私は、原発訴訟やイギリスでのウィンズケール公開聴聞会で、以下のように反論しました。
自然災害や労働作業、日常生活上の危険の確率は確かにあります。しかし、それが減らなかったら、「スソ切り」によって危険だけが増える。自然災害や労働作業の危険が減らなかったら、放射能が日常生活のなかに入ってくる危険だけが増えることになります。
仮に自然災害や労働災害や交通事故の危険が減らせたとしても、放射能が日常生活に入ってくることによって、日常生活の危険性を減らす努力が帳消しになるのです。つまり、そのような論法は市民を騙す詭弁にすぎないのです。
それともう一つ重要なことは、原子力が産み出す放射性核種の圧倒的大部分が人工放射性核種であることです。
つまり自然界には存在しない放射性の原子核ができますが、それは人工放射性核種と呼ばれます。人工放射性核種がもたらす放射線被曝の特異性が問題なのです。
天然には放射性核種が存在しない元素につくり出された人工放射性核種が特に問題です。
なぜかというと、生物は、放射性のない元素は安全ですから、その元素を積極的に取り込んで、有効に活用する性質を獲得してきました。
その一つの典型的な例がヨウ素です。私たちは、原発の周辺でムラサキツユクサを植える実験をしました。その実験はアメリカや西ドイツでも行われましたが、どの原発の周辺でも同じく起こったのは、ムラサキツユクサの突然変異率が増えるということでした。空間線量を計ってもほとんど増えていない、ところがムラサキツユクサは、統計学的に見てあきらかに有意に突然変異率が増えるのです。
誰がやっても、どこでやっても突然変異率が増えるのです。その一番大きな原因がヨウ素でした。天然のヨウ素は非放射性で、放射性をもつヨウ素は自然界には存在しません。ところが原子炉のなかでつくり出されるヨウ素は100%放射性です。まったく対照的なのです。
生物は海のなかで誕生しました。原始的な生命が誕生したのは約35億年前で、はっきり細胞の形をもって生物らしくなったのは、約25億年前です。そのときは現在のような大気圏も酸素もまだなかったのです。海のなかで生まれた生物は無機的な生活をしていたのですが、やがてそれが進化して、現在のラン藻の祖先、単細胞の下等な藻類が生まれて光合成を始めました。
その当時、地球上にたくさんあった二酸化炭素と水から太陽のエネルギーを利用して光合成をし、有機物、炭水化物をつくり出しはじめ、酸素が放出されました。酸素はまず海のなかに溶け、やがて大気に出はじめ、酸素を含む大気圏が形成され、生物は陸上に進出することが可能となりました。陸上に上がった生物にとって問題はヨウ素でした。海のなかにはヨウ素はたくさんありました。しかし、陸上では、ヨウ素は海から蒸発して風で運ばれてきて、雨に溶けて降ったとしても、川となって海に流れていきます。だから陸上にはヨウ素は非常に少ない。かつて日本軍が大陸に侵攻した当初の頃、ヨウ素欠乏症に悩まされたのです。それでその後は、塩昆布やワカメなどを持たせました。海藻類にたくさんヨウ素が入っているからです。
植物は根を張りますと動けませんから、植物のほうがヨウ素を濃縮する能力をもちはじめます。空気中に含まれるごく僅かなヨウ素を、自分の体に必要な量まで濃縮する能力をもちはじめました。10億年も前から濃縮する能力は年とともに高まって、現在の高等植物は、調査データによりますと、250万倍から1,000万倍ですが、何百万倍にも空気中から植物体内にヨウ素を濃縮できます。
それで原発周辺のムラサキツユクサは、体内に放射性ヨウ素をどんどん濃縮して、体内から被曝を受けたのです。
普通の原発では、希ガスと言って、クリプトン85だとかキセノン133やキセノン135という,化学的な反応力の全くない不活性気体が放出されますが、その仲間と比べて原発の気体廃棄物として出されるヨウ素は、ムラサキツユクサの実験をした当時、だいたい1万分の1でした。現在は活性炭フィルターが付けられて10万分の1に減っています。それでも希ガスと比べて1万分の1とか10万分の1くらいのものが出るのです。
