2023年7月3日月曜日

異例の起訴取り消し 現役捜査員が証言“ねつ造かもしれない”

 

異例の起訴取り消し 現役捜査員が証言“ねつ造かもしれない”

軍事転用が可能な精密機器を不正に輸出したとして逮捕・起訴され、初公判の直前になって起訴を取り消された横浜市の会社の社長などが、国と東京都に賠償を求めている裁判が30日に開かれ、証人として出廷した警視庁の捜査員が、捜査の進め方に疑問があったという認識を示し、当時の対応を批判しました。

横浜市の化学機械メーカー「大川原化工機」の社長など幹部3人は3年前、生物兵器の製造などに使われるおそれがあるとして輸出が規制されている機器を不正に輸出した疑いで警視庁に逮捕されましたが、起訴後の再捜査で機器が規制の対象にあたらない可能性があることが分かり、初公判の直前になって起訴を取り消されました。

3人のうち1人は勾留中に病気で亡くなっていて、社長たちは「立件ありきの不当な捜査で精神的な苦痛を受けた」として国と東京都に賠償を求めています。

捜査員みずからが法廷で異例の証言「ねつ造かもしれない」

 
6月30日の裁判では、捜査を担当した警視庁の警察官4人が当時の状況などを証言しました。

このうち現在も公安部に所属する警部補は「輸出規制に関する経済産業省の基準が明確でなかったことに乗じて事件をでっち上げたのでは」と原告側の弁護士から問われると「ねつ造かもしれない」と述べました。また裁判官の質問に対し、立件すべきかためらいがあったとした上で「輸出自体は問題ないと個人的には思っていたが捜査員の欲でそうなった」と答えました。
捜査員の欲とは何か問われると「立件しなければならないほどの客観的な事実はないのに、これだけの大変な捜査をした、捜査幹部の自分はこうなりたいというのがあったと思う」と述べました。当時の上司を念頭に置いた発言とみられ、業績につながったとも証言しました。
また、別の警部補は捜査を尽くすべきだと進言した際「『余計なことをするな』と上司から指示され『事件がつぶれて責任とれるのか』と言われた」と証言しました。
一方、当時、警部で2人の上司として捜査を指揮した警視は、機械が要件に該当しない可能性があるとは、起訴が取り消されるまで知らなかったと証言しました。

次回の裁判は今月5日に開かれ、経済産業省の職員2人と検察官2人への尋問が予定されています。

検察が起訴を取り消す異例の事態 発端は3年前の逮捕

 
2020年3月「大川原化工機」の大川原正明社長と海外営業担当の役員だった島田順司さん、それに顧問だった相嶋靜夫さんの3人が警視庁に逮捕されました。

会社が製造した「噴霧乾燥器」を国の許可を受けずにドイツの総合化学会社の中国の現地法人に不正に輸出したとして、外国為替法違反の疑いでした。

「噴霧乾燥器」は液体を霧状にして乾燥させ粉末にする機械で、医薬品のほかインスタントコーヒーや粉末スープなどの製造に使われますが、生物兵器の製造など軍事目的に転用されるおそれがあるとみなされたのです。

その後、起訴された大川原社長たちは、輸出規制の対象に該当する機械ではないと無罪を主張しましたが、大川原社長と島田さんは保釈が認められるまでおよそ11か月に渡って拘置所に勾留され、相嶋さんは勾留中に病気で亡くなりました。

ところが機械が国の規制対象に該当しない可能性が浮上し、初公判を4日後に控えたおととし7月、東京地方検察庁は一転して起訴を取り消す、異例の対応をとりました。

起訴の取り消しを受けて東京地方裁判所は「仮に起訴された内容で審理が続けられたとしても、無罪になったと認められる」として、大川原社長などに対し逮捕・勾留されていた期間の刑事補償としてあわせて1100万円余りの支払いを決定しています。

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