希ガスは不活性気体で、化学反応をしませんので、空気中と植物の体のなかの濃度は同じなのです。ところが放射性ヨウ素だけは空気中には1しかないのに、例えば500万倍濃縮されるとすれば、放出量は希ガスの1万分の1だとしても、植物体内では希ガスの500倍になります。
それで原発の周辺のムラサキツユクサの突然変異が増えるということが証明されたのです。植物は濃縮できる能力を獲得したからこそ、必要なヨウ素を集めることができたのです。動物は植物を食べることによって、また肉食動物は草食動物を食べることによってヨウ素を摂取できます。そしてそのヨウ素を哺乳類ですと甲状腺に集めます。
そして甲状腺に集める速さは若い人ほど速い。
一般的に言いますと
成人に比べて、10歳ぐらいの子どもで10倍ぐらいの速さです。
乳児は10歳ぐらいの子どもの8倍ぐらいの速さです。
ですからわれわれに比べて乳児は80倍ぐらいの速さでヨウ素を集めます。
なぜならば、ヨウ素は、体を成長させる成長ホルモンを甲状腺でつくるのに必要なのです。
それで甲状腺にヨウ素を集めて成長ホルモンをつくって成長させるのです。だから若い人ほど集めるのが速いのです。例外は女の人で、妊娠中には自分の甲状腺よりも、むしろ胎盤を通じて胎児の甲状腺に集めます。特に妊娠中期を過ぎた頃から、さかんに胎児の甲状腺にヨウ素を集め、胎児の成長ホルモンをつくらせるのです。もう一つの例外は授乳期間です。赤ちゃんを産んでお乳を与えている間、母体の甲状腺にはあまり送らないで、ほとんど乳腺に集めます。そしてお乳に入って赤ちゃんに行くのです。全部、若者、若い者優先のシステムになっています。つまり若い人ほど、成長ホルモンを必要とし、そのためのヨウ素を必要とするのです。つまり陸上には少ないヨウ素に植物も動物もみごとに適応しているわけです。
ところが、原子炉が産み出すヨウ素はすべて放射性です。自然の非放射性のヨウ素に適応した生物の優れたシステムは、人間が放射性のヨウ素をつくり出したことによって、たちまち悲しい宿命となり、人工放射性ヨウ素を体内や甲状腺、胎児や乳児に著しく濃縮して、至近距離からの大きな体内被曝を受けることになってしまいます。
その他、ヨウ素と同じような働きをするのは、自然界の元素には放射性のものがないもので、骨や歯、卵殻に選択的に沈着するストロンチウム90もそうですし、筋肉や生殖腺に蓄積するセシウム134や137もそうです。ストロンチウムはカルシウムの代りになります。
廃炉解体に伴う放射性廃棄物の場合は、上述のような廃棄鉄材の再利用の際にそれを溶かす過程での鉄材内の人工放射性核種の放出が問題となります。コンクリートも細かく砕くことによって、内部にできた放射性物質が表面汚染以外に出てきます。表面線量はある程度以下だから安全だと管理区域の外に出しても、その中にはたくさん放射能が入っている可能性があるわけで、そういったものが環境中に出されてくるのです。
一方、原発の運転により生じる「低レベル」放射性廃棄物の問題もあります。低レベル廃棄物は原子炉の中で使われた布やビニール、小さなネジや金具、そして原子炉のなかで使用した器具など、そこには放射性核種が含まれています。そういうものも、低いレベルの放射性廃棄物として「スソ切り」されますと、一般環境中に入ってくるのです。しかも放射性廃棄物のなかには、寿命の長いものがたくさん入っています。先ほど挙げた
ストロンチウム90の放射能半減期は27年、セシウム137は30年で、もっと長いものもたくさんあります。原子炉のなかでできる
放射性ヨウ素には6種類ありますが、そのうちのヨウ素129の放射能半減期は1,700万年です。我々、人間の文明の歴史が数千年、少なくとも文字を残すようになってから、数千年しか経っていない。それに対して1,700万年なのですから、なくならないのです。そんなものも出てくる可能性があるのです。
●3章「放射性廃棄物『スソ切り』は許さない」
以上に述べてきたほかに、放射性廃棄物の「スソ切り」はどのような問題を引き起こすのでしょうか。
地球規模の環境破壊として言われているのは、地球温暖化の問題、オゾン層の破壊、熱帯雨林の減少もあります。熱帯雨林の面積は、1960年代の初期に比べて4割も減っています。世界中で伐採された熱帯木材のうち、その4割強を日本が輸入しています。また、パルプ材としてもどんどん使われています。そのような環境破壊と同時進行しているのが細胞内での遺伝子破壊です。
私がいろいろな本のなかで地球規模の環境破壊と並べて細胞内での遺伝子破壊を警告しているのは、原因が重なりあっているからです。
たとえばオゾン層破壊による紫外線の増加や、化石燃料の大量燃焼による大気汚染物質などがそうなのです。地球規模の環境破壊には、温暖化防止京都会議などいろんな会議が開かれるのに、細胞内での遺伝子破壊には、首脳が集まって開かれるような大きな会議が開かれていないのです。せいぜい国際機関で議論されている程度です。「スソ切り」は、そうした細胞内での遺伝子破壊をいっそう進めることになるのです。
政府や電力会社は大きな危険性をはらんでいることを無視して、廃炉解体に伴う不都合を解消するために、しゃにむに進めようとしています。しかし、廃炉解体は、解決のめどの立っていない放射性廃棄物の貯蔵・処理・処分問題とともに、これまでのさまざまな原発事故、放射性廃棄物海洋投棄、核燃料再処理、プルトニウム、核燃料輸送、高速増殖炉計画、プルサーマル(MOX燃料)計画、臨界事故などの諸問題と同様に、いずれも原子力の危険な本質を「平和利用」の美名で隠しつつ、かつ「安全神話」を謳いながら、実は将来への展望もないまま、原発推進政策を進め、あるいは強引に進め続けようとしてきた過去の誤った政策の重いツケなのです。
これらいずれの問題でも、原子力の危険な本質を最初から現在に至るまで隠しとおし、確たる先見性もないままに原発を推進してきたがために、その過程で次々と新しい問題が出てきたのでした。
根本的な解決は原発を止めることですが、そうではなくて、その問題を回避するためにある手段をとる、そしてその手段が次の問題をひき起こすことを繰り返してきたのです。
原子力がもっている問題はまさにそれです。本当の危険性を認識しないままに、安全だと言い続ける。そもそもかつてのアメリカのAEC(原子力安全委員会)がNRC(原子力規制委員会)になったときに、アメリカが取った措置はそれまでに原子力委員会にかかわった人は、一人といえども当面、3年間はNRCに入れないとしました。
関係者が入れば、今までやったことが正しいと言い続けるのに決まっています。ところが日本で原子力安全委員会ができたときは、みな原子力委員会から横スベリをしました。だから安全だとしか言えないのです。本当は危険がわかっても、安全だと言い続ける。問題に突き当たっても、本質を隠しとおして、場当たり的な方策に頼り、それが次の問題を生んできたのです。そういうことを繰り返してきました。
海外では脱原発への動きは年々強まっています。スウェーデン、ドイツに続いてベルギーも脱原発を決めました。なぜ脱原発の動きが進んでいるのか。どこも原子炉の解体はしないのです。ドイツは昔から放射性廃棄物の問題と取り組んできました。ガラス固化やアスファルト固化などにも取り組み、岩塩鉱の跡地に廃棄するんだと言ってきました。しかし、現在では変わってきました。放射性廃棄物は暫定的に置いているのです。固化した放射性廃棄物がずっと安全だと誰も証明できないからです。そして廃棄物は大変な問題だとわかってきたから、原子力から撤退しようとしているのです。事故の怖さだけではないのです。ネックは廃棄物なのです。高速増殖炉から撤退したのも廃棄物の問題です。核燃料再処理から撤退し、使用済み核燃料をそのまま貯蔵しようとしているのも、再処理をすると廃棄物が一挙に増えるからなのです。ところがわが国は「スソ切り」をやってまで、解体をして新しい原子炉を設置しようとしているのです。もっと廃棄物を増やそうとしているのです。ですから、皆さんが「スソ切り問題連絡会」を結成されたのを機会に、一人でも多くの方に、「スソ切り」がもつ本質とどういう問題があるかを訴えていただいて、「スソ切り」を許さず、脱原発への正しい道を、これまで以上に力強く前進しなければなりません。レジュメに法令などの資料もつけていますので、ぜひ利用して下さい。私の本日の記念講演が、そうした正しい道への前進に、少しでもお役に立つならば幸いです。
最後にもう一度まとめますと、「スソ切り」のもつ意味は、廃炉解体をすることによって、どうしようもない放射性廃棄物がたくさん出る。全部管理区域内のもので、しかも原子炉本体ですから、あきらかに放射性廃棄物なのです。解体するためには「スソ切り」をせざるを得ない。できるだけたくさんを「スソ切り」したいということです。そして一般市民をだますために、自然放射線の100分の1位だから大丈夫だと言いますが、鉄材やコンクリート材のなかに入った放射能は測定できません。分厚くて、ごつい、密度の高いものほど、なかに放射能が入っていても、放射線は外に出てきません。その測定で、安全とされて、「スソ切り」されたものが再利用されると、そのなかに含まれるものがどんどん外に出てきます。そのことを隠して一般の人にたいしたことはないんだ、非常に低いレベルのものだから、そういう扱いをするんだと言っていますが、それにだまされてはいけません。
それと原子炉内で生じる放射性核種には、天然に存在した自然放射性核種と違って、生物にとっては非常に怖い、生物がみごとに獲得した適応が欺かれて、それがたちまち悲しい宿命になるようなものが含まれています。特に、自然界には放射性のものが存在しない元素につくり出された人工放射性核種がそういう問題をもつことを二番目に強調しておきたいと思います。
最後に、こういう「スソ切り」をやろうとするのは、今までの原子力政策のすべての面に相通ずるやり方をしようとしているのです。それはまた次の問題をつくり出し、しかも次の問題ほど大きな深刻な問題になるということを繰り返そうとしています。以上の三点をご理解していただき、私の講演を終わります。
【プロフィール】
1935年大阪府生まれ。京都大学大学院修了。農学博士。米国ブルックヘブン国立研究所研究員、メキシコ国立チャピンゴ農科大学大学院客員教授、埼玉大学理学部教授等を経て、現在、埼玉大学名誉教授。その間、伊方原発訴訟や原爆症認定訴訟などの原告側証人として放射線と遺伝の関係を証言。また、ムラサキツユクサの研究は有名で、ごく低線量でも生物に影響があることを証明。1995年から原水禁国民会議副議長を務め、今年4月に議長に就任。
〈インタビュ─を終えて〉
今回は市川先生のインタビューです。森滝さん、岩松さんを引き継ぐ、原水禁の議長に就任されました。私は、労働運動に参加した1970年代に、大阪で、市川さんの「ムラサキツユクサ」による原発の告発を知りました。そのことが、市川先生との最初の出会いでした。原水禁は、現在、多くの課題に直面しています。市川さんのご奮闘が期待されています。ぜひ頑張ってください。 (福山真劫)
コンスタンチン・ロガノフスキー/Konstantin Loganovski ウクライナ医学アカデミー放射線医学研究センターのトップが明かすこれから子供たちに起きること 被曝は何をもやらすのか- 知能の低下、左脳に損傷 (週刊現代 2011年7月16日・23日合併号) | |||
被曝によって、がんや白血病に罹るリスクが増すといわれる。では脳にはどんな影響があるのか。チェルノブイリ事故が起きたウクライナで、15年間調べ続けてきた研究者に聞いた。 被曝した子供たちには言語能力、分析能力の低下が見られた 「残念なことですが、チェルノブイリ原発事故によって住民や作業員に起きたことは同じように福島でも起きると、私は思います」 ウクライナ医学アカデミー放射線医学研究センター(キエフ市)のコンスタンチン・ロガノフスキー氏はこう話す。氏が所属する放射線医学研究センターは、1986年4月26日にソ連(現ウクライナ)で発生したチェルノブイリ原発事故で放出された放射性物質が人体にどのような影響を与えるかを調べるために、同年10月につくられた施設だ。200人の医師、1500人のスタッフがおり、ベッド数は534床ある。チェルノブイリ事故の人体への影響に関して研究している組織や機関は多数あるがここは最大規模だという。ロガノフスキー氏は、このセンターの精神神経学部門のトップを務める人物である。氏はこれまでどんな研究をしてきたのか。 「私がテーマにしているのは、チェルノブイリ事故によって放出された放射線が及ぼす中枢神経への影響と、被曝者のストレス、PTSD(心的外傷後ストレス渉障害)などです。対象としているのは原発作業員、避難民、汚染地域の住民などで、とくに力を入れているのは、事故当時に胎児だったケース。いま23歳から25歳となっていますが、彼らが5~6歳の頃から私はずっと追跡調査をしています」 あのときお腹の中にいた子たち ロガノフスキー氏はチェルノブイリ原発が事故を起こしたとき、まだ医学部の4年生だったが、卒業後、このセンターに就職して、以来25年間、研究を続けている。氏の妻もここで小児科医を務めていて子供の被曝について調べているという。 氏のオフィスの壁面にはチェルノブイリ原発事故の写真が貼り付けてあるそれを指差しながら氏はここと福島の類似点を説明する。 「いまチェルノブイリ原発では放射性物質を完全に封じ込めるための工事が新たに進められています。石棺化した4号炉をさらにドームで覆ってしまうというものです。これを担当しているのはフランスの会社ですが、私はここで働いている作業員の医学面のケアもしています。 チェルノブイリで起きたことと福島であったことはよく似ている。事故後、最初にヨウ素が放出され、その後セシウムやストロンチウムが検出されるという流れもまったく同じですから。違いは福島には海があって、ここには河しかなかったことぐらいでしょう。したがってチェルノブイリ事故の後、住民や作業員に起きたことを見ていけば、これから福島でどういうことがあるか、わかるはずなのです」 日本でいま最も心配されているのは、胎児や子供たちの健康への影響だろう。それについて、ロガノフスキー氏が解説する。 「チェルノブイリは、広島に落とされた原爆のケースに比べれば被曝線量は低い。しかし深刻な内部被曝の被害者は多数います。甲状腺がんや神経系の病気の増加や、言語能力、分析能力の低下も見られました」 これら能力には左脳の関わりが深い。氏はその機能低下の原因について、次のように分析している。 「言語能力には脳の2つの部位が関係しています。ブローカ野とウェルニッケ野です。いずれも左脳にあります。脳の中でも最も重要な部位の一つといえるでしょう。私はここが損傷しているのではないかと考えています」 女性のほうが放射能の影響を受けやすい ロガノフスキー氏らの研究チームが11歳から13歳までの被曝した子供たち100人を被曝していない子供たち50人と比較したところ、とくに左脳に変化が生じていることがわかった。氏は「母親の胎内における被曝体験が精神疾患を引き起こしたり、認知能力の低下をもたらしたりする」と述べ、脳波の変化と知能の低下も見られたと指摘する。 「被曝していないグループの知能指数の平均が116に対して、被曝したグループは107。つまり10程度ぐらいの差がありました。私の妻もrural-urban(地方・都会)効果を加味した調査、つまり地方と都会の教育格差を考慮した形の調査を実施しましたが、結果は同じで被曝者のほうが同程度低かったのです」 つい先日もロガノフスキー氏はノルウェーに出張してオスロ大学の責任者に被曝と知能の関係に関する研究の成果を聞いてきたばかりだという。 「ノルウェーは旧ソ連の国々を除くとチェルノブイリ事故の被害を最も受けた国です。この研究結果でも胎内で被曝した成人グループの言語能力は被曝していないグループに比べ低いと指摘していました」 胎児に関する研究でもう一つ気になるのは統合失調症をテーマにしたものだと、氏は話す。 「長崎大学医学部の中根充文名誉教授によると、原爆生存者の中に統合失調症の患者が増えており、胎児のときに被曝した人の中でもやはり患者が増えているという。ただ中根さんはこの病と被曝が関係あるという証拠がまだないと話していました。1994年のことです。統合失調症は左脳と関連があるといわれており、私たちも長崎大のものと同じような内容のデータを持っています」 ウクライナだけで20万人いろというチェルノブイリ事故の処理に当たった作業員たちの中にも、精神を病む人が出ていると、ロガノフスキー氏は言う。 「精神障害者は少なくありません。そのなかにはうつ病、PTSDが含まれています」 氏のチームの調査によって、自殺に走る作業員が多いことも判明した。 「私たちはエストニアの作業員を追跡調査しましたが、亡くなった作業員のうち20%が自殺でした。ただエストニアはとくに自殺は悪いことだとされている国なので、自殺した人間も心臓麻痺として処理されることがあり、実数はもっと多いのかもしれません」 精神的な病に陥るのは何も作業員に限ったことではない。京都大学原子炉実験所の今中哲二助教が編纂した『チェルノブイリ事故による放射能災害』によると、ベラルーシの専門化が調べた、同国の避難住民の精神障害罹患率は全住民のそれの2.06倍だった。また、放射能汚染地域の子供の精神障害罹患率は汚染されていない地域の子供の2倍だったという。 ロガノフスキー氏は被曝によって白血病やがんの患者が増えるだけでなく、脳など中枢神経もダメージを受けると考えているのだ。それは15年にわたる様々な調査・研究の成果でもある。 その他にどんな影響が人体にあるのだろうか。氏は様々な病名を挙げ続けた。 「作業員に関して言えば圧倒的に多いのはアテローム性動脈硬化症です。がんも多いのですが、心臓病や、脳卒中に代表される脳血管の病気も増えています。白内障も多い。目の血管は放射線のターゲットになりやすいからです」 さらに氏は遺伝的な影響もあるのではないかと考えている。 「チェルノブイリ事故の後、その影響でドイツやフィンランドでダウン症の子供が増えたという報告がありました。しかし、IAEA(国際原子力機関)やWHO(世界保健期間)はその研究に信憑性があると認めていません。ただ、私たち専門家の間ではなんらかの遺伝的な影響があると考えられています。小児科医である私の妻はチェルノブイリ事故で被曝した人々の子供や孫を調べましたが、事故の影響を受けていない子供と比較すると、はるかに健康状態が悪いことがわかりました。つまり被曝の影響は2代目、3代目、つまり子供やその子供にも出る可能性があるということです」 放射線の影響についてもっとはっきりしていることがある。それは「性差」で、氏によれば、「女性のほうが放射線の影響を受けやすいのだ」という。 「それは間違いありません。うつ病、内分泌機能の不全は女性のほうがずっと多い。チェルノブイリには女性の作業員がいたが、私はそういう点からいっても女性はそういう場で作業をやるべきではないと思っています」 低線量でも浴びれば健康を害する では、これから福島や日本でどんなことが起こると予想できるのか。ロガノフスキー氏は慎重に言葉を選びながら、こう話した。 「女性に関しては今後、乳がんが増えるでしょう。肺がんなどの他のがんの患者も多くなると思います。作業員では白血病になる人が増加することになるでしょう。ただ病気によって、人によって発症の時期はまちまちです。たとえば白血病なら20年後というケースもありますが、甲状腺がんは5年後くらいでなることが多い」 脳や精神面、心理面ではどんな影響が出てくるのか。 「チェルノブイリの経験から言うと、まず津波、地震、身内の死などによるPTSDを発症する人が多数いるでしょう。放射能の影響を受けるのではないかという恐怖心から精神的に不安定になる人も出ます。アルコール依存症になったり、暴力的になったりする人もいるかもしれません」 ロガノフスキー氏は、実は福島第一原発事故直後に日本に援助の手を差し伸べようとしていた。 「私たちにはチェルノブイリでの経験があるし、たくさんのデータも持っているので、いろいろな面で協力できると思ったのです。そこで知り合いの医師たちを集めて、キエフの日本大使館に出向きましたが、門前払いされました。 チェルノブイリ事故が起きたとき、ソ連政府のアレンジによって、モスクワから心理学者や精神科医などからなる優秀なチームが避難所にやって来ました。彼らは地元ウクライナのスタッフと協力して被災者のケアに当たってくれたのです。福島ではそういうことがなされているのでしょうか。 ウクライナは裕福な国ではありませんが、チェルノブイリでの豊富な経験があります。私たちは今回、日本政府からお金をもらおうとして行動していたわけではありません。無償で協力しようとしただけなのです。拒否されるとは思わなかったので、とてもショックでした。 ロガノフスキー氏は、日本政府の姿勢に対して不信感を持っている。それは援助を断られたからだけではない。 「当初、発表された福島原発から漏れた放射性物質の量は実際とは違っていました。国と国の交流に大事なことは正確な情報を公開することです」 では、日本政府が定めた「年間20ミリシーベルト、毎時3.8マイクロシーベルト」という被曝限度量については、どう考えているのか。 「一般人は年間1ミリシーベルト、原発関連で働いている作業員は20ミリシーベルトが適性だと思います。これが国際基準です」 つまり、日本政府の基準を鵜呑みにしては危ないと考えているのだ。さらにロガノフスキー氏は低線量の被曝でも健康被害はあると指摘する。 「値が低ければ急性放射線症にはなりませんが、がんに罹りやすくなるなど長期的な影響はあります。そういう意味では低線量被曝も危険です」 これが、ロガノフスキー氏が長年、行ってきた低線量被曝が健康を害するかどうかの研究の結論である。氏は「ノルウェーでも同じ結論を出した学者がいる」と話す。 子供はなるべく遠くへ逃げなさい だとしたら、どうやって自分や家族を守っていけばよいのだろうか。とくに子供や妊婦はどうすればいいのか、ロガノフスキー氏にたずねた。 「まず最も大事なのは正確な線量の測定をすることでしょう。いま私が座っているところが安全でも2m離れたあなたが座っているところは危険かもしれないからです。福島や東京にもホットスポットがあるようですが、チェルノブイリでも同じです。原発を中心に円を描いても、その内側に安全なゾーンもあれば、外側に危険なゾーンもあります。だからこそ住んでいるところの線量をきちんと測る必要があるのです。 次に大事なことはクリーンな水と食べ物を口にすることです。日本政府が定めている基準より線量が低いからいいというのではなく、私は完全にクリーンなものだけを摂ることを勧めます。これはあくまでも内部被曝の問題だからです。一度、体内に入ってからでは遅すぎます」 そして、氏は政府や東電にも専門家の立場から注文をつける。 「被災者や国民への精神的なサポートをきちんとやることが大切です。人間は不安の中で生活すると脳や精神面に悪い影響が出ます。それは放射線を浴びる以上によくないことかもしれません。そんな不安を軽減するためには正確な情報が必要です。日本政府や東電は情報を隠蔽したり、ウソの情報を流したりしたといわれますが、それは絶対にやってはいけません」 ロガノフスキー氏は、私たちに最後にこうアドバイスした。 「子供はとくに放射線の影響を受けやすいので、本当は海外に出るのがいいと思いますが、現実にはみななかなかできないでしょう。だからせめて、できるかぎり線量の高いところから離れて暮らすよう心がけてください」 |
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